アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

「無防備地域」論

あしたのジョー(1) (講談社漫画文庫)

あしたのジョー(1) (講談社漫画文庫)

 あしたのジョーで紹介される戦法として「ノーガード戦法」という戦法がある。

「ノーガード戦法」ご存知でしょうか?漫画 「あしたのジョー」の主人公である矢吹丈が使ったファイティング・ポーズ(?)のことです。両手をだらんとして対峙するわけですから、相手のボクサーも思いっきり踏み込んでパンチを打ってきます。その相手の勢いを利用して、すざまじいカウンターパンチを放つという、まさに肉を切らせて骨を断つを地でいく戦法です。
引用元:http://blog.goo.ne.jp/hwj-tanaka/e/cc780400b127331f0ac315110a020203

 このノーガード戦法はサイバー・ノーガード戦法*1等、現代様々に応用されている。

 そして、最近考え出されたのが、無防備地域宣言作戦である*2

 戦争の際,国際条約で攻撃が禁じられる「無防備地域」に大阪市がなるよう,市民グループが4月24日から,条例制定を直接請求するための署名集めを始める.1カ月間に5万人の署名を目指す.
 「無防備地域宣言をめざす大阪市民の会」が3日,明らかにした.
 市内全区の街頭に署名のための拠点を設けたり,戸別訪問をしたりして署名を集める.
 直接請求には有権者の50分の1以上の署名が必要で,大阪市の場合,約4万2千人になる.

 市民の会の条例案は,市民が平和に生きる権利を謳った上で,市は 戦争の危機に際して,戦時の住民保護を定めたジュネーブ条約の第1追加議定書に基づく無防備地域宣言をすると規定している
引用元:http://mltr.e-city.tv/faq05d.html#defenceless-area

 要するに、事前に「俺たちは戦争になったら即刻白旗*3上げるわー」と言っているようなものです。なかなかアイディアとしては面白い。
 例えば、日本とA国が戦争を始め、大阪湾から、続々とA国軍が上陸を始める。その瞬間「大阪市は無防備地域!」と宣言される。A国が国際法を遵守すれば、大阪市で戦闘を行えないので、大阪市以外の都市へ進軍する。ところが、日本中の全ての都市がこの宣言をしていれば、神戸に向えば神戸市が無防備宣言をする。京都に向えば京都市が...ということで、全然戦闘ができないのである。パチパチパチ、素晴らしい! 日本の「平和」は保たれた。


 ところが、この運動をする人は、その後の発想が欠けている。
日本はどうやって迎撃するのだろうか?迎撃しようにも、無防備宣言には、「すべての戦闘員ならびに移動兵器及び移動軍用設備が撤去されていること」が必要であるから、自衛隊はそこにはいられない。この運動をする人達が望む「日本の全ての地域が無防備地域宣言をした」場合、自衛隊は、戦争開始と同時に居場所を失うのである
 このように、日本側が国際法を遵守するかぎり、応戦できないのだから、この運動でいう日本の「平和」とは、A国への無血降服と同じなのである。A国は戦闘はできないが、勝手に無防備宣言が行われるおかげで、一切迎撃を受けず、日本全土が「占領のために開放され」るのである。


...と、ここまでであれば、ただの笑い話でいいのだが、実はこのような選択は合理的なのである。

 チキンゲームはご存知であろうか。

チキン・ゲームとは、もともとは、二人の命知らずの若者が、それぞれ自動車を全速力で、そのままでは正面衝突する酔う、対抗方向から走らせるゲームである。命が惜しくて一方がコースから外れると、弱虫(chicken)とあざけられ、相手方は勇者とたたえられる。しかし、両方がそのまま突っ込めば、二人とも命を落とすことになる。対立する核保有国が、それぞれ自己のイデオロギー的正当性を主張しあって、相互を核攻撃すれば最悪の結果を招くというシナリオと同じタイプのものである。(中略)
もし、敵の攻撃にこちらも反撃すれば、双方が死滅する。もし、敵の攻撃に対して屈服すれば、双方が攻撃を控える場合に比べて利得は減少するが、それでも、少なくとも生き残ることはできる。したがって、国家間の関係をチキン・ゲームと見立てる国からすれば、さしたる防衛力も持たず、外敵からの攻撃が予想されれば進んで降服するという選択が合理的となる。
長谷部恭男「憲法と平和を問い直す」p143

 そう、無防備宣言は、まさに、外敵からの攻撃が予想されれば進んで降服するという、合理的選択を明示するものなのである。

(ネタとしての)まとめ
一見不合理に見える無防備宣言は、
実は、チキン・ゲームである、国家状況下、
最大限の利益を得るための合理的選択であった!


もっと深読みをしよう。
しかし、長谷部教授はこうもおっしゃる。

しかしながら、「チキン」となることが合理的だと考える国家が存在すると,その種の国家の存在自体が、侵略者の存在を合理的にする危険がある。(中略)
相手国が「チキン」であることを的確に認識することができるならば、その周辺国家は、容易に自己の利得を向上させることができる。第二次世界大戦後の歴史を見ても、朝鮮戦争フォークランド紛争のように、ある地域を実力で防衛する意思がないという誤ったシグナルを相手方に送ることで戦争が引き起こされた例を挙げることは容易である。

 そう、自分たちの地域はチキンです!と宣言することは、日本が「チキン」であることを、潜在的敵国に認識させることになるのであり、これにより、戦争の危険を増加させることになりかねない。

まとめ
「こうすることが平和のためになるんだ!」と信じて行ったことが、
逆に戦争を誘発するきっかけになることもある。
まさに無防備地域宣言がこれであり、
「平和のため」というメッセージの欺瞞性を象徴している。


参考:もっと裏読みすると、この運動をしている人達は、右翼真っ青の軍国主義者の可能性すらある。明日のジョーでは、あえてノーガードで、自分がチキンだと(ウソの情報を)示すことで、相手が攻撃するのを待ち、それを利用して、相手を倒した
まさに、無防備地域運動の運動家も、無防備地域宣言をして、敵国(北朝鮮??)が攻めるのを待って、それを利用して、北朝鮮に攻め入り、占領、金正日体制の崩壊を狙っているのではないか...