アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

萌えるマネジメントと弁護士のマネジメント

弁護士のためのマネジメントマニュアル

弁護士のためのマネジメントマニュアル

1.「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」とは
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は、ハックルベリーに会いに行くの岩崎夏海さんが書かれた、平易なマネジメントに関する本である。


主人公は、川島みなみ、野球部の女子マネージャーである。都立の進学校野野球部、弱くもないが地区予選で毎年のように早期敗退する部活に高校2年生の7月という中途半端な時期に乗り込んできたみなみは、

「私は、野球部を甲子園に連れていきたいんです!」
岩崎夏海もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」9pより

との爆弾発言をミーティングで行う。


まともにとり合ってもらえないみなみだが、なんとかこの夢を実現するために、「マネージャー」の行うべきこと、すなわち「マネジメント」を学ぼうと、本屋に行く。そこで出会ったのは、(高校野球のマネージャーの仕事についての本ではなく)経営方法、つまりマネジメントの専門書であった。
その本の内容を、みなみは野球部を甲子園に連れて行くという目標を実現するために実践する。少しづつ変わっていく野球部は、甲子園に行けるのだろうか...。


こういった、面白い物語を進めながら、端々でドラッカーの「マネジメント」が引用される。その内容を、「みなみ」の理解を通じて、読者も理解していく。


ドラッカーというマネジメントの第一人者*1の理論を、「みなみ」が野球部の女子マネージャーとして「マネジメント」をする過程を描き出すことでわかりやすく解説するという著者の構想は、成功しているといって問題なかろう。


2.弁護士のためのマネジメント
 今では400人クラスの弁護士事務所も出てきたが、これまでは個人事務所やボス+イソ弁レベル等小さな事務所も多く、「マネジメント」への意識は低かったといってもよいのではないか。「弁護士はいい仕事をしていればよい。そうすれば、お客さんも自然についてくる。」といった考えの弁護士も多かった。


ここで、ドラッカーの言葉に、

小企業はマネジメントに関心をもつ必要はないとされていたが、これはまちがいだった。
小企業は大企業以上に組織的かつ体系的なマネジメントを必要とする。
「エッセンシャル版 マネジメント 基本と原則」238頁

というものがある。規模が小さいからといって、マネジメントが不要な訳ではなく、小さいところほど良質のマネジメントが必要なのである。


この観点から、最近、弁護士のマネジメントについて、提言する本が出てきた。これが、「弁護士のためのマネジメント」である。
「素晴らしい事務所」を作るためには、仮に弁護士一人、事務員一人の事務所でも、マネジメントの手法を取り入れるのが効果的であり、それだけで大きな変化を生むことが可能であると提言した上で、具体的な弁護士事務所に取り入れるべきマネジメントの手法が解説されている。


興味深いことに、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」において「マネジメント」から引用されている部分と、本書の提言はかなり重複していた


例えば、本書は「仕事の面白さを味あわせ」、「スタッフ会議と個別面談等でフィードバックを行い」、「勉強会、事件の検討会、成功事例共有等で継続学習をする」といった方法が提案されているが、これは、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」で引用されている、

マネジメントは、生産的な仕事を通じて、働く人たちに成果をあげさせなければならない。
焦点は仕事に合わせなければならない。仕事が可能でなければならない。仕事がすべてではないが、仕事がまず第一である。
働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、(1)生産的な仕事、(2)フィードバック情報、(3)継続学習が不可欠である
「エッセンシャル版 マネジメント 基本と原則」57頁〜74頁

という部分とかなり重なっている。


その他、人は最大の資産("人財")である等、ドラッカーの考えを*2かなり使いながら、筆者のコンサルティング体験をもとに、弁護士事務所のマネジメントについて提言を行っている。
このような提言は、類書がないものであり、先駆的な本として、傾聴に値する

まとめ
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は、興味深い物語を読み進めると、マネジメントの基本がわかるという、非常に優れたマネジメントの入門書である。
この本が基本としている「ドラッカー」の「マネジメント」は、単に企業におけるマネジメントに有用なだけではなく、「弁護士事務所」においても有用である。
だからこそ、「弁護士のためのマネジメント」においては、ドラッカーの考えに影響を受けながら、弁護士事務所のマネジメントの具体例が語られている。
弁護士も、ドラッカーを読んで、マネジメントを勉強することが効果的であろう。そのための入門書としては、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を強くお薦めする。

*1:「マネジメント」は世界で一番読まれた本である

*2:意識的か無意識かは不明であるが