アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

咲〜saki〜の雀荘実践教習の適法性

*本エントリには、咲〜saki〜のネタバレ(アニメ第4話、漫画第1巻)が含まれておりますので、「DVD全巻出たし、アニメを1話から見るぞ!」というような方にはおすすめいたしません。

咲-Saki- 9 [DVD]

咲-Saki- 9 [DVD]

1.咲〜saki〜とは
 21世紀…世界の麻雀競技人口は一億人の大台を突破。我が国でも大規模な全国大会が毎年開催され、プロに直結する成績を残すべく高校麻雀部員達が覇を競っていた。
 咲〜saki〜とは、麻雀で全国を目指し切磋琢磨する少女(高校生)達の、青春物語である。


 周知の通り、2010年3月3日は、咲のアニメ版DVD9巻(最終巻)の発売日となっている。


2.雀荘実践教習とは
 ところで、原作版とアニメ版の両方を比較すると、いくつかの違いが出てくる。
その主なものとしては、
1.アニメ版では個人戦をやってる!
2.原作では地区予選前の合宿がほとんど描かれていないが、アニメ版では描かれている
3.アニメ版では和のわがままおっぱいが原作版より*1大きい

 といったものであろう。

 しかし、忘れてはならないのは、「原作で法律的にどうよと言われていた部分をアニメ版では修正した」というところである。例えば、咲が家族麻雀でお年玉を巻き上げられたエピソードが、「お菓子」を巻き上げられたエピソードに変わっている。ただ、なんといっても重要なのは麻雀店実践教習のエピソードである。


 麻雀店実践教習とは、原作であれば第3局「雀荘」、アニメ版であれば第4話のエピソードである。

地区大会突破を目標とした竹井久は、実戦経験が不足している宮永咲と原村和に経験を積ませようと、染井まこの家が経営する店の手伝いをさせることにした。
 久が「自分は18未満だから...」と言って行くことを拒んだことから、「何があるのか?」と怪しみながら二人が染井まこの家へ行くと、そこはメイド喫茶with雀卓(アニメ)又は雀荘(漫画)Roof-Topだった(なお、ノーレート)。
 そこで、お客さん相手に打った咲と和。最初は調子がよかったが、そこにやって来た怪しい女性(カツ丼さん)と打ち始めると....。

といったエピソードである。


原作を読むと当然に生じる、18歳未満の咲と和が雀荘で客を相手にしてよいのかという問題意識に答え、アニメ版ではメイド喫茶へと変わっているところがポイントである。


ところで、ここでまだ問題が残っている。それは、アニメ版で違法ではなくなったかである。以下では、まず、漫画版の適否を考察し、それからアニメ版について検討する。


3.そもそも原作は違法なのか?
 まず、原作のように一般的な雀荘で、和と咲が打った場合、これは違法か?

 ここで、雀荘*2風営法上の許可が必要である。

第二条  この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
(中略)
七  あじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業

第三条  風俗営業を営もうとする者は、風俗営業の種別(前条第一項各号に規定する風俗営業の種別をいう。以下同じ。)に応じて、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けなければならない。


このように、*3風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律風営法)2条1項7号は、雀荘営業に、許可を要求する。これは、雀荘で客同士の賭け事が「行われがち」なので風営法により未成年等の接客等を規制することが必要といわれる。このような、風営法の規制を受ける店を「風俗営業者」と言う。まこの家も風俗営業者である。

ここで、風俗営業者に対する規制に「営業所で十八歳未満の客に客の接待をさせ、または客の相手となってダンスをさせること」の禁止が挙げられる(風営法22条3号、50条1項4号により1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。すなわち、雀荘で、年齢が18歳未満の人に客を接待させると違法なのである*4

「接待」という言葉については、2条3項が「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう。 」とされているところ、同条に関する警視庁の解釈基準によれば「客と共に遊戯、ゲーム、協議を行う行為は接待に当たる」と明記されている。
麻雀というゲームを客*5とやっている以上、営業所で十八歳未満の客に客の接待をさせたものとして、マコの親は風営法違反である


4.アニメ版の修正で違法ではなくなったのか?
 このような、原作版の問題に鑑み、アニメ版は内容を修正している。具体的には、マコの実家を雀荘ではなく、メイド喫茶にしている。この場合には、「営業」はあくまでもメイド喫茶であり、そこに雀卓が「あるだけ」として、風営法の適用を回避できるか。

 ここで、営業の該当性は、重要な問題であることから、いろいろな議論がされている。以下、風営法に関する唯一の*6コンメンタール(逐条解説書)である蔭山信「注解風営法」(2008年)東京法令の説明する基準をもとに検討しよう。

 まず、ある営業が風営法上の「まあじやん屋」に該当するかは、麻雀に関する営業がその主たる営業(メインの営業)である必要はない。また、麻雀競技によって得られる利益を目的とする場合*7には、当然に「まあじゃん屋」となるが、それだけではなく、麻雀と事実上密接な関連をもって得られる利益を目的とする限り、「まあじやん屋」に該当するとされる*8


 具体例としては、例えば、四校合同合宿の場とされた旅館をイメージしてみよう。あそこでは、雀卓を客室で貸していた*9。ところで、その雀卓貸出料が僅少*10な金額であり、かつ、それが旅館業と別個の営業ではなく、単なる旅館業に通常随伴するサーヴィスの一環であれば、風俗営業の許可は不要である*11

 これに対し、喫茶店等の他の営業をしている業者が、一定額以上の飲食物を注文した客のみに麻雀をさせていれば、これは麻雀と事実上密接関連する利益を目的とする営業として、風俗営業になる。

 また、喫茶店等の他の営業をしている業者が、*12すべての利用者に無料ないし僅少の対価で麻雀をさせている場合には、かかる麻雀ができるサービスと、当該他の営業(例えば喫茶店)の関連を検討し、例えば、当該喫茶店の料金に麻雀に係る遊技料金が含まれる等、麻雀との関連が深く、麻雀と事実上密接な関連をもって得られる利益を得ていると判断されれば、これは風俗営業となる。


 本件では、和がオムライスに「麻」「雀」と絵を描いて客に出しており、喫茶店業と麻雀の関連の深さを推認させる。また、客同士で打つだけではなく、客と一緒に従業員に準じる和・咲が一緒に打っている点も重要であろう。そして、雀卓目当てでやってきたカツ丼さん等が食べるカツ丼は相当の利益をRoof Topにもたらしているはずであり、雀卓が、単なる付随的な業務というよりも、有力な集客・接客の手段として、喫茶店業に大きな貢献を与えると言えよう。

 これらの点を総合すれば、*13マコの家は、麻雀と事実上密接な関連をもって得られる利益を目的としているといえ、依然として「風俗営業」を営んでいると解される。
この場合、マコの親は、「喫茶店だ」と強弁していることから、風営法の許可を取得していないようである*14。すると、単なる未成年の接客だけではなく、無許可営業として、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処される。つまり、単なる未成年接客だけの原作よりもよっぽど違法性が強い(もちろん罰則も重い)ことになってしまっているのである。

まとめ
アニメ版は、なんとか原作を適法にしようと、いろいろな改変を行っているが、弁護士のリーガルチェックを経ていないようであり、原作よりもよっぽど違法なことをやっていることになってしまっている
これをなんとか適法と解釈するには、競技麻雀人口が一億を超えるようになった咲の時代*15の世界は、麻雀は、囲碁・将棋と同様に、麻雀が風俗営業から外されるよう法改正がなされたと考えるしかないだろう。
風営法改正のため、賭博ではない、純粋な「楽しみのための麻雀」の裾野が広がり、法律が早期に改正ることを祈念する次第である。

関連記事(?):日経コラムに異議あり! 咲 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:やや

*2:ノーレートでも

*3:なぜ平仮名なのかは不明であるが、

*4:罰せられるのはマコの親

*5:カツ丼さんはともかく、見知らぬおじさん2人との関係では「客じゃない」という抗弁は通じないでしょう

*6:新刊で入手可能な

*7:例えば、雀卓利用料として、利益が得られるような対価を徴収する場合

*8:「注解風営法」140頁

*9:プールにまで雀卓を持ち込んだ久のことであるから、一部は持ち込みがあったかもしれないが、あの数であるから、少なくとも旅館から借りたものが一部あるものと想像される

*10:安い

*11:ここでは、社会一般に、旅館が安い料金で雀卓を貸していることが、特段風俗を乱したり、射幸心を煽らないでうまくいっているという社会情勢が裏にあるものと思われる。

*12:注解風営法ではサウナを例示

*13:一定額以上の飲食物を注文した客のみに麻雀をさせたり、高額な対価を取っている場合はもちろん、例え無料や僅少な料金で麻雀をさせている場合であっても

*14:祖父の代で取った風俗営業を廃業したものと思われる

*15:といっても、現在から2100年までのどこか

ムダヅモ無き改革〜小泉元総理の行為は合憲・合法!

ムダヅモ無き改革 (2) (近代麻雀コミックス)

ムダヅモ無き改革 (2) (近代麻雀コミックス)

*本エントリには、ムダヅモ無き改革1巻2巻のネタばれが含まれております。あらかじめ御了承下さい。

1.ムダヅモ無き改革とは
外交。それは各国の首脳同士の真剣勝負の闘いである。
この闘いが、麻雀で行われていることを知る国民は少ない*1
豪運と言える程の運と、技術大国日本の誇りと言えるテクニックを持つ男、第59代総理大臣小泉ジュンイチロー
チルドレンを救い、日本を救い、そして世界を救うため、命を賭して麻雀をするこの男の生き様を描いた漫画。
それが、「ムダヅモ無き改革」である。


2.高レート麻雀と賭博罪
まず、ムダヅモ無き改革には、とんでもない高レート麻雀が描かれている。
・千点1万円(タイゾーvs.ブッシュ。1話)
・千点F15一機(小泉vs.ブッシュ。1話)
・点テポドン(小泉vs.金将軍。4話)
等々、通常の雀荘では考えられないレートである。

刑法の賭博罪は、以下のように規定する。

(賭博)
第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

原則として賭博をすることは有罪であるが、例外的に「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる」場合には、無罪となる。

ところが、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる」場合というのは、「即時娯楽のために費消するような寡少のものをいう」と定義されている*2
つまり、ちょっとした菓子とかタバコとか、(豪華でない)食事のようなものを賭けても、それは庶民の楽しみであり、違法性は高くないことから罰しないとされているのである。

もっとも、ムダヅモの世界で繰り広げられるレートは到底そんなレベルではない。
千点1万円であれば、たった5回の半荘で1000万円負ける可能性もある*3
点F15に至っては、半荘1回で一機約100億円といわれるF15が118機*4もやりとりされ得る
到底、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる」場合ではない。

小泉ジュンイチロー、有罪か


しかし、小泉(元)総理は、チルドレンを守り、国を守り、地球を守るために、命を賭けている。このような小泉ジュンイチローの行為を、違法な賭博だということには問題はないか?

ここで、刑法35条という規定がある。

第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

たとえば、ボクシングは、一見「暴行罪」「傷害罪」の要件を満たすようにも見える。しかし、ボクシングという正当なルールにのっとって行われる行為であり、刑法35条に基づき適法とされるのである。
この正当性は、社会通念(いわゆる「常識」)に従って判断されるといわれる。


麻雀も、これが「単なる金のやりとり」であれば、正当業務行為になる余地はないだろう。

しかし、銃で狙撃され、致命傷を受けながら、
「この老いぼれの命一つで世界平和が買えるのなら」「安いもの!!」
と、金将軍と闘いを挑み、国士無双十三面(ライジングサン)で飛ばされた、金将軍がテポドンを打ち込むや、戦闘機に飛び乗りテポドンを体当たりで爆発させ、日本を救う。
このような小泉ジュンイチローの麻雀行為は、賭博の形式をとっているものの、正当な外交行為と言えよう。
レートが高いのも、そのような麻雀が「国を挙げての総力戦だから」と解することにより、正当化することが可能である*5


そこで、小泉ジュンイチローは無罪である!


なお、杉村タイゾーは、特にそのような外交目的ではなく、「よーし、せっかくだから少し稼がせてもらお(はーと)*6」という、金を奪うだけの目的と言える。よって、正当化は不可能であり、賭博罪に該当する*7



3.麻雀で外交を行うことは憲法違反ではないか?
このように、刑法的には小泉ジュンイチローの行為は正当化できるが、麻雀で外交をするのは、憲法違反ではないか?

問題となるのは、「国会に無断で莫大な額の国の金を賭けて麻雀をする」ことと、憲法83条の関係である。

憲法83条は、
財政民主主義を定める。

第83条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

国民の血税をどう使うかは、国民の代表である国会の議決に基づいて決めるべきというものである。
ところが、小泉ジュンイチローらは、国会の議決を得て麻雀をやっている訳ではない。

国会議事堂 地下闘牌場
この存在を知る者は国会議員の中でもごく一部である。
大和田秀樹「ムダヅモ無き改革1巻」161頁

国会議事堂の地下で外国首脳との闘牌が行われているところ、国会議員の大多数は、その会場の存在すら知らないというのだから、国会の議決を得て麻雀をやっている訳ではないことはほぼ確実であろう。


予備費憲法87条1項)であれば、「いくらを予備費とする」というだけの事前の国会の承認が得られれば、具体的な使徒を事前に国会で決めることは不要であるが、必ず使用後に国会の事後承認が必要である(憲法87条2項)。そこで、予備費の可能性は低い。


また、官房報償費(官房機密費)又は外交報償費(外交機密費)として具体的使徒は明らかではないものの、議決を経ているという可能性がある*8。しかし、官房機密費はせいぜい10億程度、外交機密費も50億程度であるところ、(900溝点の青天井ルールとなったプーチンとの麻雀を例外としても)日米首脳会談の3日で20億円が動き*9、点F1え5の麻雀では兆の単位が動いている。
兆単位の機密費の議決はあり得ないのであり、機密費という線も薄い。


小泉ジュンイチローの行為は、国会の議決なくして財政支出を行う違法な行為ではないか*10



このような財政民主主義の観点からの違憲性の疑いに加え、小泉ジュンイチローは、他の4人の首脳と共に第4帝国の精鋭と麻雀をしているが、これは、「(日本人を含む)地球人の命を賭けて麻雀をする」行為であり、負ける可能性がある以上、生命をはじめとする国民の自由と人権を最も大事なものとした憲法13条に違反するのではないか?

小泉元総理の行為は、このような意味で、違憲の可能性がある行為である。
しかし、前述のように正義のために命を賭す、小泉ジュンイチローの行為を、違憲と断じてよいのだろうか?


