アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第5回ボールを持たない

国際法務の技法

国際法務の技法

1.はじめに
 この連載も、第5回まで来ることができました。ここまでこれたのも、皆様のお陰です。心より感謝申し上げます。

 
 さて、前回は「仕事を回す」こと、つまり優先順位をつけて今すべき仕事を特定することについて書きましたが、実務的には「優先順位No.1の仕事が同時に大量に振って来る」という問題があるように思われます。これに対する対応について、試論におつきあいいただければ幸いです。



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ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第5回ボールを持たない - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常



2.ストーリー


「行き詰まってるようだな。死んだ魚のような目をしてるぞ。」


まさに行き詰まっているその瞬間に、井上先輩から、声を掛けられた。


最近は、複数の仕事が同時に振って来る。井上先輩の「週に30件から50件」と比べれば天国なのだろうが、一つの仕事に取りかかっていると、別の仕事が振って来るという状態に、「溺れ死に」そうになっている。


「まあ、ちょっと来なさい。」


有無を言わさず、会議室に連れて行かれる。


仕事が多過ぎて回ってない、って感じか。」


目の前に座った井上先輩が、口火を切る。


「正直、全く回ってません。仕事が終わる前に次の仕事が来て、しかも全部優先順位は『最優先』、どうすればいいんでしょうか?


「次の仕事が来る前に、仕事を終わらせればいいんじゃないの?」


マリーアントワネットの「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」に近い発言に、正気を疑う。


「そんなことができれば、どれだけよいか、とは思いますが。」


大きなため息をつくと、大真面目な顔で井上先輩が答える。


「これは本気だ。どうすれば次の仕事が来る前に、仕事を終わらせられるのか、そこから逆算する。


「そんな、契約書のドラフトや契約書のチェックは最低でも数時間、丸一日がかりのことだってある訳ですよね。そうすると、一日に複数の仕事が舞い込んできたら、普通に仕事が終わる前に別の仕事が来るって算段です。」


「ビジネスは複数人で協業して行うもの。例えば、法務の場合最低限営業部門等の事業部門と一緒に対応することになる。法務の中でも1人でやる場合もあれば、大越課長のレビューをお願いする場合もあるし、顧問弁護士の先生に相談する時もある。そうすると、『他の人が仕事を持っている時間』が必然的に発生する。また、ビジネスには相手もいるのだから、相手方が仕事を持っている時間だって発生する。多くの案件を同時並行で担当していても『自分が今持っている仕事』の量を最小限に抑え「他の人が持っている仕事』を最大限まで増やせば、問題なく回して行ける。」



「なんか理屈は分かるのですが、イメージがうまくつかめません。」


「こういう場合、仕事をボールの比喩で表すことが多い。要するに、担当している案件が50件だとすれば、50個のボールについて、受け取り次第次々に事業部門、大越課長、そして顧問弁護士の先生に投げ返し、自分がボールを抱えている時間を最小限に抑えるってこと。」


「なんとなくイメージが分かってきましたが、どうすれば、ボールを抱えずに済むんですかね?」


「グッドクエスチョン!」


珍しく、井上先輩の顔に笑顔がこぼれた。


「まず、事業部門との関係では、法務の作業をするためにはどの点について事実関係や事業部門の意向等の確認をしてもらう必要があるかを考えて、確認事項を打ち返す、というのがよくある方法。本格的に契約書のドラフトやレビュー作業に着手する前に、作業をする際に必要な情報を列挙して、それを確認してもらう。確認にある程度時間が掛かることも多いので、ボールを長めに持っててもらえるし、必要な事項の確認が済んでいれば、作業効率が上がる。」


「なるほど。」


「次に、上司や先輩のレビューであれば、レビュー対象の細分化が挙げられる。質の細分化としては、『項目案』『骨子』等の初期段階のドラフトを作ること。期限直前まで長くボールを持って酷い内容のものを出すよりは、初期の段階で修正を入れる機会を与えた方がレビュアーにとっても助かる。また、量の細分化として、作業内容のうち、早めにできる部分を切り取って、『この部分を先にあげました』という方法もある。ただ、量の細分化の方は、何も考えずに単に細かく切り分けると、レビューが面倒になるから、注意が必要。」


