アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

ツイッター企業法務の可能性〜新時代の企業法務の姿を模索する

ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り

ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り

1.はじめに
 ツイッターは企業法務においては、これまでは、いわゆるSNS規程(名称は各社によって異なる)によっていかに従業員及び会社の公式アカウントが違法行為や会社の名誉・信用を毀損する行為を行うことを防止し、炎上を予防するかという観点から検討されてきたことが多いと言える。


 しかし、ツイッターと企業法務の関係はそれだけであろうか。ツイッターにまつわる企業法務についてSNS規程以外を若干検討してみたい。



2.反社条項との関係

事例1 契約後、先方の社長が反社会勢力の「組長」と相互フォローの関係にあり、親しげにリプライを交わしていることが発覚した。契約の反社条項に該当するか。


反社会勢力排除の社会運動が高まるにつれ、反社会勢力との関係は秘密のうちに行われるようになった。そこで、契約雛形においては「反社条項」が標準的に入っている。もっとも、契約時において反社会勢力やその関係者ではないことの表明・保証をさせるとしても、契約後、当該相手方当事者が本当に反社会勢力と関係を持ち続けていないことを確認することはそう容易ではないのが現状である。


ところが、ツイッターで公開アカウントを持っている反社会勢力関係者が少なからず存在し、万単位のフォロワーを有しているアカウントも存在すると仄聞する。すると、相手方当事者の役職員等がフォローをしていることもあり得るところである。そして、公開アカウントであれば、そのリプライの内容等を第三者が検証することができ、上記事例のような状況が生じ得る。問題は、このような状況が、反社条項に該当し、契約の解除事由になるかである。


まず、重要なことは反社条項の内容だろう。例えば、昔は、暴力団暴力団員・暴力団準構成員・暴力団関係企業・総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等とでないことを誓約させられることが多かったが、ここでいう「暴力団関係企業」というのは、いわゆるフロント企業であって、単に組長とツイッター上で親しく会話をする程度ではこれに該当しないだろう。


ところが、近年では、より実質的な関係を考える条項例が増えている。例えば、銀取には、以下のような定義がなされることが多い。

私または保証人は、現在、暴力団暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、 総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等、その 他これらに準ずる者(以下これらを「暴力団員等」という。)に該当しないこと、および次の各号のいずれにも該当しないことを表明 し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約いたします。
1.暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有するこ と
2.暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
3.自己、自社もしくは第三者の不正の利益を図る目的または第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団員等を利 用していると認められる関係を有すること
4.暴力団員等に対して資金等を提供し、または便宜を供与するな どの関与をしていると認められる関係を有すること
5.役員または経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること
http://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news230602_1.pdf


基本的には1〜3号は単に組長をフォローするだけでは該当しないということになるだろう。問題は4号と5号である。


例えば、何万人というフォロワーのいる会社のアカウントが、組長のツイートをリツイートすることで、当該組織の知名度向上を助けたと言える場合、「便宜を供与」として、4号該当の可能性が出て来る。
また、役員等の経営者が、組長と儀礼的以上に仲の良いリプを送り合っている場合、それが「社会的に非難されるべき関係」として、5号該当の可能性が出て来る。


一般には、ツイッター上の行為が反社条項に該当する場合はあまり多くないとは思われるものの、特にそれが会社の公式アカウントや役員等の経営者のアカウントによる場合、実際の行為態様を当該反社条項の個別の規定の解釈にあてはめて判断する必要が出て来ることがあることから、社長のこれまでの会話のログを分析した上で、それを当該契約の反社条項にあてはめて検討する必要がある。


3.契約の成否

事例2 携帯電話の利用者が携帯電話会社の社長に対し「Aができるようにして下さい」とツイッター上で依頼したところ、社長から「やりましょう!」というリプが来た。


保証のような例外を除き、ほとんどの契約は不要式契約なので、理論的には口頭ですら成立し得る。そこで、ツイッター上におけるコミュニケーションだからといって契約が成立しないとは言えない。実務上、このような契約の成否の問題における要点は(1)権限の問題と(2)表示内容の解釈になるだろう。


まず、権限というのは、仮に先方の役職員が「承諾」をしたとしても、その人が権限を持っているのかである。権限を持っていなければ、無権代理表見代理の問題となる。代表取締役であれば権限の問題は少ない*1。しかし、従業員等であれば権限がない場合も十分あり得る。


次が表示内容の解釈である。ここで、企業法務実務においては、大きな傾向として、重要な契約であれば契約書という書面に押印するという慣行が見られることが多い(大島眞一「完全講義 民事裁判実務の基礎」529頁参照)*2。すると、契約書作成前の口頭や電子的なコミュニケーションは、あくまでもこのような契約書を作成したいとの意向や契約書の内容にそのような内容を盛り込みたいという意向の表明に過ぎず、正式な契約の「申込」や「承諾」ではないことが少なくない。特に、公開の場での契約合意というのは、少なくともこれまでの企業法務実務における限りにおいて、特段の事情がない限り普通は行われないだろう。仮にツイッター上で法的拘束力のある合意を行うのであれば、DM等の非公開の場で行うのではないかとも思われるところであり、ツイッターの公開アカウントでのリプライによって「申込」と「承諾」が一致し契約が成立するというのは、少なくとも企業法務実務ではあまり多くはないように思われる。


例えば、上記事例の「やりましょう」は、あくまでも、Aという内容を契約(約款)に盛り込む方向で社内調整を行いたいという意向に過ぎず、契約内容の変更合意とは解されないという場合が多いのではなかろうか。但し、今後ツイッターが企業法務実務で用いられることが増えて来れば、また新たな慣行が生まれ、上記と異なるべき解釈をすべき場合も出て来るだろう。


4.債権回収

事例3 お金がなくて払えないと言っている相手方の社長が別荘でクルーザーを乗り回している姿をツイッター上のアップした。

ツイッターから債務者の生活状況、財産等を伺うことができる。毎日高級レストランで食べている姿をアップしていれば、そのような生活をする資金がどこからか来ているということである。もちろん、直接財産のありかを示す場合は少ないが、財産調査の「端緒」となることは少なくない
上記の事例では、ツイッター上にジオタグ等で場所を表示している場合はもちろん、そうでない場合でも、他のツイッター内外の情報と結合する等の方法で別荘やクルーザーを特定し、登記・登録を元に財産を突止めることができる可能性がある*3


5.訴訟

事例4 当社製品について欠陥があって怪我をしたとして損害賠償請求をするクレーマーがツイッターで、同業他社から同種事故の示談金・和解金をせしめた旨を呟いた。

 ツイッターにおける相手方当事者の呟きの内容が訴訟における主張等において参考になることがあり得る。直接当社に言及する呟きは流石に自制することが多いが、それとは直接関係のない呟きに「宝」が埋まっていることも少なくない。そしてこれらの呟きから相手方の認識や意図を推測することができることがある
上記の事例であれば、仮に怪我について診断書等が一応あっても、このような呟きから、他の会社の製品の欠陥等、当社製品と無関係の怪我ではないか*4といった推測ができ、これを1つの間接事実として主張することができる場合もあるだろう。


 なお、このように訴訟でツイッターを用いる場合には、個別ツイートを表示させ、そのURLを含めて印刷することが望ましい*5

まとめ
 これまで、企業法務とツイッターといえば、その利用をSNS規程により制限し、会社に累が及ばないようにするという発想が多かったように思われる。
 しかし、ツイッターがいわばインフラとしてコミュニケーションで広く活用される現状においては、企業法務において、SNS規程以外にも色々とツイッターは問題となってくるのではなかろうか。これが、このブログ記事を書こうと考えたきっかけである。
 もちろん、上記はあくまでも「やっつけ」で考えた「私案」に過ぎず、間違いも多いと思われるが、逆に忌憚なきご批判を頂くことで、ツイッター企業法務をより精緻なものへと深化できればと期待している
なお、もし万が一、twitterを会社のパソコンからアクセス禁止にしてる会社があるとすれば、 このようなツイッターの企業法務における重要な意義に鑑み、法務部だけでもアクセス可能にすべきであろう。(えっ、当社のパソコンでツイッターにアクセスできるか? それはもちろん「禁則事項」ですっ!)

*1:もちろん、社内規程で一定の行為は取締役会の決議等が必要とされているだろうが、「代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有」(会社法349条4項)し、こ「の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」(同5項)ことから、権限があると信じていれば救われることは多い

*2:もちろん、この慣行は業界や契約類型等によって異なっており、例えば、原稿の依頼について、事前に契約書が交わされることはむしろ少ないかもしれないのであり、この問題の検討は業界別や契約類型別に検討する必要がある。

*3:なお、契約の相手方が会社であり、別荘等が社長の個人財産である場合等には、債務者が誰かという問題等が別途生じ得る

*4:更には、各社に対して、当社と同様に「御社の製品のせいで怪我をした!」と言っているのではないか

*5:「インターネットのホームページを裁判の証拠として提出する場合には、欄外のURLがそのホームページの特定事項として重要な記載であることは訴訟実務関係者にとって常識的」とした知財高判平成22年6月29日参照

「江頭会社法第5版」でこの4年間で会社法の変わったところを総さらえ〜「修正履歴付江頭会社法」〜

株式会社法 第5版

株式会社法 第5版

自己紹介
 本エントリは、「アホヲタ元法学部生の日常」を運営する企業法務系ブロガーronnor(ツイッター:@ahowota)が法務系Advent Calender企画として新規に書き下ろしたものです。
法務系 Advent Calendar 2014 - Adventar


 当ブログは、元々は「アニメを法律で分析する」をコンセプトに、
「3月のライオン」を法律的に分析
『楽園追放』を法律的に分析
等のオタクな記事(なお、上記2本はいずれも、本年12月に公開したもの)を作成して参りましたが、


 光栄にも、企業法務マンサバイバル様に
元企業法務マンサバイバル : ビジネス法務の話題を効率良くインプットしたい方にお勧めなtwitterアカウント20選
元企業法務マンサバイバル : おすすめ企業法務系ブログ15+α選
等としてオススメ頂いたこともあり、今後は少しずつ企業法務色を強めていきたいと思っております。
そこで、今般 Legal Advent Calendarに申し込ませて頂きました。どうぞよろしくお願い致します。


なお、同様の趣旨もあって、もうすぐ発売のビジネス・ロー・ジャーナル2015年2月号の「特集 法務のためのブックガイド2015」の中で
「企業法務系ブロガーによる辛口法律書レビュー (2014年版)」
を寄稿させて頂いております*1
2015.2月号(No.83)の目次|Business Law Journal - ビジネスロー・ジャーナル


まだまだ若輩者ですが、企業法務系ブロガーとして今後とも、どうぞよろしくお願い致します。


1.江頭先生、ごめんなさい!
 

「江頭会社法」といえば、言わずと知れた、会社法界の最高峰の教科書である。特徴は理論に裏打ちされた記述を軸とする本文に、実務情報・裁判例・論文等の発展的情報に容易にアクセスできる脚注の情報量である。その*2総ページ数は既に1000ページを超える「重厚長大」っぷりであり、一部の法クラからは、「性質上の凶器」とすら称されている。


 本年7月頃、法クラの間では、6月の改正に直ちに対応した第5版が出版された「江頭会社法」が話題になった。「これは、会社法改正本の決定版になるか?」そう思った多くの読者は、江頭会社法の「はじめに」を読んで度肝を抜かれた。

第186回国会において、平成26年法律第90号として「会社法の一部を改正する法律」が成立したので、今回の改訂を行った。

(略)

改正法の政省令が未成立であるが、その成立後、できるだけ早く補充したいと考えている。


江頭憲治郎『株式会社法(第5版)』1頁*3


多分、この一文で、買う事をやめた方も少なくないだろう。何しろ、自らもうすぐ第6版*4が出ますと言っているのだから。


もしかすると、「第5版を買わせた後で第6版を買わせて総発行部数を増やそうとしているのではないか?」という詮索をした人もいるかもしれない。


実は、第5版(以下「本書」という。)を購入した直後、ある業界関係者の方に、そういう見解についてどう考えるかをこそっと聞いてみたことがある。そうしたら、要旨以下のとおり、その方に私の不明を明確に正して頂いた。

第6版が出版された瞬間に、有斐閣の書庫にある本書は全て「無価値」となる。その意味では、第6版が刊行されるまでの短期間のうちに本書を売り切ることができるということを見越して政治的決断を行ったものと推測される。


しかし、そのような決断はハイリスクである。特に前書きのように「正直に」もうすぐ第6版が出るよと書いている。それを知った読者の買い控えが出てしまえば、有斐閣膨大な不良在庫を抱え込む可能性さえあるのである。


そのようなリスクを負ってでも、早期の本書の発売を決断されたのは、ひとえに読者の便宜のためである。


このような説明を聞き、私としては、自分の不明を恥じ入るとともに、江頭先生のその崇高な理念と、それを実現された有斐閣の決断をおおいに賞賛するものである。



さて、御託はいいから内容に入れという読者の皆様からのお叱りの声がそろそろ聞こえてくるところであるが、本書は非常に良い本であり、まさに「買い」である。皆様には、ぜひ本書をご購入頂きたい。それはなぜかと言えば、「直接改正と関係ない部分について、改正の間接的な影響を受け、変わるのかどうか、変わるならどう変わるのか」が本書を読めば分かるからである。



 ここで、本書のかなりの部分の記述は、まさに第4版と同じである。この意味は、本改正に深く携わった江頭先生ご自身が*5改正が当該事項について一切影響を及ぼさないということを確認して記述をそのままにされたということであって、これを確認できることは大変有益である。また、4年前の最後の改訂時からの学説・判例・実務の進化についても本書の改訂点を読めば総ざらえできる。


 ここで、私は思った訳である。「もし、本書の『修正履歴付バージョン』があれば、各事項について何が変わって何が変わっていないかを総さらえできていいな。」



 ないんなら、作ってみようじゃないの!