ここで考えられるのは、国家緊急権の議論である。
ムダヅモの世界では、他国から、国の全財産を賭けるような麻雀を日常的に挑まれている。
これに応じなかったり、麻雀に負けたのに約束通りの金を出さないと、

寝言言ってんじゃねーぞダボハゼがァッ!!!
このままキンタマねじり切ってやろーか? あ!!!?
(注:カザフスタンのナザルバエフ大統領が、負けたらガスを送るという約束を反故にしようとした時の、ウクライナ共和国首相ユリア=ティモシェンコの発言)

大和田秀樹「ムダヅモ無き改革2巻」112頁

実力行使が実施され、政治家の生命身体に危険が危機に陥る。
政治家だけではない。
たとえば、地球代表5名と、第4帝国代表5名の麻雀を拒めば、遊星爆弾により、地球が滅亡する。国民の生命・身体が危ない。
だからこそ、穏便(?)に、麻雀によって外交をするのは不可欠なのである。



ここで、戦争、内乱、その他の原因により、平常時の統治機構と作用をもっては対応しえない緊急事態において、国家の存立と憲法秩序の回復を図るための非常措置が、国家緊急権である*11
簡単にいえば、憲法で決められたことを守るべきなのは、「平常時」であって、「異常時」には、憲法の規定を必ずしも守らなくてもよいという考えである。


憲法の戒厳大権、非常大権(明治憲法14条、31条)のように、憲法上の明文があれば、その範囲で行動する限り合憲であろう。
しかし、新憲法にはこのような国家緊急権の規定がない。
これを、「憲法は国家緊急権を否定したんだ」と考える学者もいる。
しかし、憲法は個人の自由と人権をその最も重要な価値としているところ、
「遊星爆弾で地球が滅亡するのを座視するか、麻雀をするか?」
という選択を迫られた時に、そこで、「麻雀をすると憲法違反になるので、滅亡はやむを得ないですね。」という回答をせざるを得ないとすれば、それはまさに、個人の自由と人権を侵害する行為になる。
つまり、憲法のせいで小泉ジュンイチローが麻雀ができないとすれば、それこそが、憲法の理念である個人の自由と人権の尊重に反する事態になる」のである。


このような、放置すれば憲法の生命そのものが失われる緊急事態に陥った場合に、救済のために非常措置を講ずる国家緊急権を、不文の法理として認めるべきという有力な学説もあり、このように考えるのが正当だろう*12

まとめ
小泉ジュンイチローが行う麻雀は、正当行為であり、刑法に違反しない。
また、小泉ジュンイチローが国会の議決なく大金や国民の命を賭けて行う麻雀は、国家緊急権の行使として合憲である。
なお、杉村タイゾーの行為は違法な賭博であることは当然である。

*1:一応議員のはずの、杉村タイゾー(元)衆議院議員すら知らない

*2:コンメンタール刑法9巻p125

*3:現に、1巻14頁では、タイゾーが「−120」「−88」「−52」「−120」「−92」の成績となり、1000万円以上負けている

*4:高風様のhttp://zetsumu.xrea.jp/text/cc02_mudadumo_2.htmlにおける考察を参考にさせていただきました。

*5:点ピン程度で麻雀を打っても、青天井ルールとでもしない限り、国の財政に特に影響を及ぼすレベルではないのであり、その程度であれば、そもそも「外交」としての意味を持たない

*6:1巻11頁

*7:なお、賭博は国外犯処罰規定がないため、外国でやる限り、無罪という余地もあるが、杉村タイゾーが麻雀をしたのは、「沖縄 万国津梁館」であり、この意味でも有罪である。

*8:機密費の合憲性も疑問がないわけではないが、ここではふれない

*9:1巻19頁

*10:なお、「勝てばよい」という考えがある。勝てば特別利益が転がり込むだけであり、なんら損失はないので、「血税の使い道は国会が決める」の問題はないという考え方である。しかし、賭けというのは勝つこともあれば負けることもあるから、賭けなのである。現に、安部総理がプーチンに負け、詰め腹を切らされている。負けた額は不明であるが、「安部総理の作った莫大な借金」という言及もある。1巻165頁。やはり、このようなロジックは成り立たないだろう。

*11:佐藤幸治憲法」46頁

*12:佐藤幸治憲法」46頁

無断翻訳と著作権法

アメリカ著作権法

アメリカ著作権法

<<本件エントリはOnline Translation - Dealing with Copyright and Plagiarism Issues Part II - A Legal View | ComiPress様とのコラボレーション企画です。こちらもぜひご覧下さい。>>
1.問題の背景事情
 海外のオタクは日本人と同様、いや、それ以上に日本のアニメ・漫画の最新情報を知りたがっている。比較的最近の例として、Rozen maidenの休載問題は海外サイトでも大々的に取り上げられた*1。ところが、涼宮ハルヒの憂鬱*2等の一部の全世界的展開を目論む作品以外は出版元等から英語のプレスリリース等が出ることはほとんどない。日本語という世界的に見れば少数言語による情報発信しかされていないのである。
 これは、日本の最新情報を欲しがる海外のオタクたちにとっては困った事態である。そこで、日本のサイトの情報を翻訳してこれを海外サイトに掲載するということが頻繁に行われている。
 COMIPress*3等の、一部のサイトにおいては、翻訳元の日本のサイトの著作権者から許諾を取って翻訳を掲載する。この場合には、何ら問題は存在しない。
 しかし、かなり多くのサイトにおいては、無断翻訳が行われている。要するに、出版社や、ファンらの作成した日本語サイトを無断で翻訳して海外サイトに掲載しているのである。もちろん、翻訳には1つのサイトを丸々翻訳するものもあれば、サイトの一部のみを翻訳するもの、翻訳だけのものもあれば、翻訳の後にコメントや論説がついているものもある。これらを「無断翻訳」と総称して、この著作権法的な問題について考察していきたい。
*お断り 本記述は法曹実務家が書いたものではなく、法学徒が書籍・雑誌を参考にしながらまとめたものですので、内容の信頼性は保障できかねます。個別具体的な問題については、弁護士等の専門家にご相談いただきますようお願い申し上げます。
2.どの国の法律が適用されるか
 (1) 設例

 例えば

 アメリカ在住のAさんが、アメリカ国内において日本のBが著作権を持っている記事を英語に翻訳し、この訳文をアメリカに存在するサーバーにアップし、これをアメリカ在住のCや、日本在住のDが読んだ。

 この事例について考えてみる。
 (2) 翻訳権侵害について
 この場合においては、まずは「アメリカ国内において日本のBが著作権を持っている記事を英語に翻訳」した行為が翻訳権(著作権法27条参照)の侵害にならないか問題となる。
 この場合の問題は少ない。アメリカ在住のAさんは、ベルヌ条約締結国であるアメリ*4において、アメリ著作権法により保護されている日本のBさんの持つ当該記事の翻訳権ないし翻案権の侵害の問題になる*5
 (3) 公衆送信権等の侵害について
 アメリカ国内にあるサーバーに情報を蓄積し、これにより送信が可能な状態になることから、複製権・公衆送信権(著作権法23条参照)の侵害にならないか問題になる。
 この場合には、大きな問題がある。この場合、送信地(この場合はAのいるアメリカ)の著作権法を適用すべきという考え方が送信地主義、受信地(この場合はCのいるアメリカやDのいる日本)の著作権法を適用すべきという考え方が受信地主義であり、この2つの考え方が鋭く対立している*6

長所 短所
受信地主義 リアルワールドの国際私法の解釈と整合的 発信行為者にとって何が規制されるのかわからず萎縮効果が生じる
送信地主義 発信行為者にとって何が規制され、何が規制されないかがよくわかる コピライト・ヘブン等からの送信行為の規制が困難
受信地主義(改) 受信地主義送信地主義の問題を克服 どこが「最も重大な結果が発生した地なのか」が不明

 受信地主義は、リアルワールドの国際私法解釈と整合的という利点がある。この点、一般の不法行為については原則として被害結果が発生地とするとされている(法の適用に関する通則法17条本文参照*7)。この現実世界の考えをサイバースペースについてもそのまま適用すれば、被害発生地、即ち送信地が不法行為地となる*8わけである。しかし、インターネットで受信地主義を取れば、どの国の人が受信するか分からないのだから、国によって著作権法が違う以上、発信行為者にとって何が規制されるのか分からず萎縮効果があるといった問題がある*9
 これに対し、送信地主義は、上記の規制範囲の問題はないものの、著作権の保護が緩い国、いわゆるコピライトヘブンからの送信による著作権侵害行為が規制不能になるといった問題もある*10
 ここで、「インターネットの法律問題」p43においては、上記の2つの問題を克服する方法として、基本的に受信地法をとりながら、すべての受信地国の法律の適用を認めるべきではなく、同時に複数国に損害が発生した場合には最も重大な結果が発生した地をもって結果発生地として、そこの著作権法を適用するという説を取っている。この説によると、例えば「他人が著作権を持つ日本語の作品をインターネット上でばらまいた」場合は、日本語のネイティヴスピーカーが日本1国に集中している以上、日本の著作権法が適用されることになる。私も、この説が最も妥当と考える。
 この説によれば、英語のコンテンツの場合においては、どの国のどれだけの人がそのサイトを見たかという点が1つのメルクマールになるだろう。サイトによって大きな差異があることは事実であるが、日本においてアメリカ以外の外国著作権法研究書がほとんど存在しないこと、及び当サイトの英語圏のアクセス元は2位以下をぶっちぎりに引き離してアメリカが多いこと*11等から、アメリ著作権法を1つの例として以下では考察する
3.「フェアユース」等による正当化の可能性
 フェア・ユースは、米国著作権法などで認められた著作権侵害訴訟での抗弁の一つである。著作権の侵害と見られるような行為でも、これがフェア・ユースであると立証できれば、著作権者の許可や対価の使用なく、利用を継続できる*12。フェア・ユースが存在するのは対立する利害関係についての適正な調整である*13。ある作品はそれ以前の作品の持つ要素等をふまえて成立しているのであり、それ以前の作品と全く独立の作品は存在しないといってもよい(この理は107条の例示する「批評、解説、ニュース報道、教授」等においては特にあてはまるだろう。)。このような著作物を著作権者の制限から離れて自由に利用したいという社会的な利益も存在するからこそ、別の人が著作権を持つ著作物の使用も「正当な範囲」では認められているのである。

第107条 排他的権利の制限:フェア・ユース
第106条および第106A条の規定にかかわらず(引用者注:著作権者の排他的権利について規定)、批評、解説、ニュース報道、教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェア・ユース(コピーまたはレコードへの複製その他第106条に定める手段による使用を含む)は、著作権の侵害とならない。著作物の使用がフェア・ユースとなるか否かを判断する場合に考慮すべき要素は、以下のものを含む。
(1) 使用の目的および性質(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的かを含む)。
(2) 著作権のある著作物の性質。
(3) 著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性。
(4) 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響。
上記の全ての要素を考慮してフェア・ユースが認定された場合、著作物が未発行であるという事実自体は、かかる認定を妨げない。
http://www.cric.or.jp/gaikoku/america/america.html

