アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

#杉原千畝プロジェクト 第4弾 『新・弁護士の就職と転職』を読む

 

#杉原千畝プロジェクト 第4弾 『新・弁護士の就職と転職』を読む

 

新・弁護士の就職と転職――キャリアガイダンス72講

新・弁護士の就職と転職――キャリアガイダンス72講

  • 作者:西田 章
  • 発売日: 2021/01/06
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

1. はじめに

 

 「 #杉原千畝プロジェクト 」、すなわち、ブラック法律事務所から、可哀想な被害者であるイソ弁を救済するプロジェクトに関する、3つのエントリは、望外のご好評を頂いた。


ronnor.hatenablog.com

 

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2.超有名就職・転職本

 なんと、この本の旧版を本ブログでも書評していた。15年以上ブログ活動を続けていると、こういうこともある。

 

ronnor.hatenablog.com

その中では、

「弁護士の就職と転職」は毀誉褒貶ある本であるが、
弁護士のキャリアに関し、示唆的な情報を含んだ本という意味で、一読に値する。

弁護士の就職と転職 - アホヲタ元法学部生の日常

と結論づけていた(すっかり忘れていた!)。

 

 その本書が、司法改革の失敗を経て、様変わりした弁護士の就職・転職の最新事情を語る『新・弁護士の就職と転職』として新登場したのである。

 

 

3.西田弁護士の語る「緊急避難的転職」

 #杉原千畝プロジェクト との観点で、本書の最も読ませる部分は、「緊急避難型退職」を語る第40講である。

 

激務とパワハラは、心身を損なうリスクがあるので、入所3ヶ月でも、1ヶ月でも、真剣に転職を考えたほうがいい。(中略)

「このペースで働き続けるのは無理だ」とか「この高圧的な指導には絶えられない」と感じたら、緊急避難的に「今の環境から逃げ出すこと」を最優先して転職活動をするのは正解である。中長期的なキャリアよりも、まずは、穏やかに仕事ができる環境の確保を優先すべきである。

西田章『新・弁護士の就職と転職』83-84頁(強調引用者)

 

 本書の論旨は「死ぬな! 逃げろ!」という杉原千畝プロジェクトのメッセージとも同一と言え、弁護士のキャリアの第一人者と認識が共有できていることがわかったというだけでも、本書を購入した意義はあった。

 

4. 心身を損ねたら終わりなのか?

 ここで、本書を読んだのはもう少し前であった。しかし、読書直後にエントリをアップできなかった。その理由は、同時に本書がドキッとすることを書いていたからである。以下引用しよう。

 

残念ながら、心身を故障した経歴が知られると、採用選考にネガティブに働く。許されるべきではない慣行であるが、採用側に「うちにきて、再び、体調を崩されては困る」という心情が芽生えるのは避けられない。

西田章『新・弁護士の就職と転職』83-84頁

 

 

 この論旨としては、まさに現在進行形でパワハラを受けている被害者に対し「早く逃げろ」と、早く逃げることに強いインセンティブを掛けるためのレトリック的なものと理解される。そして、そのレトリックの限りでは、理解可能である。

 

 

 とはいえ、現に、パワハラ事務所で心身を故障する人も存在する。詳細は【禁則事項!】だが、私自身も心身を故障した経歴がある。しかし、なんだかんだいって、現在幸せに働けている。

 

 

 確かに、ダメな事務所が、心身を故障した経歴がある弁護士は門前払いすると言っているという状況が存在し得ることは想像に難くない(「軟弱者は要らん!」的なイメージがすぐに思い浮かぶ)。しかし、そういう事務所は「こちらから願い下げ」なのであって、優良な転職先は、一度心身を故障しても、その後回復していれば、(場合によっては裏で起案専門、最初は顧客対応なし等のいわば「リハビリ勤務」等の措置を講じた上で)採用してくれる*1

 

 もちろんこのエントリを、「心身を壊してもいくらでも転職できるから、心身を壊す限界までブラック事務所に居続けていいんだ」と誤読されると、それは心の底から心外である。 #杉原千畝プロジェクト は、ブラック事務所からの可及的速やかな退職を強く奨励している。もっとも、これはいわば「予防法務」と「紛争解決法務」の話であって、予防法務的に、「心身を一度壊すと大変だから速く逃げろ」と言うことは、同時に、紛争解決法務的に「現に心身を壊してしまっても、再起は可能だ、だからまずは治療に専念しろ」と言うことと矛盾しないはずである。

 

 

 その意味では、本書がやや予防法務を重視して、現在進行形でパワハラを受けている弁護士に強いメッセージを出そうとするあまり、紛争解決法務的な、既に心身を壊してしまった弁護士にはやや誤解を招く記載となっていることはいただけないだろう。

 

 

5. その他

 その他、本書に関しては、以下のツイートから始まる連ツイで、主に就職活動関係の記載の練度の低さを指摘している。

 

 

 この点については、dtk大兄先生が、 #杉原千畝プロジェクト にからめてエントリにまとめてくださった。

 

dtk1970.hatenablog.com

色々な意味でストレスのかかる職種ということもあり、うまく行かない事例はそれなりにある。その意味で、一旦何かがおかしくなったときの危機管理は重要なところ。この点については、二次妻・無双御大こと、@ronnorさんの#杉原千畝プロジェクト、が参考になると思う。逃げ方、逃げるべきタイミングを視野においておくことは重要だろう。

新・弁護士の就職と転職――キャリアガイダンス72講 / 西田 章 (著) - dtk's blog(71B)

 

 今後とも、 #杉原千畝プロジェクト として、広報活動を続けていきたい。リツイート等でご協力頂けると大変ありがたい。

*1:なお、本書でも言及があったが、一般には企業の方が間口が広い。