 本エントリでは、大量の改訂点/改訂されていない点のうち、実務への影響に鑑みて、独断と偏見で各分野毎にポイントをまとめてみたい*6


 ただし、お恥ずかしながら、このエントリは実は7月から構想を練っていた約半年がかりのエントリであり、その間に政省令案が発表されてしまった。そこで、「何が変わって/何が変わらないか」はあくまでも本書執筆時点の情報に基づいており、政省令案による新たな改訂等はフォローできていないことをお詫びしたい。更にこの「差分」のまとめは、すべて手作業で行っており、見落としも多くあろうかと思う。特に最後の2日は徹夜で作っていたので、そのような「粗い」ものであることにつきお許しを頂きたい。



2.第一章 総論


本書1〜57頁、旧版1〜55頁


(1) 主な改正点
 「親会社等(親会社に自然人である大株主等を含めた概念)」、「子会社等(子会社に会社の姉妹法人を含めた概念)」、「最終完全親会社等(株式会社の完全親会社等であって、自己の完全親会社等がないもの)」の概念が生まれ、定義される*7
 コーポレートガバナンス論として監査等委員会設置会社を設置し制度間競争を図ったことが明記されている*8
 支配・従属会社の利害対立の問題は26年改正審議の1つの焦点だったが、事業報告・監査報告の充実に留まった*9


(2) 判例・理論・実務の進展
(ア) 判例
 大阪地決平成25年1月31日判時2185号142頁(収益還元方式と配当還元方式を用いた取引相場のない株式等の評価)*10
 最判平成23年9月13日民集65巻6号2511頁(狼狽売りによる市場価格の下落も虚偽記載と相当因果関係がある損害)*11
 最判平成23年4月19日民集65巻3号1311頁(市場価格には客観的価値が投資家の評価を通じて反映される)*12
 東京地判平成22年9月30日判時2097号77頁(国際的局面に法人格否認の法理を適用)*13


(イ) 理論
 「上場株式の評価と効率的市場仮説」について江頭憲治郎「企業内容の継続開示」商取引法の基本問題340頁(有斐閣・2011)及び江頭憲治郎「裁判における株価の算定ー日米比較をまじえて」司法研修所論集122号36頁(2013)を踏まえた新規項目立てがされる*14
 得津晶「二つの残余権概念の相克」岩原紳作ほか編会社・金融・法(上巻)111頁(商事法務・2013)*15
 野田博「CSR会社法」体系27頁*16
 江頭憲治郎「上場会社の株主」体系3頁*17
 サイプト「ドイツのコーポレート・ガバナンスおよび共同決定」商事1936号34頁(2011)*18
 江頭憲治郎「合同会社制度のメリットー締め出し防止策の側面」門口正人判事退官記念・新しい時代の民事司法241頁(商事法務・2011)、宍戸善一「合弁合同会社」前田重行く先生古稀記念・企業法・金融法の新潮流211頁(商事法務・2013)の議論を踏まえた、締め出し防止のための合同会社活用論*19 
 太田洋=森本大介「日産車体株主代表訴訟横浜地裁判決の検討」商事1977号16頁・1978号73頁(2012)*20
 清水円香「グループ利益の追求と取締役の義務・責任」法政77巻3号・78巻1号(2010−2011)*21

(ウ) 実務
 法人企業数の減少*22、個人企業数の減少*23、上場企業数の減少*24等も見られる。
 座談会「合同会社等の実態と課題」商事1944号・1945号(2011)*25
 合同会社は旧版の時点では10193社だったのが現時点では16824社*26
 棚橋元「新しい企業形態ー合同会社有限責任事業組合投資事業有限責任組合」体系617頁に投資事業有限責任組合及び有限責任事業組合の現状が記載される*27


(3) 細かな注意点
 公開会社である大会社が元々設置すべき機関は監査役会または監査委員会だが、監査等委員会の設置がオプションとして増える*28
 少数株主権・単独株主権が増加したため、公開会社の義務や特則としての少数株主権・単独株主権行使要件に関する規定も増加(847条の3第6項、827条1項2号、846条の2第1項)*29
 完全親会社の条文番号の変更(会社法847条の2第1項へ))*30
 取締役等の行為の差止事由*31監査役等の取締役等への報告事由(399条の4)が増加*32


(4) その他
 旧版にあった、いわゆるゴードンモデルに関する「未来永劫成長するという仮定を適用できる会社は限られていよう」との批判が削除*33
 経営者の監視について旧版では、経営者に対する監視能力が争点とまとめていた*34のに対しアメリカの議論が百花繚乱という記載に*35
 持分会社の規定が基本的にすべて強行規定とは考えがたい*36


3.第二章 設立


本書59〜119頁、旧版57〜115頁


(1) 主な改正点
 仮装払込規制(私法上の効果、責任等)*37


(2) 判例・理論・実務の進展
 宍戸善一=福田宗孝=梅谷眞人・ジョイント・ベンチャー戦略大全(東洋経済新報社、2013年)*38
 田中恒好「少数派株主の出資金回収に関する実務的考察」立命339=340号140頁(2011)*39



(3) 細かな注意点
 発行可能株式総数四倍規制の条文として180条3項、814条1項が追加*40
 相対的記載事項の条文として205条2項、399条の13第6項が追加*41
 監査等委員会設置会社の設立においては、設立時監査等委員とそれ以外を区別して選任(38条2項、88条2項)*42
 設立時監査等委員を会社設立前に解任するためには議決権の3分の2以上の決定を要する(43条1項)*43
 監査等委員会設置会社を設立する場合、設立時監査等委員は3名以上(39条3項)*44
 監査等委員会設置会社の登記事項等*45
 公告事項増加(172条3項、179条の4第2項、206条の2第2項、172条3項、179条の4第2項)*46
 疑似発起人の責任として103条2項、3項の責任が追加*47


(4) その他
 産活法の廃止及び産競法の制定に伴う現物出資等証明免除の条文変更*48
 改正点ではないが、江頭先生がデューデリを「実地調査」と訳されている*49のには違和感がある。
 平成17年改正後既に10年近く経っているのに、商号専用権につき未だに「今後登記実務は相当変わるものと思われる」*50という記載を残していることに違和感。
 設立時の添付書類として「設立時取締役等の調査報告を記載した書面(会社46条・93条)」を含めていた旧版の記載が削除*51
 代表者の一名の住所は日本でなければならない*52とあるが、この規制を撤廃すると報道されている*53



4.第三章 株式


121頁〜302頁、旧版117頁〜286頁


(1) 主な改正点
 特別支配株主の株式等売渡請求権*54
 全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウト手続の整備*55
 競業者による株主名簿閲覧請求を禁止する規定(旧125条3項3号)の削除*56
 株式併合によるスクイーズアウト手続の整備*57


(2) 判例・理論・実務の進展
(ア) 判例
東京高判平成24年11月28日判タ1389号256頁(権利行使者の通知を欠く共有株式の権利行使につき会社が同意した場合に会社が負うべき責任等)*58
東京地決平成25年9月17日金判1427号54頁(取得価格決定申立)*59
東京地決平成25年11月6日金判1431号52頁(取得価格決定申立)*60
横浜地判平成24年11月7日判時2182号157頁(失念株主の請求による特別口座の開設)*61
最決平成24年3月28日民集66巻5号2344頁(反対株主の買取請求に係る個別株主通知)*62
大阪地判平成24年2月8日金判1396号56頁(反対株主の買取請求に係る個別株主通知)*63
東京地決平成24年12月21日金判1408号52頁(公開買付勧誘の目的は株主の権利の確保・行使に関する調査の目的に該当)*64
東京高判平成24年11月28日資料版商事法務356号30頁(相続による準共有者の一部への売渡請求)*65


(イ) 理論
 中川雅博「振替制度における『個別株主通知』の実務」阪法62巻3=4号1109頁(2012)*66
 西村欣也「少数株主権等の行使と個別株主通知の実施時期」判タ1387号36頁(2013)*67
 清水博之「所在不明株主の株式売却制度」商事1955号30頁(2012)*68
 川畑正文「株主権の時効取得について(試論)」門口正人判事退官記念・新しい時代の民事司法303頁(商事法務・2011)*69
 石田眞「『日本版ESOP』における議決権行使の問題点」西南45巻3=4号106頁(2013)*70
 藤田友敬・コメ(4)19頁*71


(ウ) 実務
 株式の譲渡益に関する課税実務の変更*72
 日本版ESOPが「検討」段階から「登場」へ*73


(3) 細かな注意点
 株式買取請求権の条文(182条の4)、代表訴訟提起権の条文(747条の2、747条の3)、書類閲覧請求権の条文(171条の2第2項、179条の5第2項、182条の2第2項)増加*74
 優先株式の優先配当額等の定めの執行役等への委任の条文が追加(399条の13第5項、6項)*75
 議決権制限株式の少数株主権行使の可否に関する条文の追加・変更(206条の2第4項の追加、426条5項から7項へ、796条4項から3項へ)*76
 取得請求権付株式の交付される財産の数学・算定方法の執行役等への委任の条文が追加(399条の13第5項6項)*77
 取得条項付株式に関する定めの執行役等への委任の条文が追加(399条の13第5項6項)*78
 監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役および/またはそれ以外の取締役を種類総会で選任するという種類株式の設計が可能*79
 株式取得者の単独請求による名義書換えとして特別支配株主が株式等売渡請求により取得した場合(179条1項)が増加*80
 登録株式質権者が直接に給付を得られる範囲に関する条文が若干変更(152条から152条1項括弧書きへ)*81
 物上代位的給付の目的物が金銭の場合に登録質権者は金銭を受領し又は供託を請求できる(154条)が追加*82
 譲渡承認の委任を禁止する条文が追加(399条の13第5項1号6項)*83
 指定買取人指定の委任を禁止する条文が追加(399条の13第5項1号6項)*84
 自己株式取得につき監査等委員会設置会社に関する記載が追加(399条の13第5項2号6項等)*85
 反対株主の買取請求権による自己株取得について、併合により端数が出る場合(会社法182条の4第1項)が追加*86
 株式併合が発行株式総数に影響を及ぼさないとの記載が削除(282頁、旧版268頁)。
 一単元の株式を減少させる又は単元株の定めを廃止する定款変更が執行役等への委任可能という文脈で、監査等委員会設置会社に関する条文が追加(399条の13第5項6項)*87


(4) その他
 登録質権者が優先弁済が得られる「151条各号」の行為が「151条の行為」*88となったのは、同条2項が追加されたからであろう
 自己の株式を対価とする公開買付につき、産競法制定による条文変更等*89
 株式併合と減資を行う場合に関し、産活法制定による条文変更*90
 譲渡制限株式の無償割当により既存の当該種類株主の持株比率が減少する場合には、原則として種類株主総会の決議を必要とすべきとする*91



5.第四章 機関


303頁〜585頁、旧版287頁〜540頁


(1) 主な改正点
 監査等委員会設置会社制度の新設*92
 委員会設置会社制度が指名委員会等設置会社制度へ*93
 業務執行取締役*94社外取締役*95
 子会社からなる企業集団の業務適正を確保する為に必要な体制の法律レベルへの格上げ*96
 特定責任追及*97

(2) 判例・理論・実務の進展
(ア) 判例
 東京高判平成23年9月27日資料版商事法務333号39頁(議案を否決した決議の取消を求める訴えには原則として訴えの利益はないが、設立した決議と密接な関連性がある等の特段の事情のある株主提案の不当拒絶については決議取消の余地を認める)*98
 東京高決平成24年5月3日資料版商事法務340号30頁(株主提案を参考書類に記載することを求める仮処分申請)*99
 東京地決平成24年1月17日金判1389号60頁(議決権行使禁止の仮処分と債務者適格)*100
 東京地判平成23年5月26日判タ1368号38頁(決議無効確認の訴えを濫用と認めた例)*101
 東京地判平成23年1月26日判タ1361号218頁(不存在と認められる取締役解任決議が総会決議により追認されても解任は遡及的に有効にはならない)*102
 横浜地判平成24年7月20日判時2165号141頁(解任の正当事由)*103
 さいたま地判平成23年9月2日金判1376号54頁(重要な財産の処分)*104
 東京高判平成23年9月14日金判1377号16頁(未公開株式の公募による会社の不法行為責任)*105
 大阪高判平成24年4月6日労判1055号28頁(従業員の名誉感情の毀損と会社の不法行為責任)*106
 最判平成23年9月13日民集65巻6号2511頁(虚偽記載と因果関係のある損害の額)*107
 最判平成24年12月21日判時2177号51頁(民事再生申立てによる値下がりと虚偽記載と因果関係ある損害)*108
 東京地判平成24年2月21日判時2161号129頁(法定の決議を欠く行為の効力)*109
 知財高判平成22年5月26日判時2108号65頁(営業秘密の不正利用)*110
 佐賀地判平成23年1月20日判タ1387号190頁(退職慰労金不支給)*111
 東京地判平成25年2月28日金判1416号38頁(経営判断*112
 東京地判平成22年6月30日判時2097号144頁(経営判断*113
 福岡高判平成24年4月10日判タ1383号335頁(経営判断*114
 大阪地判平成25年1月25日判時2186号93頁(経営判断*115
 名古屋高判平成25年3月28日金判1418号38頁(経営判断*116
 仙台高判平成24年12月27日判時2195号130頁(詐害行為取消は代表訴訟ではできない)*117
 東京地判平成24年9月11日金判1404号52頁(監査役の選任についての同意を欠く決議と取消事由)*118
 名古屋高判平成23年8月25日判時2162号136頁(監査役の第三者責任)*119


(イ) 理論
 飯田達矢「一般投資家に開かれた株式会社の運営」商事1941号35頁(2011)*120
 白井正和「持合解消信託をめぐる会社法上の問題」法学76巻5号491頁(2012)及び 佐藤勤「現代の議決権信託とその実質的効果であるエンプティ・ボーティング規制」前田重行先生古稀記念・企業法・金融法の新潮流39頁(商事法務・2013)を引きながら、信託受益権売買等により議決権行使と自益権を分離させる等の事例への懸念を論じる*121
 木村敢二「Web開示とWeb修正の実務対応」商事1959号42頁(2012)*122
 清水幸明「コーポレート・ガバナンスに関する上場制度の見直しの概要」商事1961号31頁(2012)*123
 潘阿憲「取締役の任意解任制」前田重行先生古稀記念・企業法・金融法の新潮流111頁(商事法務・2013)*124
 和田宣喜「取締役の職務代行者が果たすべき権利・義務」商事1992号40頁(2013)*125
 黒沼悦郎「有価証券報告書の虚偽記載と損害との間の因果関係」法の支配157号34頁(2010)や上記の最判等を引きながら、金賞法上の開示書類の虚偽記載によって投資家が被る損害の額について詳論*126
 飯田秀聡「取締役の監視義務の損害賠償責任による動機付けの問題点」民商146巻1号33頁(2012)*127
 釜田薫子「米国における社外取締役の独立性と構造的偏向」法雑58巻2号45頁(2011)*128


