アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

社会的抹殺の危機に瀕するSOS団!?ー涼宮ハルヒの反社条項

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

1.SOS団とは
 SOS団とは、言わずと知れた「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」のことである。
SOS団の活動は、宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことであり、宇宙人、未来人、超能力者と一緒に、町内を散策したり、合宿に行ったりといった活動を実施している*1


2.反社条項とは
 ところで、近年、反社条項といわれるものが、金融機関を中心とした多くの契約についてくるようになった。
反社条項とは、

私は、現在、次の各号のいずれにも該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約いたします。
1.暴力団
2.暴力団
3.暴力団準構成員
4.暴力団関係企業
5.総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等
6.その他前各号に準ずる者

私は、自らまたは第三者を利用して次の各号に該当する行為を行わないことを確約いたします。
1.暴力的な要求行為
2.法的な責任を超えた不当な要求行為
3. 取引に関して、脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
4.風説を流布し、偽計を用いまたは威力を用いて貴社の信用を毀損し、または貴社の業務を妨害する行為
5. その他前各号に準ずる行為

http://www.zenginkyo.or.jp/news/entryitems/news201125.pdfを参考にした

 といった条項である。要するに、「自分は暴力団とかの反社会的な人でないし、反社会的行動も行いません」と表明させ、その上で、仮に違反があれば、契約が解除されてしまうというものである。

 このような条項がなぜ必要なのか。それは、暴力団その他の反社会的な集団が存在し、これらが不法な利益を獲得するために、善良な市民や企業から金品を巻き上げたりするために、暴力や嫌がらせ行為を行って、一般市民の生命や財産を脅かしていることから、このような集団と取引をすることで利益を上げることは企業として許されず、よってコンプライアンスの観点から法的にも反社会的勢力を排除することが必要だからといわれる*2

 ここで、反社会的勢力の実効性を確保するためには、現役の暴力団員だけを対象にすることはできない。「もう私暴力団辞めました」と言われたら終わりではなく、反社会的勢力を辞めてからも約5年*3は依然として「反社会的勢力」として、契約を解消すべきである。


3.SOS団が危ない!?
 すると、SOS団は反社会的勢力にならないか?
ここで重要なのは、反社会的勢力という概念は「暴力団」を中核とするものであり、単なるクレーマー等、暴力団と無関係の反社会性のある個人や団体は「反社会的勢力」ではないのである*4

 これを見る限り、目的のためには誘拐をも厭わない、橘京子の入っているアンチ「機関」組織*5であれば反社会的勢力になる可能性はあるが、SOS団は暴力団とは無関係だから大丈夫


...と思っていた。


 金融法務事情掲載の村上他論文*6によれば、反社会的勢力の認定は以下のようになる。

 まず、指定暴力団員等であれば、金融機関の自社データベースや、警察の情報提供を受けることにより、反社会的勢力性を認定できる。
問題は、「多くの反社会的勢力が隠れている」ということであり、データベース等にひっかかってこない反社会的勢力も多いのである。
そこで、反社会的勢力の認定においては、その者が取引の過程でどのような行動を行うかを把握し、そこから、「これは単なるクレーマーではないから、反社会的勢力だ」といった判断をするのである。

 具体例としては、以下のような例が挙げられている。

(銀行の)支店が手続ミスを行ったところ、そのミスについて、Xが不当要求を行った。
Xは、(1)連日、数時間にわたり、来店し、または電話をかけて不当要求を繰り返していたが、(2)そのうち「誠意を見せろ」「家族はどこに住んでいるんだ」等の文言を用いて不当要求を行うようになり、さらには、(3)暴力団との関係も示唆するようになった。また、(4)行員が謝罪に訪れた際には行員を長時間拘束したことがあった。
引用元:前掲村上泰、柊木野一紀、高山梢著「反社会的勢力の認定と立証ー暴排条項該当性の実務的判断」金融法務事情1884号45頁の事例2

この場合には、(1)の段階では「単なるクレーマー」との識別ができないので、反社会的勢力とは認定できない*7。しかし、(2)や(3)の段階になれば、もはや「反社会的勢力の不当要求と同様のもの」と言え、反社会的勢力との認定が可能になる*8



さて、SOS団はどうだろうか?


SOS団が、団としての活動のため、パソコンを必要とした。その際の取引方法を確認しよう。


まず、コンピュータ研究会の部室に赴くやいなや、唐突に「パソコン一式いただきにきました。」と伝え、驚く部員に対し、「1台でいいからパソコンちょうだい。」と言う。
当然のように断られると、「四の五の言わずに1台よこせ。」と威圧的な言辞を弄し、部長が断ると、突如部長の右腕をつかみ,同行させた朝比奈さんの胸をさわらせた上で、その様子を写真に撮影し、更に部長の背中を蹴って、みくると部長が重なりあう様子を写真に撮影し、「あんたのセクハラ写真はばっちり撮らせてもらったわ。」「この写真を校内にばら撒かれたくなかったら,とっとと耳そろえてパソコンよこしなさい。」「部員全員がこの子を集団で輪姦したって言いふらしてやる。」等と脅したのである。


いや、これは、ストレートな暴力をなるべく避ける現在の暴力団もびっくりの、「旧世代の暴力団のやりかた」そのものであろう。
もう、これだけで十分に、「クレーマーレベルを超越する不当要求」と言えよう。

そう、SOS団は反社会的勢力なのである


まとめ
SOS団は反社会的勢力であり、反社会的勢力の構成員である涼宮ハルヒキョン、朝比奈さん等は、少なくともSOS団加入中及び脱退後5年間は、銀行をはじめとする多くの企業から取引を拒絶され*9、また、今後SOS団に入りそうな(?)佐々木らは、加入前から「反社会的勢力関係者のお友達(関係者の関係者)」として審査が厳しくなり、加入したら最後、キョン等と同じような扱いとなってしまう。
反社条項が一般化するにつれ、SOS団は社会的抹殺の危機に瀕する!

*1:なお、過去に行って中学校のグランドに奇抜な模様を描く手伝いをしたり、宇宙人の暴走を止めたりするのは、「キョン」が個人的に行っていることであり、SOS団としての活動ではない点に留意されたい。

*2:主に、第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会編「業界別民暴対策の実践」8頁以下を参考にした

*3:廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条5項2号ロは、5年以内に暴力団員であった人を欠格事由とする

*4:村上泰、柊木野一紀、高山梢著「反社会的勢力の認定と立証ー暴排条項該当性の実務的判断」金融法務事情1884号37頁参照

*5:名前不明

*6:前掲村上泰、柊木野一紀、高山梢著「反社会的勢力の認定と立証ー暴排条項該当性の実務的判断」金融法務事情1884号45頁参照

*7:正確には、反社条項の行為要件に該当するとの認定ができない

*8:正確には、反社条項の行為要件に該当すると認定できる

*9:上記の反社会的要求場面は、テレビ等で放映されたことから「公知」となっており、銀行等がそれにもかかわらず彼らと取引すれば、監督指針違反となる。なお、山土模型店等のすでに取引している企業はコンプライアンス上の疑義があるので、即時契約を解除すべきだろう。