- 作者: 天野こずえ
- 出版社/メーカー: マッグガ-デン
- 発売日: 2003/10/03
- メディア: コミック
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時はAD2302年2月頃*1、季節は夏。
見習い(シングル)ウンディーネ、水無灯里は、アリシアさんに同行してもらった水上実習で、お客さんが乗ってくれないかと首を長くしていた。
お客さんが一人前の白ゴンドラに乗るのを見ながら、まだ見習いの黒ゴンドラには乗ってもらえないのだろうなぁと思い、ちょっと寂しがりながら伸びをしていたところ、突然もみあげを引っ張られた*2。
サラマンダー見習いの暁というその男は、浮島への空中ロープウェー駅までの運送を依頼し、灯里はその依頼を受けた*3。
緊張で、船をこぐのが散歩中の犬よりも遅く、「もみ子超ノロ伝説」を作りながらも、最後は得意の逆漕ぎでロープウェーの終電前に到着した灯里。ウンディーネさんと呼ばれた灯里はすっかり舞い上がってしまい、アリシアさんに「ちゃんと代金はもらった?」と問われるまで、運送料のことは考えていなかった(AQUA第2巻Naigation06初めてのお客様より)。
2.刑事責任について
この事案において、暁の刑事責任を追及することは困難であろう。
ゴンドラによる運送というサービスについては、「サービスを受ける前から代金を払わない・払えないと思っている場合」でなければ、刑法上の処罰が不可能なのである。
刑法の詐欺罪は、人を騙してサービスをさせる場合を罰しているので、「サービスを受ける前から代金を払わない・払えないと思っている場合」については詐欺罪による処罰が可能である。
しかし、サービスを受けた後に金を払わずに浮島に帰ってやろうと思った場合、サービスを受ける時点では、人を騙している訳ではないので、詐欺罪での処罰が不可能である。
そして、金とか物を*4奪うという、有形の財物を奪う類型は、窃盗罪で処罰できるが、「ロープウェー駅までの運送」は無形のサービスであり、窃盗罪の対象にはならない。
ここで、暁は「半人前ってことは料金も安いのか?」
「半人前の半人前による半人前のための黒いゴンドラ、そのための安い運賃なんだろう?」
「半人前の運賃までしかオレ出せねーぞ」
と、半人前の運賃分の代金は持っていることを前提とした供述を行っている。
特筆すべきは、30ページの真ん中のコマであり、よく見ると、暁さんが小銭入れ中の小銭を数えている。
このような状況証拠からは、サービスを受ける前から、半人前分の代金を払わないつもりと認定することは困難であり、暁のただ乗りは無罪としか言いようがない。
3.民事責任について
暁は、運送契約に基づく代金債務を支払っていないのだから、
民事上の債務不履行責任を負う。そこで、6月*5に会った際に、支払いを請求すれば、暁は支払いを拒めない。それでも払わなければ、裁判所に訴えて、暁所有の気候制御用の釜を売り払うこともできる*6。
4.恐怖の短期消滅時効
ところが、暁の債務は、ARIA単行本第2巻の時点(マンホーム暦2303年2月)で既に消滅してしまっていたのである。
通常の民事債務は10年間行使しないと消滅する。商事債務だと5年である。
ところが、民法は170条以下で、短期消滅時効を定める。
医師、助産師又は薬剤師の債権や工事設計施工管理業者の債権は170条で3年で時効消滅する。
弁護士等の債権は、172条により、2年間で時効消滅する。
生産者、卸売商人又は小売商人が売却した商品等の代金債権や、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権、教育者の生徒に対する債権も173条で2年で時効消滅する*7。
もっとも恐ろしいのは、
演芸等を業とする者の報酬債権、運送賃に係る債権、旅館、飲食店等の債権、動産のレンタル料に関する債権であり、174条により1年で時効消滅してしまうのである。
そこで、灯里がARIA第2巻でケットシーと楽しいカーニバルをしていた頃には、灯里の初の運賃債権は消滅してしまったのである。
灯里は、(1)暁から「運送賃 ●円*8を必ず支払います●年●月●日」という念書を取る*9、(2)暁を裁判に訴えるといった債権保全措置をとらなければいけなかったのである。
なお、消滅時効によって消滅した債務について、その後に支払うことは差し支えない*10ので、アリシアさんに頼んで、「暁さん、うちの灯里が最初のゴンドラ料金をもらってないみたいなんだけど、うふふ」と言ってもらえれば、債務履行の可能性は高いのではないだろうか。
まとめ
ウンディーネにとっては、短期時効はその権利行使に関する重大な障害となっている。
債権保全策を万全にしなければ、取りっぱぐれてしまうのである。
ゴンドラ協会の常務理事に就任したアリシアさんの手腕により、法改正等がされるのを期待したいところである。