アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第1回 自分が「即戦力」ではないことを理解する

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2017年 02 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2017年 02 月号 [雑誌]





0. 企画趣旨

 あけましておめでとうございます。





 当アカウント(当ブログ及び運営者によるtwitter @ahowota )は、10年前にアカウントを開設した当初は完全な「オタクアカウント」としてアニメの話ばかりつぶやいておりましたが、最近では「企業法務アカウント」の度合いが強まり、昨年は、4回に渡りビジネスロージャーナル様に法務パーソンのためのブックレビュー記事を連載させて頂くことができました*1





 2017年は、(アニメネタも続けながらも)きちんとこのブログを企業法務ブログにしていこうということで、色々考えた結果、ツイッターの企業法務系ツイートのうち、一番評判がよい #新人法務パーソンへ を素材に、新人法務パーソン向けに、企業法務の実務の回し方のコツをストーリーで学んでいただこう、というのが企画趣旨となります。





 一応修習終わってそのままインハウスとして入った「僕」が美人だが性格がキツい先輩の洗礼を受けるという基本線ですすめていこうか、とは思っておりますが、資格の有無を問わずに一年目くらいの法務パーソンの皆様にとって役に立つ内容にしていこう、と思っております。





 完全な「不定期連載」となりますが、諸先輩方の忌憚なきご意見を頂戴できれば幸いです。





 なお、応用編としての外資系法務のサバイバル術的なものものも





外資系企業における電話会議サバイバル術〜法務部を念頭に - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常







 等がある程度評判でしたので、続けていこうと思っておりますが、これをどのような形式でやるかはまだ全く未定です。





なお、とりあえず、登場人物をご紹介。


登場人物

僕(山田太郎)  1年目のインハウス。修習が終わってそのまま入社したばかり。

井上摩耶先輩   5年目の先輩インハウス。美人だが性格がキツい。

大越課長     我ら法務課の課長。



2.ストーリー:「自分が『即戦力』ではないことを理解する」







「ぶっちゃけ、つまんないですよ。雛形読んでるだけなんて。」





入社してちょうど丸1週間が経過した金曜日、井上先輩が僕を食事に誘ってくれた。食事が概ね終わった後、先輩の発した





「この会社に入ってちょうど一週間だけど、仕事はどう?」





という、多分儀礼的な質問に、僕はついつい「マジレス」をしてしまった。





「あらあら、やっぱりそう思ってた?」





井上先輩はいたずらっぽい微笑みを浮かべる。





「『やっぱり』って、そりゃあ修習で実務にちょっと触れて、面白そうだなと思って胸をときめかせて仕事始めたら、『とりあえず雛形読んでみて』、ですから、そりゃあ、ずっこけますよ。早く本物の仕事がしたいです。」





僕は、ロースクール卒業後司法修習を終えてそのまま内定していた会社に就職した。わずか3人の法務課に配属され、特に法務に特化した研修制度もないから、ということで、大量の雛形の山を渡され、「これ、うちの会社の雛形だから、とりあえず読んでおいて」と言われたのだ。それ以来、1週間無味乾燥な雛形を読み込むだけの単純作業だけが続き、いい加減仕事をしたい、と思っていたところだった。





で、まさか、キミは自分が現状で『本物の仕事』とやらができるとでも思ってるの?




井上先輩の目が急に真剣なものになる。





「えっと、そりゃあ、司法修習もやってますし。。。」





思わぬ展開に、しどろもどろにならざるを得ない。





債務整理、交通事故、相続、離婚、訴訟…。これはみんな弁護士の仕事として重要だ。でも、これをやっただけで企業法務は到底できない。弁護士バッジを持っているというだけで仕事ができる気になって、『何でもお任せ下さい!』なんて啖呵を切っても、惨めな結果になるだけだ。





ここまで言うと、一瞬何かを思い出したように、井上先輩の顔が陰った。しかし、それも一瞬だけで、彼女は決然として、言葉を紡ぎ続ける。





「だから、バッジのことは忘れて、1つ1つ謙虚に勉強するしかない。雛形はその勉強の教材として渡したものだ。」





そう言われてしまうとグウの音も出ない。声も出せず、ただ俯いていると、先輩が耳元でささやきかける。





「まあ、これからの頑張り次第だな。来週から少しずつ仕事回すから、頑張ってみなさい。」





そう言うと、井上先輩は僕の返事を聞く前に伝票をサッと取って、レジに向かって歩いて行ったのだった。





4.解説のようなもの





 もちろん、例外はありますが、基本的には、学部卒→ロースクール→司法修習でそのまま企業法務に入った場合、入社時点で「実務では使えない」という場合が非常に多いと思われます。その理由は、以下の2つでしょう。





 まず一番大きいのは、「実務が分からない」ということです。ロースクールや修習で学んできた「法律実務」「裁判実務」というのは必ずしも企業法務実務と無関係な訳ではない(例えば銀行の法務部では親族相続法の勉強はマストでしょう)のですが、やはり、「この会社はどういう仕組みでビジネスが動いているのか」という実務の流れというものや「その全体像の中で法務はどのような役割を果たすべきか」といった法務の立ち位置が分からないと、相談を受けたり、契約書チェック・ドラフト等を依頼されても、どうすればいいのかが分からないのである。





 次に、関連するものの少し違う話としては、「法律が分からない」が挙げられるでしょう。もちろん、業務の中では簡単な民法の相談を受けることもありますが、国際取引の問題だったり、業法の問題だったりと、知らない法令、知らない通達・ガイドライン、知らない判例等を問われることも多い訳です。実際には、これらの法令、通達・ガイドライン判例等を踏まえて実務が既に形成されているので、ぶっちゃけ前提となる法律が分からなくてもある程度実務を回して行くことはできる訳ですが、きちんと実務運用についてその理由まで理解しようと考えた場合、前提となる法律が分からないと「なぜここでこんなことをするのか」がよく理解できない訳です。





 そういう状況下において、「即戦力」になり得るのは、多分数年間以上企業法務事務所で実務を行ってきた人くらいで、そういう人でもある程度慣れるまでは勉強の連続だと聞きます。





 逆に言えば、最初からその限界を自覚して、「自分は実務のことは分からないので教えて下さい」という姿勢で臨むことが、いち早く実務(と実務で出て来る法律)を覚えて期待に応えることができるようになるための近道でしょう。




まとめ

 作者である私自身「僕」とあまり変わらない位の能力なので、偉そうなことは言えないものの、企業法務一年目に「こういうことを知っていればもっとよかったのに」と思うような情報を提供していければと思っております。

 もっとも、私自身の経験・能力の限界から、十分なものになっていない可能性も高いことから、是非皆様のきたんなきご意見等を頂戴できれば幸いです。(ツイッターのリプが一番ありがたいです。)


ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第1回 自分が「即戦力」ではないことを理解する - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第2回依頼・相談を受ける際の対応 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第3回法務の役割? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第4回今すべき仕事は何か? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第5回ボールを持たない - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:それまでに関与した商業作品が『アニメキャラが行列を作る法律相談所』や『100人がしゃべり倒す! 「魔法少女まどか☆マギカ」』でしたので、かなり方向性が変わっているのが見て取れます。

辛口法律書レビュー連載第2回が掲載されたビジネスロージャーナル9月号が刊行されました

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2016年 09 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2016年 09 月号 [雑誌]

 辛口法律書レビュー連載第二回が掲載されている、ビジネスロージャーナル9月号が刊行されました!
 連載第1回は、
遂に始まった“刺客”の連載。 - 企業法務戦士の雑感
 等、様々な方に取り上げて頂き、大変感謝しております。
 9月号は、より多くの判断材料を提供するという観点から、これまでのような10冊の紹介ではなく、メインの10冊に加え、「人によっては参考になるかも」というプラス10を提供しています。
 
 皆様からは異論・反論等もございますでしょうが、大歓迎ですのでメールアドレス(ronnor1あっとgmail.com)かツイッター(@ahowota)までよろしくお願いします。

まとめ
連載第2回が終わり、現在の予定の半分まで来ました。残り2回も、定番だけではなく、「こんなのがあったのか!」という驚きを与えられる本を広くご紹介して行きたいので、どうぞよろしくお願いいたします!