 アメリ著作権法107条は、フェア・ユースになるかどうかの考慮のポイントを4つ指摘しているので、これらの4つのポイントを順に検討していき、最後にこれらを総合して、無断翻訳サイトを作成する場合の注意点について検討する。
(1)使用の目的と性質
 使用方法が商業的性格(commercial character)の使用であるか、または非営利の教育的性格(non-profit educational character)の使用であるかは重要なメルクマールとなる*14。そこで、無断翻訳・公開をしたサイトが非営利目的であれば、フェア・ユースとなる場合が比較的多くなるだろう。もっとも、非営利目的だから常にフェア・ユースとなるわけではない*15
 批評、解説、ニュース報道、教授、研究または調査という列挙されている使用は、一般的に社会にとっても利益となると考えられ、少なくとも全くの営利目的の使用よりも公正であると考えられる*16
 インターネットにおいてよく見られる「ニュースサイト」は*17、世の中の情報を知りたいという人に対し、記事のリンク、翻訳、コメントという形で情報を提供し、適宜解説をするメディアであり、世の中のニーズに答えている。そこで、ニュース報道に準じてフェア・ユースを広く認めていくべきである。
 なお、一部営利目的サイトにおける無断翻訳があるが、非常に危険である。それは、そのような使用方法は著作権法の規定により不公正であると推定される*18からであり、フェア・ユースと全く認められる余地がないわけではないが、非営利目的ニュースサイトよりも格段に違法とされる可能性が高くなる。
(2)著作物の性質の要素
  非商業的目的でなされる使用のうちでも、情報伝達の性質(informational nature)を有する著作物の使用は、娯楽的な性質(entertaining nature)を有する著作物の使用よりもフェア・ユースと認定される場合が多い*19。限定配布の時事通信紙のように広く公衆に配布するものでない著作物は新聞のように大量に配布される著作物に比べフェア・ユースに基づく制限が狭い*20。これは大量にコピーされることで時事通信紙の需要が減るという点が考慮されている。すると、誰にでも公開されているニュースリリース等、逆に公衆に伝達することを目的としている記事については、無断翻訳・転載においてもフェア・ユースとする範囲を広くすべきであろう。
(3) 量と実質性の要素
 一般的規則はないが、著作物全部の使用については通常フェア・ユースの法理に基づく制限規定は適用されない*21。他方著作物が一部であれば、使用された部分の量と実質性を検討しなければいけない。実質性の検討においては、作品の重要な部分の使用や骨子の使用は相対的に使用量が少なくともフェア・ユースの認定を否定する大きなポイントになる*22
 そこで、原則として記事を丸々翻訳・転載する場合にはフェア・ユースによる正当化は不可能ということになるだろう。抜粋・要約であっても、それが「実質上全体」に当たる場合にはフェア・ユースにはならない*23
(4) 使用の影響
 現在の裁判所は、この使用の影響を最も重視している。使用方法が使用された著作物の潜在的市場と価値に対していかなる効果を有するかを問題としている*24。例えば、日本のライトノベルについてのネタバレを含む詳細なあらすじがインターネット上で英語で公開されることで、そのライトノベルの英語版を出した場合に売れなくなる可能性がある*25。このような潜在市場に対する効果が重要な考慮要素となるのである。
 この点は、公正とされた場合に公衆の得る利益と、不公正とされた場合の著作権者が得る個人的利益の調整の観点*26が重要になってくる。そして、ある著作物を使用することにより著作物にとって同じニーズを満たす著作物(前述のあらすじ事例参照)が作成されたとなれば、裁判所はその使用をフェア・ユースとは認定しない*27。これに対し、著作物の使用によりその著作物と競合しない別の著作物が作成され、その著作物の潜在的市場や使用された作品の評価に悪影響を与えない場合においては、フェア・ユースと認定される場合がある*28
(5) 無断翻訳がフェア・ユースとされるための指針
ア 非営利目的
 まず、無断翻訳をするのであれば、非営利目的でのサイト運営をすることがかなり重要になってくる。営利目的の運営の場合においては、「非営利で同じ事をすればフェア・ユース」の場合でも営利目的ならアウトということが少なくない。営利目的サイトの場合には、著作権者の許諾を得ることを強く推奨する。
イ 全体の翻訳は避ける
 次に、非営利を前提としても、著作物全体の翻訳を避けることも重要になってくる。仮に批評や評論が目的であっても、全体を翻訳しなければ、その批評・評論目的を達し得ない場合はほとんどないのであるから、全体の無断翻訳・転載はフェア・ユースにはほとんどならない。全体を翻訳したければ、著作権者の許諾を得ることを強く推奨する。
ウ 出所明示
 なお、出所明示は「これをすればフェア・ユースになる」というものではないが、1つの判断要素となる*29ものであり、出所は明示すべきである。
エ コメントすらない単純な翻訳転載サイト
 これを前提に類型化してみてみる。まず、コメントすらなく、単に翻訳・転載をするのみというサイトの場合には、「ニュース報道」に準じてフェア・ユースと言えるかが問題となる。もっとも、ニュース報道というのは「単に他の著作物を転載するだけ」ではなく、それに編集・要約・主張等の知的作業が入るからこそ、社会的価値が高まると言えるだろう。フェアユースとされた事例として、「ニュース報道において、演説を書面にしたものや、記事の要約を若干の引用も含めて作成すること*30」とされているが、この太字部分に鑑みると、単なる翻訳・転載はフェア・ユースになる余地はかなり乏しいだろう。
 更に、使用の影響を考えると、アクセス制限サイト、有料サイトの内容の翻訳・転載もフェア・ユースとなる余地はかなり乏しいだろう。
オ 翻訳転載と共にコメント評論等のあるサイト
 これに対し、翻訳・転載した部分に加えコメント、評論、解説、批判等が入っているものについては、前述の「編集・要約・主張」等の知的作業が含まれており、社会的価値は高く、フェア・ユースになる余地が大きい。特に、最も重要な考慮要素である使用の影響について考えるに、この情報を多くの人に無料で知ってもらいたいと思いながらも、コスト等の問題から日本語のみで情報提供をしているサイトにとっては、翻訳がされることで、英語圏の人に対し自分の作品を売る市場・利益が阻害されるなどということはない。むしろ、翻訳がされることで、自分の情報が多くの人に知ってもらえるというのは非常に大きな利益であり、無断でも、翻訳をしてもらってうれしいという場合すらある。
 卑近な例で申し訳ないが、私の書いた看板作品の休載と錯誤〜ローゼンメイデン休載問題についての法的考察 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常http://www.animangaweb.com/noticias.php?idn=5295&clase=1という形でスペイン語で無断翻訳された。しかし、私としては、この記事を日本語が分からない人にも知ってもらえたということで、「著作権の侵害であり、訴えてやる!」とは全く思わなかった。むしろ、即日「どうもありがとうございました」とお礼すらした程であった。
 私の例は1つの例に過ぎないが、多くの無断翻訳がなされているのに、著作権者が著作権侵害として法的手段を講じた事例がほとんど見つからないのは、このような潜在的市場を阻害する恐れの低さという点が大きいと考えられる。そこで、「日本のアニメファンが無料で公開している記事」を「引用して翻訳した上で、解説・コメントを加える」という場合には、無断で翻訳した場合でもフェア・ユースになる場合が多いといえるだろう。これに対し、公式サイトの場合においては、誤訳がされて、謝った情報が「公式情報」として流れることを防ぐため、情報の正確性を記すために、無断で翻訳されない利益が非公式サイトに比して高い。そこで、コメントの量・質が低い場合には、フェア・ユースとならない可能性がある。しかし、「公式サイトであっても、多くの人に知ってもらうために、無料で公開するが、コスト等から日本語のみにする」という場合は少なくないのであり、コメントの量・質によっては無断翻訳も十分にフェア・ユースになりえると考える。

まとめ
 無断転載・引用サイトでの禁忌は
?営利目的
?全文翻訳
?翻訳のみでコメントなし
?有料・制限サイトの内容の翻訳
?出典なし
の5点である。この5点を避けた場合に常にフェアユースとなる訳ではないが、特に非公式サイトではフェア・ユースとなる可能性は高く、公式サイトでもコメントの質・量と引用部分の質・量によっては十分フェア・ユースとなり得る。

4.推定的承諾論ー試論
*以下は、全くの私見である
 上記で考察したように、「1つの記事まるごとの無断翻訳」や「コメントなき翻訳」は通常フェア・ユースにならない例である。しかし、上記の私が「1つの記事をまるごと(しかもほとんどコメントなく)無断翻訳をされた(というより「してもらった」)際に、これを喜んだ」という事例を考えると、私はある類型の無断翻訳においては、著作権者による推定的承諾さえ認められるのではないかとすら思うのである。
 即ち、(1)日本語のみで情報を公開する(2)非公式のファンサイトで、かつ(3)著作権侵害を行っていないサイトで、かつ(4)無料で考察・レビュー・意見等を公開しているサイトにおいては、(5)出典が明示され、(6)翻訳内容が正確で、(7)無断翻訳であること及び著作権者の反対の意思表示を受ければ即刻撤回するとの意思表明の明記がある場合には、全体の翻訳やコメントがほとんどない、単なる翻訳・紹介だけといったフェア・ユースに当たらない場合でも推定的承諾を認めて一定の範囲の利用を正当化してよいのではないかというのである*31
 まず、(1)日本語のみで情報を公開するというのは、英語等でも情報を公開している場合には、市場の競合が起こる可能性があるために承諾が得られない恐れがあるために必要な要件である。
(2)非公式ファンサイトという限定は、公式サイトにおいては、「情報のコントロール」の要請が非常に強いことから必要な要件である。
(3)著作権侵害を行っていないサイトというのは、例えば「同人誌の公開サイト」といった場合においては、これが大々的に行われると、オオモトの著作権者に目をつけられる可能性があることから、たくさんの人に知られることを好まない可能性が高いために必要な要件である。
(4)無料での考察レビュー意見等の公開というのは、無料性により市場侵害性の低さが基礎付けられ、考察レビュー意見等は、内容の性質上「通常、多くの人に知ってもらいたい」と推認してよいものである。
(5)出典の明示は、勝手に自分のものが他人名義で公開されることを認容する人はほとんどいないであろうから必要とされる。
(6)翻訳の正確性は、誤訳による著作権者の不利益を避けるために必要な要件である。
(7)無断翻訳であること及び著作権者の反対の意思表示を受ければ即刻撤回するとの意思表明の明記は、誤訳等が仮にあった場合に著作権者が責任を負わないこと及び、著作権者の(最低限度の)情報コントロール確保のための要件である。
 かかる要件を満たす場合には、仮に上記のフェア・ユースの議論からは正当性が認められない全文翻訳や、コメントなき翻訳の場合であっても、推定的承諾が認められるとして、著作権者からの撤回要求を受けるまでの掲載」を正当化できる*32と解するとしても、さほど不当ではなく、むしろ無断翻訳が多発しており、これに対する著作権違反が大きな問題となっていない現状に照らしても妥当な結論を導くことになるのではないかと考える。

まとめ
 フェア・ユースの概念では正当化できない無断翻訳でも、
(1)日本語のみで情報を公開する
(2)非公式のファンサイト
(3)著作権侵害を行っていないサイト
(4)無料で考察・レビュー・意見等を公開しているサイト
の4要件を満たすサイトに対する
(5)出典が明示され
(6)翻訳内容が正確
(7)無断翻訳であること及び著作権者の反対の意思表示を受ければ即刻撤回するとの意思表明の明記
の3要件を満たす翻訳転載の場合には、推定的承諾ありとして「著作権者からの撤回要求を受けるまでの掲載」を正当化できると考えても、さほど不当ではないのではないだろうか。

*1:http://comipress.com/news/2007/04/28/1894参照

*2:ASOS Brigadeのホームページ参照

*3:少なくとも最近における

*4:デイヴィッド・A・ワインステイン「アメリ著作権法」p356「アメリカは1988年10月31日においてベルヌ条約加盟に必要な法律改正を行い(Berne Convention Implemention Act of 1988),改正法は、1989年3月1日、ベルヌ条約正式加盟と同時に発効した。」

*5:岡村・近藤著「インターネットの法律実務(新版)」p134「ベルヌ条約は」「世界統一私法の形をとりましたので」「条約の締結国の間においては、条約が対象として国内法が制定されている事項については法の抵触が生ずることはなく、国際私法を通さないで、統一私法たる国内法(すなわち、著作権法)が直接適用されることになります」

*6:TMI総合法律事務所「著作権の法律相談」p199参照、なお同書の同頁は「無用のクレームを避けるためには現時点では受信地主義を選択せざるをえない」としている。これは弁護士が法的リスクを避けるために顧客にアドバイスするという観点では「正解」と言えるだろうが、「裁判の際にも受信地主義を取るべき」という主張ではないと読むべきだろう。

*7:小出邦夫編著「一問一答・新しい国際私法」p99以下

*8:道垣内正人「サイバースペース国際法」ジュリスト1117号63頁参照

*9:作花文雄著「詳解著作権法」p667参照

*10:作花文雄著「詳解著作権法」p666参照

*11:当サイトのメインコンテンツが日本語のため、根拠としてはかなり薄弱です

*12:デイヴィッド・A・ワインステイン「アメリ著作権法」p85以下

*13:前掲書p86

*14:前掲書p89

*15:前掲書p89は、教育目的目的で映画を大量に複製する場合が例示されている

*16:前掲書p90

*17:定義もばらばらであり、かつ実態も様々であるが、総括的には

*18:前掲書p91

*19:前掲書p94

*20:前掲書p94

*21:前掲書p96

*22:前掲書p96

*23:前掲書p96は「ある本の50パーセントが1語1句そのままにコピーされ、実質的にはその比率がコピーされた本の実質上全体に当たる場合は、フェア・ユースとはされません」とされていることに留意

*24:前掲書p96

*25:もちろん、どれだけ詳しいあらすじかによって影響は変わると思われますが

*26:前掲書p97

*27:前掲書p98

*28:前掲書p99

*29:前掲書p96

*30:前掲書p99

*31:典型は当サイトを翻訳する場合

*32:この点、フェア・ユースであれば、翻訳者は撤回要求があっても記事の公開を継続できる点で大きく異なる

美味しんぼと家族法〜山岡士郎が「法律的」に「山岡」と名乗る方法

美味しんぼ (1) (ビッグコミックス)

美味しんぼ (1) (ビッグコミックス)

1.はじめに
 三軒茶屋 別館様が「アホヲタ法学部生の日常さんをリスペクトして法律ネタを書いてみよう第二弾(第一弾はこちら当サイトの補足はこちら)の企画として、美味しんぼの山岡士郎はなぜ『山岡』なの? - 三軒茶屋 別館という記事を書かれている。旧来の先行研究を総括し、公文書偽造説を論じられている非常に素晴らしい研究である。そして、僭越ながら当方からも補足させていただきたい。


2.旧来の説について
 この「山岡士郎はどうして山岡なのか」という問題は、即ち、「海原」雄山の実子である「山岡」士郎が、どうして海原ではなく「山岡」を(婚姻届に実名として「山岡」と書いているように)正式に名乗れるのかという問題である。

 さて、三軒茶屋様が作成されたこれまでの「山岡」を名乗れる理由についての学説のまとめ表を引用させていただきたい。

長所 短所
氏の変更届説 現行法で考えられる最も自然な手続き 実現性ゼロ
偽装養子縁組説 実現性がなくはない 法的問題あり
偽装婚姻説 実現性がなくはない 山岡の結婚観にそぐわない。法的問題もあり
海原夫妻内縁説 かなり有力 ない(?)
海原雄山通称説 かなり有力 作中での名字が違う理由の説明と少し齟齬
公文書偽造 最有力。作中の言動を全肯定可能 犯罪行為

http://d.hatena.ne.jp/sangencyaya/20070506/1178378075より引用

 これらの各説の詳細は三軒茶屋様を参照されたいが、三軒茶屋様は、上記表の「短所」に掲げられている他の説の問題点を指摘された上で、基本的に公文書偽造罪説*1を採用される。この*2公正証書原本不実記載罪」説には他説の欠点を克服するメリットがあることは間違いがないが、*3「犯罪行為」という短所があるのであり、山岡さんはひねくれ者だが犯罪には手を染めない人という前提からは、取るのは難しい。


3.旧民法の「離籍」規定による改姓
 ここで、新説として「離籍説」が考えられる。これは、旧民法742条前段の「離籍」という規定を使うものである。

742条 離籍セラレタル家族ハ一家ヲ創立ス他家ニ入リタル後復籍ヲ拒マレタル者カ離婚又ハ離縁ニ因リテ其家ヲ去リタルトキ亦同シ

 そもそも、民法下、戸主には絶大な権力があった。その象徴がこの「離籍」であり、「戸主が家族をその家より放逐する*4」、いわゆる「勘当」に近いものである。
 そして、この効果として、離籍された家族が「一家創立」、つまり家そのものを設立させ、これによって(通説によれば)自由な氏を名乗れる*5のである。
 そこで、海原雄山が山岡を離籍し、これによって山岡が新しい「山岡」家を創設し、山岡氏を名乗ったという説(離籍説)が考えられるのである。


 この説の難点は離籍等の旧家族法の規定は昭和22年12月31日で廃止されたことである。
 そこで、仮に離籍の時期を大学生、即ち20歳の時と仮定した場合、遅く見積もっても山岡は昭和2年生まれで、山岡が「27歳」である美味しんぼ開始時期が昭和29年、1954年になってしまう。明らかに「80年代〜90年代」である本作の時代背景と大幅に齟齬する。
 それならば、と離籍の時期を大幅にさかのぼらせて、昭和22年に山岡が0歳の時に離籍したと仮定すれば、一応山岡が「27歳」である美味しんぼ開始時期が昭和49年、1974年になり、本作の時代背景との乖離は最小限に抑えられる。しかし、まだ父子関係が悪化しているわけもないのに0歳児を離籍するということは考えがたく、このような仮定にも無理がある。
 そう、この説は離籍時を山岡が海原と反目してからとすると作品の時代背景と齟齬し、時代背景とあうように離籍時期を早めると、山岡と海原の反目がありえない時期になってしまうという難点があるのである。


4.再び、「氏の変更届け」説
 このように、新説が成り立たないとすれば、既に排斥された旧来の説について再び考えるしかないだろう。ここで、興味深いのが氏の変更届説である。これは、要するに戸籍法107条1項に基づいて裁判所の許可を得て氏の変更を届けるというというものである*6