「仕事が『大きな塊』でできている場合に塊ごとに対応するというのが、『量の細分化』の基本ですかね。」


「まあ、そうだ。そして、弁護士の先生の関係では、(依頼すべき案件かの切り分けを迅速に行い)『早め早めに依頼をする』というのが重要だ。月曜に『来週月曜まで』と営業に言われて仕事を受けたのに、木曜にはじめてレビューを始めて、弁護士の先生のレビューをお願いすべき案件であることに気付き、金曜に弁護士の先生に『実はこれ、来週月曜までお願いしたいんですが。。。』みたいなお願いをするのは最悪だ。先生との信頼関係にも影響する。流石に営業部門からのメールをそのまま転送するのでは芸がなさすぎるが、依頼要旨、期限、費用を簡潔にまとめて、詳細はご都合の良い時にでもお電話させてくださいという形でメール等で依頼すれば、ボールを持つ時間は最小限で終わる。先に営業から『弁護士の先生がレビューに必要と思われる情報』を聞き取って、『今のところ、こういう追加情報を入手していますが、更に追加情報は必要でしょうか?』といった質問ができると、もっとよい。」


「要するに、ボールが来たら、それを誰に打ち返すのが適切か、そしてどうやれば早く打ち返すことができるを考えて、できるだけ早め早めに打ち返す、ということですね。」


「そのとおり。こうすることで、『今じっくり腰を落ち着けて対応したい仕事』にできるだけ集中できる環境を作る。他の細々とした仕事がボールを打ち返し済みで、当面自分が対応する必要がなく、かつ、作業に取りかかるにあたって必要な情報が手に入っていれば、効率的に仕事ができるだろう。」


「なるほど!今は、後手に後手に回っていて、大量のボールを自分のところで長く持ってしまい、精神的に落ち着かない状況で、仕事の海に溺れかけていたって訳ですね。」


「そのとおり。まあ、ボールを投げた後次に投げ返されるまでの時間は人それぞれなので、思ったよりも早くボールが返ってきてしまうこともあるのは気をつける必要がある。また、ボールを投げっぱなしで、どこにあるのか、いつまでにどうしなければならないのか、といったスケジュール管理*1をしないと、例えば忙しい弁護士の先生にボールを投げた後、先生へのリマインドが遅れてしまって、営業部門から『どうなっているんですか?』と聞かれるといった状況も生じ得る。そういう意味で、ボールをなるべく持たないという方法は、理念型過ぎず、全ての問題を解決する万能薬ではないことには留意が必要だ。」


会議室を出る時には、僕の目にはやっと生気が戻っていた。


3.解説のようなもの
 優先順位を付けるという話は第4回で説明しましたが、「優先順位1位のものが大量に来る場合、どうやって『本当に今やるべきもの』を識別し、その『本当に今やるべきもの』に集中できるような環境を作ることができるか」については、第4回の範囲ではなく、実際には、「来週月曜まで先方にお返しすると約束しちゃったから、絶対今週末までにお願いします」といった仕事が事業部門から複数舞い込み、〆切が同じ時期の重要な仕事が同時に並行で来てしまうという事態は生じます。


 その場合に、早めに第三者に仕事をパスする、「ボール」を投げるという方法が標準的な対応策といえるでしょう。「集中してやるべきタイミングで、効率的に仕事ができるよう、足りない情報を事業部門からもらう」「ドラフトの際に方向を間違えないように、骨子の段階で一度レビューしてもらう」「事業部門から依頼を受けたらすぐに弁護士の先生に依頼すべき事案かを確認し、そうであれば迅速に依頼してしまう」といった対応をすることで、自分のところにはほとんど「ボール」がない状況を作ることができます。

 もちろん、ボールをいくら打ち返しても例えば「事業部門から質問事項に対する回答が返ってきた」といった状況になると、やはりきちんと集中してある程度時間をかけて契約書レビュー等の作業をしなければならなくなります。それでも、そういう「今こそ腰を据えてきちんとやらないと行けない仕事」以外についてボールを投げ返してしまって、今やらなくて済むようにしとておくことは、今こそきちんとやるべき仕事を効率的かつ高い質で行うことにつながります。

まとめ
 今回は、ボールをなるべき持たないという仕事の回し方のコツについてご説明しました。
 これもあくまでも初歩的な内容に過ぎませんが、諸先輩方には、忌憚なきアドバイスを頂戴できれば幸いです。

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*1:この部分については、dtk様にご示唆を頂いた。心より感謝いたします。