外資系法務の憂鬱〜国内系企業の法務との相違点と乗り切り方のコツ


国際法務の技法

国際法務の技法


1.はじめに
外資系法務は憂鬱である。


国内系企業と共通する部分もあるが、それにプラスして、様々な追加的な事項・要素が存在する。



外資系法務については、


外資系企業における電話会議サバイバル術〜法務部を念頭に - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


で、電話会議のサバイバル術に限定して、私の経験を少しだけ公開したところ、思わぬ好評を頂いた。


また、最近は法務系LTに130人もの参加者が申込み、参加枠に入れなかった人が補欠待ちをする大人気ぶりと聞く。


法務系ライトニングトーク(第4回)@阿佐ヶ谷ロフトA : ATND


これは、法務において、社内では相談しにくいテーマについて、外部の人と情報交換したいというニーズがあることの現れであろう。


このような点を踏まえ、以下、外資系法務一般について、国内系企業の法務との相違点と乗り切り方のコツという観点から、簡単に経験をお話ししたい。




前回とほぼ同様の想定事例を挙げよう。

 あなた(山田太郎)は、日本企業の法務部(@東京)で3年間働いた法務パーソンである。
 少し前に転職し、同業の外資系企業の法務部(@東京)で働き始めた。
 あなたが働いているのはハゲタカジャパン株式会社(「ハゲタカ・ジャパン」)であり、ハゲタカ・ジャパン法務部は、一定以上の重要事項について、米国の親会社であるHagetaka Ltd. (「ハゲタカ・グローバル」)の法務部の決裁を得なければならない。
 法務部の伊藤部長は、帰国子女でJackというアメリカンネームを持っている。法務部には元々大手事務所所属で、米国留学を終えて戻ってきた後、ハゲタカ・ジャパンに転職したインハウスの佐藤洋子先輩がいる。佐藤先輩は元々は契約法務を中心に全てを担当していたが、最近、訴訟が起こって、佐藤先輩一人では到底対応できないため、訴訟担当としてあなたが三人目の法務部員として入ってきた。


以上は、 #外資系法務の憂鬱 タグで@ahowotaアカウントからつぶやいたツイッターの投稿をベースに、dtk1970様をはじめとするフォロワーさんからの助言を踏まえてまとめなおしたものになります。色々とご助言ありがとうございます。(ただし内容の誤りについてはすべて私、ronnorの責任です。)


2.レポートラインとジョブディスクリプションの重要性
 まず、入社にあたって気をつけるべきは、レポートラインとジョブディスクリプションである。
 レポートラインというのは、「誰に報告・連絡・相談しながら仕事を進めて行くのか」ということだが、外資系の場合そのレポートラインに対して責任を持って仕事をするという要素が非常に強い。この場合、あなたは伊藤部長に対してレポートをしなければならない、つまり伊藤部長があなたの「上司」ということになるだろう。この程度であれば、そんなに難しくないが、例えば伊藤部長は、ハゲタカ・ジャパン社長にレポートするだけではなくハゲタカ・グローバルのジェネラル・カウンセル(GC)にもレポートしなければならないかもしれない。
 

 ジョブディスクリプションというのは、あなたが責任を持つべき業務は何か、ということである。契約書上に通常これが明記されているが、あなたをハゲタカ・ジャパンで受け入れた経緯に鑑みると、基本的には、トランザクションは佐藤先輩、訴訟等の紛争対応は、あなたということだろう。外資系でも日本のオフィスだと、これが多少緩く、佐藤先輩はあなたを優しく助けてくれるかもしれないが、特に外国では厳格に「自分はジョブディスクリプションにある仕事しかしません」という人が多い印象である*1


3.上司の立場を考える
 このような外資系法務では、常に上司に気に入られるよう、仕事を進めていかなければならない。ここで、上司に気に入られるというのは、別に上司と同じ趣味を持つとかそういうことではない。


 要するに、上司の立場を考えて仕事をするということである。


 伊藤部長は、ハゲタカ・グローバルのGCという、日本法や日本の訴訟について何も分かっていない人にレポートしなければならない。レポートをする際には、「自分は何も分かっていない」というのではダメであって、「自分はハゲタカ・ジャパンの法務においてそつなく重要な問題とそのポイントをつかんでおり、その処理も適正である」ということを常に証明し続けなければならない*2。そのためには、各案件の処理状況に関する十分な情報を知っておく必要があり、また、当該処理が適正であることについて実体及び手続の双方につき説明できなければならない。


 この観点からは、伊藤部長への報告の頻度や内容は、どうすれば、伊藤部長がハゲタカ・グローバルのGCへの報告等をしやすくなるのかという観点から配慮することが望ましい。各案件の重要性や、案件の数にもよるが、いつも詳細な報告をするのではなく、例えば、「エグゼクティブサマリー」といって1枚ものくらいの英文で要点をまとめた資料を作り、伊藤部長がそのままこれをハゲタカ・グローバルのGCに送って説明できるような形にしてあげると喜ばれるかもしれない。こういうことを「想像」した上で、上司には「こんな形で報告するということではいかがですか?」と聞いてみよう。


 部下は上司のことを気にかけているが、それと同様に上司もその上のことを気にかけているのであり、そのような上司の「気持ち」ないしは「立場」を汲み取って対応をすることが、外資系法務において重要と言えるだろう*3



4.内容・形式・期限の確認
 外資系であれば、基本的にはレポートライン基づいて指示が降りて来る。要するに、伊藤部長が指示をして、あなたがその指示に従うということである。
 これは、国内系でもあまり変わらないかもしれないが、指示があれば、その場でその指示の内容・形式・期限を確認すべきである。


 ハゲタカ・ジャパンのような法務部の三人全員が日本人という環境であれば、日本語で指示がされることが想定されるが、例えば社内ルールで「メールは全て英語で行う」というルールがあれば、英文メールで伊藤部長から指示がされるかもしれない。
 こういう場合に、あなたの英語力によっては、その指示が十分に理解できないこともあるかもしれないが、その場で即確認をすることで、後で「そういえば、あの指示っていつまでに何をどうすればいいんだっけ。。。」という状況を作らないようにしなければならない*4


5.根回し
 3年目で転職したという状況であれば、まだあまり社内政治に本格介入する必要はないかもしれないが、それでも初歩的な「根回し」はできるようになっておく必要がある。このような根回しの重要性は、国内系でも外資系でも変わらない。


 例えば、日本人(例えばハゲタカ・ジャパン)と外国人(例えばハゲタカ・グローバル)の双方が参加する会議(電話会議を含む)で、事前にハゲタカ・ジャパン内で意思を統一せず、「出たとこ勝負」で対応すると、あなたの発言について会議の中でハゲタカ・ジャパンの他の部門から異論が出る等「後ろから鉄砲を撃たれる」状況になることもある。


 特に、「日本法上の特殊な問題があるからハゲタカ・グローバル(及びハゲタカ・ジャパンの営業)がやりたい形でビジネスを進めることができず、方針を修正せざるを得ない」ということをハゲタカ・グローバルに説明し、説得するというシチュエーションでは、ハゲタカ・ジャパンの営業は、実は内心ではハゲタカ・グローバルのやり方でビジネスを進めたいのかもしれない。事前に詰めておかないと、会議で、ハゲタカ・グローバルがハゲタカ・ジャパン法務部の説明に異論を示した段階で、ハゲタカ・ジャパン営業がハゲタカ・グローバルに同調し、ハゲタカ・ジャパン法務部が孤立するといった状況もあり得る


 そこで、まずは事前にハゲタカ・ジャパン営業部と話をつけ、「ハゲタカ・ジャパン」が一丸となってハゲタカ・グローバルに対応するという形を取れるようにしなければ、うまく説得できないことも多いだろう。



6.法律事務所の活用
 ハゲタカ・ジャパンは多くの場合国内系の法律事務所と、外資系の法律事務所の双方を活用することになるだろう。
 外資系といっても様々であるが、ハゲタカ・グローバルと強い信頼関係*5を持ってやっていることから、「日本であれば通常こういう処理になるが、それをハゲタカ・グローバルに説得するのは容易ではない」といった状況で、当該事務所の東京オフィスに意見書等を依頼することで、「ほら、●●事務所もこのようにおっしゃってますよ」等として、説得をしやすくなるという効果があるだろう。また、日本法だけではなく、外国法の問題も生じている場合、一般論としては外資系事務所が相対的に強いと言えるだろう。