第107条 やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

 この説は非常に分かりやすい。届出のためには戸籍筆頭者である必要がある(107条1項)ので、山岡は「分籍(21条)」*7して、海原雄山の戸籍を飛び出し、新たな戸籍を作った上で、裁判所の許可を得て届出をすることになる。このことは「縁を切った」「関係ない」という海原との絶縁状況についての山岡発言と非常に整合的である。

 もっとも、三軒茶屋様ご指摘の通り、やむを得ない事由が裁判所によりかなり厳格に解されており、ちょっとやそっとでは許可してもらえないのである。例えば、元の姓が珍奇・難解であることを理由に許可の申し立ててがされた事案においては、「天狗」「素麺」「飯」「目」といった普通に考えて珍奇で「やむを得ない事由があるだろう」という場合にも「やむを得ない事由」はないとして却下している*8
 判例は、氏の変更を許容すべき「やむを得ない事由」とは、通姓に対する愛着や内縁関係の暴露を嫌うというような主観的事情を意味するのではなく、呼称秩序の不変性確保という国家的、社会的利益を犠牲にするに値する程の高度の客観性を意味するとする(札幌高決昭和41年10月18日等)のである。このような厳格な解釈の背景には姓をコロコロ変えられれば社会が混乱し、ある人がこの人だという同一性が害されるという考えがあるのだろう。山岡は、「山岡」姓を長く使っており、通姓を永年使用しているといえるが、この点は「単に通姓を長時間継続してきたという理由だけで安易にそれを許可すべきでない*9」とされてしまっている。

 こりゃあ、だめかな...。半分あきらめながら、家裁月報*10を調べてみた。

そっくりの事例があった*11
 
 京都家審昭和35年5月7日、昭34(家)2365号という事案である。
事案を要約すると、

道家元家「千」家に生まれたXは、茶道を継承せず、別の仕事をしていた。しかし、「千といえば茶道の家元」というイメージができているため、社会生活上の不利益が生じていた。そこで、別の姓*12に改めようと考えて許可を求めた。

こんな事案について、京都家裁は以下のような判断を示して、この場合には「やむを得ない事由」に該当するとした

現行法の氏は、法的秩序の基礎単位である人の同一性を表象する記号としての機能を営むものであるから、その呼称が変更することなく一貫性を保つことは法の要請するところであり、また氏はこれを軽々しく変更しない方がその当事者自身にとつても利益であるのが通例であるけれども、他面さきに指摘したような社会的必要に答え、また有利且つ便宜な氏に変更を希望しようとする強い意図を重んじることは、個人の自由と幸福追求を基本的に承認しなければならぬ近代法の精神からいつて無視することのできない原則である。それ故に、申立人等が、氏変更につき上記のような社会的必要性を感じかつその変更を切実に希望するものである以上、申立人等の職業に関係のない茶道家元としての千の呼称を強要することは、かえつて社会秩序維持の上からも思わしくない結果を生ずるおそれがあるので、このような場合には千の氏の変更を承認する方がむしろ社会的便宜にも一致するものということができ、従つて申立人等の氏の変更についてはやむことを得ぬ事由があるものといわねばならない。

 要するに、千利休以下の千家のそうそうたる「超一流」の面々によって「千=茶道」というイメージが社会に定着してしまった。そうなった以上、「茶道をやっていない『千』姓」というのは社会生活上よろしくないので、本人が真に姓を変えたいなら、「やむことを得ぬ事由がある」として、姓を変えるのを許そうではないかという内容である。

 そして、本件について考えるに、海原雄山」が超一流の芸術家として、世に広く知られていることは「美味しんぼ」47巻p122,216等を引くまでもない自明のことである。そして、「海原」といえば、このような芸術家の一族だというイメージが社会に定着しているといっても言いすぎではないだろう。このような状況下においては、まさに京都家審昭和35年5月7日と同じ状況が起こっているのであり、「芸術をやっていない新聞記者が海原姓というのは社会生活上都合が悪い」といえ、真に山岡が山岡姓を希望している以上、「やむことを得ぬ事由がある」として、氏の変更を許可するのが相当である。
 そう、氏の変更届説は十分ありえるのである*13

まとめ
 常識的には無理とされる「氏の変更届」説も、判例を丁寧に探せすことで、類似事案で氏の変更を認めた判例が見つかり、息を吹き返した。常識だけで「無理」と思わず、丁寧に判例を探す努力をすること、このことが実務家にとって大変重要であることを、山岡「改姓」問題は示している。

謝辞:本稿はひとえに三軒茶屋様のおかげである。勝手な補足をお詫びするとともに重ねて感謝をしたい。

*1:なお、「本名は海原士郎だけど、そんなの無視して(引用者注:47巻p164の婚姻届に)山岡士郎と記載するという考え方です。婚姻届にこのような虚偽の記載をすることはもちろん違法な犯罪行為です(刑法第155条:公文書偽造罪)。」とあるが、成立する犯罪名の点は誤解であろう。「本名は海原士郎だけど、そんなの無視して山岡士郎と記載する」行為は、犯罪であるが、あくまでも刑法157条の公正証書原本不実記載が成立するに過ぎない。この公正証書原本不実記載罪は「公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ」た場合に成立する犯罪である。虚偽(本当は「海原」なのに「山岡」となっている)の内容の婚姻届が受理され、戸籍簿(今だと電磁ファイルだろうが、当時は戸籍簿だろう)に虚偽の事項が記載されることで、公正証書の原本に不実の記載がなされることから、本罪が成立する。なお、余談であるが公正証書原本不実記載罪は未遂であろう。「受理」した区役所職員は、後で戸籍簿に記載しようとして、山岡の本当の氏が海原と気づくはずで、戸籍簿原本に虚偽の記載がされなければ既遂にならない(大塚等「第コンメンタール刑法8巻」p162参照)。仮に気づいた職員がそれでもあえて虚偽の記載をした場合には、山口説によれば未遂である、それは、山口厚「刑法各論」p448によれば「申請者が虚偽の申し立てをしたところ、権限ある公務員が、虚偽の申立てであることを、たまたま知るに至ったにもかかわらず、不実の記載をなした場合には、因果関係の要件が充足されず、公正証書原本不実記載罪は未遂となろう」ということである

*2:公文書偽造罪改め

*3:この点は三軒茶屋様も指摘されているが

*4:梅謙次郎『民法要義 巻之四親族編〔第22版〕』(有斐閣書房,1912)なお、http://homepage1.nifty.com/ksk-s/MY4.htm様の復刻による

*5:唄孝一「氏の変更」日本評論社p14、なお『乃木家再興問題』で問題となっている一家創立は、一家創立の中でも特殊な「爵位授与」が問題となっている。爵位授与については学説によっては自由な氏を名乗れないとされているが、少なくとも「爵位授与以外の一家創立」について通説は自由な氏を名乗れるとする。乃木家再興問題については同書p48が詳しい

*6:岡垣学・野田愛子編「講座・実務家事審判法4」p198参照、以下ページ数のみの引用は同書

*7:元市民課職員の戸籍の話は非常に詳しい。ぜひ参照のこと。

*8:p205。なお、許可した例として腹巻、色魔等がある

*9:p206

*10:家事判例等が載っている雑誌。マニアックだけど結構面白い雑誌です

*11:家月12巻7号117頁

*12:納屋

*13:現在の私見は氏の変更届説である。

名探偵コナンと疫学的証明〜名探偵が有罪に?!

名探偵コナン (1) (少年サンデーコミックス)

名探偵コナン (1) (少年サンデーコミックス)

1.はじめに
 本日映画最新作「名探偵コナン紺碧の棺(ジョリー・ロジャー)」が公開される名探偵コナンシリーズとは、謎の組織により体を小さくさせられた高校生探偵工藤新一が、小学1年生の江戸川コナンとして謎を解決していく探偵漫画・アニメシリーズである。
 さて、名探偵コナンの「お約束」として、「コナンが行く先で殺人事件が起こる」というものがある。余りにも多くの人が死ぬことから、目暮警部も、

やっぱり おまえか、 死に神め...
青山剛昌名探偵コナン」38巻file6p6*1

と述べた程である*2

2.コナンに関わった者の死亡率と普通の死亡率の差
 いくらなんでも「死神」と称されるのはひどいだろう、そんなにたくさんの人が死んでいるのか? こんな疑問を持った私は、全巻*3の登場人物とその生死を調べてみた。
 その表は非常に長いので、エントリの末尾に記載したが、
913人の登場人物中、


154人が殺人事件の被害者となり、


228名が犯罪被害者*4


となっている。


殺人の被害者になる率が17%、殺人を含めた犯罪被害者になる率が25%である。

これが、どれくらい異常かは、日本の犯罪被害率を調べれば分かる。
平成18年度犯罪白書によれば

その被害発生率(人が被害者となった一般刑法犯の人口10万人当たりの認知件数の比率をいう。)は,男子を主たる被害者とするものが2055.6,女子を主たる被害者とするものが980.0であった。
(中略)
内訳は死亡者1,354人
http://www.moj.go.jp/HOUSO/2006/hk1_5.html#5-0

 要するに、1年間で考えると、10万人のうち3000人は何らかの犯罪被害にあい、1億2000万人のうち1354人が殺人被害にあうということである。
 日本の犯罪被害率が3%なのに対し、コナンに関わった人ではその10倍近い25%、更に殺人については日本の殺人被害率が0.001%(10万分の1)なのに対し、コナンに関わった人では17%と実に2万倍近くになっているのである*5

3.疫学的因果関係
 とはいえ、「コナンが関わると人が死ぬといっても、「犯人」が殺したから殺人が起こったのであって、コナンのせいとはいえない」と思う人も少なくないだろう。これを法律的に構成すると「コナンの行為と死亡結果の間に因果関係がない」となる。

実行行為が存在し当該構成要件が予定する結果が発生したとしても、犯罪が完成したわけではない。実行行為と現に生じた結果との間に、客観的に「原因と結果」と呼べる関係が必要なのである。この「原因と結果」と呼べる関係(中略)を論ずるのが因果関係論である。
前田雅英刑法総論講義」p172

 かつての因果関係論では、公害事犯等の「未知の危険が具体化して被害が発生した」場合に因果関係を認めることが困難であった。
例えば、

工業生産の過程で排出される微量の物質Xが、魚に蓄積され、それを食べたYが死んだ

という公害の事例において、病理学的な手法により病原体を発見する・動物実験によりその病気を作る等の方法で、因果関係について厳密な医学的証明をすることは大変長い時間がかかり、また病気等には発生機構が未解明なものも少なくなく、そのような意味での証明がつねにできるとは限らない*6。因果関係について医学的証明を要求するかつての議論では、公害事犯等において適切な処罰ができないと批判された。

 そこで、出てきたのが疫学的因果関係という議論である。

疫学とは、人間を集団として把握し、その集団について疾病その他の事象の分布を多角的に観察し、その規定因子、成立因子を研究する学問である
日本弁護士連合会編「刑事裁判と疫学的証明」p17*7

 要するに、疾病等の異常現象が起こった場合において、気候、飲料水、習慣等の外部的事情を統計的に分析することで原因をつきとめる学問が疫学である。
 疫学のプロセスとしては
�事実を収集し、発生要因に関する仮説を形成する(記載疫学、例えば物質XがYの死亡の原因ではないか)
�集団現象と発生原因との間の因果関係について、統計的に�で立てた仮説を分析・検討することで推論を行う(分析疫学、例えば「患者ー対照研究」といわれる研究においては、集団の中で問題の疾病を持つ患者群が、その疾病を持たない群(対照者群)と比較して仮説要因(この場合は物質x)をより高率に保有しているかどうかを調べる方法)
実験を行い、その推論の検証を行う(実験疫学、動物実験が通常であるが、介入研究といって、仮説要因(この場合はX)を除去する研究グループと除去しないグループを比較し、除去により生存率が上がるか等の追跡調査等を行う研究で実験検証をすることもある)
 という3段階に分かれる*8。ただし、最終段階の実験が、ヒトの場合だけでなく動物についても困難なことが少なくないため、因果関係の存在は、分析疫学の段階(�)までで推論せざるをえない(p29)。
 そして、疫学的因果関係の認定については「疫学四原則」ということがいわれている。すなわち、疫学上疾病の起こる原因と疾病のあいだに因果関係があるといえるためには、一般に�その因子が発病の一定期間前に作用するものであること、�その因子の作用する程度が著しいほどその疾病の罹患率が高まること、�その因子の分布消長の立場から、記載疫学で観察された流行の特性が矛盾なく説明されることと�その因子が原因として作用するメカニズムが生物学的に矛盾なく説明可能なこと、の四条件の具備が必要であるとされている*9
 東京高裁*10は、「疫学的証明ないし因果関係が、刑事裁判上の種々の客観的事実ないし証拠又は情況証拠によって裏付けられ、経験則に照らし合理的であると認むべき場合においては、刑事裁判上の証明があったものとして法的因果関係が成立するということができ、有罪の認定を妨げるものではない」と判示*11している。要するに、このような疫学的因果関係が証拠で裏付けられ合理的である場合には、法的にも因果関係が認められるというのである。このような立証の方法は、必ずしも公害だけにかぎられない*12とされる*13


 さて、この理論をコナンについても適用してみよう。
 まず、「日常生活圏を出たコナンが物理的に接近することで、殺人犯に何らかの作用を及ぼし、殺人を犯させている」という仮説が立てられる*14
 この仮説について統計的に分析すると、「コナンの接近がある」群においては、17%の死亡率*15なのに対し、「コナンの接近がない」対照群においては、0.001%の死亡率と、死亡率が1万7000倍になっていることから、「コナンが物理的に接近すること」と殺人事件の発生の間には明らかな有意差が認められ、上記仮説は正しいと推論できる。
 そして、これは疫学四原則の�その因子が発病の一定期間前に作用するものである、�その因子の作用する程度が著しいほどその疾病の罹患率が高まること*16、�その因子の分布消長の立場から、記載疫学で観察された流行の特性が矛盾なく説明されることと�その因子が原因として作用するメカニズムが生物学的に矛盾なく説明可能なこと*17という要件を満たしている
 すると、コナンが毛利探偵につき従って、ないし旅行等で生活圏を離れるという実行行為と、被害者の死という結果の間に因果関係が認められてしまうのである*18

4.危惧感説
 もちろん、コナンに殺意はないであろうから、過失致死が問題となる。過失については、「未知の危険が現実化」した場合にでも有罪にできる議論として、危惧感説がある。これは、科学技術の発達により存在する未知の危険が被害発生をまったく無視できないほどの危惧感をともなうのであるときは、それを防止する注意義務を課し、これを防止するための行為をしなかったために危険が現実化すれば、過失ありとするという議論であり*19、森永ミルク事件第二審*20、同差戻後第一審*21が取り入れた考え方である。
 この考えを取り入れれば、遅くとも*22鈍感な目暮警部ですら怪しいと思って「死神発言」をした38巻以降は、コナンは「自分が毛利のおっちゃんについてひょこひょこ外に出かけると人が死ぬんじゃないか」という危惧感をもってしかるべきであり、生活圏、即ち毛利探偵事務所と学校以外のところには行かないようにするという注意義務が課せられていた。その義務に反したために死んだ45人の死について、コナンは過失致死の責任を負うことになる*23

