アホヲタ元法学部生の日常

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ムダヅモ無き改革〜小泉元総理の行為は合憲・合法!

ムダヅモ無き改革 (2) (近代麻雀コミックス)

ムダヅモ無き改革 (2) (近代麻雀コミックス)

*本エントリには、ムダヅモ無き改革1巻2巻のネタばれが含まれております。あらかじめ御了承下さい。

1.ムダヅモ無き改革とは
外交。それは各国の首脳同士の真剣勝負の闘いである。
この闘いが、麻雀で行われていることを知る国民は少ない*1
豪運と言える程の運と、技術大国日本の誇りと言えるテクニックを持つ男、第59代総理大臣小泉ジュンイチロー
チルドレンを救い、日本を救い、そして世界を救うため、命を賭して麻雀をするこの男の生き様を描いた漫画。
それが、「ムダヅモ無き改革」である。


2.高レート麻雀と賭博罪
まず、ムダヅモ無き改革には、とんでもない高レート麻雀が描かれている。
・千点1万円(タイゾーvs.ブッシュ。1話)
・千点F15一機(小泉vs.ブッシュ。1話)
・点テポドン(小泉vs.金将軍。4話)
等々、通常の雀荘では考えられないレートである。

刑法の賭博罪は、以下のように規定する。

(賭博)
第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

原則として賭博をすることは有罪であるが、例外的に「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる」場合には、無罪となる。

ところが、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる」場合というのは、「即時娯楽のために費消するような寡少のものをいう」と定義されている*2
つまり、ちょっとした菓子とかタバコとか、(豪華でない)食事のようなものを賭けても、それは庶民の楽しみであり、違法性は高くないことから罰しないとされているのである。

もっとも、ムダヅモの世界で繰り広げられるレートは到底そんなレベルではない。
千点1万円であれば、たった5回の半荘で1000万円負ける可能性もある*3
点F15に至っては、半荘1回で一機約100億円といわれるF15が118機*4もやりとりされ得る
到底、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる」場合ではない。

小泉ジュンイチロー、有罪か


しかし、小泉(元)総理は、チルドレンを守り、国を守り、地球を守るために、命を賭けている。このような小泉ジュンイチローの行為を、違法な賭博だということには問題はないか?

ここで、刑法35条という規定がある。

第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

たとえば、ボクシングは、一見「暴行罪」「傷害罪」の要件を満たすようにも見える。しかし、ボクシングという正当なルールにのっとって行われる行為であり、刑法35条に基づき適法とされるのである。
この正当性は、社会通念(いわゆる「常識」)に従って判断されるといわれる。


麻雀も、これが「単なる金のやりとり」であれば、正当業務行為になる余地はないだろう。

しかし、銃で狙撃され、致命傷を受けながら、
「この老いぼれの命一つで世界平和が買えるのなら」「安いもの!!」
と、金将軍と闘いを挑み、国士無双十三面(ライジングサン)で飛ばされた、金将軍がテポドンを打ち込むや、戦闘機に飛び乗りテポドンを体当たりで爆発させ、日本を救う。
このような小泉ジュンイチローの麻雀行為は、賭博の形式をとっているものの、正当な外交行為と言えよう。
レートが高いのも、そのような麻雀が「国を挙げての総力戦だから」と解することにより、正当化することが可能である*5


そこで、小泉ジュンイチローは無罪である!


なお、杉村タイゾーは、特にそのような外交目的ではなく、「よーし、せっかくだから少し稼がせてもらお(はーと)*6」という、金を奪うだけの目的と言える。よって、正当化は不可能であり、賭博罪に該当する*7



3.麻雀で外交を行うことは憲法違反ではないか?
このように、刑法的には小泉ジュンイチローの行為は正当化できるが、麻雀で外交をするのは、憲法違反ではないか?

問題となるのは、「国会に無断で莫大な額の国の金を賭けて麻雀をする」ことと、憲法83条の関係である。

憲法83条は、
財政民主主義を定める。

第83条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

国民の血税をどう使うかは、国民の代表である国会の議決に基づいて決めるべきというものである。
ところが、小泉ジュンイチローらは、国会の議決を得て麻雀をやっている訳ではない。

国会議事堂 地下闘牌場
この存在を知る者は国会議員の中でもごく一部である。
大和田秀樹「ムダヅモ無き改革1巻」161頁

国会議事堂の地下で外国首脳との闘牌が行われているところ、国会議員の大多数は、その会場の存在すら知らないというのだから、国会の議決を得て麻雀をやっている訳ではないことはほぼ確実であろう。


予備費憲法87条1項)であれば、「いくらを予備費とする」というだけの事前の国会の承認が得られれば、具体的な使徒を事前に国会で決めることは不要であるが、必ず使用後に国会の事後承認が必要である(憲法87条2項)。そこで、予備費の可能性は低い。


また、官房報償費(官房機密費)又は外交報償費(外交機密費)として具体的使徒は明らかではないものの、議決を経ているという可能性がある*8。しかし、官房機密費はせいぜい10億程度、外交機密費も50億程度であるところ、(900溝点の青天井ルールとなったプーチンとの麻雀を例外としても)日米首脳会談の3日で20億円が動き*9、点F1え5の麻雀では兆の単位が動いている。
兆単位の機密費の議決はあり得ないのであり、機密費という線も薄い。


小泉ジュンイチローの行為は、国会の議決なくして財政支出を行う違法な行為ではないか*10



このような財政民主主義の観点からの違憲性の疑いに加え、小泉ジュンイチローは、他の4人の首脳と共に第4帝国の精鋭と麻雀をしているが、これは、「(日本人を含む)地球人の命を賭けて麻雀をする」行為であり、負ける可能性がある以上、生命をはじめとする国民の自由と人権を最も大事なものとした憲法13条に違反するのではないか?

