- 作者: 我妻栄,幾代通,川井健
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2005/07/01
- メディア: 単行本
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でも、「内田民法」みたいな独自説ではなく、判例通説の枠組に従うのがいい!
だからといって、初学者向けのペラペラのものではなく、細かい論点についてもしっかり解説しているものがいい!
こんな欲張りな要望をかなえる教科書なんてあるわけない。こうお思いでしょう。
あるんです!
それが、「民法案内」です。民法案内は我妻先生の御著書ですから、判例通説といってもいいでしょう。また、10巻本ですから、細かい論点についても解説がされています!
「でも、我妻って難解でしょ。」
確かに「民法講義」シリーズを読んだだけだとこういう印象を受ける人が多いです。しかし、我妻博士は「講義」のような難解なものしか書けないのではありません。
ちょっと、引用してみましょう。かなりマイナーな535条、停止条件付双務契約の危険負担についてです。択一対策でちょこっと読む程度の論点で、基本書の解説もあっさりとしたものがほとんどです。しかし、我妻は違います!
第535条は停止条件付の双務契約における危険負担について規定している。ここでも家屋の売買を例に説明する。停止条件付で売買をしたときという例としてこんなことを考えてみよう。所有者甲と乙の間で3000万円で家屋を売る契約をしたが、それには条件がついている。甲が年内中に外国勤務となって日本を去りそうだから、そうしたら売るというのだ。年内中に外国勤務となるということを停止条件とした売買契約である。
かような契約で、甲が年内中、例えば12月10日に転勤になれば、そのときに停止条件が成就して売買契約が成立するから、それから後、例えば12月20日にその家屋が焼けた場合には、第534条第1項(債権者主義)が正面から適用になる。また、年内中についに転勤にならなかったとすれば、停止条件は不成就で売買は成立しない。だから、その後、例えば翌年の1月10日にその家屋が火事で焼けたとしても、所有者甲の損失に帰することはいうまでもない。
問題は、年内中に転勤になるかならないか、まだ辞令がないうち、例えば12月1日に目的物が滅失または毀損した場合に危険負担の問題がどうなるかである。
そこでまず12月1日の家事で、全焼ではなく、一部分の焼失ー滅失まではいかないで毀損したという程度ーの場合を考えてみる。これについては第535条の第2項だ。「目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する」といっている。だから一部焼失毀損した家屋を取得して、約定の代金全額をし貼らねばならない。すなわち、家屋毀損の損失は債権者(買主)乙の負担に帰する。注意するまでもないかもしれないが、甲が年内中、例えば12月20日に転勤になることが条件だ。もしその年のうちに転勤にならなかったとすると、家屋の毀損とは無関係に、売買は成立しないのだから、乙は代金を払う義務がないことはいうまでもない。逆にいえば、全額支払うといっても、毀損した家屋を手に入れることはできない。
引用元:我妻榮「民法案内X」p48
法学セミナーの連載だったこともあり、学習者向けに具体例を用いて噛んでふくめるような分かりやすさの文章です。
ところが、「民法案内」にも弱点があります。元々「民法案内」を出していた一粒社が倒産し、勁草書房が版権を得ました。そして、改正法対応を出してくれているのはいいのですが、まだⅡまでしか出ていないのです。実質的にいえば、総則まで出ているだけです*1。
まとめ
「民法案内」は、内田をはるかに凌駕する民法の一番分かりやすい教科書である。
しかし、絶版になり、まだ総則しか出ていない。
勁草書房さんが早期に全巻を出版されることを強く望む!
*1:遠藤浩先生の逝去も影響していると思われます。ご冥福お祈り致します。