法務の私が”即レス”をする前に裏でチェックしている3つのこと
1.今年一番感動したブログ
私が、2021年に読んだ中で、「一番感動した」ブログ記事がこちらの「法務の私が"レスが早い"と言われるために裏で頑張っている3つのこと」である。
この記事は、サメ好きな「法務のいいださん」こと飯田裕子さんが、自分の仕事のノウハウを惜しげもなく開示してくれるものであった。
とても正しい。IT系スタートアップ法務は必ず真似すべき。ただ、伝統系大企業だと、ビジネスチャットでの公開情報では不十分で、情報入手は事業との人脈力勝負であるとか、よくある雛形以外に怪しい前前前前任者みたいな人の作った雛形等を含めると覚えきれない等、限界はある。 #新人法務パーソンへ https://t.co/hfJahf1vaV
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2021年1月14日
思わず、大絶賛の引用リツイート*1をしてしまったが、もし自分が今IT系スタートアップ法務にいれば、必ず「法務のいいださん」と同じことをやるだろう、と強く確信するエントリであった*2。なお、読書はインデックス*3作り、というのは、既に私も実践している*4。
ユニークなご経歴をお持ちで、現時点で純粋な法務そのものは半年、ということであるが、「人生何回目ですか!?」というレベルのスゴ技が披露されているので、全ての法務パーソンは、参考にすべきである。
さて、私も「即レス」派法務パーソンとして、色々なノウハウを蓄積しているが、「いいださん」のエントリに強く啓発され*5、今回は、以下のエントリの続きという意味も込めて、法務ノウハウの共有の趣旨で、「即レス」前の留意点を3つ挙げてみたい。
2.「即レス」と「お客様満足度」の向上
今は、ベンチャーでかなりスピード感のある弊社でも、「法務は熱量がすごくてレスが早い」「爆速チェック」「次にもし転職したら、次の会社の法務のレスが絶対遅く感じて困りそう」という評価を社内メンバーからもらっています。これ、すごく嬉しい。
基本的に、私は某弊社において、法務の中の評判はともかくとして(笑)、いわゆる「お客様部門」である社内の事業部門や法務以外の管理部門の評判は悪くないと思われる。その一番の理由はスピード感がある対応であり、原則として「即レス」して回答してしまっていることがあり得るだろう。
ここでいう「即レス」には2つの種類のものが存在することに留意されたい。
1つ目の即レスは、「YES」「NO」「このリンク先のとおり」等の、簡単な回答がすぐに(概ね5分以内に)帰ってくるというものである。例えば、「うちの会社って、契約する時、社長じゃなくて、営業本部長(仮)の印鑑でよかったでしたっけ?」等、定型的によく質問される事項(なぜか担当者は焦っていて、早く回答を欲しがっていることが多い)がある。
そういう「定型的な質問事項」に対する回答は、それを毎回個別に回答を考え、ポチポチ打ち込んでいると到底5分とかでは対応できないものの、各社のイントラネット*6上にアップしておけばいいわけで、このURLを付けて「即レス」で返信すると、ビジネスサイドからは、かなりありがたがられます*7。
同じようなやり方のツイートが最近バズっていたので、ご参考まで、ご紹介します。私の、メールで即レス回答法と、法律相談においてフリップを示して説明のいずれがベターかは「それが法律相談をするほどの内容か」、にもよるとは思いますが、基本的な発想は同じだと思います。
「借地借家法で定めらている賃貸人から解約できるケース」「損害賠償の制度」「消滅時効」「薬機法NGワード」などをそれぞれちょっとしたフリップにまとめて法務相談の時には常に持参するようになって、相談時間が短縮しました。どうせみんな同じようなことを何度も聞くので…
— 渡辺さん@いわしブックス (@watanababy2010) 2021年1月14日
「請負と委任の違い」「印紙税一覧」「普通借家と定借の違い」「景品規制」のフリップもよく使います。
— 渡辺さん@いわしブックス (@watanababy2010) 2021年1月14日
「ごめん、ちょっといい?」の時にフルセットで持っていくので「いきなり呼んだのにおおまかな答えが出る都合のいい女扱い」されます。「それメモらせて」用にコピーも何部か用意しておくとベター
そして「即レス」の2つ目は「とりあえず受領したよ」という趣旨のレスを、メール受領後概ね5分以内に返すことである。
XX様
法務部(仮)のアホヲタろなー(仮)でございます。ご連絡ありがとうございます。
ご依頼いただきました「業務委託契約書」につき法務でレビューし、できるだけ早くご回答致します。来週●曜日目処でよろしいでしょうか。
なお、レビューの過程で不明点等ございましたら、ご連絡させて頂くこともあろうかと存じますので、何卒よろしくお願いいたします。
基本的には、依頼への感謝、なすべき対応の内容と期限の明示を行い、今後あり得る事柄(不明点の確認等)を明らかにして、「ロードマップ」を示すという内容であり、慣れれば5分で回答が可能であろう。
こういう回答がすぐに帰ってくると、実際のレビュー結果が帰ってくるのが(特に法務内の上司による確認というフェーズが必要な場合)1週間後とかそれ以降であっても、顧客満足度という意味での「スピード感」は速いと感じてもらえるので、是非励行すべきである。(同じ1週間後のレビューであっても、何の返事もないまま1週間後に突如としてレビュー結果を帰す、という対応をすると「法務はトロい」「ビジネスのスピードについて来ていない」等という不満が出るのです...。)
3 「即レス」をしてもいいの!?