まとめ
 未知の危険が現実化した場合、疫学的因果関係・危惧感説等の理論を用いることで、処罰範囲を拡張することができる。このことが、罰すべき者を罰するという積極的な意義をもつことは否定できない。
 しかし、この議論によってコナンに死亡の責任を負わせることは、本当にいいのだろうか?
 疫学的因果関係については、前掲「刑事裁判と疫学的証明」は、千葉大チフス事件*24、及び仙台さつまあげ事件*25の2つの事例を引いて、疫学の方法論的限界、目的からくる限界、適用範囲からくる限界、そして裁判においての疫学の使われ方の問題点等を指摘している*26。特に、実験をする前の段階で裁判に使われる*27ことからは、その証拠との結びつき及び経験的合理性の判断には慎重を期すべきだろう*28。また、危惧感説についても判例全体からみれば主流でない*29のは、それが処罰範囲を不当に拡張し責任主義に反するからに他ならない。
 未知の結果が現実化した場合に、その犯人を処罰したいという世論が沸き起こることは多い。しかし、その裁判が結果責任」を問う「魔女裁判」になってはならない。疫学的証明や過失についての新理論に安易に飛びつくことなく、「疑わしきは被告人の利益に」「責任主義」といった大原則に従って慎重に判断すべきである*30


付録:コナン登場人物の生死について
 なお、以下の表において×は殺人既遂ないし未遂の場合*31であり、捜査官(日本の警察官・検察官)については、基本的には事件発生後に登場することから、その命が狙われる等しない限りは省略した*32

1巻
file1
岸田(×)友人A,友人B、愛子、黒ずくめ男D(ジン、48巻file9〜×未遂),黒ずくめ男E(ウォッカ*33、工藤新一(×未遂*34)、毛利蘭(とりあえず何度も殺されかける)、毛利小五郎(×未遂*35
file3〜5
谷晶子、谷父、麻生執事、お手伝いA,B、誘拐犯人
file6〜9
沖野ヨーコ、山岸、池沢ゆう子、藤江明義(×但し自殺)
2巻
file1〜3
根岸正樹(×)、阿部豊(なお、半殺し)
file4〜7
広田健三、宮野明美、探偵、広田明
file8〜10
吉田歩美、小嶋元太(麻酔をかがされる)、円谷光彦(麻酔をかがされる)、洋館の主人(×但し5年前)、奥さん、息子(なお、監禁される)
3巻
file1〜6
籏本夏江、籏本武(=財城武彦)、籏本豪蔵(×)、籏本北郎、籏本祥二、籏本一郎(×未遂*36)、籏本麻理子、籏本秋江、籏本竜男(×)、鈴木
file7〜10
小川雅行、小川勇太(誘拐、×未遂)、田中一郎、荻野智也(医療事故死)
4巻
file1〜3
警備員A、警備員B、落合、飯島、窪田、真中(×)
file4〜6
サラリーマン風、キャリアウーマン風、恰幅のいいおじいさん、ヤクザ
file7〜10
ディノ・カバネ、仲間A、仲間B、仲間C
5巻
file1〜5
鈴木園子、大田勝、角谷弘樹、高橋良一、鈴木綾子、池田知佳子(×)
file6〜9
木村達也(×)、柴崎美江子、山田克己、寺原麻理、隅井豪
file10
江戸川文代、仮面の男、取引相手
6巻
file1
正男、正男の母
file2〜5
丸伝次郎(×)、丸稲子、お手伝いA,お手伝いB、波多野幾也、阿久津誠、諏訪雄二
file6〜8
アキラの飼い主、田中和由(×)、田中知史
file9〜10
笹井宣一、今竹智(×)、山田
7巻
file2〜7
浅井成美(×なお現住建造物放火)、清水正人、黒岩辰次(×)、川島英夫(×)、黒岩令子、平田和明、西本健(×)、村沢周一(脳震盪)
file8〜10
赤木量子、赤木英雄、赤木守(監禁される)、上村直樹、
8巻
file2〜7
今野史郎、江原時男(×)、金城玄一郎、林静江、上条秀子、前田聡、佐山明子
file8〜10
松本小百合(×未遂*37)、竹中一美、松本清長、梅宮淳司、高杉俊彦、
9巻
file1〜3
犯人A、B
file4〜6
綾城行雄、大村淳、堀越由美(×)、綾城紀子、中道和志
file7〜10
四井麗花(×)、一枝隆、二階堂優次(×)、三船拓也、五条修、六田将司、四井父、七尾米
10巻
file2〜5
服部平次、辻村公江、桂木幸子、小池文雄、辻村貴善、辻村利光、辻村勲(×)
file6〜8
津川秀治、玉田和男(×)
file9〜10
大山将(×)、中原香織、金澤智康、江角果歩、飛田銀二
11巻
file2〜4
諏訪道彦(×)、松尾貴史、永井亜矢子、部長、スタッフ×4
file5〜7
姫野弥生(×)、皇裕一、妃英理、殿山十三、若王子士郎
file8〜10
天永和尚(×)、寛念、屯念、木念、秀念、菊乃、
12巻
file1〜3
絵描き(心臓病)、奥田倫明
file4〜6
中島秀明、上田光司、竹下裕信、社長、大男
file7〜10
川津郁夫、藤沢俊明(×未遂)、清水奈々子、岩井仁美、戸田マリア、金谷裕之(×)、戸叶研人、大木綾子(×)
13巻
file2〜4
富沢雄三、富沢哲治(×)、富沢達二、富沢太一
file5〜7
花岡兼人、蝶野いづみ(×)、バイク便の運転手
file8〜10
三上大輔、安達僚太、松井秀豪(傷害*38)、坂口友美、亀井修(×)
14巻
file1〜3
九十九七恵、九十九元康(×*39)、真田一三、三好麻子、百地裕士、九十九文乃、
file4〜8
薮内広美、薮内義房(×未遂)、カルロス、薮内秀和、薮内義行、薮内敬子、薮内真知子(×*40
file9〜10
米原晃子(首を絞められる)、下田耕平(×)、坂井隆一、中村美里、森敦士、杉山(×)
15巻
file4〜6
高山みなみ(誘拐)、永野椎菜(誘拐)、宮原悟史、宮原の仲間
file7〜9
岡野、長谷川、毛利のマージャン仲間、肥田満弘(×)、南沢尚善、藤井孝子、飯野宏
file10
武蔵之介、長門道三、日向幸、長門信子、長門康江、長門秀臣(×)、長門光明(×)
16巻
file4〜5
小林澄子、教頭先生、大畑裕之、植松竜司郎、警備員
file6〜9
鈴木史郎、怪盗キッド鈴木朋子(窃盗被害)
file10
菊右衛門、土屋益子(×)、有田義彦、瀬戸隆一、大谷薫
17巻
file3〜5
戸田貴和子(×未遂*41)、松崎はるみ、河津邦生、松崎雅彦、伊東洋
file6
同室の老人、関口良夫、火傷のおじさん、誘拐犯男、誘拐犯女、ガードマン風、関口弓子(誘拐)
file7〜9
ゴブリン残党×2、出淵操(監禁)
file10
土方幸三郎、永倉勇美(×)、沖田一
18巻
file3〜5
内田麻美(×未遂)、沢井学、早坂智子、野口茂久、宮崎千夏、森本喜宣、コンビニ店長
file6〜8
灰原哀、俊也、兄、黒服弟、彫師、銀狐、犬山
file9〜10
広田正巳(×)、広田登志子、白倉陽、盛岡道夫、細矢和宏
19巻
file2〜4
新名香保里、新名任太郎(病死)、編集者、校正係、編集長、主治医
file5〜8
遠山和葉、野安和人(×)、喫茶店の主人、長尾英敏(×*42)、西口多代(×*43)、郷司宗太郎議員、岡崎澄江(×)、沼淵己一郎、坂田祐介、
file9〜10
金子ディレクター、佐藤、田宮、犯人グループ×2
20巻
file2〜6
土井塔克樹、田中貴久恵、浜野利也(×)、黒田直子、荒義則、須鎌清日呂、西山務(×)
file7〜9
青島美菜(×)、青島全代、賢二、
file10
田畑勝男、間宮満、間宮貴人、間宮マス代
21巻
file4〜7
鵜飼恒夫、大鷹和洋(×)、天野つぐみ、立川千鶴、鷺沼昇、エドワード・クロウ
file8〜10
増尾桂造、増尾加代
file11
重松明男(×)、片桐楓、桜庭祐司、森園百合江、森園幹雄、森園菊人
22巻
file4〜7
浅間安治(×)、加越利則、出雲啓太郎(×)、岩槌晃重、青葉徹、出雲梓
file8〜10
道脇正彦、京極真、寺林省二、茶髪の女(×)
23巻
file1〜3
井出敏行、友里百合子、村松昭雄、張田政次(×)、古橋稔
file4〜9
船員、鮫崎島治、亀田照吉(×)、蟹江是久(×)、海老名稔、鯨井定雄(×未遂*44)、磯貝渚
file10
東田、村西真美(×*45)、居酒屋の女将、北川
24巻
file2〜6
新出義輝(×)、新出陽子、新出智明、保本ひかる、新出ミツ
file7〜10
南条実果、三瓶康夫、樽見直哉、クリス・ヴィンヤード、俵芳治、枡山憲三、呑口重彦(×)、麦倉直道
25巻
file1〜3
伊丹千尋(×)、三沢康治、佐野泉、小松頼子、織田國友
file4〜8
ロバート・テイラー、武田雄三、武田陽子、武田龍二、武田信一(×)、武田紗栄、武田絵未、武田智恵、塩谷深雪
file9〜10
強盗犯×4(うち1名×)
26巻
file1〜4
三谷陽太、野田夢美、鴻上舞衣、蒲田耕平(×)、蜷川彩子
file5〜7
辰巳泰治(×)、大場悟、辰巳桜子、社員×2
file8〜10
裕木春菜、緒方和子、緒方志郎、緒方常雄、緒方稔(×)
27巻
file1〜3
佐久法史、碓氷律子(×)、塩沢憲造、三笠裕司
file4〜6
放火魔、猿渡秀朗、鹿野修二、猪俣満雄、神鳥蝶子、高木刑事(×未遂)
file7〜9
ジョディ・サンテミリオン、尾藤賢吾(×)、出島均、江守敏嗣、志水高保
file10
旅館のおっさん、ハンター(×)、八坂清、雑賀又三郎、根来友也
28巻
file3〜5
池波静華、柴田四朗(×)、吉川竹造、柴田恭子
file6〜10
門脇沙織(×)、黒江奈緒子(×)、島袋君恵、海老原寿美(×)、福山禄郎、門脇弁蔵
file11
水谷涼子(×未遂*46)、遠藤仁美(×未遂*47)、石黒路子(×未遂*48)、藍沢多恵(×)、白川紀之、紺野由里、定金芳雄、白川春義
29巻
file2〜5
矢島邦男、バスジャックグループ×2、赤井秀一、町田安彦、富野美晴
file6〜8
加納照也、綱島吉雄、土佐林アキ、蓮木志乃
file9〜10
リカルド・パレイラ、マイク・ノーウッド、レイ・カーティス、エド・マッケイ(×)
30巻
file1〜3
小倉千造(×)、岩国辰郎、徳山法男、明石影
file4〜7
千間降代、茂木遥史、大上祝膳、石原亜紀、槍田郁美、白馬探
file8〜9
染田、床屋
file10〜11
美濃宗之、笠間菊代、美濃素夫(×)
31巻
file2〜4
浦川詠次、遠田芳郎、神保雅夫、偽毛利小五郎(×)
file5〜7
吉澤勇太、下条登、荒巻義市(×)、根津信次
file8〜10
改方学園1年の後輩、沖田、垂見篤史(×)、面谷峰男、胴口規之、小手川峻、袴田正通
file11
平野(×*49)糟屋有弘、福島俊彰、片桐真帆(×)、脇坂重彦、加藤祐司(×)
32巻
file5〜7
剣崎修、草野薫(×未遂)、岳野ユキ、星野輝美、間熊篤、監督
file8〜10
ランディ・ホーク、ジェイムズ・ブラック(誘拐)、誘拐犯3人組
file11
鴨居五十吉、目撃者のおじいちゃん、座間弘、越水映子、紙枝保男、目撃者の女の子、喫茶店の主人
33巻
file3〜6
湯浅千代子、二垣佳貴(×)、粉川実果、甘利亜子、酒見祐三、板倉創
file7〜9
護田秀男、出月映子(×)
file10〜11
来生範久、中条勝則(×)、国吉文太
34巻
file2〜4
下田千加、仲町通也、川上昇、高井(×)
file5〜7
赤野角武(×)、駅員、吉良蓮絵、船戸三昭、大葉悦敏
file8〜10
磯上海蔵、伊東基伝、北浦京吾、川端四朗(×)
file11
シャロン・ヴィンヤード、リラ・サンチェス、アカネ・ニールセン、ローズ・ヒューイット、イベリス・ハミルトン、ヒース(×)、ラディッシュ・レッドウッド、銀髪の通り魔
35巻
file5〜7
音無芳一、番町菊次、四谷岩尚、牡丹露彦、人魂男
file8〜10
円谷母、蛍保護のおじさん×2、バスの運転手
file11
武富雅男、久米好継、池間伸朗、平良伊江(×)、大東幹彦、下地崇、金城兵吾、船長(×)
36巻
file5〜7
筒見、郵便局員、強盗犯×3
file8〜11
白鳥刑事(×未遂)朱美、朱美の母、佐藤
37巻
file2〜4
風見良輝(×)、波原霞、南雲暁、南雲伸晴、雨城瑠璃、スタッフ×3
file5〜7
板倉卓(×)、須貝克路、内藤定平、相馬竜介、ボーイ
file8〜10
銀行強盗犯×3
38巻
file2〜4
観野節子、観野弥生、津曲水貴、三重芳春
file5〜7
大神敬晴、永瀬豹太(×)、牛込巌、佐熊浩之、レオナルド・ロッシ、帝都プロレス関係者×2、木場
file8〜10
楠川(×半殺し)、杯戸、伊藤×4、伊藤美沙里、仲間×2
39巻
file1〜5
諸角亮子(×)、玄田隆徳、曽我操夫、権藤系子、諸角明、目撃少年
file6〜8
福浦玲治、白藤泰美(×)、天堂晴華、飯合拓人
file9〜11
絹川和輝、草野美津、別所登志子、鴨下保比呂(×)、三枝朝香、板前
40巻
file1〜3
客×2、矢倉朝吉、高木登、前田和彦、中島啓太、後藤陽介
file4〜6
明石寛人、明石巌夫(×)
file7〜9
野井、木之下、蝶野晴男、ビリー
file10
藤枝幹雄(×)、植木草八、土肥耕造、藤枝繁、藤枝素華
41巻
file4〜6
唐田敬善、根上慶彦、穂島朗、古村徳宏(×)
file7〜9
伴場幸哉(×)、布袋鋭司、泰山薫、暮小義人
file10〜11
出島壮平(×)、財津浮彦、今井徹夫、夏堀勇
42巻
file2〜4
七川絢、店長、大学生、サラリーマン風、おばあちゃん
file5〜10
亡霊船長福浦(×)、メデューサ、狼男、フランケン、ミイラ男、ゾンビ、透明人間
file11
榎本洋、福地直和、出川俊昭
43巻
file3〜5
倍賞周平、榎本梓、小太りめがねの男(×*50)、ポアロのマスター
file6〜9
辻谷賢二(×*51)、愛甲奈央、波佐見淳、中紙功男、岩富創
file10
港南高校四番長島、大金高校エース稲尾、鳥光行雄
44巻
file4〜6
仲本広俊(×*52)、志村由依、加藤
file7〜10
ひったくり犯、鈴木次郎吉
file11
男子生徒×2、塚本数美、世古国繁、物部雅生
45巻
file2〜5
白根桐子、金谷峰人、江尻太志(×未遂)、井田巌
file6〜8
能勢(×)、本山正治、寺西
file9〜11
野々宮悦子、天土陵司、二川肇(×)、御上平八、河野麻雄(×*53
46巻
file2〜5
津曲紅生、設楽蓮希、設楽弦三郎(×)、羽賀響輔*54、設楽絢音(×)、設楽調一郎
file7〜10
玉井照尚(×)、トレジャーハンター男、トレジャーハンター女
file11
狩谷伴子(×)、狩谷大策、狩谷滋英、狩谷嗣貴、家政婦×2、狩谷叡祐
47巻
file5〜7
後村、猫田英信、引越し屋×2、伊坂
file8〜11
星河童吾、アシスタント×8、範田力、姫宮展子(×)、正影満里
48巻
file1〜3
見山(×)、加納(蘭の暴行による顔面負傷)、矢沼、尾藤
file4〜8
赤塚賢造、綿引勝史、矢崎波花、矢崎茂子、国友安栄、関口俊道(×)、国友淳大(×)、綿引兄
file9〜11
水無怜奈(交通事故)、ピンポンダッシュ少年、キャンティ、常盤栄策、千頭順司、土門康輝、土門事務所職員、ボディーガード×2、野次馬×4、毒島桐子、飛び出した少年(船本透司)
49巻
file5〜7
雨宮祥子(交通事故)、平山文吾、三池、コンビニ店長、運転手(交通事故)
file8〜10
本堂瑛祐、三角篤、安美(×)
50巻
file1〜4
江本将史、江本彩、合コン出席者×3、浩太、六田卓児(自殺未遂)、引田門成、佐塚良兼
file5〜7
杉森政人(×)、蓬田晴華、桧垣敏則、林編集長、稲葉敦史
file8〜11
箕輪奨兵(×)、改方学園生徒×6、大山守蔵、三俣耕介、立石雫、片品陸人、帝丹中学生徒×5、土産物屋店員
51巻
file2〜3
長部満、長部父(喧嘩を止めようとして負傷)、長部母
file4〜6
牛込嗣夫(×)、八島光枝、三瀬隆、久津梢子
file7〜8
桐下
file9〜11
槙野純、天堂享、倉本耀治、保波倫子(×)
52巻
file1〜2
建井文吾(なお自殺未遂)、行列待ちの人×2、鳴川
file3〜5
益戸麗、平正輝(負傷)、郡司倫造、島袋貞悟、軽辺福春、連続強盗犯(×)
file6〜8
編集者、萬田年久、原本高平(×)、市村
file9〜11
冬の紅葉AD(×)、大隈勇、綿貫辰三(のされる)、ハンス・バックリー、泥参会組員×50位(のされる)
53巻
file1〜4
及川武頼、神原晴仁(×)、撮影スタッフ
file5〜6
坂本たくま、東尾マリア
file7〜9
板垣ロク(×)、柱谷父、柱谷巧、ネイルショップ店員、桐谷、安居、関内
file10
船本達仁、茂野孝美、船本兼世(×*55
54巻
file3〜5
小倉朔子(×)、木山鍛治、尾上麻華、板橋一八
file6〜8
傳久、釈蓮、傳久母(自殺)
file9〜11
槌尾広生(×)、越水七槻、時津潤哉、甲谷廉三
55巻
file3〜5
児島乾史、ルトガー・ハイネン(×未遂)、稲垣大将、玄田辰造
file6〜9
警備員
file10
獣医、小五郎の友達×2
56巻
file1〜3
諸口益貴(×)、出島覚治、垂水亘、穴吹晴栄
file4〜6
田中伊和江、大庭茜(×)、安達頼人、香原風雅
file7〜9
西郡宗兵、多胡、早織、古庄
file10〜11
庵野母、振り込め詐欺師、庵野息子
http://kanna-m.parfait.ne.jp/main/dic/ConanDICtop.htmlを参考にさせていただいた。