 これに対し、一般論としては、純粋な日本法の問題、特に訴訟等は国内系の法律事務所に強みがあるように思われる。
外資系企業における電話会議サバイバル術〜法務部を念頭に - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
 において、スキヤキ法律事務所という国内系法律事務所が登場していたのは、そのような理由からであろう。
 なお、ハゲタカ・グローバルが、国内系法律事務所をなぜ使うのか等と利用に難色を示す場合には、外資系法律事務所からも一人入ってもらって監督・助言をしてもらう等色々な対処方法があり得るだろう*6



7.英語
 ハゲタカ・ジャパンの環境であれば、日常的に英語でのリーディングとライティングが発生する(報告書等)だろうが、スピーキングやリスニングが発生するのは、主に会議(電話会議)の場合と、ハゲタカ・グローバルの重役による東京オフィス訪問*7といった場合と思われる。
 このような、スピーキング・リスニングの機会があまり多くないものの重要な機会である場合には、「今ある現状の英語力でなんとか通じさせる」ことが重要である。
 その際には、


・ゆっくりと話す
・はっきりと話す
・大声で話す
・身振り、手振りを交えて話す
・結論を先に説明し、それから理由を説明する


といった方法が推奨される。


 なお、英語力の度合いにもよるが、英語で一番苦しむのが「謝罪文」である。そもそも、外資系では言質を取られる文書を出したくないという意向が強いので、そういう方向の文書を出すことそのものについて否定的なことを言われる場合も多い。日本では、この種のトラブルを穏便におさめるためには、事情を説明し、相互に協力を求める必要があるところ、そういう趣旨のものであり、法的責任を認めるものではない等々散々言ってなんとか出すことを説得すると、後は「何を書くか」である。
 これは、本当に英語力と日本語力の双方が問われる「総合芸術」だと思っている。何しろ、社内向けには英文で「我々は責任を認めていません!謝っていません!」と説明すべきであるが、逆に相手との関係ではできるだけ謝罪的なニュアンスの強い和文を作らなければならない。その英文と和文の間において「誤訳」と言われない程度の関係を保ち続けるのはまさに芸術の域であり、ノンバイリンガルにとって、これほど難しい業務はないと思っている。

まとめ
外資系法務の憂鬱ということで、国内系を少しやって外資系に転職する方を想定して、色々と外資系法務を回して行く上で重要そうなことをまとめてみた。
考えてみると、これらは「コミュニケーション能力」と総称することができるだろう。
国内系で求められる日本法の理解や日本における契約実務の理解に更に上乗せしてこのようなコミュニケーション能力を求められ、しかも強いプレッシャーの下にある外資系法務はまさに「憂鬱」であるというのが個人的実感であるが、インターネット上では同業者の方や隣接業種の方にいろいろとアドバイスを頂いている。今後とも引き続きご指導の程をよろしくお願いしたい次第である。

*1:日本ではそこまで大きな問題にならないことが多いものの、例えば、ジョブディスクリプションと異なる仕事を行って、それがトラブルになった場合、上に説明できないという状況が生じることもある

*2:さもなくば。。。

*3:そういう意味では外資系でも「空気を読んで仕事をする」ことが求められるのである。

*4:なお、御前会議で英語で指示された場合等でも、「自信を持って」確認をするのがよい。自信ない感じで話すと、「できない」という印象を与えるので注意が必要である。

*5:グローバルに一定量の仕事の発注を約束した上でボリューム・ディスカウントをもらっていることもある

*6:これは予算等とも関係するだろう。

*7:これが、最初はアメリカ本社、次はアジアパシフィック、GCが来たと思ったら次はLitigationのトップが来て等々なかなか接待側が大変なことがある。

ビジネス・ロー・ジャーナル様に連載を持たせて頂くことになりました!


Business Law Journal(ビジネスロー・ジャーナル) 2016年 06 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネスロー・ジャーナル) 2016年 06 月号 [雑誌]


本ブログは、客観的に見ると、多分

アニメ・漫画・ゲーム7割
企業法務1割
その他2割


なブログです。


しかし、そのうちの「企業法務」の部分をご評価頂き、2014年12月及び2015年12月に連続してBLJのブックレビュー企画に原稿をご掲載頂きました。



そして、その双方の企画がご好評ということで、



なんと、ビジネス・ロー・ジャーナル6月号(4月21日発売)から、3ヶ月に1度、ブックレビューをご掲載頂くことになりました!!


有名法律実務雑誌に連載をさせて頂けること、心より感謝しております。


なお、今回も、「企業法務系ブロガー」という名称での寄稿になったので、



そろそろ企業法務系の記事を書かないとまずいな


と考え、外資系企業法務部における電話会議の実務を記事にしたところ、予想外のご好評を頂きました。


外資系企業における電話会議サバイバル術〜法務部を念頭に - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

まとめ
 ビジネス・ロー・ジャーナル様でのブックレビュー連載が決まり、心より感謝しております。


 なお、今後も、「企業法務系ブロガー」の名に恥じないよう、このブログでは企業法務系エントリ「も」アップしていくつもりですので、何卒よろしくお願いします!

外資系企業における電話会議サバイバル術〜法務部を念頭に

理系のためのサバイバル英語入門―勝ち抜くための科学英語上達法 (ブルーバックス)

理系のためのサバイバル英語入門―勝ち抜くための科学英語上達法 (ブルーバックス)


【注:本ブログは、あまり知られていないのですが、「企業法務ブログ」です。】



1.はじめに
 4月1日から新しい会社で働き始める人も多いだろう。そして、例えば外資系に転職する人もいるのではなかろうか。
 外資系といっても各社により様々であるが、例えば、一定以上の重要案件は、本社ないしはAsia Pacific(シンガポールとか香港とか)の決裁が必要な会社も結構あるように思われる。
 このエントリでは、そのような外資系企業において、頻繁に日本人、特に純ドメといわれる日本で英語教育を受けた日本人が苦しむ、英語での電話会議をサバイバルする方法をお伝えしたい。


 そもそも、なぜ電話会議がしんどいかといえば、(1)電話なので、face-to-faceよりもコミュニケーションが取りにくい(2)読み書きではなく、話す聞くという、日本人の概して不得手なスキルが試される(3)外国人と議論をしなければならない*1という3要素があるからではなかろうか*2


 このような電話会議において、「どうすれば完璧な対応ができるか」を私は全く知らないのであるが、「どのようにサバイブするか」の試論を公開させて頂き、この4月から外資系企業で働かれる方、特に外資系法務部で働かれる方の少しでもお役に立てればと思う。



2.シチュエーション
 具体的に想定されるシチュエーションを提示した方が分かり易いだろう。なお、以下は完全な創作である。

 あなた(山田太郎)は、日本企業の法務部(@東京)で3年間働いた法務パーソンである。
 少し前に転職し、同業の外資系企業の法務部(@東京)で働き始めた。
 あなたが働いているのはハゲタカジャパン株式会社(「ハゲタカ・ジャパン」)であり、ハゲタカ・ジャパン法務部は、一定以上の重要事項について、米国の親会社であるHagetaka Ltd. (「ハゲタカ・グローバル」)の法務部の決裁を得なければならない。


 ハゲタカ・ジャパンは、過去に納入した商品に問題があるとして、ユーザーで上場企業であるフジヤマ産業株式会社(「フジヤマ」)からクレームを受けていたが、この問題を訴訟外で解決できず、東京地方裁判所において訴訟が係属していた。フジヤマはハゲタカ・ジャパンに対し、5億円の支払を請求しており、ハゲタカ・ジャパンは顧問事務所であるスキヤキ法律事務所の弁護士に委任し、被告として応訴を続けていた。


 あなたは、ハゲタカ・ジャパンに転職後、この案件を引き継いでいたが、前々回の期日で、裁判官から和解の勧試があった。それを受けて前回期日において、フジヤマが、「ハゲタカ・ジャパンがフジヤマに2億円の解決金を支払うことで本件を解決する」という内容の和解を提案したことから、次回期日まで、ハゲタカ・ジャパンとしてこの和解提案に対する対応を決定する必要がある。しかし、この対応は、ハゲタカ・ジャパン限りで決めることができず、ハゲタカ・グローバル法務部の決裁を得る必要がある。


 あなたは、これから、あなたとハゲタカ・ジャパンの法務部長が日本から、ハゲタカ・グローバルのジェネラル・カウンセル及びアジア・パシフィック担当者(John Smith)等がアメリカから参加する電話会議を乗り切らなければならない。もちろん電話会議は英語で進められる。


 さあ、あなたは、どうすればいいのだろうか?