小泉元総理の行為は、このような意味で、違憲の可能性がある行為である。
しかし、前述のように正義のために命を賭す、小泉ジュンイチローの行為を、違憲と断じてよいのだろうか?


ここで考えられるのは、国家緊急権の議論である。
ムダヅモの世界では、他国から、国の全財産を賭けるような麻雀を日常的に挑まれている。
これに応じなかったり、麻雀に負けたのに約束通りの金を出さないと、

寝言言ってんじゃねーぞダボハゼがァッ!!!
このままキンタマねじり切ってやろーか? あ!!!?
(注:カザフスタンのナザルバエフ大統領が、負けたらガスを送るという約束を反故にしようとした時の、ウクライナ共和国首相ユリア=ティモシェンコの発言)

大和田秀樹「ムダヅモ無き改革2巻」112頁

実力行使が実施され、政治家の生命身体に危険が危機に陥る。
政治家だけではない。
たとえば、地球代表5名と、第4帝国代表5名の麻雀を拒めば、遊星爆弾により、地球が滅亡する。国民の生命・身体が危ない。
だからこそ、穏便(?)に、麻雀によって外交をするのは不可欠なのである。



ここで、戦争、内乱、その他の原因により、平常時の統治機構と作用をもっては対応しえない緊急事態において、国家の存立と憲法秩序の回復を図るための非常措置が、国家緊急権である*11
簡単にいえば、憲法で決められたことを守るべきなのは、「平常時」であって、「異常時」には、憲法の規定を必ずしも守らなくてもよいという考えである。


憲法の戒厳大権、非常大権(明治憲法14条、31条)のように、憲法上の明文があれば、その範囲で行動する限り合憲であろう。
しかし、新憲法にはこのような国家緊急権の規定がない。
これを、「憲法は国家緊急権を否定したんだ」と考える学者もいる。
しかし、憲法は個人の自由と人権をその最も重要な価値としているところ、
「遊星爆弾で地球が滅亡するのを座視するか、麻雀をするか?」
という選択を迫られた時に、そこで、「麻雀をすると憲法違反になるので、滅亡はやむを得ないですね。」という回答をせざるを得ないとすれば、それはまさに、個人の自由と人権を侵害する行為になる。
つまり、憲法のせいで小泉ジュンイチローが麻雀ができないとすれば、それこそが、憲法の理念である個人の自由と人権の尊重に反する事態になる」のである。


このような、放置すれば憲法の生命そのものが失われる緊急事態に陥った場合に、救済のために非常措置を講ずる国家緊急権を、不文の法理として認めるべきという有力な学説もあり、このように考えるのが正当だろう*12

まとめ
小泉ジュンイチローが行う麻雀は、正当行為であり、刑法に違反しない。
また、小泉ジュンイチローが国会の議決なく大金や国民の命を賭けて行う麻雀は、国家緊急権の行使として合憲である。
なお、杉村タイゾーの行為は違法な賭博であることは当然である。

*1:一応議員のはずの、杉村タイゾー(元)衆議院議員すら知らない

*2:コンメンタール刑法9巻p125

*3:現に、1巻14頁では、タイゾーが「−120」「−88」「−52」「−120」「−92」の成績となり、1000万円以上負けている

*4:高風様のhttp://zetsumu.xrea.jp/text/cc02_mudadumo_2.htmlにおける考察を参考にさせていただきました。

*5:点ピン程度で麻雀を打っても、青天井ルールとでもしない限り、国の財政に特に影響を及ぼすレベルではないのであり、その程度であれば、そもそも「外交」としての意味を持たない

*6:1巻11頁

*7:なお、賭博は国外犯処罰規定がないため、外国でやる限り、無罪という余地もあるが、杉村タイゾーが麻雀をしたのは、「沖縄 万国津梁館」であり、この意味でも有罪である。

*8:機密費の合憲性も疑問がないわけではないが、ここではふれない

*9:1巻19頁

*10:なお、「勝てばよい」という考えがある。勝てば特別利益が転がり込むだけであり、なんら損失はないので、「血税の使い道は国会が決める」の問題はないという考え方である。しかし、賭けというのは勝つこともあれば負けることもあるから、賭けなのである。現に、安部総理がプーチンに負け、詰め腹を切らされている。負けた額は不明であるが、「安部総理の作った莫大な借金」という言及もある。1巻165頁。やはり、このようなロジックは成り立たないだろう。

*11:佐藤幸治憲法」46頁

*12:佐藤幸治憲法」46頁