*1:なお、46巻file5p1でも「相変わらずの死神ぶりだな毛利名探偵」とある。

*2:なお、「おまえ」は毛利小五郎を指す。コナン「主」で、毛利小五郎は単に麻酔銃で眠らされて「推理ショー」をやらせられる「従」であるのに、目暮警部はこの主従の関係を誤解していることからこのような発言がなされている

*3:大人の事情で最新刊の57巻は省略したので、1〜56巻

*4:殺人、自殺、誘拐等

*5:なお、正確にいうと、犯罪白書の統計は「死亡者」のみを対象としており、殺人未遂を含んでいないが、コナンの計算上「殺人被害」は未遂を含んでいる。そこで、厳密には2万倍にはならないが、それでも1万倍は超えており、異常な高率であることに変わりない

*6:ジュリスト440号p105「疫学的因果関係と法的因果関係論」、西原春夫「刑法総論」p104参照

*7:疫学的因果関係についての以下ページ数だけの記載は同書

*8:p19以下参照

*9:西原春夫「刑法総論」p105

*10:東京高判昭51年4月30日判時851号22頁

*11:西原春夫「刑法総論」p104

*12:西原春夫「刑法総論」p104

*13:なお、同書の「まず第一に、相当因果関係の基礎にある条件関係は「AがあるからBがある」という関係ではなく、「AがなければBはなかった」という関係であると同時に、その判断は一種の経験判断であるから、たといAとBとの間の関係が完全に医学的に解明されなくとも、またA’がBの原因である可能性が残っても、さらに、Aを摂取した人の中にBの結果が発生しなかった人がいたとしても、疫学的方法によりAがなければBはなかったという関係が統計的に高度の蓋然性をもって証明されれば、それをもって足りるからである。さらに第二に訴訟法的にみても、それが情況証拠(間接事実)による証明の一種とみることができるかぎりにおいては、それが高度であればあるほど単独で、それほど高度でない場合には他の情況証拠と相まって有罪認定の資料とすることができるのであって、それは必ずしも「疑わしきは被告人の利益にin dubio pro reo」という刑事訴訟法上の原則には反しないとみることができよう。」参照

*14:なお、疫学的因果関係においては、物質Xが具体的にYにいかなる作用を及ぼして死に至らせているかという機構解明の必要がないことに注意。

*15:これは多少不正確。例えば48巻file1〜3の見山のように、物理的にはコナンと離れたところで殺されていることもあれば、コナンが接近する前に既に死んでいる事案もある。

*16:ここは「帝丹小学校」と「毛利探偵事務所」において死者が出ていない点がネックになるとも思われるが、この点は仮説を「コナンが日常生活圏を出て」としておいたので問題がなくなる

*17:きちんとした作用機構までの説明はないが、APTX4869の作用でコナンの体から殺人犯の犯行を促進する物質が出ており、これが殺人犯の脳に作用している等のメカニズムを考えた場合これが生物学的に矛盾はしないだろう。

*18:まあ、証拠と合理性が必要であるが、物質Xを摂取した人としない人では死亡率に1万7000倍の差があるという場合には普通証拠も合理性も認められるであろうことと比較すると、コナンの場合にもこれが認められてもおかしくない

*19:藤木英雄「刑法講義総論」p241

*20:高松高判昭和41年3月31日高刑集19巻2号136頁

*21:徳島地判昭和48年11月27日判時721号7頁

*22:毛利小五郎が麻酔銃で眠らされて推理ショーをさせられていることに全然気づいていない

*23:なお、一般論として警官等の捜査機関は過失致死の責任を負うことはない。コナンとの違いはコナンが「行った先で殺人事件が起こる」のに対し、捜査機関は「殺人事件が起こったからそこに行く」という点であり、これが疫学的因果関係4原則の�との関係で決定的な差を生むのである。

*24:興味がある方は科学的魔女裁判参照

*25:仙台高判昭和五二年二月一〇日判例時報八四六号四三頁

*26:他に、大塚仁「刑法概説総論」p182の「刑法における因果関係の認定は慎重になされなければならないから、疫学的見地からの条件関係が認められる場合にも、相当因果関係があるとするためには、さらに、具体的事案における当該行為と結果との結びつきが、他の証拠に照らして疑いをいれない状況にあることが必要であるとおもう。」という記述や、

*27:のがほとんどである

*28:同旨植村立郎「実践的刑事事実認定と情況証拠

*29:藤木英雄編「判例と学説7・刑法I」p230

*30:この点から慎重に判断すると、コナンについて経験的合理性が否定され無罪となる可能性は十分あるだろう

*31:未遂については「×未遂」とした

*32:モブキャラを掲載するか否かは基本的に「セリフ」の有無をメルクマールにしている

*33:最初の館モノは殺人事件かどうかすら不明なので数えていない。

*34:結果として体が縮む

*35:49巻で競馬中継を聞いているところを黒服軍団に狙われたのは明らかに実行の着手があるでしょう

*36:但し狂言

*37:但し自殺

*38:なお狂言

*39:但し死亡後相談

*40:なお正当防衛行為の結果

*41:なお狂言

*42:但しコナンが来る以前

*43:但しコナンがくる以前

*44:狂言

*45:但しコナンらに会う前

*46:コナンのところに話が来る前

*47:コナンのところに話が来る前

*48:コナンのところに話が来る前

*49:但しコナンが来る前

*50:但し2日前に死亡

*51:但し先月の末死亡

*52:但しすでに死亡

*53:但し白骨死体

*54:なお自殺未遂

*55:昨日

本当にあった「逆転」裁判!〜オタク判例百選第2事件

逆転裁判4(通常版) 特典 オドロキヘッドフォン付き

逆転裁判4(通常版) 特典 オドロキヘッドフォン付き

 本日、最新作「逆転裁判4」が発売される逆転裁判シリーズとは、弁護士である主人公、成歩堂龍一*1が、裁判のための情報・証拠品を集め、そこで得た証拠を嘘をついている証人に「異議あり!」と叫んでつきつけ、これを武器に依頼人である被告人の弁護を行う法廷バトルゲームシリーズである。

 この逆転裁判は、かなり現実の裁判と異なっていることについては、壇弁護士による「異議あり! 嘘です」: 壇弁護士の事務室をはじめとして多く指摘されているところである。
 客観証拠と矛盾する供述をしただけで、いちいち「異議あり!」なんて叫んでいたら、単なる「威嚇的な尋問(刑事訴訟規則199*2条の13)」であり、流石にそんな弁護士はいない*3



 ところが、逆転裁判とよく似た事例が実際に存在し、最高裁判決にまでなっている。


 逆転裁判(初代)」の第四話、第二法廷パートまでを要約すると以下のようになる。

主人公成歩堂龍一のライバルであり旧友でもある御剣怜侍が殺人容疑で逮捕される。
公判では、まず糸鋸刑事、大沢木ナツミが証言したものの、双方よく調べなおすようにと言うことで閉廷になる。
その後の法廷では、狩魔検事が三分での終了を予告し、管理人のおじさんの証言の後、強引に判決を言い渡させようとする。
一度は裁判長も納得し、御剣怜侍有罪判決が下される。
ところが、矢張政志が異議を唱え、この異議が認められ有罪判決が撤回される。
http://homepage1.nifty.com/PC-GAMER/games3/gyaku/gya_h3.htm参照


 これと同様の
   判決→異議→撤回→違う判決
 という事件が実際にあった。

最判昭51年11月4日刑集30巻10号1887頁の事案は、単純な窃盗事件であった。
第一審裁判所は被告人に対し判決の宣告をした際、一度懲役一年六月、五年間の保護観察付き刑の執行猶予とする旨の主文を朗読した。
それから、執行猶予期間は生活に気をつけるように等と説示し、控訴期間等の告知をしたところ、列席の裁判所書記官から、執行猶予にはできない趣旨の指摘をされた。
 驚いた裁判官は、被告人を在廷させたまま記録を検討し、約五分後に、「先に宣告した主文は間違いであつたので言い直す」と告げて改めて懲役一年六月の実刑を宣告したのであった。

 要するに、
執行猶予付き判決→書記官の「異議*4
→判決撤回→実刑判決

となったのである。

 ここで付言しておくと、執行猶予がつくか、実刑になるかは自白事件においては最大の関心といってもいい程重要なことである。執行猶予がつけば、期間満了まで犯罪を犯さなければ*5刑務所に行かなくてすむ。しかし、実刑判決が確定すれば、刑務所に行かなければならない。だからこそ、執行猶予がつくかは重大な問題であり、弁護人・検察官は自己の主張が通るような証拠を集めて意見を述べ、また裁判官は悩みに悩んで執行猶予をつけるかを判断することになる。

 さて、書記官がなぜ「執行猶予はできない」という趣旨の異議を述べたかといえば書記官の勘違いである。
 刑法25条2項は再度の執行猶予について定めている*6。この規定は分かりにくいので要約すると

①過去に禁固や懲役に処せられたが執行猶予がついた場合は、今回1年以下の懲役・禁固を言い渡すの場合にのみ執行猶予をつけられる。
②仮に今回1年以下の懲役・禁固を言い渡す場合でも、過去に言い渡された執行猶予付き禁固・懲役が保護観察*7付きで、今回の犯罪が保護観察期間内に再度犯した場合には執行猶予がつけられない

