ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第4回今すべき仕事は何か?

- 作者: 芦原一郎
- 出版社/メーカー: 中央経済社
- 発売日: 2014/06/13
- メディア: 単行本
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1.はじめに
このシリーズもついに第4回。皆様のご愛顧のお陰です。ありがとうございます。
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ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第5回ボールを持たない - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
今回は「仕事の回し方」といことで、複数の仕事をどうやって回して行くかの基本を取り上げます。
2.ストーリー
登場人物
僕(山田太郎) 1年目のインハウス。修習が終わってそのまま入社したばかり。
井上摩耶先輩 5年目の先輩インハウス。美人だが性格がキツい。
大越課長 我ら法務課の課長。
「お疲れ様です。」
「お疲れ〜。」
今日も一日の仕事が終わり、帰宅しようとすると、ちょうど井上先輩も仕事を終えて帰るところだった。流れで、一緒に駅に向かうことになる。
「井上先輩は、あんまり残業されませんよね。仕事は多くないんですか?」
前々から疑問に思ったことを「ついうっかり」聞いてしまった。
「キミは何をいっているのかね?」
ギロリ、と井上先輩の眼が光る。
「毎週対応する案件の数は30〜50件ってところだ。」
「そ、そんなに案件があるんですか? 今僕は一日一件なので。」
大体毎朝「これを夕方までやっておいて」という形で井上先輩から仕事をもらうので、井上先輩が処理しなければいけない案件の数がそんなに多いとは思ってなかった。
「キミはまだ案件の『回し方』が分からないだろうと思って、〆切まで余裕があって、教育的レビューをしてあげられれそうなのを1日1本選んでキミに渡している、それだけだ。」
こういうと、井上先輩は大袈裟にため息をつく。
「そんなにたくさん案件があって、どうやって処理してるんですか?1件1〜2時間しか時間がないんじゃ。。。」
「それは『平均』だろう。短いものは5分だし、時間をかけるものは5〜10時間ということもある。そうすると問題は、週40時間+αの有限な時間の中、それぞれのタイミングにおいて『今、何をやるか』だ。」
「どうやって、今何をやればいいか決めるんですか。」
「リストを作るのが一般的だな。いわゆるTODO Listだ。各案件で優先順位をつけて、一番上にあるタスクこそが『今やるべきこと』になる。」
「優先順位って、どうやってつけるんですか?」
素朴な疑問が湧いて来る。
「まず、〆切がいつか、というのは1つの基準になる。明日〆切の作業と今日〆切の作業が残っていれば今日〆切を優先する。」
「それはなんか分かる気がします。」
「そして優先順位の上位にどれくらい作業が残っているかにもよるが*1、一定以上の『すぐ終わる』仕事は優先順位を上げてよい。」
「どういう意味ですか?」
「例えば、1日がかりの仕事をやろうとする朝に『5分で終わる』仕事が舞い込んだとする。この場合、どちらも今日中に終わらせければならないという場合、優先順位は平等だが、ここで1日がかりの仕事を先にやると、5分で終わる仕事はいつ終わる?」
「今日の夜です。」
「でも、今その仕事をやれば?」
「5分後に返すことができます。」
「そうすると、『仕事が速い』と思ってもらえて信頼を得ることができる。状況によっては、『仕事が速いと思われると仕事が集中し、忙しくなって困る』といったこともあるが、今のうちの会社はできるだけ法務が事業部門の信頼を勝ち取ってこまめに相談をしてもらえるようにして、トラブルをできるだけ前段階で防ぐことが重要な段階なので、どちらかというと信頼関係を得ることが重要だな。」
「なるほど、それ以外に、考慮要素はありますか?」
「これは辛い、嫌だ、と心理的に気が重い、憂鬱になる事案はそれだけで優先順位をあげるべきだ。」
「鬱案件って、具体的にどういうものですか?」
「例えば、前の案件でトラブルになった担当者からの依頼とか、自分がチェックした契約書でトラブルが起こった事案とか、色々心理的に嫌な案件はあるだろう。あとは事件類型として、クレーマー対応が嫌だとか、人によって嫌な案件は色々ある。こういう案件であれば機械的に優先度を上げる。」
「どうしてですか?」
「機械的に優先度を上げないと、自分で勝手に理由をつけて後回しにしてしまうからだ。後手に回ると、案件処理は大変だぞ。」
こういう井上先輩の声は妙に実感がこもっていた。
「明日からTODO Listを作ってやってみます。」
「そうだな、『案件を回す』訓練のため、同時に複数件の仕事を割り当てるようにするから、やってみなさい」
気付いたら、僕たちは駅の改札のところまで来ていた。
「井上先輩、ありがとうございます。また明日!」
「ああ、また明日!」
逆方向に向かう井上先輩の後ろ姿に、何とも言えない頼もしさが感じられた。
3.解説のようなもの
皆様はどうやって毎日舞い込んで来る大量の案件を処理されているでしょうか。
一番基本的と思われるTODO Listによる処理方法、つまり、「今何をやるべきか」を可視化した上で、その順番は基本的には〆切の早い遅いによるが、「すぐできる仕事はすぐやる」「気が重い仕事は優先順位をあげる」といった一定のアレンジを行う方法をご提案しました。
ただ、このような点は、法務の諸先輩方が既に工夫されていることかと存じます。皆様の工夫をご教示いただければ幸いです。
まとめ
今回から2回くらいにわけて「仕事の回し方」をやります。次回は「ボールを持たない」仕事方法を説明したいと思います。
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*1:細かな「すぐに終わる仕事」がたくさん舞い込んできて、それを処理していたら、「じっくり腰を据えてやるべき仕事」が終わらなくなるという事態もあり得るので十分に気をつけなければならない。