3.事前にアジェンダを作る
 まず、電話会議を乗り切るコツは、「事前にアジェンダを作ってしまう」ことである。アジェンダとは、要するに、電話会議のロードマップである。これがないと会議が迷走する。会議をきちんと正しい方向に進め、コントローラブルなものにするため、事前にアジェンダを作ってメール送付することがお勧めである。

Agenda of the Telephone Conference - Fujiyama Litigation(電話会議アジェンダーフジヤマ訴訟)
1. Whether to settle this case(1.本件を和解で終了させるか)

Hagetaka Japan: We should settle this case because there are substantial risks of losing.(ハゲタカ・ジャパン:敗訴リスクが大きいので和解すべきである)
See Sukiyaki Law Firm’s Opinion : The judge mentioned that the existence of defect itself seems to be indisputable and the only issue is the amount of the damages.(スキヤキ法律事務所の意見:裁判官は瑕疵そのものがあること自体は争いようがなく、問題は金額であると言及した。)


2. How much we should pay(2.支払うべき金額)
Hagetaka Japan: JPY 200 million is reasonable.(ハゲタカ・ジャパン:2億円は合理的である)
See Sukiyaki Law Firm’s Opinion : The court is likely to order Hagetaka to return JPY 150 million which Hagetaka received from Fujiyama. Also, Fujiyama's position is stronger regarding substantial parts of the JPY 200 million out-of-pocket repair costs. Hagetaka’s position is stronger regarding the JPY 150 million internal labor costs of Fujiyama.(スキヤキ法律事務所の意見:代金としてハゲタカが受け取った1億5000万円は返還を余儀なくされるだろう。追加で必要となった外部に支払った修理費用である2億円の相当部分についてもフジヤマの方が有利である。フジヤマ内部人件費である1億5000万円についてはハゲタカの方が有利である。)


3. Other issues?(3.その他)
Confidentiality?(守秘義務
See Sukiyaki Law Firm’s Opinion : As Fujiyama is a listed company, Fujiyama needs to disclose the fact of settlement. But it is negotiable as to what can be disclosed and what should not be disclosed.(スキヤキ法律事務所の意見:フジヤマが上場企業であるから、フジヤマは和解の事実を公表しなければならない。ただ、何を公表し何を公表しないかについては交渉可能である。)


このようなAgendaを簡単にまとめた上で、事前にメール送付しておけば、会議参加者にとって、あなたが何をやりたいかは明確となる。


4. 議論をリードする
 少なからぬ日本人が、「英語力がないから、電話会議は聞き役に回ろう」と考える。しかし、それでいいのだろうか?


 例えば、ジャパンとして考えがあり、それについてグローバルの決裁を取りたいという場合、「聞き役」をやっていては、説得はおぼつかない。



 私は、英語力がないからこそ、議論をリードする必要があると考えている。自分のペースで電話会議を進めることで、電話会議の内容を理解し、電話会議の目的(グローバルの説得等)を達成しやすくなる。


 そこで、最初の挨拶が終わったら*3This is Taro, I already circulated the Agenda for today’s telephone conference. I would like to go through each of the points in the Agenda.(太郎です、今日のテレコンのため、アジェンダを配布させて頂きました。このアジェンダに沿って進めたいと思います。)のように言って、アジェンダどおりで進めさせてもらうようにお願いするのである。


 まあ、私の経験からすると、大体の場合はこのような進め方にアグリーしてもらえるという感じである。なお、Other Issuesという欄をAgendaに入れておくと、「このテーマも論じるべきではないか」という人や、議論から脱線した話をし出した人がいた時に「そのテーマはOther Issuesで議論しましょう」と返せるのでオススメである。



5. 自分の言いたいことを伝える
 まず、自分の言いたいことを伝える方法は、何度でも繰り返すことである。
 相手がそもそも、自分が何を言いたいか分からないというシチュエーションは多い。特に、反応が勘違いをしているらしいという場合も多い。



 そう言う場合には、


Let me put it in another way. (言い換えさせてください。)


 等と言って、何度も言い直そう。表現を変えるだけではなく、説明の方法そのものを変えると良いと思われる。


 例えば、「判決までいった場合に払わせられる金額よりも和解金の方が安い」という意味で、あなたがこう言ったとしよう。


Taro:We believe that it is reasonable for Hagetaka to settle because Hagetaka can save money.(太郎:ハゲタカはお金を節約できるので、ハゲタカにとって和解するのが合理的だと思います。)



そういう趣旨で言ったのに、ハゲタカ・グローバルが、「弁護士に払うお金を節約できる」という意味に取ってしまうこともある。



John:Yes, we can save the lawyers’ fees, but why we should pay JPY 200 million? Can't it be JPY 50 million or less?(ジョン:確かに(和解によって)弁護士費用は節約できるんだろうけど、なんで2億なんだね、5000万円とかでもいいじゃないか?)



こういう場合、


Taro:Let me put it in another way. According to Sukiyaki Law Firm, we are likely to lose, and we are likely to have to pay more than JPY 200 million in the judgment. So, what I mean is that we are better off by settling now than continuing this litigation until the final judgment.(言い直させて下さい。スキヤキ法律事務所によると我々は負けそうなので、判決では2億よりも多く払わされる可能性が高いです。そこで、今和解した方が判決まで待つより経済的に有利だと言っているわけです。


のように、言い方を変えて説明を繰り返す訳である。


 なお、私は日本人なので、表現が下手で混乱を招いた場合は、結構Sorry for making you confused. (混乱させてしまいすみません。)とか言って謝ってしまうが、これは人によって対応は若干違うかもしれない。


なお、こちらの質問に対してとんちんかんな回答をする場合には、


Let me ask this question in another way.(質問の仕方を変えさせてください。)


という表現が使える。



6.相手の言っていることを理解する
 時々、ハゲタカ・グローバルの人同士で話が始まり、ものすごく速くかつ聞き取りにくい英語が交わされることがある。


 全く分からない時は、自信を持って、Sorry, could you repeat?(すみません、もう一度言って頂けますか?)と言おう。知ったかぶりで進んでしまうことが最大の恥であり、聞くことは恥でもなんでもない。



 これに対し、大体分かったつもりだが、心配な場合には、自分の理解を伝えよう


If I understand correctly, you are saying that the settlement amount should be JPY 100 million.(えっと、いまおっしゃったのは、和解金は1億でなければならないということでしょうか?)



この”If I understand correctly,(直訳すれば「もし私が正しく理解していれば」)"という表現を使って聞き返すと、理解を確かめることができる。



なお、明らかに勘違いしている人がいる場合、



"Sorry to interrupt…”(ちょっと失礼します。。。)


といって途中で介入して止める必要があることもあるし、逆に、(電話会議なので)自分と同時に他の人が発言を始めた場合、



"Go ahead.”(どうぞ)


といって譲るべき場合もあるだろう。



7.自分の意見を堅持する
 (人にもよるが)外国人と議論する時の辛さは、外国人が議論慣れしている、つまり議論を尽くすことをストレスに感じないということであろう。



 純ドメの日本人は、英語を話すだけで大変で、その中で議論をするのはもっと大変である。



 バイタリティがあふれる外国人と議論する場合、「議論が大変」というだけの理由で、ついつい同意したくなる。例えば、アメリカ時間の深夜までかかったロングランの電話会議が終わった後、「やはりグローバルとしてはこれこれこうこうすべきである」というメールが届き、その中に「I will stay up to talk with you.((もし異議が有るなら)あなたと話すためにこれからずっと起きてるよ。)」とか書かれていると、「はい。。。もう、それでいいです。。。」という気持ちになる。