(ウ) 実務
 機関投資家である株主の議決権行使の実態につき江頭憲治郎「上場会社の株主」体系3頁を参照とする*129
 公開会社において、一人で50以上の議題を提案する例があり、数や提案理由によっては権利濫用になる*130
 電子投票における株主の同一性の確認方法として使われるIDとパスワードの交付方法につき、中西敏和「株主総会」体系130頁を引きながら、パスワードを株主があらかじめ届け出るとしていた旧版の記述から、会社が各株主に通知するに変わる。*131
 坂東照雄「議決権電子行使プラットフォームの現状と課題」商事1911号45頁(2010)を引きながら、議決権電子行使プラットフォームについて説明*132
 平成26年改正以降も、独立役員の基準の方が社外取締役の基準よりも厳格である*133
 阿部信一郎「総会検査役の任務と実務対応」商事1973号59頁(2012)*134
 内部統制の実態調査として商事法務編集部「内部統制の実態(上)(下)」商事1870号31頁・1781号59頁(2009)を紹介*135 
 裁判所が法定の決議に関する調査義務を課すのは実際には金融機関に限られているとする*136
 支配株主の会社への加害をどのように監視するかが問題であり、社外取締役・社外監査役・独立役員への期待が大きいとする*137
  BIP信託の受益権の付与について内ヶ崎茂「株式報酬インセンティブ・プランの制度設計と法的考察」商事1985号35頁(2012)を引きながら言及*138
 日本公認会計士協会=日本税理士連合会「会計参与の行動指針」が平成23年に最終改正*139


(3) 細かな注意点
 改正法の社外取締役重視の姿勢も株主の業務執行者に対する有効な監視方法があるかという問題に関する1つの試みであるとする*140
 総会招集を執行役等に委任できないという文脈で監査等委員会設置会社に対応(399条の13第5項4号6項)*141
 少数株主権(479条2項1号、847条の3第1項)、簡易合併等の可否(179条1項、244条の2第5項)の条文の増加*142
 出資の履行を仮装した株式は履行があるまでは「株主の権利を行使できない」とされるが、これを得票率の計算の際に分子・分母に入れず、株式未成立として取り扱うべきとする*143
 ウェブ開示等への異議の主体として「監査役等」が異議を述べている場合に当該事項を参考書類に記載しなければならないと明記*144
 利益供与の文脈における「株主の権利」には、適格旧株主、最終完全親会社等の株主の権利を含む*145
 監査等委員会議事録には特別の法的効果が生じる(399条の10第5項)*146
 普通決議定足数の定款の定めによる変更の例外として、支配株主の異動を伴う募集株式発行規制(244条の2第6項)に言及*147
 特別決議事項の条文を追加(200条1項、205条2項)*148
 書面決議と手続開始基準日について書面決議の提案があった日をその日とみなす規定が追加(171条の2第1項1号、182条の2第1項1号)*149
 監査等委員会設置会社への取締役会設置強制(327条1項(3号))*150
 取締役会設置会社以外の取締役の中にも「非業務執行取締役」として責任限定契約(427条)を締結できる者がいる*151
 特別取締役による議決の定めがある場合には社外取締役が登記される(911条3項21号ハ)*152
 親子会社間の責任追及と代表関係についての整理を追加(386条1項2号・3号)*153
 取締役会の権限として特別支配株主の株式等売渡請求の承認(179条の3第3項、179条の6第2項)が増える*154
 取締役の調査権行使について従来指名委員会等設置会社で議論されていたのが、監査等委員会設置会社についても議論を追加*155
 親会社社員の子会社取締役会議事録等請求の根拠に、特定責任追及(847条の2、847条の3)が追記される*156
 利益相反に関する監査報告を事業報告の内容とする*157
 会社株主の利益保護を目的とする具体的規定の追加(199条)*158
 本来会社の中立的な機関が積極的に訴訟活動をする事が望ましいとする場合の参照条文に847条の1第7項、847条の3第8項が追加*159
 分配額超過額支払義務の条文に182条の4第1項が追加*160
 出資の履行に瑕疵ある場合の責任に関する記載が追加*161
 連帯責任の条文増加(213条4項、213条の3第2項、286条4項、286条の3第2項)*162
 多重代表訴訟と責任免除*163
 責任の一部免除の文脈における「特別責任」の条文増加(213条1項、213条の3第1項、286条1項、286条の3第1項)*164
 一部免除及び責任限定契約が社外取締役かではなく業務執行取締役かが基準となる*165
 訴訟上の和解と多重代表訴訟について整理*166
 責任追及の訴えの提起権を持つ株主等が847条の4第2項で「株主、適格旧株主又は最終完全親会社等の株主をいう」と定義された*167
 会社法に規定された取締役の責任の条文追加(213条の3第1項、286条1項、286条の3第1項)*168
 代表訴訟の被告として出資の履行を仮装した募集株式の引受人等(102条の2、213条の2、286条の2)が追加*169
 代表訴訟は財産権上の請求ではない請求にかかる訴えとみなされる根拠条文は847条の4第1項*170
 株式交換原告適格の喪失の有無について整理*171
 募集株式差し止め請求等の条文の補充(171条の3、179条ん7、182条の3、784条の2、796条の2、805条の2)*172
 取締役が情報を開示すべき事項の追加(171条の2第1項、179条の5第1項、182条の2第1項)*173
 監査役とその登記*174
 監査役の設置義務を負わない場合*175
 監査役の終任事由として、会社が監査等委員会設置会社となることが追加(336条4項2号)*176
 監査役の子会社業務調査の根拠、訴訟代理権限、免除同意権限等について多重代表訴訟制度の導入を反映*177
 監査役・会計参与の責任免除が「非業務執行取締役」と同様と説明される*178


(4) その他
 理論的に可能*179な機関構成の図(「沿革」欄の「H26」)が更新されているので参考のこと*180
 「金融商品法適用会社」につき社外取締役の設置が強く勧奨されることとの関係で監査等委員会設置会社の形態の選択が新たに認められた*181との表現はミスリーディングであろう。普通の会社でも、「公募」等をすれば金融商品法は適用される。あくまでも、「有価証券報告制度」の適用の問題に過ぎない。
 従前どおり「議案の提案者が提案理由等を説明した後に質疑応答がなされる形で進行するのが会議体の一般原則」とするが、新たに199条3項、327条の2、361条4項、795条2項(説明事項の法定)が引用される*182
 上場会社の取締役会について旧版にあった「上場会社の取締役会は取締役の人数が多いため、、実質的意思決定の場とするに適さず、セレモニー化していることが少なくない」との記載が削除されているようだが*183、これは、江頭先生の目から見ると、この4年でセレモニー化という状況が解消したという趣旨だろうか、それとも、上場会社関係者から削除要請があったということだろうか?
 電話会議方式による参加について、福岡地判平成23年8月9日裁判所HPが上げられていないのは理解に苦しむ*184
 アメリカは経営判断の原則が適用されれば陪審審理に付さない*185
 「不作為による任務懈怠」自体について上告審では判断されていないが、福岡高判平成24年4月13日金判1399号24頁(不作為による任務懈怠)*186を挙げるのではなく、上告審の最判平成26年1月30日判タ1398号87頁を挙げて、一応高判が破棄されたことを示すべきと思われる。
 利益相反取引について「直接取引の相手方である取締役」と「第三社のため会社と取引した取締役」が挙げられていた*187のが、これに加え、「間接取引において会社と利益が層反する取締役」が追加*188
 重点講義の改訂に対応して2版を引くようになったのはいいが*189、5版出版直後に2版補正版が出てしまっている。
 金商法の不実開示の条文を追加(金商24条の4、24条の7第4項、24条の5第5項、22条)*190
 「委員会設置会社*191は「指名委員会等設置会社」の誤記と思われる。


6.第五章 計算
587頁〜699頁、旧版541頁〜652頁


(1) 主な改正点
 会計監査人の選解任方法について、監査役設置会社と指名委員会等設置会社の間の相違をなくす*192


(2) 判例・理論・実務の進展
(ア) 判例
 大阪地判平成24年9月28日判時2169号104頁(貸倒引当金*193
 名古屋地決平成24年8月13日判時2176号65頁(会計帳簿閲覧権の対象)*194


(イ) 理論
 野村昭文「監査基準の改訂および監査における不正リスク対応基準の設定の概要」商事1997号42頁(2013)*195
 弥永真生・会計基準と法988頁(中央経済社・2013)*196


(ウ) 実務
 IFRSについて、秋葉賢一「IFRS会社法会計」体系341頁等を参考文献として掲げながら、2013年6月までの動きを説明*197
 企業会計審議会「監査における不正リスク対応基準」(平成25年3月)*198
 中小企業の会計に関する検討会「中小企業の会計に関する基本要領」(平成24年)*199
 「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)(平成24年改正)*200


(3) 細かな注意点
 計算書類の監査主体に監査等委員会が入ったことによる所要の改訂がされている*201
 会計監査人への報酬について監査等委員会設置会社は監査等委員会の同意を得ることが必要*202
 監査等委員会が選定した監査等委員も会計監査人に報告を求めることができる*203
 会計監査人の責任として特定責任が追加*204
 監査報告に監査等委員会設置会社の監査報告が追加*205
 総会の承認が不要な場合につき監査等委員会設置に対応*206
 定款による剰余金の処分の授権につき監査等委員会設置会社に対応*207
 現物配当の配当財産の条文が763条12号ロから763条1項12号ロへ*208


(4) その他
 金商法の監査証明をする監査法人と会計監査人が通常同一人であることについて東京証券取引所・有価証券上場規程438条を追加*209
 一時会計監査人の登記の条文追加(911条3項20号、商業登記法55条)*210
 平成14年10月改訂の監査基準委員会報告書11号「違法行為」が挙げられているが*211、旧版567頁注23では平成9年3月としか記載されておらず、本来本書の初版くらいの段階で平成14年の改訂版を引くべきだったのを5版ではじめて修正したものと理解される。
 企業会計基準21号「企業結合に関する会計基準」は平成20年に改正された*212から平成20年に「制定」へ*213
 剰余金の配当が例外的に分配可能額による制約を受けない場合には、利益準備金を積み立てる必要がない(792条、812条)*214


7.第六章 資金調達



701頁〜818頁、旧版653頁〜763頁


(1) 主な改正点
 支配株主の異動を伴う募集株式の発行の規制*215
 出資履行の仮装規制*216


(2) 判例・理論・実務の進展
(ア) 判例
 東京高決平成24年7月12日金法1969号88頁(主要目的ルール)*217
 最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁(総会決議等の瑕疵と無効事由、取締役会の新株予約権行使条件変更権)*218
 最判平成25年11月21日金判1431号16頁(募集株式発行を無効とする判決と再審事由)*219

(イ) 理論
 中東正文「募集株式の発行等」体系407頁を引いて、公募と第三者割当との金商法等における差異について詳論*220
 徳島勝幸「社債の融資等に対する実質的な劣後リスクを考える」NBL987号8頁(2012)*221
 清水幸明=豊田百合子「ライツ・オファリングに係る上場制度改正の概要」商事1963号18頁(2012)*222
 用命保証条項違反を理由とする払込金額の返還請求の可否について篠原倫太郎=青山大樹「出資契約における前提条件と表明保証の理論的・実務的諸問題」金判1370号8頁・1371号8頁(2011)を引いて議論*223
 宍戸善一「ベンチャー企業ベンチャー・キャピタル」体系107頁*224
 棚橋元「新しい企業形態ー合同会社有限責任事業組合投資事業有限責任組合」体系617頁*225
 宍戸善一=ベンチャー・ロー・フォーラム編・ベンチャー企業の法務・財務戦略231頁(商事法務・2010)*226
 不実開示に基づく責任について野田耕志「証券開示規制における引受証券会社の責任」関俊彦先生古稀記念・変革期の企業法480頁(商事法務・2011)、黒沼悦郎「有価証券届出書に対する元引受証券会社の審査義務」岩原紳作ほか編会社・金融・法(下巻)335頁(商事法務・2013)、後藤元「発行開示における財務情報の虚偽記載と元引受証券会社のゲートキーパー責任」岩原紳作ほか編会社・金融・法(下巻)369頁(商事法務・2013)を引いて説明*227
 オプション価格評価モデルが1つでないことについて岩間哲=新家寛「新株予約権の『公正なオプション額』とオプション評価モデルの選択」NBL988号46頁、989号71頁(2012)を引いて言及*228
 大崎貞和「資金調達方法の多様化」体系442頁*229
 尾坂北斗=阪田朋彦「事業再生の局面におかる社債の元本減免について」NBL999号4頁(2013)を引いて和解についての記載を追加*230


(ウ) 実務
 藤本周ほか「敵対的買収防衛策の導入状況」商事1915号39頁(2010)や茂木美樹=谷野耕司「敵対的買収防衛策の導入状況」商事2012号49頁(2013)を引きながら買収防衛策の実務について説明*231


(3) 細かな注意点
 株式の発行・自己株式の処分の条文増加*232*233
 会社にとって資金調達にならない特殊な発行につき条文変更(272条4項から272条5項)*234
 執行役等への株式募集に関する決定の委任が可能であることについての条文につき、監査等委員会設置会社に対応(399条の13第5項6項)*235
 新株予約券無償割当を株主に対して通知する際の通知期間の短縮*236
 一人が募集株式の総数を引き受ける場合の申込適用除外の条文変更(205条から205条1項)*237
 現物出資について産活法が産競法に変わった事に伴う改訂*238
 特殊の株式発行への差止権の追加に関する言及*239
 法令違反の募集株式の発行の条文の追加(205条2項、206条の2第4項)*240
 取締役・取締役会に募集株式の発行等の権限がある場合として205条2項が追加*241
 不公正な払込金額で募集株式を引受けた者に対する特定責任追及訴訟が可能(847条〜847条の3)*242
 全株式譲渡制限会社における新株予約権無償割当につき制度の不整合を指摘*243
 取得条項付新株予約権の条項が293条1項1号2項−4項が「293条の1項1号の2.2項2号・3項・5項」へ*244
 新株予約権証券の提出を求める公告は293条1項1号から293条1項1号の2へ*245
 新株予約権の違法行使の効果について説明を追加*246
 新株予約権の法令定款違反として244条3項、244条の2第5項を追加*247
 特定認証紛争解決事業者等の確認が行われた償還金額の減額決議の認可について説明を追加*248


