アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第1回 自分が「即戦力」ではないことを理解する

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2017年 02 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2017年 02 月号 [雑誌]





0. 企画趣旨

 あけましておめでとうございます。





 当アカウント(当ブログ及び運営者によるtwitter @ahowota )は、10年前にアカウントを開設した当初は完全な「オタクアカウント」としてアニメの話ばかりつぶやいておりましたが、最近では「企業法務アカウント」の度合いが強まり、昨年は、4回に渡りビジネスロージャーナル様に法務パーソンのためのブックレビュー記事を連載させて頂くことができました*1





 2017年は、(アニメネタも続けながらも)きちんとこのブログを企業法務ブログにしていこうということで、色々考えた結果、ツイッターの企業法務系ツイートのうち、一番評判がよい #新人法務パーソンへ を素材に、新人法務パーソン向けに、企業法務の実務の回し方のコツをストーリーで学んでいただこう、というのが企画趣旨となります。





 一応修習終わってそのままインハウスとして入った「僕」が美人だが性格がキツい先輩の洗礼を受けるという基本線ですすめていこうか、とは思っておりますが、資格の有無を問わずに一年目くらいの法務パーソンの皆様にとって役に立つ内容にしていこう、と思っております。





 完全な「不定期連載」となりますが、諸先輩方の忌憚なきご意見を頂戴できれば幸いです。





 なお、応用編としての外資系法務のサバイバル術的なものものも





外資系企業における電話会議サバイバル術〜法務部を念頭に - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常







 等がある程度評判でしたので、続けていこうと思っておりますが、これをどのような形式でやるかはまだ全く未定です。





なお、とりあえず、登場人物をご紹介。


登場人物

僕(山田太郎)  1年目のインハウス。修習が終わってそのまま入社したばかり。

井上摩耶先輩   5年目の先輩インハウス。美人だが性格がキツい。

大越課長     我ら法務課の課長。



2.ストーリー:「自分が『即戦力』ではないことを理解する」







「ぶっちゃけ、つまんないですよ。雛形読んでるだけなんて。」





入社してちょうど丸1週間が経過した金曜日、井上先輩が僕を食事に誘ってくれた。食事が概ね終わった後、先輩の発した





「この会社に入ってちょうど一週間だけど、仕事はどう?」





という、多分儀礼的な質問に、僕はついつい「マジレス」をしてしまった。





「あらあら、やっぱりそう思ってた?」





井上先輩はいたずらっぽい微笑みを浮かべる。





「『やっぱり』って、そりゃあ修習で実務にちょっと触れて、面白そうだなと思って胸をときめかせて仕事始めたら、『とりあえず雛形読んでみて』、ですから、そりゃあ、ずっこけますよ。早く本物の仕事がしたいです。」





僕は、ロースクール卒業後司法修習を終えてそのまま内定していた会社に就職した。わずか3人の法務課に配属され、特に法務に特化した研修制度もないから、ということで、大量の雛形の山を渡され、「これ、うちの会社の雛形だから、とりあえず読んでおいて」と言われたのだ。それ以来、1週間無味乾燥な雛形を読み込むだけの単純作業だけが続き、いい加減仕事をしたい、と思っていたところだった。





で、まさか、キミは自分が現状で『本物の仕事』とやらができるとでも思ってるの?




井上先輩の目が急に真剣なものになる。





「えっと、そりゃあ、司法修習もやってますし。。。」





思わぬ展開に、しどろもどろにならざるを得ない。





債務整理、交通事故、相続、離婚、訴訟…。これはみんな弁護士の仕事として重要だ。でも、これをやっただけで企業法務は到底できない。弁護士バッジを持っているというだけで仕事ができる気になって、『何でもお任せ下さい!』なんて啖呵を切っても、惨めな結果になるだけだ。





ここまで言うと、一瞬何かを思い出したように、井上先輩の顔が陰った。しかし、それも一瞬だけで、彼女は決然として、言葉を紡ぎ続ける。





「だから、バッジのことは忘れて、1つ1つ謙虚に勉強するしかない。雛形はその勉強の教材として渡したものだ。」





そう言われてしまうとグウの音も出ない。声も出せず、ただ俯いていると、先輩が耳元でささやきかける。





「まあ、これからの頑張り次第だな。来週から少しずつ仕事回すから、頑張ってみなさい。」





そう言うと、井上先輩は僕の返事を聞く前に伝票をサッと取って、レジに向かって歩いて行ったのだった。





4.解説のようなもの





 もちろん、例外はありますが、基本的には、学部卒→ロースクール→司法修習でそのまま企業法務に入った場合、入社時点で「実務では使えない」という場合が非常に多いと思われます。その理由は、以下の2つでしょう。





 まず一番大きいのは、「実務が分からない」ということです。ロースクールや修習で学んできた「法律実務」「裁判実務」というのは必ずしも企業法務実務と無関係な訳ではない(例えば銀行の法務部では親族相続法の勉強はマストでしょう)のですが、やはり、「この会社はどういう仕組みでビジネスが動いているのか」という実務の流れというものや「その全体像の中で法務はどのような役割を果たすべきか」といった法務の立ち位置が分からないと、相談を受けたり、契約書チェック・ドラフト等を依頼されても、どうすればいいのかが分からないのである。





 次に、関連するものの少し違う話としては、「法律が分からない」が挙げられるでしょう。もちろん、業務の中では簡単な民法の相談を受けることもありますが、国際取引の問題だったり、業法の問題だったりと、知らない法令、知らない通達・ガイドライン、知らない判例等を問われることも多い訳です。実際には、これらの法令、通達・ガイドライン判例等を踏まえて実務が既に形成されているので、ぶっちゃけ前提となる法律が分からなくてもある程度実務を回して行くことはできる訳ですが、きちんと実務運用についてその理由まで理解しようと考えた場合、前提となる法律が分からないと「なぜここでこんなことをするのか」がよく理解できない訳です。





 そういう状況下において、「即戦力」になり得るのは、多分数年間以上企業法務事務所で実務を行ってきた人くらいで、そういう人でもある程度慣れるまでは勉強の連続だと聞きます。





 逆に言えば、最初からその限界を自覚して、「自分は実務のことは分からないので教えて下さい」という姿勢で臨むことが、いち早く実務(と実務で出て来る法律)を覚えて期待に応えることができるようになるための近道でしょう。




まとめ

 作者である私自身「僕」とあまり変わらない位の能力なので、偉そうなことは言えないものの、企業法務一年目に「こういうことを知っていればもっとよかったのに」と思うような情報を提供していければと思っております。

 もっとも、私自身の経験・能力の限界から、十分なものになっていない可能性も高いことから、是非皆様のきたんなきご意見等を頂戴できれば幸いです。(ツイッターのリプが一番ありがたいです。)


ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第1回 自分が「即戦力」ではないことを理解する - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第2回依頼・相談を受ける際の対応 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第3回法務の役割? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第4回今すべき仕事は何か? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第5回ボールを持たない - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:それまでに関与した商業作品が『アニメキャラが行列を作る法律相談所』や『100人がしゃべり倒す! 「魔法少女まどか☆マギカ」』でしたので、かなり方向性が変わっているのが見て取れます。