 しかし、自分の意見を堅持する必要がある場合もある。



その場合、YES BUT法が有効である。要するに先に共感を示してから、後で自分の意見を述べる訳である。



“I fully understand your point but please consider the reputation risk when Tokyo district court rules against us.”(おっしゃることは分かりますが、東京地裁が不利な判決を下した場合のレピュテーションリスクをお考え下さい。)


みたいに、「あなたのおっしゃっていることはよく分かります。しかし〜」という言い方をすることで、角が立たなくなる。



 なお、コツとしては、「グローバルな会社だと、日本の地域的特性を説明すると効くことがある」ので、例えば、「ディスカバリーでフジヤマの弱みを見つけられないか?」という質問に対しては、



“This is Japanese litigation, not USA. We do not have American style full discovery!”(これは日本の訴訟なのです。アメリカ式の完全なディスカバリーはありません。)



みたいに、日本の事情を説明するといけることもあるだろう。



また、アメリカの法務部だと、「ローヤー」の発言であることにどうも説得性があるようなので、



Sukiyaki’s Lawyer opines that… (Sukiyaki’s Lawyer is of the opinion that…)”(スキヤキ法律事務所はこう言っています。)



のように「これは弁護士の意見です」と言って説明すると説得できることがある。



8.議論を整理する
 このような過程を経て議論を尽くしたら、最後は、議論を整理する必要がある。


”Let me summarize today’s discussion."(それでは、今日の議論を要約させてください。)


 のように言って、その段階で決まったことと、これからどの人が何をすべきかを検討することになる。


 この場合にはAgendaが効く。アジェンダに沿って(自分の理解する)、決まったことと、会議終了後に、各人がやるべきことを説明しよう。


 そして、私は、会議の場で口頭で説明した後、その内容を簡単な議事録(minutes)としてメール送付することをお勧めしている。


そもそも、事前にアジェンダを用意しておけば、これをベースに、一言ずつ追加するだけでいいはずである


Minutes of the Telephone Conference - Fujiyama Litigation(電話会議議事録ーフジヤマ訴訟)
1. Whether to settle this case(1.本件を和解で終了させるか)

Hagetaka Japan: We should settle this case because there are substantial risks of losing.(ハゲタカ・ジャパン:敗訴リスクが大きいので和解すべきである)
See Sukiyaki Law Firm’s Opinion : The judge mentioned that the existence of defect itself seems to be indisputable and the only issue is the amount of the damages.(スキヤキ法律事務所の意見:裁判官は瑕疵そのものがあること自体は争いようがなく、問題は金額であると言及した。)
Decided : Hagetaka Japan will settle this case by paying substantial amount to Fujiyama.(決定事項:ハゲタカ・ジャパンはフジヤマに相当額を支払って和解する。)



2. How much we should pay(2.支払うべき金額)
Hagetaka Japan: JPY 200 million is reasonable.(ハゲタカ・ジャパン:2億円は合理的である)
See Sukiyaki Law Firm’s Opinion : The court is likely to order Hagetaka to return JPY 150 million which Hagetaka received from Fujiyama. Also, Fujiyama's position is stronger regarding substantial parts of the JPY 200 million out-of-pocket repair costs. Hagetaka’s position is stronger regarding the JPY 150 million internal labor costs of Fujiyama.(スキヤキ法律事務所の意見:代金としてハゲタカが受け取った1億5000万円は返還を余儀なくされるだろう。追加で必要となった外部に支払った修理費用である2億円の相当部分についてもフジヤマの方が有利である。フジヤマ内部人件費である1億5000万円についてはハゲタカの方が有利である。)
Decided: Hagetaka would accept JPY 200 million settlement amount. But Taro Yamada will ask Sukiyaki Law Firm whether it is practically feasible to propose JPY 150 million at first.(決定事項:ハゲタカは2億円の和解金を受け入れるが、山田太郎はスキヤキ法律事務所に、最初に1億5000万円を提案するのが実務的にあり得るか尋ねる。)



3. Other issues?(3.その他)
Confidentiality?(守秘義務
See Sukiyaki Law Firm’s Opinion : As Fujiyama is a listed company, Fujiyama needs to disclose the fact of settlement. But it is negotiable as to what can be disclosed and what should not be disclosed.(スキヤキ法律事務所の意見:フジヤマが上場企業であるから、フジヤマは和解の事実を公表しなければならない。ただ、何を公表し何を公表しないかについては交渉可能である。)
Decided: Hagetaka and Fujiyama should agree on the contents of the disclosure of the settlement as the condition for the settlement. Taro Yamada will prepare the draft of the contents of the disclosure with the help of Sukiyaki Law Firm. Then John Smith will check the contents before proposing to Fujiyama.(決定事項:ハゲタカとフジヤマは、和解の条件として、和解についての開示内容について合意しなければならない。山田太郎はスキヤキ法律事務所の援助を得て開示内容の草案を準備し、ジョンスミスはフジヤマに提案する前に内容を確認する。)


 上のAgendaと比較して頂くと、それぞれ決定事項の行が追加されていること、誰が何をするのかが記載されていること等がわかるだろう。


 これをメールで送付しておけば、後でグローバルに「ちゃぶ台返し」をされるリスクは低下するし、今後誰が何をするかが明確に分かる

まとめ
 以上は、個人的経験(なお、具体的事案は完全に変えており、上記の訴訟事案の電話会議の内容は100%創作である)をもとにした「英語の電話会議をいかにサバイブするか」の試案である。


 あくまでも「試案」であるし、英語はめちゃくちゃだと思う。


 その意味では、「参考」にしかならないものであるが、英語の電話会議に苦しむ(外資系)法務パーソンが一人でも減るよう、これを作成した次第である。

*1:法務を想定すると、「外国人上司を説得しなければならない」という課題があるシチュエーションと、「英語で繰り広げるディスカッションに参加させられ、沈黙が『法務の承認』と取られる」リスクがあるという課題があるシチュエーション等が想定される。

*2:ツイッターではそれ以外にも、電話回線が悪い、時間帯が早朝深夜に設定される、インド人等聞き取りにくい英語等がある旨の補足を頂いた。まさにそのとおりである。

*3:実は、純ドメにとってかなり難しいのは、電話会議にジョインするのが遅れる人を待つ間の「何気ない会話」であって、これが一番難しいという印象です。

秘密保持義務に関する例外条項のドラフティングの困難性

秘密保持契約の実務―作成・交渉から平成27年改正不競法まで

秘密保持契約の実務―作成・交渉から平成27年改正不競法まで


 本ブログは、あまり知られていないが、実は企業法務ブログであるので、企業法務の日常において悩んでいることを綴ってみたい。


 企業法務において日常的にチェックする契約に、秘密保持契約がある。


 秘密保持契約(条項)というのは、NDAやCAと略称されるが、当事者が開示された秘密を厳守し、当該契約の目的の為にのみこれを用いるといったことを約する契約(ないしは契約書における特定の条項)である。

事例1 XとYは、共同開発を行うこととし、そのために、XはYと秘密保持契約を結び、YからYが秘密として管理する甲ノウハウの開示を受けた。


このような場合、甲ノウハウは秘密であり、これを保護するため、秘密保持契約が締結される。


ここで、秘密保持契約における秘密の定義については、以下のような例外規定を設けるのが通常である。

ただし、以下のいずれかに該当する情報は、秘密情報には含まれないものとする。
(1)開示された時点において、受領当事者がすでに了知していた情報
(2)開示された時点において、すでに公知であった情報
(3)開示された後に受領当事者の責に帰すべき事由によらずに公知となった情報
(4)開示当事者に対して秘密保持義務を負わない正当な権限を有する第三者から、受領当事者が秘密保持義務を負うことなく適法に取得した情報

森本大介ほか『秘密保持契約の実務』29頁
*1


このような内容が、秘密保持義務の例外事由として比較的頻繁に見られる。


ただ、実務で疑問が生じるのは、「?開示当事者に対して秘密保持義務を負わない正当な権限を有する第三者から、受領当事者が秘密保持義務を負うことなく適法に取得した情報」である。

事例2 ZはYと独立に甲ノウハウを開発していたところ、XはZとも共同開発を行うこととし、そのために、XはZと秘密保持契約を結び、YからZが秘密として管理する甲ノウハウの開示を受けた。