(4) その他
 差止制度増加に伴い、特殊の株式と株主による差止について説明方法を変えている*249
 公募と第三者割り当ての違いについて、公募では支配株主の異動を伴う形が事実上ありえないとする*250
 関西国際空港株式会社法が廃止*251されたので、政府保証債の例として株式会社日本政策銀行法25条を挙げている*252
 効率的資本市場仮説について20頁の議論を踏まえ、「特に有利な払込金額」でも言及*253
 ポイズン・ピル新株予約権は、資金調達には役立たないことについて言及*254


8.第七章 会社の基礎の変更


819頁〜962頁、旧版765頁〜901頁


(1) 主な改正点
 重要な子会社株式等の譲渡*255
 法令定款違反の組織再編の差止*256
 濫用的会社分割*257


(2) 判例・理論・実務の進展
(ア) 判例
 東京地判平成20年12月17日判タ1287号168頁(引渡後の検査と買取価格修正)*258
 東京高判平成25年4月17日判時2190号96頁(MBOに際する構成な企業価値移転を図る義務)*259
 東京地判平成24年1月27日判時2156号71頁(表明保証)*260
 東京地判平成23年4月19日判時2129号82頁(表明保証)*261
 大阪地判平成23年7月25日判時2137号79頁(表明保証)*262
 なお、最決平成23年4月19日は民集の引用へ、 最決平成23年4月26日は判時の引用へと変更*263
 大阪地判平成24年6月29日判タ1390号309頁(総会決議無効確認又は取消の訴え提起後の吸収合併)*264
 最決平成24年2月29日民集66巻3号1784頁(合併条件の公正)*265
 大阪地決平成24年4月13日金判1391号52頁(公正な価格)*266
 大阪地決平成24年4月27日判時2172号122頁(公正な価格)*267
 東京高決平成25年2月28日判タ1393号239頁(株式交換・移転における株式買取請求権)*268
 最判平成23年7月8日判時2137号46頁(事業譲渡による承継対象が専ら契約により定まること)*269


(イ) 理論
 佐川雄規「MBO等に関する適時開示内容の見直し等の概要」商事2006号76頁(2013)*270
 石綿学ほか「MBOにおける特別委員会の検証と設計」金判1424号2頁・1425号2頁(2013)*271
 中山龍太郎「表明保証条項のデフォルト・ルールに関する一考察」岩原紳作ほか編・会社・金融・法(下巻)1頁(商事法務・2013)*272
 浜田宰「簡易組織再編の要件」商事1956号46頁(2012)*273
 江頭憲治郎「合併契約の不履行」前田重行先生古稀記念・企業法・金融法の新潮流241頁(商事法務・2013)*274
 飯田秀聡・株式買取請求権の構造と買取価格算定の考慮要素311頁(商事法務・2013)に対する反対論を展開*275
 太田洋「スピン・オフとスプリット・オフ(上)」商事1945号20頁(2011)*276
 郡谷大輔「詐害的な会社分割における債権者の保護」商事1982号18頁(2011)*277
 相澤哲「会社分割における根抵当権の取扱いについて」門口正人判事退官記念・新しい時代の民事司法401頁注6(商事法務・2011)*278
 岩原紳作「銀行持株会社による子会社管理に関する銀行法会社法の交錯」門口正人判事退官記念・新しい時代の民事司法435頁(商事法務・2011)*279


(ウ) 実務
 原田充浩=中山達也=安井桂大「MAC条項を巡る実務対応に関する一考察」金判1380号2頁・1381号2頁(2011−2012)を引きながらMAC条項について説明*280
 実務では、市場価格がある合併でも、市場価格に反映していない内部情報の加味等を行って各当事者の株式の経済価値を決定している*281


(3) 細かな注意点
 大口株主による買取請求権の濫用的行使の規制の為の制度改革も近時行われている*282
 発行可能株式総数の増加に関する条文の追加(180条3項)*283
 株式併合と買取請求権(182条の4第1項)*284
 買取請求の行使要件につき182条の4第2項1号が追加*285
 振替株式の買取請求に関する(特に買取口座に関する)改正*286
 議決権を行使できない株主の買取請求権に関する条文(182条の4第2項2号)追加*287
 買取価格決定前の支払が許容された*288
 買取の効力発生時期を一律に効力発生日を基準とする改正*289
 三角合併と責任追及の訴えについて496頁を参照せよとする*290
 合併条件不公正自体は合併差し止めの要件にはあたらない*291
 新設合併と発行可能株式総数(814条1項、37条3項)*292
 簡易合併の存続会社の株主に株式買取請求はない*293
 買い取りの効力*294
 簡易合併と略式合併における株式買取請求権*295
 差止制度が入った事による無効事由の変更*296
 人的分割では利益準備金の計上を要しない(792条、812条)*297
 分割計画の条文の変更(763条1号2号及び763条3号4号から763条1項1号2号、763条1項3号4号へ)*298
 会社分割の反対株主の新株予約権買取請求権の条文の変更(763条10号イから763条1項10号イへ)*299
 簡易分割・略式分割と株式買取請求権*300
 監査等委員会設置会社の株式移転計画(399条の13第5項17号6項)*301
 株式交換移転と買取請求権の適用除外*302
 効力発生日までに原因事実が生じた完全子会社となる会社の役員等の責任追及に関する完全子会社の旧株主による責任追求等の訴えにつき496頁参照*303
 株券提出期間中に提出されない株券等の効力に関する条文が219条2項から219条2項5号へと変更*304
 簡易略式株式交換と買取請求権*305
 簡易な事業全部の譲受・略式事業全部の譲受と株式買取請求権*306
 組織変更条文が746条●号が746条1項●号へ*307


(4) その他
 産競法制定に伴う、交付金合併・三角合併の説明の変更*308
 買い取り請求にかかる株式は効力発生日に消滅会社の自己株式となって消滅すると説明していた(旧版811頁注4)が、「自己株式となって、消滅会社については〜割当ては行われない」との説明へ変わった*309
 産競法制定に伴う、略式合併の説明の変更*310
 産競法制定に伴う、交付金分割の説明の変更*311
 会社分割における公告催告の効果について説明が若干変更*312
 産競法制定に伴う、略式分割の説明の変更*313
 産競法制定に伴う、略式株式交換の説明の変更*314
 産競法制定に伴う、略式事業譲渡の説明の変更*315
 「委員会設置会社*316は誤記と思われる。
 旧版では「会社法制定当初は、株式会社から合同会社への組織変更も、相当数行われるかもしれない」*317とあったが、実際には移行は進まなかったようで、この記載が削除されている*318


9.第八章 外国会社
963頁〜971頁、旧版903頁〜911


大阪地判平成22年12月17日判時2126号28頁(デラウェア州のLPを我が国の租税法上「法人」と認めた事案)*319


10.第九章 解散と清算
972頁〜994頁、旧版913頁〜933頁


(1) 主な改正点
 なし



(2) 判例・理論・実務の進展
森江由美子「少数派株主保護の法理」関学62巻3号・4号63巻4号(2011−2013)*320



(3) 細かな注意点
監査等委員会は清算会社に置けない(477条7項)*321
監査等委員会設置会社の監査等委員は清算において監査役になる*322
清算会社が財産を換価する際、子会社持分譲渡の方法による場合には特別決議が必要*323



(4) その他
 休眠会社のみなし解散*324に関し、平成26年11月17日(月)の時点で要件に該当する法人が平成27年1月19日(月)までに「まだ事業を廃止していない」旨の届出がなく役員変更等の登記も申請されなかった休眠会社又は休眠一般法人について平成27年1月20日(火)付けで解散したものとみなされる*325


まとめ
 江頭会社法の改正点を概観すると、監査委員会設置会社社外取締役、多重代表訴訟、株式等売渡請求等の華々しく議論された改正点以外にも、実務的に影響を及ぼし得るマイナーな改正点があることが分かるとともに、改正が影響を及ぼさないと考えられる範囲も理解される。
 法務関係の皆様は、ぜひ、第六版まで待つとは言わず、江頭会社法をご購入頂き、本書の「ご自身の業務に関係する部分」を、特に本エントリに記載した点にフォーカスを当ててお読み頂きたい。これが会社法改正がご自身の業務にどう影響し得るかを知る最短の勉強方法だと考える。
 本エントリを掲載する機会を与えて下さったLegal Advent Calender主催者の柴田先生(@overbody_bizlaw)に心より感謝して本エントリを終えさせて頂きたい。

*1:実は、本エントリのように江頭会社法5版を4版と比較して、業務と関係ある部分で会社法がどう改正「された」のか「されていない」のかを確認すべきということを書いていますので、このエントリは、法律書レビューの補足記事という意味もございます。

*2:索引等をあわせた

*3:以下、ページ数のみは本書の頁を示す。

*4:第5版補訂版かもしれないが、本エントリの論旨からするとどちらでも関係ない。

*5:執筆時現在の政省令策定の見込みを反映すれば

*6:こういうことを考えた時には、それがどれだけ手間ひまがかかる作業か、全く想像がついていなかったのでした。。。

*7:9〜10頁

*8:49頁

*9:54頁注2

*10:15頁注2

*11:20頁

*12:21頁注11

*13:42頁注2

*14:19〜21頁

*15:24頁注3

*16:24頁注3

*17:50頁注4

*18:51頁

*19:52頁注2

*20:54頁注1

*21:54頁注2

*22:1頁

*23:3頁注1

*24:4頁注4

*25:3頁

*26:3頁注2、4頁

*27:12頁注2、注3

*28:7頁注9

*29:7頁注10

*30:8頁及び10頁)。  訴訟・非訟事件において取引相場のない株式等の評価方法が問題となるケースに関する条文が増加(179条の8第1項、182条の5第2項)((14頁

*31:299条の6第1項

*32:33頁

*33:15頁注2。旧版15頁注2も参照

*34:旧版47頁

*35:49頁

*36:56頁注1

*37:82頁、110頁以下

*38:63頁注2

*39:63頁注2

*40:70頁

*41:71頁

*42:84頁、99頁

*43:85頁注2

*44:86頁

*45:104頁、106頁注5

*46:104注3、105頁注4

*47:114頁

*48:89注6

*49:63頁

*50:69頁注3

*51:103頁注2。旧版100頁注2も参照

*52:103頁

*53:http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1520141202abas.html

*54:129頁、275頁以下

*55:158頁以下

*56:203頁

*57:282頁以下。なお、旧版128頁注6(本書132頁注6相当)の記載を参照のこと。

*58:122頁注3

*59:161頁

*60:161、162頁

*61:195頁

*62:200頁

*63:200頁

*64:203頁

*65:261頁

*66:199頁

*67:200頁

*68:210頁

*69:219頁

*70:245頁注5

*71:258頁注11

*72:いわゆるNISA等。217頁注1

*73:244頁注5

*74:128頁

*75:140頁

*76:147頁

*77:152頁注21

*78:156頁

*79:165頁

*80:208頁

*81:227頁注7

*82:227頁注8

*83:235頁

*84:238頁

*85:250頁、251頁

*86:263頁

*87:297頁注4

*88:227頁

*89:253頁注4

*90:283頁

*91:292頁

*92:379頁、408頁注4、508頁、509頁、555頁、571頁以下

*93:378頁、544頁以下

*94:377〜378頁

*95:382頁以下514頁以下(社外監査役)、546頁

*96:399頁、400頁注3、406頁、409頁、411頁注8、523頁、527頁

*97:460頁注2、483頁、496頁以下株式交換)、498頁以下(いわゆる多重代表訴訟)、535頁(監査役)、539頁(会計参与)、559頁、561頁及び同注6(いずれも監査委員会と特定責任追及訴訟)、569頁(執行役)