さて、ここまでは「前振り」であった。このエントリの目的は(一般論として即レスをすべきであるとしても)、実際に即レスをする前に、「本当に『即レス』をしてもいいか」を、事前にきちんと考えましょう、ということであった。
以下、
・形式的不明点・不足点はないか!
・情報共有の要否と内容(ヤバイ案件ではないか)
・宛先及びCC
という「法務の私が”即レス”をする前に裏でチェックしている3つのこと」を紹介していきたい。
4 形式的不明点・不足点はないか!
まずは、形式的不明点・不足点があれば即レスの際においてリマインドすべきであろう。その意味で、形式的不明点・不足点がないかの確認は、即レス前にやるべき重要な確認事項であろう。
具体的な「形式面」としては、上記の「やるべきこと(複数のファイルが送付された場合において、何がレビュー対象で、何が参考資料か等)」及び「納期」等に加えて、
・レビューの対象の契約書や資料等を全て受領したか(添付漏れとか「引用された見積書・約款等がない」等の確認)
・ファイルにパスワード等が掛かっていないか(納期直前にパスワード送付をお願いすることの「気まずさ」と言ったらない)
・メールの下の方が文字化けしていないか(「以下のやりとりをご参照ください」といわれて最初はいいが、下の方が文字化けしているパターンがある)
等が挙げられるだろう。
特に、「メール転送係」的なキャラクター・パーソナリティの事業部門担当者が、相手から来たメールをそのまま転送して「これ、レビューしてください」という場合には、このような形式面の確認をスルーしている可能性が高いので、法務において確認する必要性が高い。
5 情報共有の要否と内容(ヤバイ案件ではないか)
そして、意外に重要なのは「超ヤバい案件」が「しれっ」と一法務担当者のところに来ている場合である。基本的に、法務が「契約レビュー」をしてしまうと、仮にビジネスモデルチェック自体は依頼されていなくとも、その「ビジネスモデル自体が業法違反」的な場合において、「法務は何していた!」という怒られが「法務」に対して発生する。
そうすると、「レビューします! 」と即レスする前に、例えば、「部長、営業から来た協業案件の契約を転送します。説明メールを見る限り、【弁護士法72条/出資法等々】に反しているとしか思えません。お忙しいところ恐縮ですが、部長に入っていただき、一緒にWeb会議することから始めるということでいかがでしょうか。」のように、上司(ここでは部長としているが、課長等いわゆる「こういう案件」で相談すべき上司を適当に挿入して欲しい)に情報共有すべきだろう。
そこまで「やばい」話でなくとも、「確か、関連案件を同僚が受けてたな」という場合に、同僚宛(法務内の案件差配をする上司CCで)「そういえば、こんな案件ありましたが、これって、この前お話されていた例のアレの関連案件ですか?」と聞くと「おおよ!」と引き取ってくれることもある。
こういう情報共有は、「報連相」という社会人の基本として、重要である。
6 宛先及びCC
後は、あまり事案として多くはないものの、「間違った宛先のメールをCCして誤爆してる」ことがある...。例えば、「法務全員」にCCすべきところを「管理部門全員」「全社員(!?)」にCCしてしまってるとか、「他社の人の名前が法務担当者に似ているので、予測変換でその人がCCされている」等、ミスの具体的な内容はそれぞれであるが、通常「全員に返信」を押すであろうから、宛先及びCCをよく確認し、「ミスの連鎖」を発生させないようにすべきである。
7 宣伝
本エントリの原型は私がツイッターで #新人法務パーソンへ タグで呟いている法務パーソン向け投稿ですので、もしよろしければ、@ahowota アカウントをフォローください。
新件を依頼されたら、
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2019年7月28日
・法務が行うべきこと(例えば契約レビュー等)及び納期
・レビューの対象の契約書や資料等を全て受領したか(添付漏れとか引用された約款がない等の確認)
・明らかにヤバい案件(上司に相談!)ではないか
を確認した上で担当する旨を通知するメールを出そう。 #新人法務パーソンへ
次に、当日、他の仕事が少し落ち着いたら
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2019年7月28日
・検討の前提となるビジネス上の関係や、案件の背景事情等について確認すべき点はないか
・コンプライアンス等の理由で事業部門が進めたいビジネスそのものを修正する必要はないか
・その他会議等を依頼すべきではないか
等を検討する。 #新人法務パーソンへ
https://twitter.com/ahowota/status/1155427767900499968?s=20
*1:なお、特段の事由がない限り単純リツイートを賛同とするものとして大阪高判令和2年6月23日参照。
*2:とはいえ、伝統系大企業とIT系スタートアップでは、環境も違うので伝統系大企業法務で同じ「技」が使えるかはともかく
*4:QB被害者対策弁護団団員ronnor on Twitter: "とりあえず、その本のどこに何が書いているかを把握する読み方(インデックス作成)と、きちんと読む読み方を区別して読んでます。きちんと読む読み方だとあんまり速くはないですよ。そもそもきちんと読む必要がある本なんて、1%くらいでは?? #読書… https://t.co/Hky0WIFl3A"
*5:QB被害者対策弁護団団員ronnor on Twitter: "ちなみに、「法務の私が”即レス”をする前に裏でチェックしている3つのこと 」みたいなブログエントリ(noteではない)の需要があれば、ちょちょっと書いてみたいと思います。 #エアリプ #ブログ"
*6:各社の環境毎にシェアポイントとか色々あると理解してます。某弊社が何を使っているかは【禁則事項】です!
*7:5年後だと「法務チャットボット」がスタンダードになる可能性があるので、あくまでも「2021年の実務」とご理解ください。