この場合、Zは、甲ノウハウを独自に開発したのであって、Zは甲ノウハウに対する完全な権限を有している。


そしてZとXの間の関係では、甲ノウハウは「受領当事者(X)が既に了知していた情報」である。


そこで、Xは甲ノウハウについてZとの間の秘密保持契約上の秘密保持義務を負わないということになりそうである。



そうすると、Yとの関係で甲ノウハウが「(4)開示当事者に対して秘密保持義務を負わない正当な権限を有する第三者(Y)から、受領当事者が秘密保持義務を負うことなく適法に取得した情報」になってしまいそうである。このように解されれば、Xは甲ノウハウを、Yとの関係でもZとの関係でも自由に利用できることになりかねない。



しかし、その結論はいかがなものだろうか。

開示当事者に対して秘密保持義務を負わない第三者から秘密保持義務を課されずにその情報を受領した以上は、その情報はもはや要保護性が低く、開示・使用を制限されるべきではない


(中略)


受領当事者が第三者との間で秘密保持義務を負うことなく取得した情報に限られる。受領当事者が、開示当事者と第三者の双方との間で秘密保持義務を負っている情報は、三者間で依然として秘密として取扱われている情報であり、依然として要保護性が高いからである。
森本大介ほか『秘密保持契約の実務』33頁

といった議論を参考にすると、事例2の場合でもやはり甲ノウハウの要保護性は高く、甲ノウハウは秘密とされなければならないだろう。


すると、(これを実際のドラフトに使うかはともかく)Yの合理的意図を文言に無理矢理落とし込むと「(4)開示当事者に対して秘密保持義務を負わない正当な権限を有する第三者から、受領当事者が秘密保持義務を負わず適法に取得した情報(既了知の例外により秘密保持義務を負わない場合を除く)」という趣旨であると理解される。


 (逆にわかりにくいといった批判もあるだろうが、)それはそれで、Yの合理的意図は達成できるかもしれないのだが、逆にこのような合意の内容は、XがZと行う共同開発に支障をきたす可能性を含むように思われる。すなわち、秘密保持契約においては、単に第三者に開示しないという条項だけではなく、当該契約の目的のためにのみ利用するという条項が通常入っている。


事例3 事例2の背景は、Xは薬の材料となる化学物質乙及び丙を製造していたが、乙や丙は従来の剤型ではなく新しい剤型にして投与する方が効果が高まり、市場価値が高まる。ところが、乙や丙を新しい剤型にするためには特殊なノウハウが必要であり、それが甲ノウハウであった。Yは丁という化学物質について、Zは戊という化学物質についてそれぞれ甲ノウハウを使って新しい剤型の薬品を作っていたところ、YはXの有する乙、ZはXの有する丙という化学物質に着目し、自社の持つ甲ノウハウを利用して新剤型の薬品を製造することで相乗効果があると考え、それぞれ独立してXに対してアプローチをして共同開発に合意したものであった。

このような場合に、Yが先にXとアプローチし、甲ノウハウを開示してしまい、かつ、上記のとおり、Zとの契約に基づく甲ノウハウの開示後も、XY間の秘密保持契約の義務が甲ノウハウについて及ぶとすると、Zからの甲ノウハウの開示後もXは、なおYとの共同開発のためにのみ利用しなければならないことになりかねない。その意味では、過度に厳しいという面もあるように思われる。


だからといって、全く秘密保持義務の対象にもならないというのも言い過ぎであり、そうすると、Yとの関係でもZとの関係でもそれぞれの契約の目的のためには甲ノウハウを利用してよいという契約内容とするべきであるように思われる。



この点は、例外規定ではなく「目的外使用の禁止」の解釈にもよってくるように思われる。

(目的外使用の禁止)
受領当事者は、開示当事者から開示された秘密情報を、本目的以外のために使用してはならないものとする
森本大介ほか『秘密保持契約の実務』44頁

これは一般的な規定だが、この「開示当事者から開示された秘密情報を、本目的以外のために使用してはならない」というのを「Xから開示された甲ノウハウはXとの共同開発以外のために使用してはいけないのであって、Zから開示された甲ノウハウはZとの共同開発に利用してもよい」と解することができれば上記の問題はなくなると思われる。しかし、ここまで詰めた議論はあまりされていないように思われる。


企業法務の先輩の皆様はどのようにお考えでしょうか?

まとめ
秘密保持義務に関する例外条項のドラフティングはなかなか難しく日々苦労している。
森本大介ほか『秘密保持契約の実務』を購入した際には、このような実務上苦慮する点(上記の過剰包摂・過少包摂の問題をどうするのか、文言で対処しているのか、それとも、契約以外の方法で対応しているのか等)についての著者なりの回答が存在するのかと思って期待していたが、その点についての言及はみつけられなかったのは残念であった。

*1:なお、独自開発の例外については、同書34頁参照

Legal Advent Calendar 2015企画:江頭憲治郎『株式会社法』第6版改正点まとめ

株式会社法 第6版

株式会社法 第6版


2014年12月17日、約1年前、Legal Advent Calendar 2014において、
「江頭会社法第5版」でこの4年間で会社法の変わったところを総さらえ〜「修正履歴付江頭会社法」〜 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
という企画をさせて頂き、ありがたいことにご好評頂いた。



一部の皆様からは「江頭企画」とか「江頭差分」*1と呼ばれているが、この企画、「約1000頁ある本の2つの版を見比べて、違っているところを抜き出し、その違っている理由に遡ってまとめる」という地味でかつ非常に膨大な時間が掛かる企画であった。そこで、昨年で最後というつもりだった。


しかし、今年もLegal Advent Calendarが企画された。



法務系 Advent Calendar 2015 - Adventar


参加者の皆様の企業法務関係の質の高いエントリが続く中、



CeongSu様からバトンが託された。
法務に使える!基礎的な英語力を楽しく身につける方法・考え方tips | 日々、リーガルプラクティス。


こんな状況下で、流石にガールズ&パンツァー劇場版の法的分析」
憲法9条の解釈における「武力なき自衛論」の再興〜ガルパン劇場版の法的考察 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
なんてものを載せる訳にもいかないので、意を決し、今年も改訂された江頭憲治郎『株式会社法』第6版改正点をまとめさせて頂く。



 なお、第6版で削除されたもの*2は多数にのぼるが、それが特に重要なもの以外は明記していない*3


 また、第6版で追加された裁判例についてはその上訴審についても可能な限り追ってみた。


 なお、皆様には、ぜひとも第6版を買って欲しいという思いから、あえて第6版が必要なようにした。例えば「〜を反映した」「〜に対応」「〜について説明」等は、テーマは明らかにしているものの、具体的に「反映するとどうなるか」「対応するとどうなるか」「どういう説明になっているか」等は第6版を買わないと分からない。第5版を購入された方もぜひぜひ第6版をお買い上げ下さい!


第1章 総論
(1)会社法施行規則その他の改正

親会社等や子会社等について規則3条の2の新設を反映した(10頁注12)


(2)文献
小林信明「経営者保証に関するガイドラインの概要」NBL1018号1019号(2014)(35頁)
笠原基和「『責任ある機関投資家の諸原則』<日本版スチュワードシップ・コード>の概要」商事2029号59頁(2014)(51頁注3)

(3)その他
統計データが最新のものに更新されている(1頁、2頁表2、3頁注2、8頁注11等)
上場企業の中の規模の格差が大きく、時価総額が1兆円を超える会社が約100社ある反面、100億円未満の会社が約半数に及ぶことが追記されている(4頁注4)
機関投資家による経営者の監視について笠原前掲を引いて言及(51頁注3)


第2章 設立
(1)会社法施行規則その他の改正

仮装払込みについて支払義務を負う取締役の範囲についても「未制定」(第5版111頁)とされていたのが規則7条の2、18条の2が規定された(111頁)


(2)その他
従来、代表者の少なくとも一名の住所が日本になければ登記が受理されない(第5版103頁)という扱いであったが、平成27年3月16日に昭和59年9月26日民四第4974号民事局第四課長回答及び昭和60年3月11日民四第1480号民事局第四課長回答の取扱いを廃止し、代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立の登記及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記について,申請を受理する取扱いとした*4ことに鑑み、この点の記述が削除されている(103頁)。