*98:326頁、367頁注6

*99:326頁

*100:347頁

*101:371頁

*102:393頁注6

*103:394頁注7

*104:407頁注2

*105:421頁注1

*106:421頁注1

*107:421頁注2

*108:423頁注2

*109:425頁注4

*110:436頁注8

*111:458頁注28

*112:463頁注3

*113:464頁注3

*114:464頁注3

*115:464頁注3

*116:464頁注3

*117:485頁注2

*118:517頁注1

*119:536頁

*120:306頁注5

*121:336頁注3

*122:343頁注13

*123:385頁注8

*124:394頁

*125:398頁注3

*126:421頁注2

*127:465頁

*128:547頁

*129:306頁注5

*130:326頁

*131:345頁注17、旧版328頁注17

*132:346頁注18

*133:385頁注8

*134:352頁注5

*135:400頁注4

*136:425頁注4

*137:443頁

*138:445頁

*139:538頁

*140:306頁

*141:317頁

*142:331頁

*143:331頁

*144:343頁注13

*145:347頁、467頁

*146:353頁

*147:354頁

*148:356頁注2

*149:358頁注6

*150:375頁

*151:378頁注5

*152:390頁

*153:403頁注6、424頁注3

*154:406頁、549頁注1

*155:410頁注7

*156:419頁

*157:443頁注9

*158:461頁

*159:461頁注2

*160:468頁注8

*161:470頁、553頁、569頁

*162:470頁

*163:471頁及び同注14、473頁、474頁、475頁、477頁、479頁

*164:472頁注16

*165:473頁、478頁、479頁及び同注28

*166:480頁

*167:公告・通知の文脈で481頁注31

*168:484頁注2

*169:485頁注2

*170:486頁

*171:489頁注8

*172:494頁

*173:507頁注9

*174:511頁注3、518頁

*175:511頁、512頁

*176:518頁

*177:524頁、525頁

*178:535頁、540頁

*179:実務的に勧められるものはもっと限られてくる

*180:308頁

*181:311頁

*182:351頁

*183:376頁、旧版358頁

*184:413頁

*185:464頁注3

*186:465頁

*187:旧版441頁

*188:466頁

*189:491頁

*190:507頁

*191:511頁

*192:608頁〜610頁、改正の経緯は608頁注18参照。

*193:645頁注21

*194:696頁

*195:615頁注28

*196:625頁

*197:590頁注4

*198:615頁注28

*199:627頁注6

*200:652頁注3

*201:595頁注1、598頁注2、599頁、600〜601頁、602頁、604頁、617頁

*202:607頁

*203:612頁

*204:613頁

*205:617頁

*206:622頁及び同注6

*207:668頁

*208:676頁注10、旧版629頁注10参照

*209:606頁

*210:610頁

*211:613頁注23

*212:旧版595頁注14

*213:641頁注14

*214:659頁注12

*215:707頁、724頁、750頁以下、766頁、788頁、798頁

*216:740頁、754頁以下、768頁、772頁、773頁、789頁、794頁、799頁

*217:761頁

*218:766頁、779頁、796頁

*219:771頁

*220:709頁注7

*221:715頁注14

*222:738頁注11

*223:745頁注1

*224:748頁注5

*225:748頁

*226:748頁

*227:773頁

*228:777頁注1

*229:780頁

*230:809、812,813頁

*231:785頁注14

*232:213条の2、213条の3

*233:703頁

*234:704頁注2

*235:731頁、732頁、735頁

*236:736頁注8

*237:738頁

*238:741頁、754頁

*239:758頁

*240:758頁

*241:768頁

*242:772頁

*243:787頁注16

*244:793頁、旧版739頁も参照

*245:794頁注4、旧版739頁注4も参照

*246:796頁注6

*247:797頁注1

*248:814頁注7

*249:705頁注2

*250:708頁

*251:関西国際空港及び大阪国際空港の一体的かつ効率的な設置及び管理に関する法律(平成23年法律第54号)附則第19条

*252:714頁

*253:759頁注3

*254:762頁

*255:819頁、824頁、942頁、946頁、948頁

*256:824頁、877頁以下、915頁以下、940頁以下

*257:899頁注3、903頁

*258:820頁

*259:821頁注2

*260:822頁注4

*261:822頁注4

*262:822頁注4

*263:834頁注9

*264:839頁

*265:851頁注2

*266:867頁注4

*267:867頁注4

*268:932頁

*269:943頁

*270:821頁注2

*271:821頁注2

*272:822頁注4

*273:842頁注4

*274:849頁注1、926頁注2

*275:867頁注4

*276:888頁

*277:904頁注2

*278:912頁注7

*279:952頁注1

*280:820頁、822頁注5

*281:860頁

*282:824頁、829頁注1、なお、835頁注12等のことを差していると思われる。

*283:825頁注2

*284:828頁

*285:829頁

*286:830頁、831頁注6、833頁

*287:830頁

*288:835頁注12

*289:836頁注13

*290:844頁

*291:851頁注2

*292:854頁注15

*293:866頁注3

*294:868頁

*295:875頁

*296:880頁、916頁、941頁

*297:885頁

*298:894頁、旧版836頁も参照

*299:901頁、旧版843頁も参照

*300:915頁

*301:925頁

*302:932頁注1

*303:936頁

*304:936頁、旧版876頁注3参照

*305:939頁

*306:949頁注3、950頁

*307:958頁〜959頁。旧版898頁〜899頁参照。

*308:838頁注3

*309:868頁注5

*310:875頁注6

*311:884頁注4

*312:905頁、906頁注5、911

*313:914頁注1

*314:939頁注1

*315:948頁注11

*316:950頁

*317:旧版893頁

*318:953頁

*319:964頁

*320:977頁

*321:982頁

*322:983頁、987頁

*323:989頁

*324:978頁

*325:http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00082.html

非法務系の聴衆に対する研修はどうすればいいのか〜『Web業界受注契約の教科書』の例を通じて

Web業界 受注契約の教科書 Textbook for Business Contracts in the Web Industry

Web業界 受注契約の教科書 Textbook for Business Contracts in the Web Industry

1.はじめに

 当方は3年くらい前のある時期、
IT企業法務部員の仕事〜おおまかなスケッチ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

速習!企業法務入門 1.総論〜新人法務部員のために - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

等の企業法務系の記事を書いていたが、最近はあまりそれ系の記事を書く事ができていない。これはあくまでも、私の怠慢が原因であり、お恥ずかしい限りである。


ところで、最近、私が尊敬する

元企業法務マンサバイバル : ビジネス法務の話題を効率良くインプットしたい方にお勧めなtwitterアカウント20選
様に突如として

企業法務の専門家はここまでやるのだ、をtweetの端々から感じさせるプロ中のプロ。


 との過分も過分な超お恥ずかしい位のご紹介を頂いた。その結果、当方のツイッターアカウント(@ahowota)の従前のフォロワー様の数の1割近くに匹敵する数のフォロワー様に新規にフォローして頂いた。まさに「マンサバ砲」である。心から感謝すると共に、これは、「企業法務についてつぶやいたり、ブログ記事を書け」という叱咤激励と受け止めたい。




 さて、じゃあ、法務系の話題を取り上げるとして、具体的にブログに何を書こうかなぁと思ったが、最近、IT企業の法務パーソンで、営業向け契約研修講師を勤めないといけない人にとってのいい資料を発見した。


 営業向け研修ではケーススタディを使うことで、注意を引くというのが望ましいが、1から作るのも大変だし、直近の実例を使うと、当事者で研修に出ている人に恨まれかねない。じゃあ、それが分からないようにパッチワーク的に複数の事例をつぎはぎして。。。とかやると、アドオン開発が膨らみすぎたパッケージ開発のように、かえってスクラッチ開発をした方が楽だったりする。ここで、高本徹他著『Web業界受注契約の教科書』の前半は、一応、Web制作会社を念頭に置いているが、IT系で頻出の「あるある」状況が具体的にシチュエーションとして描かれており、営業向け研修の「ケーススタディ」にぴったりである。




2.非法務系の聴衆に対する研修はどうすればいいのか?

  さて、不肖私は、最近講師系を申し付けられることが増えているが、その相手は、一定程度法律の素養がある方の場合もあるが、法律の素養がない方の場合も少なくない。若手法務パーソンだと営業向け契約研修とかが典型であるし、もう少し上の世代(or弁護士)だと役員向け研修が典型だろう。

 この場合に感じるのは、「法学入門的な話をし出したら、伝えたいところに入る前に持ち時間が終わる」ということである。

 しかし、「だからといって、伝えたい内容について法律論だけ語ると寝る」ということも同時に感じるところである。



じゃあ、どうすればいいのか?



 色々な経験を経て、最近感じているのは、「伝えたい内容を受け手のいつも使っている言葉に『翻訳』して、かつシチュエーションを想定できるように具体的に具体的に話す」しかないなぁということである。



結局、ITの営業研修だと

・(本当は契約書を交わしてからなのだが、)発注書ももらわずに実作業を始めるな!
・契約外の作業をするなら、(本当は費用負担・納期変更の覚書を結んでほしいのだが)最低限「別途費用が発生しますので、ご精算願いします。納期にも影響します。」と書面で連絡!
・「あれ、納期大丈夫かな?」でも「あれ、これって有償だよね?」でも何でも、ちょっとでも不安に感じたら法務に相談せよ!


 とかを伝えるのが大事で、そういう「大事な事」を「法律法律していない」言葉を使うことで、理解して頂くということに尽きるのかなぁと思う。



3.具体例
 そんなことをいうと、当然「具体的にどうするのだ、例を示せ」となるだろう。

そこで、私がもしも、営業向けの研修を命じられ、同書44頁以下の事案を題材に、説明をすることになったらどうするかを具体的に説明してみたい。これは、あくまでも1例であり「模範解答」ではなく、「一人の企業法務業界の片隅でひっそりと生きる無能な若手」が一つの案として示すものに過ぎないとご理解頂きたい。




  それでは、はじまり、始まり〜。


企業AのWebサイトリニューアルがあり、企業Aは現在サイトのメンテナンスを任せている制作会社Bには内密にして、他の制作会社Cとのリニューアルの話を進めていました。
大方のリニューアル方針が決定したところで、システム部分も次の制作会社に引き継がせようと、企業Aは制作会社Bに対して、「仕様書などをすべて制作会社Cへ送っていただき、必要事項も制作会社Cに引き継いでほしい」と連絡しました。
何も知らされていなかった制作会社Bは急な事に驚き、事情を聞く為に企業Aへ連絡しました。
 すると企業Aは、
「Bには提案力がなかった」
「メンテナンスだけでなく、次の企画をどんどん一緒にやって欲しかった」
ということを理由に挙げて、サポートが良く、提案力もある制作会社Cに変更する旨を制作会社Bに伝えました。
高本徹他著『Web業界受注契約の教科書』44〜45頁より

 このケースでは、お客様がA、Bが当社、Cが憎っき競合になります。


 お客様の更新時期に、積極的な攻勢をかけてくる競合に負けて、競合への引き継ぎ協力をせとと通告されるというのは、営業的に絶対あってはいけないことですが、実際にはない訳ではない話であり、リスクとしてどうすればいいのか検討すべきです。もちろん、ビジネス的には、提案が契約内容でなくとも、日頃から最新情報等を提供する形を取って相手のニーズを引き出し、更新時期を見越して事前にニーズに応じた営業を掛けるといった対応が考えられる訳ですが、今日は「契約書研修」ということですので、契約的にどうすればいいのかについてお話したいと思います


 お客様は神様ですが、トラブルになって法律が問題となるときは、具体的な会社名等をイメージすると、どうしても「そんなことを言ってもどうせ無理だろうな」とか消極的な考えになってしまって、権利があるのに十分に主張できなくなったりします。ここは一度、冷静になって、抽象化してしまい、「乙」というただの契約書上の当事者に過ぎないと思って下さい。ビジネスのことは、法的な判断をした後で考えればいいのです。この事例では、お客様との間の契約内容が不明なのですが、まず、考えるべきことは「道義的義務はともかく、法的に、お客様の仕様書等の資料の全てを引き渡す義務があるのか」でしょう。


 プロジェクトの詳細はよくわかりませんが、要するにWebサイトを提供することを目的とする請負契約を締結し、その契約に基づいて(お客様に資料を頂いたり、要件をご確認頂きながらも)自社で(詳細)仕様書を作成し、プログラミング、テストをしてリリースをした案件と想像されます。その場合、契約書に別の趣旨の記載がない限り、仕様書、ソースコード、プログラムは当社の知的財産です。お客様からは、「金を払っているだろ」と言われるかもしれませんが、あくまでも、「Webサイトを提供する対価」を頂いているだけで、例えば、詳細仕様やソースコードには、当社が他社のWebサイトでも使いたい当社独自のモジュール等の著作権や、ノウハウ等が入っている可能性も高い訳です。そうすると、そういう当社の知的財産を譲り渡すというお約束もしていないし、それに対する追加対価も頂いていないのですから、それをお渡しできないというのは当然のことです。また、このお客様は、当社のプログラムを修正して使い続けたいというご趣旨のようですが、当社には著作権に基づきプログラムを無断で改変されない権利があります*1。もちろん、ライセンス料を追加でお支払い頂けるなら別ですが、お支払い頂けないならば、お客様及び競合のやろうとしていることは著作権侵害の違法行為です。もしも、当社が引き継ぎに協力してしまえば、後で著作権違反を追及しようとする場合に、「承諾していた」「黙認していた」とか言われて、競合側に付け入る隙を与えるだけです。判例上も、ソースコードに関してですが、合意がない場合、ユーザーは、当然にはベンダーに対しソースコードの開示を求めることができないとされています*2



 さて、具体的にどうするかなのですが、常にこういう「法的位置づけ」を前提にビジネス的な判断をして頂きたいと思います。実際には、法務部と一緒に、どうしていくか、相談して行くということになりますが、例えばこうなりますよということで、場合分けをしてご説明しましょう。



 もしも、他のビジネスもやっているとか、今他の部門が他の取引に向けて攻勢をかけているという場合、どうするかですね。その場合には、本当はそういう義務はないことを十分にお客様にご理解頂いた上で、「パッケージ」で合意する感じでしょうか。要するに、他のビジネスで何か「実入り」を頂けるなら引き継ぎに協力するというバーター合意を目指すということです。



 これに対し、他のビジネスはない、これだけですという場合、このままだと切られるだけな訳ですから、遠慮は要らないと思います。

「もちろん、契約終了後にどの会社とお取引されるかは御社にご選択権があります。しかし、それはあくまでも、『新規にWebサイトを作成するコストを負担される』ことが前提であり、弊社の知的財産を流用して他社に引き継がせたいとおっしゃるのであれば、知財のライセンス料金として相応の対価を頂くことになります。ざっと計算するとこれくらいでしょうか。ところで、弊社のこれまでの対応についてご不満があるということで、これに対しましては弊社も反省しておりまして、今後は必ずや御社の期待に応えられるよう、全力を注ぐ予定です。弊社であれば、これまでのWebサイトを修正する費用だけで、貴社のお望みのサイトを構築できるのですが、本来であればこの位なところ、今回特別にこのくらいまで誠意お値引き致します。何卒再考をお願い致します。」


とでも言ってみてはどうでしょうか。



なお、このケースに関連して、皆様の日常的な業務において気をつけていただきたいことは、以下の3点です。

・競合が既にいるところに入る場合には、契約上簡単に切られないようになっている可能性に留意。特に、お客様の「従前のものを改良する前提で見積もって下さい」には慎重に。
・お客様のドラフトに知財の譲渡/ライセンスや終了時の成果物引き渡しに関する条項がある場合には「絶対に」営業限りでサインせず、法務の確認を経る事。
・ふわっと「Webサイト公開及びアフターサポート」とかが業務範囲として書いていると、「サポートにはこれも入るはず」といったクレームを招く可能性もあるので、業務範囲は明確に、制限的に書く

そして、こういうトラブルになったら、イエスともノーとも言う前に、必ず法務に連絡してください!! 親身になって、対応を一緒に考えます!