 という制度である。

 この事案においては、被告人は過去に保護観察付きの執行猶予判決を受けており、今回の犯罪は、その保護観察期間内に犯したものであった。そこで、書記官は本件では執行猶予はダメだと思い込んでおり、執行猶予をつけた裁判官に対して「異議あり!」としたわけである。

しかし、刑法27条は猶予期間経過により刑の言い渡しの効力が失われるとする*8。大雑把にいえば「猶予期間の3年とか5年が過ぎれば有罪判決はなかったことになる」のである。
だからこそ、「判決時までに既に(中略)執行猶予期間を経過したときは、ここにいう再度の執行猶予ではな」い*9とされており、この事案も判決時までに執行猶予期間を経過した事案であった。
 要するに本件では

①前の執行猶予・保護観察つき有罪判決
②今回の事件
③前の執行猶予期間満了→①の有罪判決がなかったことに
④今回の判決

という経過だったので、保護観察期間中の犯罪であるにもかかわらず例外的に執行猶予をつけていい事案だったのである。だからこそ、最初に執行猶予つき判決をした裁判官の判断は正しかったのである。
 ところが、この書記官の勘違いは裁判官にも波及してしまった。あわてた裁判官は執行猶予をやめて実刑判決にしてしまったのである。


 かわいそうなのは被告人である。せっかく執行猶予で外に出られると思ったのに、直後に「やっぱり実刑」といわれてしまったのである。
 「そんなのはおかしい!」と控訴をしたものの、その控訴も棄却されてしまった。


 もう、だめか...。


 しかし、この万事休すの状況でもあきらめなかった関弁護人*10は、上告して、この判決の不当性を訴えた。そして、団藤裁判長の最高裁第一小法廷は被告人を救ったのであった。
 第一審が一度宣告した判決を言い直したことは違法ではないとしながらも

第一審裁判所の量刑は、本件の諸般の事情、ことに第一審の裁判官がいつたん宣告した主文を変更するに至つた経過を考慮するときは、甚しく不当なものというべきであつて、同判決及びこれを是認した原判決を破棄しなければ著しく正義に反する

として、自ら執行猶予付き判決を下したのであった。

まとめ
 逆転裁判にあるような「判決→異議→撤回→別の判決」というのは実際に存在した。
 そして、この事案では、弁護人があきらめずに「異議あり!」といった(上告を申し立てた)ことにより、被告人に利益な執行猶予付判決が下っている。
 「逆転裁判」は実際の裁判実務とは違う点があるが、成歩堂弁護士の、どんな状況でもあきらめずにおかしなところはおかしいと申し立てる点は、現実の刑事弁護人も見習うべきであるといえよう。 

付記:最高裁は、結論的には被告人を救ったが、「一度宣告した判決を言い直したことは違法ではない」と判示した点は「このような『言直し』を認めることは、法的安定性を害し、裁判所に対する信頼を失わせることになる。はっきり違法というべきである。*11」等と批判されている。
 最高裁判決の評価をひとまずおくとしても、判決「言い直し」が裁判所への信頼を失わせることは間違いがない。多数の事件を抱えながら全てに適法かつ妥当な処理をしなければならない裁判官は大変であろうが、頑張っていただきたいものである*12

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参考:判決全文

            主    文
原判決及び第一審判決を破棄する。
被告人を懲役一年六月に処する。
但し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予し、その期間中被告人を保護観察に付する。
         
            理    由
 (上告趣意に対する判断)
 弁護人関孝友の上告趣意のうち、憲法三一条違反をいう点は、実質は単なる法令違反の主張であり、その余の点は、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の適法な上告理由にあたらない。
 (職権による判断)
 しかし、所論にかんがみ、職権により、次のとおり判断する。
 一 まず、第一審裁判所がいつたん宣告した判決の内容を主文を含めて変更し、あらためてこれを宣告したことは、違法ではなく、変更後の判決は、有効なものということができる。
 (一) 原判決の認定によると、第一審の単独裁判官は、昭和五〇年四月一六日の判決宣告期日において、併合審理していたA、B、Cの三名の共同被告人とともに、被告人に対し判決の宣告をした際、いつたん懲役一年六月、五年間の保護観察付き刑の執行猶予とする旨の主文を朗読した後、前刑の執行猶予期間が既に経過しているので保護観察付き刑の執行猶予にしたものであること及び執行猶予期間中は善持しなければならないことなどを説示し、控訴期間等の告知をしたところ、列席の裁判所書記官から、被告人の犯行が前刑の保護観察期間中のものである旨指摘されたこともあつて、他の共同被告人に対し判決の宣告を終つた旨を告げてこれを退廷させたうえ、被告人を在廷させたまま記録を検討し、約五分後に、先に宣告した主文は間違いであつたので言い直すと告げて改めて懲役一年六月の実刑を宣告した、というのである。
 記録によると、第一審の判決書には、右の変更後の判決の主文及びこれに応じた適用法条が記載されており、罪となるべき事実として、「被告人は、第一 C、A、Dと共謀のうえ、昭和四九年一月一七日午前一時ころ、神奈川県横浜市a区b町c番地先E駐車場において、株式会社E所有にかかる普通貨物自動車一台(時価五七万円相当)を窃取し、第二 C、B、Aと共謀のうえ、同年四月二九日午前〇時三〇分ころ、同県鎌倉市ab丁目c番d号先駐車場において、駐車中の普通乗用自動車内から、F管理にかかるカメラ一台および同人所有にかかるカメラ一台、サングラス一個、たばこ五個(合計時価四万三、九〇〇円相当)を窃取し、第三 同年九月九日ころ、同市ab丁目c番d号G方新築現場において、H所有にかかるトランジスターラジオ一台、電気ドリル一個、電気溝切機用一式(時価合計二方八、〇〇〇円相当)を窃取した」旨が認定されていること、被告人は、昭和四七年二月二九日静岡地方裁判所沼津支部において、窃盗罪、詐欺罪により、懲役一年六月、三年間の保護観察付き刑の執行猶予、未決勾留日数八四日算入の判決を宣告され、同年三月一五日に判決が確定し、本件各犯行は、いずれもこの保護観察付き刑の執行猶予の期間中に犯されたものであるが、第一審の判決宣告期日以前に右の執行猶予の期間が経過していることが、明らかである。 第一審判決に対し被告人から控訴があり、宣告により内部的にも外部的にも成立した判決の内容を変更したのは判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反であると主張されたが、原判決は、右の変更は適法であるとしてこれを斥け、控訴を棄却した。
 (二) 判決は、公判廷において宣告によりこれを告知し(刑訴法三四二条)、宣告によりその内容に対応した一定の効果が生ずるものと定められている(刑訴法三四二条ないし三四六条等)。そうして、判決の宣告は、必ずしもあらかじめ判決書を作成したうえこれに基づいて行うべきものとは定められていない(最高裁昭和二五年(れ)第四五六号同年一一月一七日第二小法廷判決・刑集四巻一一号二三二八頁、刑訴規則二一九条参照)。これらを考えあわせると、判決は、宣告により、宣告された内容どおりのものとして効力を生じ、たとい宣告された内容が判決書の内容と異なるときでも、上訴において、判決書の内容及び宣告された内容の双方を含む意味での判決の全体が法令違反として破棄されることがあるにとどまると解するのが、相当である。
 また、決定については一定の限度で原裁判所の再度の考案による更正が認められているのに対し(刑訴法四二三条二項)、判決については、上告裁判所の判決に限り、一定の限度でその内容の訂正が認められているだけであつて(刑訴法四一五条)、第一審及び控訴審の裁判所の判決にりいては、判決の訂正の制度が設けられていない。このことは、第一審及び控訴審の裁判所の判決は、その宣告により、もはや当の裁判所によつても内容そのものの変更が許されないものとなることを意味する。
 ところで、判決の宣告は、裁判長(一人制の裁判所の場合には、これを構成する裁判官)が判決の主文及び理由を朗読し、又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げることによつて行うものであるが(刑訴規則三五条)、裁判長がいつたんこれらの行為をすれば直ちに宣告手続が終了し、以後は宣告をし直すことが一切許されなくなるものと解すべきではない。判決の宣告は、全体として一個の手続であつて、宣告のための公判期日が終了するまでは、完了するものではない。また、判決は、事件に対する裁判所の最終的な判断であつて、宣告のための公判期日が終了するまでは、終局的なものとはならない。そうしてみると、判決は、宣告のための公判期日が終了して初めて当の裁判所によつても変更することができない状態となるものであり、それまでの間は、判決書又はその原稿の朗読を誤つた場合にこれを訂正することはもとより(最高裁昭和四五年(あ)第二二七四号同四七年六月一五日第一小法廷判決・刑集二六巻五号三四一頁参照)、本件のようにいつたん宣告した判決の内容を変更してあらためてこれを宣告することも、違法ではないと解するのが相当である。このように解することの妨げとなる法令の定めのないことはいうまでもなく、また、このように解することにより被告人その他の当事者に不当な不利益を与えたり、手続の明確性・安定性を害するものでもない。
 (三) 本件についてみると、第一審裁判所の裁判官は、いつたん保護観察付き刑の執行猶予の判決を宣告した後、その内容を変更して実刑の判決を宣告したが、その変更は、判決宣告のための公判期日が終了する以前にこれを行つたことが明らかであるから、変更後の判決が第一審裁判所の終局的な判断であつて、その内容どおりの判決が効力を生じたものというべきであり、かつ、変更後の判決内容にそつた判決書が作成されているのであるから、第一審判決及びこれを是認した原判決にはなんら法令の違反はない。
 二 しかしながら、第一審裁判所の量刑は、本件の諸般の事情、ことに第一審の裁判官がいつたん宣告した主文を変更するに至つた経過を考慮するときは、甚しく不当なものというべきであつて、同判決及びこれを是認した原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 すなわち、(一) 被告人には、前記のとおり、保護観察付き刑の執行猶予の懲役刑の前刑があつたが、第一審の判決宣告期日以前に執行猶予期間が経過し、刑の言渡しが効力を失つていたため、本件において被告人に対し刑の執行猶予を言い渡すことには法律上の支障はなかつた(最高裁昭和四八年(あ)第一三四九号同年一〇月二三日第三小法廷決定・刑集二七巻九号一四三五頁参照)。(二) 前記の経過に照らすと、第一審裁判官が保護観察付き刑の執行猶予を実刑に変更したのは、前者が実質的にみて妥当でないとの判断に基づくものではなく、前刑の保護観察中に犯した犯行であるため法律上執行猶予とすることが許されないとの誤解に基づくものと解するほかはない。(三) 被告人には、前刑の保護観察期間中に同種の犯行を繰り返したことなど責められるべき点があるが、他面、第一審判決において最も重いとされている同判決の判示第三の罪を含む犯行の手口が特に悪質なものではないこと、被害品はすべて被害者に返還されていること、兄が被告人の監督を誓つていることなどの情状もあり、これらと犯行の動機、被告人の年齢・生活歴性格、共犯者の量刑など諸般の事情をあわせて考慮するときは、第一審裁判官が当初被告人に対して宣告した保護観察付き刑の執行猶予が必ずしも不当なものであるとはいいがたい。(四) 被告人は、原裁判所においては量刑不当の主張をしなかつたため量刑についての判断を受ける機会を失したが、上述した事件の経過からすると、右の主張をしなかつたことについて被告人を責めるのは妥当ではない。これらの諸点を総合して考察するときは、第一審裁判官が当初に宣告した刑をもつて被告人に臨むのが正義にかなうものというべきであり、第一審判決及び原判決はいずれも破棄を免れない。
 (結論)
 よつて、刑訴法四一一条二号により原判決及び第一審判決を破棄し、同法四一三条但書により直ちに判決をする。
 第一審判決の掲げる証拠によると、前記犯罪事実を認めることができるので、同判決の掲げる法令のほか、刑法二五条一項、二五条の二第一項前段を適用して、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官大堀誠一 公判出席
  昭和五一年一一月四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/F4C278EB735DD97C49256A850030AAE3.pdfより

*1:なお、4では主人公が変更される

*2:193条の13と書いていましたが、誤りです。亜留間次郎様訂正いただき、ありがとうございました。5/17

*3:と思われる。

*4:異議あり!」とまでは言っていないですが。

*5:もう少し正確にいうと保護観察の条件違反等の場合もありますが。刑法26条の2第2項等

*6:「(前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第1項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。」

*7:あまり参考にならないが専門書に見るスール制度研究 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常参照

*8:「刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。」

*9:大塚仁他「大コンメンタール刑法1巻」p515

*10:この態度は成歩道弁護士とも相通じるところがありますね。

*11:白取祐司「刑事訴訟法」p371

*12:なお、最近もhttp://d.hatena.ne.jp/Raz/20070308/1173318605といった事例が新聞沙汰になっている

SOS団よ戦前非合法日本共産党の失敗に学べ!