第3章 株式
(1)会社法施行規則その他の改正

全株取得条項付種類株式*5に関する備置書面について「未制定」(第5版161頁、162頁)とされていたのが規則33条の2、33条の3が記載された(161頁、162頁。なお162頁注37も参照。)。
全株取得条項付種類株式の株主総会参考資料記載事項についての規則85条の2を追加した(161頁)
単独請求による名義書き換えの場合について、売渡請求(法179条1項)について追加した規則22条1項、2項の改正を反映した(209頁注9)。
企業会計基準委員会・実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(2013)(245頁)
反対株主買取請求に伴う自己株式取得により分配可能額を超える場合の業務執行者の責任についての会社計算規則159条10号の新設を反映(264頁)
株式等売渡請求の通知・備置書類に関する法務省令が「未制定」(第5版276頁、277頁、278頁、279頁)から規則33条の5、33条の6、33条の7、33条の8と明記された(277頁、278頁、279頁及び同注6、280頁)。
株式の併合の備置書類に関する法務省令が「未制定」(第5版283頁、287頁)から規則33条の9及び規則33条の10と明記され(285頁、同注3、288頁)、参考書類への記載についても規則85条の3が記載された(285頁)
単元未満株主の権利として規則35条(1項6号)の改正に伴い、特別支配株主の株式売渡請求に際し金銭等の交付を受ける権利が追加された(300頁注2)


(2)判例
MBOに関する少数株主による取得価格決定の申し立て事例として東京高決平成25年10月8日金判1429号56頁(162頁)


(3)文献
坂本三郎ほか「平成26年改正会社法の解説[VII]」商事2047号10頁注119(2014)(279頁)
なお、159頁には記載されていない(2010年の文献が引用されている)が内田修平=李政潤「キャッシュ・アウトに関する規律の見直し」商事2061号23頁(2015)は改正法をふまえたスクイーズアウトの方法につき、実務上参考になる論文である。


(4)その他
登録株式質権者が供託を求め得る場合について154条2項に加え、3項を加筆した(228頁注9)
株式等売渡請求の際の取締役会のなすべき判断について「適正性等(第5版277頁)」が「金銭の額の相当性、金銭の支払見込み、取引条件等」と補充されている(278頁)。


第4章 機関
(1)会社法施行規則その他の改正

規則63条7号ハニで、議案を定めるべき場合として全部取得条項付種類株式の取得及び株式の併合の場合が追加されたことを反映(318頁注2)
電磁的記録の表示方法に関する規則226条の改正に伴い、委任状に関する電磁的記録の備置について規則226条15号が適用されることに(341頁注7)
規則94条1項2号により社外取締役を置いていない場合等におけるそれを置くことが適当でない理由(規則74条の2参照)の記載についてのWeb開示について加筆(344頁注13)
招集通知に議案の概要を記載すべき特別決議事項について規則63条7号ハニ(全部取得条項付株式の取得と株式併合)の新設を反映(357頁)*6
社外取締役を置くことが相当ではない理由についての業務報告書(規則124条2項3項)、株主総会参考書類の記載(規則74条の2)について規則の制定を反映した(384頁)。
コーポレートガバナンス・コード原案について上場会社が独立取締役を2名以上選任すべきとされていることとの関係で今後何らかの形でルール化される可能性があることについて言及(384〜385頁)
規則98条、100条のコンプライアンス体制の具体的な内容が改正されたことを反映した(400頁注4、411頁注8、561頁注2)
金商法21条の2第2項の平成24年改正により、発行会社の責任が流通市場は立証責任が転換された過失責任(金商法21条の2第2項)となったことを反映して424頁注2の記載が修正されている(第5版422頁注2と対比せよ)。
利益相反取引に関する事業報告(規則118条5号)及び監査報告(規則119条1項6号)に関する改正を反映した(445頁注6)
仮装払込みについて支払義務を負う取締役の範囲についても「未制定」(第5版470頁)とされていたところ、規則46条の2、62条の2が反映された(472頁)
責任限定契約に関する参考書類への記載(規則74条1項4号)と事業報告への記載(規則121条3号)についての改正が反映された(481頁)
株式交換等完全子会社の旧株主による責任追及訴訟についての規則218条の2、3、4等を補足(498頁、500頁)
多重代表訴訟についての規則218条の5,6、規則118条4号を補足(500頁)
監査役株主総会参考書類の記載について規則76条4項を追記(516頁)
監査報告に関する規則129条1項5号(コンプライアンス体制)、6号(親会社等との取引)等の改正を反映(529頁)
事業報告における関連当事者との非通例取引に関する規則118条1項5号の改正を反映(530頁注9)
監査役選任議案の参考書類への記載についての規則76条1項6号(責任限定契約)の改正を反映(537頁)
指名委員会等設置会社におけるコンプライアンス体制に関する規則改正(規則112条2項) を反映した(561頁注2、563頁注3、563頁注4、565頁)
監査等委員会設置会社における取締役の選任議案、監査委員たる取締役選任議案、取締役の解任に関する議案、監査等委員である取締役の解任に関する議案、監査等委員の報酬及び取締役の報酬についての参考書類記載事項の規則制定(規則74条1項3号、規則74条の3、規則78条3号、規則78条の2、規則82条の2、規則82条1項5号)を反映(576頁、577頁、580頁、584頁、585頁)
監査等委員につき常勤を置く必要がないことについて新設された規則121条10号イを引く(581頁)
監査等委員会設置会社における監査報告に関する規則(規則110条の2)議事録に関する規則(規則110条の3)コンプライアンス体制に関する規則(規則110条の4)を反映(582頁、584条)


(2)判例
種類株主総会につき定款に基準日の定めがない場合につき東京地判平成26年4月17日金判1444号44頁(324頁)。控訴審(東京高判平成27年3月12日金判1469号58頁)で是認。
株主提案の拒絶につき東京地判平成26年9月30日金判1445号8頁(328頁)。ただし、東京高判平成27年5月19日金判1473号26頁で取り消されている。
取締役会議事録閲覧請求が認められた大阪高決平成25年11月8日判時2214号105頁(421頁)
外国完全子会社との取引による損失につき責任が認められなかった東京地判平成26年4月10日金判1443号22頁(465頁注3)
取締役が会社に支払う賠償金に付すべき遅延損害金は年5分とされた最判平成26年1月30日判時2213号123頁(468頁)
監査役に重過失がないとされた大阪地判平成25年12月26日判時2220号109頁(537頁)。大阪高判平成27年5月21日金判1469号16頁で是認。
なお、本書にはないが、担保提供(488頁)については、東京地判平成24年7月27日資料版商事法務347号19頁も参照。


(3)文献
山田裕子「事業承継目的の株式信託について」信託法38号89頁(2013)(338頁注3)
木俣由美「取締役会議事録閲覧・謄写権の『必要性』要件の検討」青竹正一先生古稀記念・企業法の現在297頁(信山社、2014年)(421〜422頁)
加藤貴仁「高値取得損害/取得自体損害二分論の行方」落合誠一先生古稀記念・商事法の新しい礎石817頁(有斐閣・2014)(425頁注2)
伊藤靖史・経営者の報酬の法的規律204頁、32頁(有斐閣、2013年)(458頁注25、566頁注2)
高橋宏志・重点講義民事訴訟法下(第2版補訂版)453頁注37(有斐閣、2014年)(493頁注9)
顧丹丹「株主代表訴訟の和解と裁判所の役割(下)」首法54巻2号250頁(2014)(494頁)
小出篤「少数株主権における少数持株要件」落合誠一先生古稀記念・商事法の新しい礎石125頁(有斐閣・2014)(587頁)