ざっと、こんな感じであるが、いかがだろうか。


まとめ
高本徹他著『Web業界受注契約の教科書』は、百戦錬磨のウェブディレクター、高本徹先生が、IT業界で「あるある」な事例をふんだんに盛り込んで説明している前半が素晴らしい。

これを研修用のケーススタディとして使えば、ケースを探す/作る手間が省ける上、ケースに対する解説を自分の経験と判例・文献の調査を通じて考えることで、自分自身の勉強になり、まさに一石二鳥であろう。営業向け契約研修講師を勤めないといけない企業法務パーソンに大変オススメである。

 

*1:著作権法47条の3とかは、営業向けなのでカット。ただ、プログラムを渡せといわれる事案であれば、複製物をお客様が所有していない事案だろう。なお、いわゆる業務用システムと同条だと、植松宏嘉『コンピュータプログラム著作権Q&A』115〜116頁でどこまで戦えるかでしょうかね。

*2: 東京地判平成21年2月25日、大阪地判平成26年6月12日等。なお、このブログをお読みの読者の方は、私より遥かにレベルが高いので、東京地判平成22年9月16日はどうかというツッコミをされるかと存じますが、私は無能なので「レイシオデシデンダイではなく、同案件でも開示されていない」くらいしか言えません。

アホヲタ元法学部生の企業法務系エントリ

スキルアップのための 企業法務のセオリー (ビジネスセオリー 1)

スキルアップのための 企業法務のセオリー (ビジネスセオリー 1)

1.はじめに
 当ブログは、基本的には「アニメ&法律系ネタ」と「法学系書評」のサイトであり、企業法務系ブログという自己定義はこれまでなかった。ところが、超有名企業法務系ブログである、企業法務マンサバイバル様に、当ブログを、「おすすめ企業法務系ブログ15+α選」の記事の中で「本格派企業法務ブログ15」の1つとしてご紹介頂いた。
元企業法務マンサバイバル : おすすめ企業法務系ブログ15+α選

法律書評系ブログ、でありながら単なる紹介にとどまらず、関連する実務上のポイントを具体例を示しながら詳しく解説してくださるのが特徴です。

と、過分なお言葉に感謝しきりである。


 昔、ブログの中の人達がやっているツイッターアカウント(@ahowota)を
「法学系でぜひフォローすべきTwitter50選」
法学系でぜひフォローすべきTwitter50選 : 増田くん日記
の中でご紹介頂いたことがあるが、過分なご紹介に感謝するとともに、「当サイトに企業法務系エントリを求めていらっしゃった方は、企業法務系エントリ以外のエントリも多くて困るのではないか」という思いも抱いたところである。


そこで、以下、カテゴリー毎に分けてご紹介したい。


2.企業法務系エントリ
詳解株主総会検査役の実務 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
 実務家の方からの聞き取りを踏まえ、かなり踏み込んで総会検査役の実務について解説しました。広範囲に文献を渉猟していますので、文献インデックスとしても使えると思います。


IT企業法務部員の仕事〜おおまかなスケッチ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
 法務部の仕事を具体的に紹介してみました。


速習!企業法務入門 1.総論〜新人法務部員のために - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
速習!企業法務入門2.NDAで学ぶ契約交渉の考え方 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
速習!企業法務入門3〜免責条項で学ぶ基本法の条文・判例の大切さ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
 若手の実務家の卵として、「自分がペーぺーの新入りの時に、こういうことを教えてもらいたかった」ということをまとめたものです。


3.企業法務系書評
これまであまりなかった「企業法務のフレームワーク」本〜スキルアップのための企業法務のセオリー - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
スキルアップのための企業法務のセオリー」の書評


M&Aの「総合力」をアップさせてくれるM&A関係者の必読書〜「企業内プロフェッショナルのためのM&Aの技術」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「企業内プロフェッショナルのためのM&Aの技術」の書評


難解な金融商品取引法に入門しよう!〜分かりやすい入門書は? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「基礎から学べる金融商品取引法」の書評

「社内弁護士」という選択 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「社内弁護士という選択―インハウスカウンセルの実際の仕事を描いた15講」の書評


インハウスローヤーの仕事が気軽に分かる「小説企業内弁護士」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「小説 企業内弁護士―もし弁護士が企業で働いたら」の書評


下町ロケットから学ぶ知財戦略3ヶ条 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
下町ロケット」の書評


企業を襲うPL訴訟〜興味本位ではなくアメリカPLを真面目に分析した一冊 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「企業を襲うPL訴訟―想像を絶するアメリカの実態とその対応策」の書評


正式契約結ぶ前なら、内定済のベンダを取り替えてもOK?〜なれる!SEと契約締結上の過失 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
なれる!SE 4 誰でもできる?プロジェクト管理」の書評


なれる! SEと法律〜中小企業の法律理解が浮かび上がる - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
なれるSEと法務〜リスキーな対応を強要するユーザとトラブった場合の法的判断 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
なれる!SE 2週間でわかる?SE入門 」の書評


法務部員のための「震災法務」本ベスト3 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
今だと大分エントリの鮮度は落ちていますが、震災直後に震災法務本をまとめました。


具体例豊富なわかりやすい入門書〜「女子大生マイの特許ファイル」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「女子大生マイの特許ファイル」の書評



第三者委員会の限界〜「山一証券法的責任判定委員会」の検討 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
第三者委員会の説明責任〜有責と判断したことに根拠はあるのか? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「命燃やして―山一監査責任を巡る10年の軌跡」の書評と「修羅場の経営責任―今、明かされる「山一・長銀破綻」の真実 (文春新書)」の書評。


依頼した弁護士の訴訟のやり方は裁判官からどう見える? ー 裁判官の「本当の気持ち」と向き合ってますか? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「別冊二弁フロンティア」の書評


東証Project「東方粉飾劇」で学ぶ粉飾決算 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「東方粉飾劇〜粉飾決算を華麗にグレイズ!?〜」の書評



4.その他
判例評釈速報:IBM/スルガ銀行システム開発事件〜東京地判平成24年3月29日判例集未登載(控訴) - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
IBM/スルガ銀行システム開発事件〜東京地判平成24年3月29日の評釈(速報)


ゲーム機発売早々の大幅値引きと法的責任〜マンション値引き判例からの考察 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
某ゲーム機の大幅値引き問題について、マンション値引き判例から検討してみました。


不注意な「契約」をした「インキュベーター」取締役の責任が認められた事案〜カブトデコム事件 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
最判平成20年1月28日判例タイムズ1262号69頁(カブトデコム事件)評釈。


ブルドックソース事件の憲法的検討―企業法務ローヤーのための憲法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
ブルドックソース事件を題材に憲法会社法の融合を考える。


花咲くいろはに見るクレーマー対応の基本〜女将四十万スイに学ぶ三原則 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
花咲くいろはを題材に、クレーマー対応を考える。


黒執事と労働法〜「今年の新人はゆとりだからな」と思っているあなたへ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
黒執事を題材に、労働法を考える。

まとめ
本エントリが、企業法務系記事を求めて当ブログにご来訪頂いた方の少しでもお役に立てれば幸いである。

インハウスローヤーの仕事が気軽に分かる「小説企業内弁護士」

小説 企業内弁護士―もし弁護士が企業で働いたら

小説 企業内弁護士―もし弁護士が企業で働いたら

1.社内弁護士の仕事は?
  インハウス・ローヤー。企業で働いている弁護士である。アメリカ等ではかなりのローヤー資格を持った方が法務部等で活躍されているが、日本では比較的少ない。未だ数百人のオーダーの少数派と言われる。
  インハウスの少なさの理由の一つは、「インハウス」がどういう仕事をしており、どういうところにやりがいを見いだし、悩みを抱えているかが分かりにくいというところだろう。そのため、そういう点がクリアになりさえすればインハウスとして大活躍できる有能な人材が、弁護士事務所のみを志望し、企業に来ないという状況が一定程度あるのではないか*1


  私も、ロースクール生や修習生等から、インハウスってどう? と質問されることが多く、芦原先生の「『社内弁護士』という選択」を薦める
「社内弁護士」という選択 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
と共に、私が周りから聞いているお話をお伝えしているが、「ある程度気楽に読めて、かつ、情報量としてまとまっている」本がなかなかないのが実情であった。


 ここで、最近発売された、中根敏勝先生の「小説企業内弁護士ーもし弁護士が企業で働いたら」は、組織内弁護士のご経験のある中根先生が、小説形式で企業内弁護士の生活を紹介されており、まさに、この意味で優れた一冊である。


2.気楽に分かるインハウスの仕事
  主人公はメガバンクの法務部で勤務するアラサー女子の茜弁護士。
 インハウスでありそうなエピソードを取り上げる各章が緩やかに繋がっており、短編小説集というイメージだ。
  各章のテーマは、主にインハウスが共通で抱える悩みと、平成23年夏時点の法務部におけるホットなトピックで構成されている。
  前者としては、上司の命令に従う必要のある「従業員」としての立場と、一人の弁護士としての立場の相克とか、どこまでを法務部内で「内製化」しどこまでを外部事務所に「外部委託」するのか*2、従業員からの個人的相談への対応、弁護士の異動と転職といった、古くて新しい問題が取り上げられている。
  後者としては、東日本大震災を踏まえたBCPのあり方IFRSの導入、上場会社法といった問題がある。
  もちろん、小説であって法律書でははないし、法律論としてそのテーマを論じ始めればそれだけでそれぞれ一冊の本になる。そこで、各テーマに関する法律論の詳細を論じるというよりも、企業がどういう問題意識を持っているのかの概観とインハウスの視点が触れられているという感じとお考えいただいて良いだろう*3。このような企業の問題意識や社内弁護士の視点は、いずれもインハウスを選択肢として考えているロースクール生や修習生にとって興味深いものと思われる。


 主人公の茜弁護士のキャラは、「妄想」を繰り返す*4、「新しい出会いに積極的だが、最近は若い子に美味しいところを取られる」*5といった設定であり、特定のモデルはない*6そうであるが、どこかに居そうなキャラだなぁという感じである*7
  茜弁護士に好感が持てれば、最後まで楽しめるのではないか。


3.別の楽しみ方も
 もちろん、ロースクール生や修習生が純粋に本書を楽しむというのが、出版サイドの意図と思われるが、現在法務部にいらっしゃる方や、インハウスの方は、別の楽しみ、つまり、「あるある」「ないない」等とツッコミを入れるという楽しみ方がある。


 茜弁護士が、弁護士のバッチを持っているけれども給料が大手・外資系事務所のような高給取りではなく、同期入行と大きく給料が違わず、単に資格手当分少し高いだけ*8というのは「あるある」だし、名刺に弁護士と書くか等の名刺問題も、特にインハウス慣れしていないところだと「あるある」だ。


  ただ、多分著者の中根先生が金融機関のインハウスを経験され、また、現在のお客さんもほとんどが一流企業だからだと思うが、

社内弁護士が辞職を選択せざるを得ないような違法性の強い事案に直面するような事態は、法務部を持つようなコンプライアンス意識の高い会社にとっては、極端に例外的
中根敏勝「小説企業内弁護士ーもし弁護士が企業で働いたら」14頁

という一節がある。
 これは、いわゆる一流上場企業では全くその通りであるが、最近インハウスの募集が増えてきた*9「上場目指すベンチャー企業における一人法務部の法務部長である弁護士」の場合、法務部はあってもそういう問題が「極端に例外的」と言い難い場合もあるのではないだろうか?


 なお、例えば、茜弁護士の勤める開福銀行は、大手銀行が合併してできた銀行で、茜弁護士は一期入行ということであるが、「一期生だと、リクルート時に元々どこの銀行採用かが未だに問題になってるんじゃないかな」とか、そういう妄想も*10膨らむ。

まとめ
「小説企業内弁護士」は、ロー生や司法修習生がインハウス・カウンセルとしての生き方を手軽に知ることのできるという意味で優れた著作である。
 また、既に内部事情を知っている人にとっても、「あるある」「ないない」といって突っ込んで楽しむことができ、その意味でも楽しみは広がる。

*1:もちろん、「弁護士としては優秀だがインハウスが向かない人」もいることは事実であり、全ての人がインハウスになるべきというつもりもない。

*2:「簡単で単純だから外部委託」という部分は間違いなく競争が激しくなるので弁護士事務所は、それ以外を委託されるよう質を磨く必要があるなぁと改めて思ったり。

*3:なお、茜弁護士に聞くというコーナーで、法律論等の補足もなされている。

*4:11頁、65頁等

*5:6頁

*6:iii頁

*7:弁護士と聞いた一般男性に「ドン引き」されるという話が多数書かれているが、中根先生の周りの女性弁護士の実話??

*8:会社によってこの「少し」がどの程度かがかなり違うが

*9:私の感覚では3〜5年目位の弁護士、特に大手でパートナーになれないんじゃないかと不安になっているアソシエイトに電話を掛けてヘッドハントするパターンに、少なからずあるのではないかと思っているが、どうだろう?