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

*本エントリには、「涼宮ハルヒの分裂」までのネタバレが含まれております
 SOS団とは、世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団の略称であり、宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことを目的に涼宮ハルヒが作った組織である。

繰り返すがSOS団は正式には未認可であって、今なお秘密結社も同然の学内非合法組織である。公に団員募集などできるわけはない。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p31

そして、「分裂」でも上記のように指摘されている通り、SOS団は、「非合法秘密結社」である。

 このような、「(少なくとも本人達にとって)崇高な目的」をもって作られた「非合法秘密結社」といえば、すぐに思い浮かぶのが戦前の非合法時代の日本共産党である*1。戦前非合法日本共産党とSOS団には共通点が多い

一.戦時非合法共産党との共通点
* 便宜のために末尾に戦前非合法共産党の歴史略年表を添付した
 1.少数精鋭主義
 ハルヒは、

だから新入団員にだって妥協は許すまじと思うワケよ。こういうのは年々進化してないとすぐに腐敗しちゃうんだから
(中略)
あたしが作った入団試験、そのことごとくに合格するような一年以外は願い下げよ。ハードル競争の道は長くて、障害物は高いのよ。
涼宮ハルヒの分裂」p263,269

 と、簡単に団員を増やしていくのではなく、少数の精鋭によってSOS団の運営をしていこうとしている。

 これは、途中までは戦前非合法共産党も同じであった。レーニンは、「十人のリコウ者からなる組織と百人のバカからなる組織のどちらがよいか」という命題に対し、

バカは「百人のバカの組織」のほうが優れているという意見に拍手喝采するだろうが、「十人のリコウ者の組織」のほうが絶対によいのであって、「反民主主義」といわれようと、「諸君がどれほどわたしにたいして大衆をけしかけようと、わたしはこの命題を擁護するだろう」
立花隆日本共産党の研究(1)」p35

と言い切り、少数精鋭主義を取った。この影響下、少なくとも最初の一定期間は、共産党は少数精鋭主義を取っていた。例えば、第一次共産党解党後、共産党が再び拡大していく動きを見ると、1925年春7名、同年暮30名、1926年2月40名、同年暮125人である*2

2.完全なトップダウン

いい、みくるちゃん、この団ではリーダーの命令は絶対なのよ! 抗命罪は重いのよ!
涼宮ハルヒの退屈」p13より

 とあるように、SOS団では団長の命令が絶対な、完全なトップダウンになっている。

 この点は共産党も同じであった。過去の共産党規約14条の5には

党の決定は無条件に実行しなくてはならない。個人は組織に、(中略)下級は上級に(中略)したがわなくてはならない。
立花隆日本共産党の研究(1)」p136

 とあった*3ように、トップダウンの命令系統となっていた*4

3.入党のための高いハードル
 「たとえば我々が大々的に団員募集を声高に宣伝したりすればたちどころに」中止を命じられてしまう非合法秘密結社SOS団*5は、

みくるちゃんの美味しいお茶が飲み放題よって誘ってニヤケ面でうなずくヤツは入団試験の第一段階で不合格にしたわ。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p94

と、厳しい選考基準を定めただけではない。
入団試験の開催のお知らせを掲示板に張ったが、SOS団とはどこにも書かれていない*6

入団、文芸部。この二つのキーワードで解る一年生じゃなければ最初から来なくていいわ。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p286

ハルヒがいうように、試験を受けるだけでも大変であり、相当ハードルが高いキョンも「そりゃかなりの高ハードルだな。*7」と述べている。

 途中までは、共産党も同様に、入党が非常に大変であった。そもそも、共産党に入党すれば死刑*8の可能性があるのである。だからこそ、スパイが入ってきてしまったら大変であり、かつ、簡単に組織について外部者には漏らせない。

労働組合運動に熱心な男をマークしておいて、この男ならと見きわめると、
『遊びに来ないかね』
と自宅に呼ぶ。組合運動についてあれこれ話し合ってから何気ない調子で訊いた。
『君は日本に、共産党があると思うかね』
『あると思います。いや、きっとあります』
という答えをきくと、畳みかけるように訊いた。
『では君は、共産党に入党する意志はあるんだね』
男ははっとして顔色を変えた。そんな男の様子をじろりと流し目で見て、南*9懐中からピストルを取り出すとどすんと机の上に置いた。
『俺は共産党員だよ。君も入党するね』
『入党します』

と男は声をひきつらせて答えた。
『そうか入党するか。やれやれそう聞いて俺もほっとしたよ、もし入らぬと言ったら、俺はこれで君を消すつもりだった。党の組織を話したのだからな。
立花隆日本共産党の研究(1)」p186

 とあるような、命がけの入党だったのである。

4.縁の下で組織を支えるシンパ層

正しく察してくれた三年生にしてまだ現役の部長氏は、快くコードのソケットを貸してくれた。ハルヒによるコンピ研SOS団第二支部化は着実に進行しているようで何よりだ。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p36

 SOS団には、意外と多くの団外支援者がいる。名誉顧問の鶴屋さんを始め、阪中さんのような団外関係者もいる*10。小泉の機関関係者も「太鼓持ち*11」としてハルヒの欲求を支えようとしている。ハルヒお姉ちゃんになついているキョン妹も含めていいだろう。これらのシンパ層の支援により、孤島や別荘に行く、朝比奈みちるを預かってもらう等々の援助を受けている。

 共産党シンパとしては学生と労働者が大きな役割を果たしていた。学生は東大の「新人会」を中心とした社会科学研究会の学生が、労働組合は、日本労働組合評議会(後の日本労働組合全国協議会)が主な外郭団体となった。そして、鶴屋さんのような資金援助等の様々な面でサポートする大スポンサーもいた。典型は、「経済学大綱」「第二貧乏物語」等で有名なマルクス主義経済学者で元京大教授の河上肇であろう。彼は党に2万5000円(1億円)近くのカンパをしており、後に入党し、党の機密書類を預かる*12等、党に対し、様々な面での援助をした*13

5.公金を私的に使う
 ハルヒは、文芸部に配分された「破格の*14」部費について

ついでに面白そうな物があったら部費で買っちゃいましょ」
その部費がSOS団のものではなく、文芸部の割り当て分であるのは言うまでもない。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p60

と、して公金を私的に使おうとしている。
 日本共産党も同じような人がゴロゴロいた。しかも、SOS団のようなかわいい額ではない
近藤栄蔵は、6500円(1976年当時の2600万円)をもらったが、料亭で芸者遊びをして警察に捕まり(下関遊興事件)*15、更に、徳田球一に渡った共産党設立資金5万円(2億円)は、安全のため同行の小林進に托していたところ、「恐怖の余り船中で海に投じた」ため(徳田の説明による)、なくなってしまう。更に、関東大震災後、第一次共産党が解党した後、北原竜雄*16が「党再建の費用」だといって、コミンテルンから1万円(4000万円)を受け取り行方をくらましてしまった*17。その他の中央委員も見つかりにくいから等といって待合(芸者遊びをするところ)で会合をすることが多かった*18

6.目的のためなら、犯罪なんか怖くない
 SOS団(とりわけハルヒ)の犯罪については、涼宮ハルヒの判決 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常の「量刑の理由」に詳しく書いたが、パソコン恐喝事件、みくる猥褻事件等々、目的のためには犯罪もいとわずに行っている。
 共産党も相当すごい。最も多く用いられたのは良家の子女をそそのかして現金等を家から持ち逃げさせるという方法であり、合計金額は9万円(3億6000万円)以上に登る*19。そして、非常時共産党時代には、違法な手段で金を集めることを専門の目的とした「戦闘的技術団」が作られており、美人局や、エロ写真の販売*20、そして銀行強盗までやっている。銀行強盗は第百銀行*21大森支店にピストルをつきつけ、カウンターの机の上の札束をボストン・バッグの中に詰め込んで逃走した*22のである。その金額実に3万1750円(1億2000万円余り)。その犯罪のすごさはハルヒのはるか上をいっている

7.本人は地下活動をしているつもりでも、当局側からは見え見え
 ハルヒがいくらレジスタンス的な地下工作*23をしていても、

「この会長はお前の仲間か」
(中略)
「我々の学内協力者です。ある程度の理由を話して、条件付きで協力してもらっているんですよ。」
谷川流涼宮ハルヒの憤慨」p57参照

 生徒会長(=取締側)は小泉の機関の協力者であるから、ハルヒ達のやっていることはお見通しである。
「編集長★一直線!」の「文芸部廃部の危機→SOS団で会誌を作る」エピソードなんかは、機関が「文芸部潰しを会長が図った――と見せかけて、またあいつ(注:ハルヒ)の暇つぶしのタネをまいた*24」わけで、まさに会長の掌の上でハルヒ達が踊らされていたといってもいいだろう。

 1922年の最初の結党時、共産党は「共産主義を唱えていて当局から『札付き』として見られていた人の集まり」であった*25。取り締まり側にとっても「日本に共産党ができておったらこれだけが首脳部だろうという人間はだいたい分かって居る。」という状態で、地下に潜ったつもりでも、全然潜れておらず、やっていることは公安に全てお見通しだった。
 その後は、後述の通り、特高のスパイに中央部を支配されてしまったため、まさに特高の掌の上で共産党が踊らされる状態になっていた。


二.戦前非合法共産党の失敗に学ぶ
1.戦前非合法共産党の失敗

 1931年から1932年までの非常時共産党の時代、スパイMこと松村が共産党中央部で権力を握った。たった4人しか中央委員がいない*26のに、その一人が特高特別高等警察)のスパイなわけであるから、その影響は大きい。更に、トップダウンの組織構成からは、スパイのいうことを平党員はハイハイと言って聞くわけであるから、その結果共産党の行動は、全て政府の掌の上で行われるといっても過言ではなくなった*27
 この時期の共産党が行ったのは党勢拡大運動である。「党に入りたいと希望する労働者は、その資格があるとかないとかいわずに、とにかくまず入党させろ」という方針をとった結果、水ぶくれになって革命遂行能力を失うと同時に、内部にスパイがいっぱい入ってくることになってしまった*28。その後は、共産党が崩壊するまで、中央にスパイが入り込み続けた。
 検挙が続き、秘密が当局に知られているのだから、「スパイがいる」ことは分かる。しかし、共産党員には誰がスパイだかがわからなかった。その結果、中央委員達がこいつはスパイだろうと思った中央委員に殴る蹴る、火鉢の火を押し付ける、硫酸の瓶を押し付ける等々の拷問を加えた挙句、殺してしまったのである(いわゆる「リンチ事件」)。その後、中央委員が検挙され続け、1935年に最後の一人が捕まると、戦後まで、共産党は再建しなかったのである。

2.SOS団への提言
 ハルヒは、

あたしのSOS団はね、もっと世の中に拡張されなければならないの。パソコンのデータを記憶する箱だってどんどん大容量になるでしょ? 目標は世界よ。グローバルに生きなきゃ、国際化の進んだこの地球ではやっていけないわ。
谷川流涼宮ハルヒの分裂」p98

 と、拡大路線を志向している。これが、SOS団本体まで拡大する意味であれば、即刻方針を転換すべきである。
 これが、シンパ層拡大のみを意味し、SOS団本体について少数精鋭主義を貫く限りにおいては、問題は少ないだろう。しかし、仮に少数精鋭主義を貫くとしても、中枢部の人数が少ないことは、そのうち1人でもスパイや破壊工作者がいると、その影響が大きいことは、共産党の歴史から明らかである。一度間違った団員を内部に取り込んでしまうと、後は転落の道を転がり落ちることは必至なのである。

 「涼宮ハルヒの驚愕」において新団員が誕生する可能性が高いが、共産党の苦い失敗に学び、慎重すぎる程慎重に新団員を選出することが、SOS団の発展には不可欠である。

まとめ
 ハルヒは、『分裂』p267で「きっとまた奴等は特撮ヒーローの悪役みたいに懲りるということを知らず汚い手を伸ばしてくるでしょうけど、先に最終回を迎えるのは彼等のほうよ。SOS団とあたしが道半ばにして倒れることはあり得ないわ。これまでも、そして、そう! これからも!」と述べている。
 この野望を果たすためSOS団は戦前非合法日本共産党の失敗に学ぶべきである。
 敵は外の僕女ではない。危ないのは「内」なのである。

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参考日本共産党戦前史略年表
1917 ロシア革命(2月革命、10月革命)
1919 コミンテルン第一回大会
1921 近藤栄蔵下関遊興事件
1922 日本共産党(第一次)結成
1923 第一次共産党事件(6.15一斉検挙)
1924 第一共産党解党*30
1926 再建党大会(第二次日本共産党
1927 27年テーゼ(コミンテルンが、各国共産党にまずはソビエトを擁護し、中国革命を支援しろ!という)
1928 第一回普通選挙(2.20) 三.一五事件(一斉検挙)
1929 四.一六事件(残りの党員一斉検挙→5月に第二次共産党崩壊) 党再建(7.15、武装共産党*31へ)
1930 武装メーデー事件*32(5.1) 7月までに大検挙→武装共産党崩壊
1931 中央部再建(1.12、非常時共産党、この時からスパイMこと松村が中央委員になる)→党拡大路線へ
1932 大森銀行ギャング事件(10.6)、熱海事件(10.30、非常時共産党崩壊)
1933 共産党再建(1月)、いわゆる「リンチ事件」(12.23)
1934 一斉検挙
1935 最後の中央委員袴田里見検挙(3.4)以降戦後まで共産党は復活せず

*1:以下の記述は基本的に立花隆日本共産党の研究一〜三」による。

*2:立花隆日本共産党の研究(1)」p102参照

*3:なお、現在の共産党規約ですら「第十六条 党組織には、上級の党機関の決定を実行する責任がある。その決定が実情にあわないと認めた場合には、上級の機関にたいして、決定の変更をもとめることができる。上級の機関がさらにその決定の実行をもとめたときには、意見を保留して、その実行にあたる。http://www.jcp.or.jp/jcp/Kiyaku/index.htmlとなっていることに注目

*4:なお、上級機関に「これはパンだから食べろ」といって石を渡されたとき、下級機関は「これは石ではないですか?」とお伺いを立てることができる。それでも、上級機関が「パンだから食べろ」といえば、下級機関は石を食べないといけない(「共産党の研究(1)」p158より)。この点は上記「退屈」p13「意見があるなら会議で聞くわ」と、形式上団長が団員の意見を聞く余地を認めながら、キョンが「会議? いつも一方的にハルヒがわけの解らんことを俺たちに押し付けるために開かれるミーティングみたいなやつのことか?」とコメントするように、実質的に意見を聞かずに団長の指示を押し付けているという点における類似性が興味深い

*5:『分裂』p283より、以下ページ数だけのものは全て「分裂」の頁数を示す。

*6:p285

*7:p97

*8:正治安維持法は1条で「国体ヲ変革スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者又ハ結社ノ役員其ノ他指導者タル任務ニ従事シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ7年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ処」すとする。

*9:南喜一、共産党員。

*10:p99参照

*11:p51

*12:朝比奈みちるを預かったちゅるやさんを思い出させるエピソードですね

*13:立花隆日本共産党の研究(2)」p131参照

*14:p21

*15:なお、近藤は在米日本人の間で社会主義運動をしていた人で、コミンテルンの幹部になっていた。なお、下関遊興事件の後、暁民共産党という組織を作って反戦ビラをまき、一斉検挙されている。

*16:後に対中共工作目的の陸軍系特務機関、北原機関を主催するあの北原。

*17:立花隆日本共産党の研究(1)」p44,52,90等参照

*18:もちろん、党のお金で

*19:立花隆日本共産党の研究(2)」p140等参照

*20:ハルヒも似たようなことをやってキョンに止められていますね。

*21:吸収合併を繰り返し、今は三菱東京UFJ銀行に

*22:立花隆日本共産党の研究(2)」p167等

*23:p99

*24:涼宮ハルヒの憤慨」p61

*25:立花隆日本共産党の研究(1)」p81等参照

*26:1931年、非常時共産党ができた際の人数。その後増えている

*27:立花隆日本共産党の研究(2)」p106

*28:立花隆日本共産党の研究(2)」p42

*29:バトルオブブリテンから戦後の左翼闘争まで、萌えキャラで解説されるlieutenantA様の技法には感服いたします。戦前非合法日共もネタ的に面白いので、萌えキャラ解説を勝手に期待させていただいております(河上肇鶴屋さんでぜひお願いいたします)。

*30:関東大震災憲兵隊が共産主義者を虐殺した事件等でビビった被告人団が解党を決議

*31:武装して自衛しながら大衆の前で公然活動をするという方針をとったことから

*32:労働者を煽動して武装蜂起→即逮捕