(4)その他
取消訴訟において期間経過後の追加主張を認めないのが判例であるばかりか多数説であるとしていた第5版の記述(第5版365頁)のうちの「多数説である」が削除された(367頁)
一時取締役の選任について弁護士が選任されるのが通例であること等について言及(398頁注13)
従来、代表者の少なくとも一名の住所が日本になければ登記が受理されない(第5版423頁)という扱いであったが、平成27年3月16日に昭和59年9月26日民四第4974号民事局第四課長回答及び昭和60年3月11日民四第1480号民事局第四課長回答の取扱いを廃止し、代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立の登記及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記について,申請を受理する取扱いとした*7ことに鑑み、この点の記述が削除されている(425頁)。
疑似ストックオプション制度に関する記載(第5版445頁及び449頁と第6版447頁と451頁を対比せよ)は、商法改正により実務上の利用が減少したことの反映と思われる。
なお、多重訴訟の範囲について取締役としての責任にとどまらない(486頁注2の引用する最判21年3月10日民集63巻3号361頁)という従前とほぼ同様の記述に加え、「発起人等」の責任(法847条1項)に限る(法847条の3第4項)とした(501頁注24)。「取締役」はそもそも「発起人等」であることから(法847条1項、423条1項参照)、本文で問題としている取締役の責任を追及する場合において、「発起人等」の責任に限ることが、追及できる責任範囲を限定することになるか疑問がなくはない。
第5版の誤記である「委員会設置会社」(第5版510頁)は第6版では改められている(513頁)
日本監査役協会が公益認定を取得したことを踏まえ、「公益社団法人日本監査役協会」となった(525頁注4)
「中小規模会社の『監査役監査基準』の手引書」監査621号(2013)を引用(526頁注4)
種類株主総会の場合について取締役の選任についての監査等委員会の意見陳述権がないことが明記された(577頁注2)
監査等委員会の招集期間の短縮について取締役会の決議ではなく定款の定めによること(法399条の9第1項)が明記された(582頁注1)


第5章 計算
(1)会社法施行規則その他の改正

規則118条の改正に伴い、事業報告の内容としてコンプライアンス体制の運用状況、特定完全子会社に関する事項、親会社等との取引に関する事項等が追加された(599頁注1)
規則126条の改正に伴い、会計監査人の報酬の額について監査役等が同意した理由が事業報告に含まれることが追加された(611頁注17)
会計監査人の選任等に関する議案の内容(規則77条3号、81条2号)や意見を述べること(規則77条4号、81条3号)の改正が反映された(612頁)
会社計算規則133条4項が改正されウェブ開示の範囲として株主資本等変動計算書も追加された(621条注1)


(2)その他
会計監査人の選任等の議案の内容の決定について、会計監査人の報酬等に関する同意権に比してより強い権限となっていることが明示された(612頁)
財産価格填補責任等について52条の2第1項、102条の2第1項、213条の2第1項、286条の2第1項が加筆された(665頁)


第6章 資金調達
(1)会社法施行規則その他の改正

募集株式の発行により支配株主の異動を伴う場合の通知・公告の内容について、「未制定」(第5版751頁)とされていたのが規則42条の2が規定された(754頁及び755頁注6)。また、適用除外に関する規則42条の3についても同様である(755頁注7を第5版751頁注6と対比せよ)。
仮装払込みについて支払義務を負う取締役の範囲についても「未制定」(第5版754頁)とされていたのが規則46条の2及び62条の2が規定された(758頁、799頁)
金商法21条の2第2項の平成24年改正により、発行会社の責任が発行市場については無過失責任(金商法18条)、流通市場は過失責任(金商法21条の2第2項)と違いが生じたことにより、778頁注3の記載が修正されている(第5版774頁注3と対比せよ)。
新株予約権の割当てにより支配権が移転する場合の会社規則55条の2、55条の5が追記された(792頁)
監査等委員会設置会社についての社債発行について規則110条の5等が示されている(805頁)


(2)判例
募集株式の発行の差し止めが認められなかった仙台地判平成26年3月26日金判1441号57頁(765頁注4)


(3)文献
錦織康高=浅岡義之「株式発行価額の検証」論ジュリ10号30頁(2014)(713頁注6)
佐藤寿彦「ライツ・オファリングに係る上場制度改正の概要」商事2046号24頁(2014)(741頁注11)
尾崎悠一「種類株式発行会社における利害調整」落合誠一先生古稀記念・商事法の新しい礎石203頁(有斐閣・2014)(751頁)


第7章 会社の基礎の変更
(1)会社法施行規則その他の改正

事後開示書類に関する規則の改正により差止請求(法784条の2ほか参照)等に関する経緯等(規則200条2項イほか参照)についても記載が必要となっている(878頁、918頁、943頁)
その他会社の基礎の変更株主総会の招集通知の記載事項に関する規則63条の7号の条文番号の修正等に対応(832頁、869頁、906頁、937頁等、952頁参照)


(2)判例
MBOに失敗した取締役等につき買収価格決定プロセスにおいて手続的公正さの確保に対する配慮義務を懈怠し、会社にMBO関連費用相当額の損害を被らせたと認めた神戸地判平成26年10月16日金判1456号15頁(827頁)


(3)文献
ウィークス=齋藤礼子=ファン「M&A契約における補償条項」JCA61巻6号62頁(2014)(828頁)
大石篤史「株式を対価とする外国企業とのM&Aの実務」商事2044号24頁、2045号115頁(2014)(850頁)
笠原武朗「組織再編行為の無効原因」落合誠一先生古稀記念・商事法の新しい礎石309頁(有斐閣・2014)(866頁注1)
受川環大「会作法上の組織変更の現状と課題について」駒沢ロー10号48頁(2014)(960頁注3)


(4)その他
合併差止請求が導入された後の無効原因と差止事由の関係について笠原前掲を引用しながら説明(866頁注1)。
新株予約権の割当てにより支配権が移転する場合の交付株式数の計算方法について説明(792頁注18)。



第8章 外国会社
(1)判例

英国領バミューダ諸島法上のリミテッド・パートナーシップを、「法人」と認めなかった東京高判平成26年2月5日判時2235号3頁(970頁注1)。上告受理申立後不受理(第一法規参照)。
外国会社との合意に基づく株式買い取り価格の決定は「法律上の争訟」にあたらないとした東京地判平成26年4月24日資料版商事法務363号72頁(974頁注6)。


(2)その他
なお、外国会社の日本における代表者の住所(974頁注4)については、会社法817条1項後段*8が改正されない限り、やはり一人以上は日本に住所が必要(上記の内国会社の扱い(110頁)と異なる)ことに留意が必要である*9


第9章 解散と清算
解散判決に対し、第三者が独立当事者参加による再審の訴えを提起できるとした最判平成26年7月10日判時2237号42頁(982頁、984頁注6)

まとめ
 いかがでしょうか。単に相違点を列挙するだけではなく、追加された裁判例の「その後」等も追ってみました。
 とりあえず、機関について変更点が多く、この辺りはじっくりと江頭『株式会社法』の規定を読み込む必要があると思われます。
 飯田秀総・小塚荘一郎・榊素寛・高橋美加・得津晶・星明男『落合誠一先生古稀記念 商事法の新しい礎石』(有斐閣、2014)の論文の引用が比較的多かったので、興味のある方はこちらも合わせて参照されるとよろしいのではないでしょうか*10
 また、発売から8ヶ月も経過しているので、その間に判例の変更等もあることには留意が必要でしょう。
 この企画は、本当に辛く苦しい企画なので、個人的には、江頭先生には、後10年くらい『株式会社法』を改訂しないでいただくことを期待したいと思います(無理?)

*1:江差追分ではない

*2:例えば第5版657頁注9の払込剰余金に関する記述、702頁注3の租税特措法61条の4第1項に関する記述、724頁の有償無償抱き合わせ増資の廃止に関する記述、844頁注8の銀行持株会社の創設のための銀行等に係る合併手続の特例等に関する法律の廃止に関する記述や、その他判例文献の差し替えは多い。

*3:なお、親子会社間の吸収分割について「(会社法制定時に)明示的に認められた」(272頁注2)が「明示的に認められるものとされた」(273頁注2)のような非常に微妙なものもあるが、この辺りも記載を省略している。

*4:http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00086.html

*5:全株崇徳上皇付種類株式ではない

*6:なお、特殊の決議について、譲渡制限付き株式等への変更についての議案の概要の記載の条文が規則63条7号チになったことを反映した359頁注4や同様にストックオプションに関する招集通知の記載について規則63条7号の改正を反映した456頁注22も参照

*7:http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00086.html

*8:この場合において、その日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。

*9:「外国会社の日本における代表者の住所要件について」http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg3/toushi/150323/item3.pdf参照

*10:ただ、同書中の論文なのに、江頭先生に引用されていないということはどう解すればいいのかという問題は突っ込まないことにしましょう。まあ、商行為・総則、保険法等々の論文等も含まれている訳ですが