*10:たすき掛け人事とかをやっていたら特に

速習!企業法務入門3〜免責条項で学ぶ基本法の条文・判例の大切さ

ソフトウェア取引の契約ハンドブック

ソフトウェア取引の契約ハンドブック

1.条文・判例が大事です
速習!企業法務入門 1.総論〜新人法務部員のために - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
速習!企業法務入門2.NDAで学ぶ契約交渉の考え方 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
 に続きまして、第三弾ということで、お話させていただきたいのは、基本法民商法)の条文・判例が大事ということです。
 もちろん、特別法や学説が大事ではないということを言いたいのではありません。事業会社でも金商法が関わってくることがあったり、下請法にヒィヒィ言ったりと、特別法は重要です。また、学説も、判例通説がない新しい領域では参考になります。
 とはいえ、若手法務部員という限定をつけると、優先順位は大学で学んでいたはずの基本法の条文・判例がきちんとできていることだと思います。


 結局、普通の契約審査等でも、民商法の条文・判例が大事なんですということをご説明するため、今回は免責条項を例に取ってみてご説明いたします。

 さて、ここでお約束。

このエントリはフィクションなの。
でね、登場する条項例、事例、体験談、噂話などは、
ぜーんぶぅ架空のものだよ〜。
だからね、おにいちゃん、実際のものとは関係ないの。
んとねぇ、んとねぇ、作品中に出てくる人物は、
みぃんな20歳以上だよ*1


2.商法526条
 責任制限規定(責任制限条項)は、損害賠償等の責任追及を一定の範囲で制限する規定です。
普通の会社だと、契約書テンプレートに、責任制限規定が既に入っていると思います。だから、一から責任制限条項をドラフトすることはないと思われますが、責任制限の範囲について相手方ともめることはよくあります。その時に、双方が納得できる責任制限条項の文言を考える上では、いったいどの文言がどういう理由で入っているかを理解する必要があると思います。

本件商品の保証期間は乙への引渡後1年間とする。保証期間内に本件商品に瑕疵、数量不足があった場合、甲は乙の選択に応じ、本件商品の無償修繕、瑕疵のない商品への交換、代金減額のいずれかの措置をとる。

よく契約書にありそうな条項です。
しかし、契約審査をきちんとするためには、フォーマットを知る、つまりこの条項がなぜあるのかを理解することが重要だと思います。

商法526条 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2  前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする

  商法は買主検査通知義務を課しており、しかも、直ちに発見することのできない瑕疵でも6ヶ月以内に発見してただちに通知する必要があります*2
 ある意味で、売主の責任を制限してくれる条項な訳です。
もっとも、買主にとってこれは結構きつい。全品検査してすぐに発見できる瑕疵しか想定されないような業界であればいいのですが、そうでないと問題があっても責任が追求できなくなる訳です。
幸いにも商法526条は任意規定、つまり、合意により排除できると解されています。よって、買主側は契約書で排除するように主張する。
 そのような売主と買主の交渉の結果出来上がるのが上記のような保証期間等です。
 このように、民商法の責任条項は、責任制限条項の交渉の前提となるという意味で非常に重要だと思います。


3 悪意と免責条項〜民法572条
 免責条項には、よく「但し悪意又は重過失の場合を除く」と書いています。
その理由について、検討してみましょう。

民法572条 売主は、第五百六十条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

ここでいう、「第五百六十条から前条までの規定」は瑕疵担保責任に関する規定ですね。
民法572条は瑕疵担保責任についてですが、「相手が悪意(知りながら告げなかった事実)」の場合には、免責特約に合意しても効果はないとしています。やはり、民法572条が規定されている趣旨はそのような悪意の場合にはいくら免責と約していても責任を
 同条は強行法規と解されているので、結局瑕疵担保責任については、悪意だとどんなにドラフティングを工夫しても、免責されないということです。
 

 問題は、瑕疵担保責任以外の責任です。確かに、それらについて民法572条は直接は適用されません。しかし、民法527条の趣旨は、売主が瑕疵があることを知って売りつけているという信義則違反を行っている以上、いかに免責を約していても免責の効果を認めることはできないというものです。そこで、他の責任であっても、基本的には同様に考えられます。
そこで、例えば「一切の責任の上限をX円とする」と書いていても、悪意の場合には責任の上限が外れるということになると思います。


4.重過失と免責条項〜裁判例を探る
 このように、商法523条や民法572条といった基本的な条文について検討すると、免責条項がより深く理解できるようになります。
 このような条文知識に加え、やはり判例が重要になってきます。免責条項関係で重要なのは「重過失」の部分ですね。


 例えば、民法572条は、重過失については条文上何も言っていません。これは、反対解釈すれば、重過失であれば特約で免責していい(される)ですが、類推解釈をすれば、重過失もまた特約をもっても免責されないというものであると思われます。
これは、条文だけでは明確になりませんから、判例を確認するということになります。


 私の理解では、判例は分かれている状況だと思います。
重過失の場合に責任制限はできないとする裁判例(東京地判平成15年5月16日判時1849号59頁)もありますが、反対に重過失については責任制限を可能とする裁判例(東京地判平成20年11月19日判タ1296号217頁)もある。
 これをどう解釈すべきかということになります。


その場合には、複数の裁判例を比較・分析するということになると思われます。民法527条に限らず、いわゆる免責条項の効力については事例判断という意味では最高裁判例がありますし、下級審もいくつかあります。
1つの考え方は合理性があれば裁判所はその条項を有効とみるが、合理性がなければ無効とするという評価です。
例えば、約款を考えると、弱者である消費者にも適用され得るということですから、基本的には故意はもちろん重過失でも免責の合理性は否定されると言えましょう。比較的有名な最判平成15年2月28日判時1829号151頁(宝石会社の代表者が、ホテルのベルボーイに宝石入りバッグを渡したところ、ベルボーイが荷物から目を離した隙に何者かにバッグが盗まれた事案)や最判平成10年4月30日判タ980号101頁(宝石運搬を依頼された運送業者が宝石を紛失した事案)については、一応原告はいずれも会社になっていますが、約款が問題となっています。最高裁はいずれの事案でも「ホテル側に故意又は重大な過失がある場合にまで責任制限規定が適用されるのは著しく衡平を害するものであって、当事者の通常の意思に合致しない*3」「故意又は重過失がない限り、荷物紛失の場合の賠償額をあらかじめ定めた責任限度額に限定することは、運賃を可能な限り低い額にとどめて宅配便を運営していく上で合理的*4」と、故意のみならず重過失の場合にも免責を認めない趣旨と読めますが、これは、約款の場合には重過失でも免責の合理性は否定されるという読み方が可能と思われます。


 また、故意・重過失とは直接関係ないものの、免責条項の合理性ないし免責条項に合意した当事者の合理的意思を重視した裁判例は複数出ています。
例えば、東京地判平成15年7月9日では、書籍取次業者と書店の間の継続的商取引について「返品や事故(瑕疵)の申し出期間を2週間に限定した責任制限規定」の効力が問題となった事案ですが、「大量の書物の取引であることから、送返品に伴う事故による紛争を防止し法律関係を早期に確定させる合理的な要請から責任制限規定が規定されている」として、本条項の合理性を認め、有効としました。
また、例えば、システム構築契約において当初委託料の範囲で責任を負うというよくある免責条項ですが、東京地判平成16年4月26日の事案では、作業規模が10倍にもふくれあがっていました。裁判所は、ベンダ側に債務不履行があったと判断した上で、「当初委託料決定後、追加仕様変更が相次いだ結果、プログラムが当初の10倍以上の規模となったという事情から、当初委託料を上限とすることは信義公平の原則に反するとして、請負人が作成しようとしていたシステムの出来高を上限とするという限度で有効」と解釈しました。これは、免責条項に合意した当事者の合理的意思から限定解釈をしたものといえます。このような免責条項を当事者の合理的意思から限定解釈する手法は東京地判平成9年5月29日判タ961号201頁等、他の裁判例でも採用されています。


このような判例の傾向に鑑みると、重過失を免責とする合理的必要性が説明出来る事案であれば、重過失免責が裁判例で認められる余地があるが、さもなくば否定されてもおかしくないという辺りの規範を導くことも可能ではないでしょうか。


5.条文・判例の知識を契約審査に活かす
 そうすると、後は、各契約の審査にこれを活かすということになります。
契約審査は、ビジネスの視点との総合判断ですから、売主の責任を限定しようとすると、買主側に代金を負けろといわれてもおかしくないですし、逆に買主が代金を低くしようとすると売主側が責任を制限して欲しい*5というのは当然です。そういうビジネスの視点を前提にどこまで強く免責条項を主張すべきかという考慮は重要です*6
 この判断のためには、商品の用途や同種商品の事故事例等をもとに、保険等でカバーできてないか等も含めたその取引の総合リスクから、免責条項をどこまで推すかを判断することになると思われます*7


さて、そのようなリスク判断を前提に条項を検討することになります。
買主側であれば、商法526条をきれいに排除している自社ドラフトを使うことになるのだと思います。売主側でもう少し免責を認めて欲しいという場合には「大量迅速処理」といった商法526条の趣旨や東京地判平成15年7月9日に鑑みて責任範囲の限定の方向で交渉することになると思われます。


いあゆる損害賠償責任については、ファーストドラフトは買主側は「免責無し(法律通り)」という方向で出すことが多いでしょうし、売主側は「時間/金額等を区切って完全免責」という方向が多いでしょう*8


後は、両当事者間の交渉ということになりますが、買主側は「法律通り」で押し切るか、「故意重過失を除く」で返すか等を考えることが比較的多いのではないでしょうか*9。「故意と同視できる重過失については最高裁判例上も免責されないというのが通常です(最判平成15年2月28日判時1829号151頁参照)」とでも書くと、結構相手も「しゃぁないな」と思ってくれるかもしれません。
逆に、売主側だと、故意は免責できないという前提で対応せざるを得ないでしょう。1つの問題は、重過失免責にどこまでこだわるかであり、合理性があまりなかったり、免責条項にあまり重点を置かなくていい案件であれば頑張らないで他の条項での譲歩を引き出すというのはよい戦略でしょう。

まとめ
 契約フォーマットに書かれている条項は、実は民商法の条文・判例を結構反映してきちんと作っていることが多い。契約フォーマットを知ることで、民商法の勉強になる。
 そして、このように民商法の条文・判例を勉強しておけば、リスク判断を踏まえた契約交渉において、「何が民商法のベースで、何が契約条項でこれをひっくり返す部分なのか」「どこまでやると判例で無効とされるのか」を念頭に交渉できるので、交渉がうまくなるという効果がある。
 もちろん、学説等も勉強するにこしたことはないが、まずは、最初に自社の標準的な契約フォーマットをもとに、民商法の条文・判例を勉強することは、有益ではないだろうか。

*1:はじるすと刑法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常参照

*2:最判昭和47年1月25日裁判集民105号19頁参照

*3:最判平成15年2月28日判時1829号151頁

*4:最判平成10年4月30日判タ980号101頁

*5:さもなくば割りに合わない

*6:免責条項が重要なら、他の条項で譲ってバーターでというのはありえます。

*7:売主の場合、場合によってはback to backができれば、あんまり免責を頑張らなくていい案件もあるかもしれません。

*8:バルクセール的案件だと、例外なく責任0という件もありますが、その分だけ値段も安くなってしまいます。

*9:故意・重過失の証明責任という問題もありますね

速習!企業法務入門2.NDAで学ぶ契約交渉の考え方

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 06月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 06月号 [雑誌]

1.はじめに
速習!企業法務入門 1.総論〜新人法務部員のために - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
にて「若手が語る、新人の頃教えてもらいたかった企業法務入門」というかなり大それたテーマで語らせていただいたところ、弁護士の先生を含む多くの方から反響をいただきました。私に語る資格があるのかといえばたぶんないのであろうが、「若手の素朴な感想」ということでご容赦いただきたいと思います。
さて、第二弾を何にしようかということで、 NDAで学ぶ契約交渉の考え方とさせていただきました。まずは、「お約束」
こ、この中にある事例は、す、全て「一般的な事例」「ありそうなフィクション」で、決ーっして、現実にあった事例じゃ、な、ないんだからねっつ!?


2.秘密保持契約/秘密保持条項
 NDA(Non-Disclosure Agreement)。契約の形を取れば秘密保持契約、一つの契約の条項であれば秘密保持条項と言われます。ある意味法務の「基本のき」といえましょう。
 NDAは、当事者間で秘密の開示が必要となった場合に、「きちんと秘密を守ってね」という趣旨で結んでもらうものです。ライセンス契約を結んだり、提携をしたり、M&Aをしたり等々するには、その前にお互いをよく知ることが必要です。例えば、A社の技術をB社がライセンスをして欲しいとお願いする場合、B社としては、お金を払うかどうか、払うとしていくら払うかの判断材料としてA社の技術がどんなものか分析・評価したいと思うでしょう。しかし、A社としては、分析・評価のためという名目であっても、技術をB社に教えてしまえば、B社が勝手にその技術を使って競合品を作ってしまうかもしれない。そこで、技術情報はライセンス契約を結ぶかの評価のためだけに用いて他の用途には用いません、第三者にもその技術を教えませんとB社が約束することと引き換えにA社が技術情報を伝えることで、両社の利害を一致させるというのが、NDAの基本構造です。
 さて、NDAを切り口として、企業法務に関連するいろいろな説明ができると思いますが、今回は、「契約交渉をどういう考えで進めていくか」を、NDAを例に説明するという形にしたいと思います。
逆にいうと「個別の条項の解釈」という観点からの議論は割愛させていただきます。一応、若手法務部員が参考になる平易なものとしては、Business Law Journalの2010年6月号の特集「日常業務だから見落としやすい!秘密保持契約に潜むリスク」の各記事が挙げられると思いますので、文言等についてはこちらをご参照下さい。
 そのような趣旨のエントリですので、以下のサンプルは説明の便宜上のものであって、これを契約実務で利用することによるいかなる不利益についても責任は持てませんのであしからずご了承下さい。あと、JV(合弁契約)のように、双方が情報を提供し合う形態もありますが、本エントリでは、一方が他方に情報を提供する契約形態を念頭においています。


2.契約交渉の基本的な考え方
 契約交渉の基本的な考え方は、両当事者がwin winの関係を形成することで、当社が利益を得るということではないでしょうか。もちろん、例外的にゼロサム・ゲーム的に一方が損をすると、他方が得をするという契約もあるでしょうが*1、多くのビジネスの契約は両当事者いずれも何らかのメリットがあることが多いと思われます。
 そうすると、ビジネスサイドに勝手にさせておけばいいじゃないかとなるかもしれませんが、そうは簡単にはいきません。例えば、契約の条項の内容によっては、自社の利益が守れず、相手においしいところだけを取られて泣き寝入りということにもなりかねません。そこで、ビジネスサイドの実現したいメリットをきちんと実現できるように法務部が契約書ドラフティングの形でサポートすることが必要なのです。
 後は、その契約が意外な法律に違反するリスクがあるといった、ビジネスサイドの気づかない「法的な落とし穴」がある場合には、これを指摘してあげるのも法務の大事な仕事です*2


 では、NDAを例にとって考えてみましょう。


3.自社案の「合理性」―情報を受領する側を例にとって
 まずは、自社が情報を受領する側ということを仮定してみましょう。
情報を受領する方にとっては縛りがないならないにこしたことはないので、まあいいじゃないですか、僕達を信用して下さい、悪いようにはしませんから等といって、契約を結ばずに情報を受領してしまうのがベストなのかもしれません。ただ、NDAを結ばないといけないということになると、最小限の義務に留めたいというのは人情です。義務を最小限に抑えるという観点を考えると、例えば、以下のような条項が考えられます。

第●条(秘密保持)
1.甲及び乙は、相手方の技術上又は営業上の情報のうち、相手方が当該情報を秘密として管理し、かつ、秘密情報である旨を明示して開示したもので、以下の各号に掲げるものを除くもの(以下「秘密情報」という。)について、その秘密を保持するものとする。
(1)秘密情報の開示を受けた当事者(以下「被開示者」という。)が秘密情報を開示した当事者(以下「開示者」という。)から開示を受け又は取得した時点で既に公知であったもの。
(2)開示者から開示を受け又は取得した後公知となったもの。
(3)開示者から開示を受け又は取得した時点で、被開示者が所有していたもの。
(4)被開示者が開示者以外の第三者から取得したもの。
(5)被開示者が独自に開発したもの。
(6)行政機関、司法機関、証券取引所その他の公的機関から開示を命じられたもの。
2.被開示者は、開示者の承諾を得て秘密情報を第三者に開示することができる。
3.被開示者は、秘密情報を被開示者及びそのグループ会社の役職員、弁護士、税理士、公認会計士その他の専門的アドバイザーに対して開示することができる。
4.本条により被開示者が秘密保持義務を負う期間は、当該秘密情報の開示を受け又は取得した時点から1ヶ月間に限られるものとする。

 このエントリでは、秘密保持条項について細かい話をすることを本意としていませんし、細かなテクニック*3の紹介も本意ではありませんので、簡単な解説に留めます。
 秘密保持契約の基本的な構造は、秘密は何かを定義し、秘密についてどう受領者側が管理すべきかを規定するということになります。
情報を受領する方は秘密については定義を狭くしたいし、受領側が自由に使えるようにしたい訳です。例えば、相手方が当該情報を秘密として管理し、かつ、秘密情報である旨を明示して開示という部分は、情報が秘密であることを明示してもらわないと何を秘密と取り扱うべきか分からないし、実際に自分で秘密として管理していないものを相手に秘密として管理しろというのは不公平だろうという考え方な訳ですね*4。また、秘密の定義のうちの例外はできるだけ広く取ろうということで、比較的広い(1)〜(6)項目を例外として挙げています。
なお、3項の「被開示者及びそのグループ会社の役職員」というのは、例えば、ホールディング会社と事業子会社が一緒に関与するプロジェクト等の場合には、きちんとグループ会社を入れておかないと、別途(書面による)承諾をもらわないといけなくなる可能性もあるので、必要に応じて入れておきましょう。


まあ、この条項の解説をし始めると、それだけで紙幅が尽きてしまうのですが、本題は契約交渉でした。そうすると、上記の条項を当社(秘密の開示を受ける側)の第一案として提示しますか? というのが問題となります。
これは、事案によるとしか言いようがないのですが、私の考えとしては、事案によっては、無駄に厳し過ぎて、交渉を意味なくこじれさせるんじゃないかなぁという辺りが気になります。2点具体的に指摘しますと*5使用目的の限定がないこと1ヶ月という期間でしょうか。
当該事案において使用目的は問題とならず、あくまでも外部にもれないことだけが重要という案件であれば、このまま提案してもいい気がしますが、例えばライセンス契約を結ぶ前に技術情報を得るという場合には、やっぱり使用目的が大事なので、無駄な紛議を招かないよう、私だったら、「本契約の履行以外の目的に使用してはならない」等の目的外使用の禁止を入れます。これは、「自社が情報を受領する側でも」ということです。
また、ドッグイヤーなので1ヶ月後には陳腐になるというのであれば、1ヶ月でもいいのでしょうが、普通の場合はもっと必要かと思われます。開示を受ける側の第一案であっても、1年とか2年とかにした方がいい場合も多いかもしれません*6


 確かに、*7戦略的にかなりキツイ条項を第一案として投げるということはあり得るでしょう。ただ、何がキツくて何がキツくないか分からないまま、自社に有利と思われるものだけをただ並べるというのは、相手との円滑な交渉が害される恐れがあると考えます。
ビジネスは相手の技術を高く評価してプロジェクトを進めていきたいのに、目的外使用を禁止しないってのは、競合品を作るつもり?とか、1ヶ月って、うちの技術の賞味期限が1ヶ月で切れると思ってる訳?と、相手をむやみにオフェンドしてしまう可能性はないでしょうか。
相手が絶対呑めないと分かってる条項は、提案しても相手が呑まない訳です。そこで、交渉が長引く。もちろん、交渉が長引いてもいいから戦略的に最初はものすごい強いポジションで提示するんだというのはあり得ると思いますが、そういう場合を除いては、相手とのWinWin関係をサポートするという意味では、法務が意味のないところで足を引っ張る必要はない、こう考えます。案件や双方の立ち位置を理解した上で、自社の利益が守れるのに何が必要な条項・文言かを考えた上で、若干そこより上のボールを投げるというイメージで個人的にはやっております。


 感覚的に言うと、受け取った相手が、「結構きついなぁ。でも、相手方の立場であれば、こういう条項を提示するのも分かるよね」という程度の条項を第一案として提示するといいのではないかと思います。もし全条項が嫌味なほどに自社に有利になっていると、*8契約当事者としての合理性が疑われ、契約交渉が常識的な期間を超えて長引く等の不利益をもたらすことの方が多い気がします*9


4.無駄な議論の「呼び水」になる案を出さない
 次は、情報を開示する立場に立ってみましょうか。1つの条項案です。

第●条(秘密保持)
1.甲及び乙は、本契約に関連して、文書、口頭、電子媒体、電気通信回線その他方法の如何を問わず相手方から開示を受け又は取得した技術上又は営業上の情報(発見、知見、ノウハウおよびサンプル等を含む)のうち、以下の各号に掲げるものを除くもの(以下「秘密情報」という。)を厳に秘密として保持するものとし、第三者に一切開示、提供又は漏洩してはならず、本契約の履行以外の目的に使用してはならない。
(1)秘密情報の開示を受けた当事者(以下「被開示者」という。)が秘密情報を開示した当事者(以下「開示者」という。)から開示を受け又は取得した時点で、既に公知であったことを被開示者が立証できるもの。
(2)開示者から開示を受け又は取得した後、被開示者の責によらず公知となったことを被開示者が立証できるもの。
(3) 開示者から開示を受け又は取得した時点で、既に被開示者自らが正当に所有していたもので、かかる事実を被開示者が立証できるもの。
(4)被開示者が、正当な権限を有する第三者から、秘密保持義務を課されることなく正当に取得したことを立証できるもの。
2.被開示者は、開示された秘密情報について善良な管理者の注意義務を持って管理し、開示者の事前の書面による承諾なくして秘密情報の複写、複製物(ハードコピー、電磁的コピーその他複製の形式を問わない)を作成してはならない。
3.被開示者は、開示者の事前の書面による承諾を得ることで、秘密情報を第三者へ開示し、又は本契約の履行以外の目的のため利用することができる。
4.被開示者は、秘密情報を、本契約の履行に合理的に必要な範囲で、その役職員、弁護士、税理士、公認会計士その他の専門的アドバイザーに対して開示することができる。ただし、この場合でも、被開示者は当該役員等に対し、本条と同様の秘密保持義務を遵守させるものとする。
5.被開示者は、行政機関、司法機関その他の公的機関から、正当な法令上の権限に基づき開示を命じられた場合には、当該命令に従うために必要最小限の範囲で秘密情報を当該公的機関に対し開示することができる。但し、被開示者は、公的機関に対して秘密情報を開示することが要求される場合であっても、可能な限り、事前に開示者にその旨を通知し、かつ情報の秘密が保持されるよう最善の努力をした上で開示を行うものとする。
6.被開示者は、本契約が終了した場合又は開示者から要求があった場合は、速やかに開示者より開示・提供された秘密情報(複写、複製物を含む)の全てを、開示者の指示に従い、返却又は廃棄する。
7.被開示者は、本条に違反した場合には、開示者に発生した全損害を賠償するものとする。

 うわ〜長いなぁ、嫌だなぁと思わないでください。契約の種類によりますが、1つの条文が複数ページにまたがることもそうおかしくはありません*10
 開示する方ですから、その秘密がきっちり守られるようにしています。秘密の明示をしなくとも、開示した技術上又は営業上の情報のうち例外条項に該当しないものは秘密扱いになるとか、例外条項が、「(被開示者側が)立証できるもの」となっており、例外条項該当性を被開示者(相手方です)が立証しないといけないという立証責任の転換を行っているという辺りがポイントでしょうか*11


 さて、情報を開示する方は、実は不利な立場にいる方が多いと思われます。つまり、ライセンス契約なら、自社の資金が足りなくて実施しても規模が小さいところ、相手にお金があって、より大規模に実施できるからライセンスアウトする訳です。そういう意味で、あんまりギチギチな条項を書いても非現実的というのがあるかもしれません。


 そういう観点から見ていくと、周辺的事項についてギリギリ書きすぎないことや、無駄に権利を縛る呼び水を作らないというのは、弱いものがその核心的利益を守るという意味では重要かもしれません。
 上記の条項では、あまり周辺的事項についてギリギリ書きすぎないという点は問題にならないのかもしれません。ただ、相手がグループで対応するのがわかっていれば、4項に「被開示者及びそのグループ会社の役職員」と入れてもいいと思いますし、実際には「本契約が終了しないのに自社が相手に情報の引き上げを求める」という場面が現実にはあまり考えられないなら6項は「本契約が終了した場合」でいいかもしれません。相手に有利なことを書いてあげても、特に自社に実質的弊害がないならば、一定範囲で相手に有利なことを書いたドラフトをすることも1つの案です。全部自社に有利なことしか書いていないというのは、立場が弱い側だと、どうかなぁと思うことの方が多いと思います(なお、戦略的に第1案で自社に有利なことだけを書くという戦略があること自体は否定しません)。
後、議論の「呼び水」という意味では、例えば、第7項ですね。「被開示者は、本条に違反した場合には、それにより開示者に発生した全損害を賠償するものとする。」と書くと、相手が普通の当事者でも相当因果関係の範囲に限るとか書いてくるでしょうし、場合によっては、免責規定を入れてくるかもしれません。どうせ民法上の原則に戻るだけであれば、そういう議論の呼び水になる条項を入れないのも1つの手でしょう*12


5.自社の核心的利益を守る
こういう風に、双方の立場や交渉力に鑑みた第一案を出して、後はお互いの交渉です。最近はワードファイルで修正履歴を付けてやり取りをすることが多いです。
本当に重要な契約だと何度も行きつ戻りつしながらということもあり得ますが、日常的な契約だと、第2案くらいで自社の最終的な態度を決めるつもりで提案しないといけない場合も多いと思われます。
その際のポイントは、自社の核心的利益は何かだと思います。つまり、その契約において、NDA、秘密保持が非常に重要というのであれば、他のところを譲ってでも、NDAの部分だけは当社案を呑んでもらう必要があります。契約交渉では、「パッケージ」といって、「当社の×項についての●●という案を呑んでもらえるなら、貴社の×項と×項の●●と●●いう修正を呑みましょう」と、バーターで契約条項の交渉をすることはままあります。


 結局その取引においてビジネスサイドが実現したいこと、譲れないことは何なのか、最低限どの部分をどう直せば自社の核心的利益を守ることができるのかに尽きると思います。案件毎にその核心的利益は異なり、だからこそ、契約審査に正解はない、こう思うのです。相手があることですから、全ての条項で自社の思い通りになるなんてことはありえません。ビジネスサイドと相談しながら、どこを当社の案に固執し、どこを譲るかを考えるということだと思います*13


 なお、実務上は、8割方詰めの協議が実務レベルでできた段階で、実はトップ同士で握ってましたという恐ろしいことが起こったり、起こらなかったりします。
NDAについてトップ同士で握るということはあんまりないのでしょうが、ロイヤリティについて、実務レベルでスキームを作って「売れるなら高い額を払いたいが、売れないものに金は払いたくない」「研究開発投資を回収しないといけないからできるだけまとまったお金を最初に」という両当事者の利害を合致させた「針の穴にらくだを通すようなスキーム」がやっと合意に至ったとおもいきや、実はトップレベルで「イニシャル1億でその後は売上の2%」と握っていたことが発覚したとか、そんな実務担当者の「ため息」が聞こえてくる事例があるような、ないような。ビジネスサイドに念入りに確認しましょう、本当に!

まとめ
 NDAを例に、契約交渉において法務の若手担当者はこういうことを考えているということを少しまとめてみた。
 結局、
速習!企業法務入門 1.総論〜新人法務部員のために - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
でご説明した「自社を知り」「相手を知り」「案件を知り」「フォーマットを知る」ことの重要性をNDAを例にとって解説しただけになってしまった気もするが、何らかの参考になったのであれば幸いである。

速習!企業法務入門3〜免責条項で学ぶ基本法の条文・判例の大切さ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:和解契約等、紛争がこじれた後はこういうのが多い気がします

*2:独禁法とか、下請法とか、金商法とか、弁護士法とか…。

*3:例えば、「秘密を開示する側は、秘密保持期間を長くしたいところ、こっそり「存続条項」としてたくさんの条文が列挙する中に秘密保持を押し込むと、相手が気づかずに本契約終了後も無限(?)に秘密保持が存続する」といった話の真偽を語る場ではないと考えていますので、そういう話はいたしません。

*4:なお、明示の方法としては、有形の媒体であれば当該媒体の認識可能な箇所とするのでしょうが、それ意外はどうするか等細かな論点はあります。

*5:人によっては、もう少し気になるところが多いかもしれません

*6:業界によって違うのでしょうが。

*7:これはキツイというのが分かった上で

*8:特殊な一部の会社の場合を除いては

*9:この辺りについては、他の諸先輩のご意見も拝聴させていただきたいです。

*10:M&A契約における表明保証条項とかはその典型ですね。それが3行とかだと、むしろそっちの方がおかしいと思います。

*11:要件事実とか証明責任における法律要件分類説を法科大学院で学んでいると、この辺りはスラっと理解できるのではないでしょうか。後、この条項案についても詳しい解説はいたしません。

*12:もちろん、本契約全体の損害賠償が限定される場合に、秘密保持の部分のみ原則どおり相当因果関係の範囲に戻すとかいろいろな意味がある場合もあります。あくまでも、1つの「考え方」の例です。

*13:ビジネスサイドは、その条項の法的「意味」がわかってないことも多いので、その「相談」は法務がリードして上げる必要があると思います。