アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

Ashitano Buddha!〜民法ガール第1話(司法試験平成18年)


本小説は、ライトノベルで司法試験問題を解説する「法学ガール」プロジェクトの一環として、民法の司法試験問題をAngel Beats!のSS(同人小説)によって解説するものです。元ネタである「Angel Beats! (AB!)」を未見の方は、「成仏」がキーワードとなるこの名作をぜひご覧になって頂きたいと存じます。
なお、

を拝読して、これまで何のつながりも感じなかった、AB!と司法修習の間のつながりを連想することができたことが、本小説につながりました。ありがとうございました。



他の「法学ガール」シリーズについては
法学ガール(◯法ガール)まとめ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
参照。




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司法研修所グラウンド
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「あ、あれ?」


薄闇に包まれる中、僕はグラウンドに立っていた。ここはどこなのだろうか。いや、そもそも僕はいったい誰なのだろうか


血界戦線へ、ようこそ。」


 少女の声に、振り返ると、そこには、アニメの涼宮ハルヒの髪の毛を紫にしたようなセーラー服姿の少女が立っていた*1


 「せ、戦線って??」


 突然のことに混乱する僕に、少女は畳み掛ける。



「天使が、来る。」


彼女の指差す中層のアパート風の建物から、一人の少女が出て来てグランドの方に歩き出した。


「天使って?」


当然の疑問を尋ねると、目の前の少女は遠くを睨みつけながら吐き捨てる。


「敵よ。」


「敵って?」


「彼女はクラス連絡委員*2として、私たちに対し、司法修習生の本分に従って、2年間*3真面目に司法修習を受けさせようとしているのよ。」


そうか、僕は司法修習生だったのか。すっかり忘れていた。

 
「えっと、司法修習生なら、真面目に修習するのは当たり前なんじゃないのか?」


と、当然のツッコミを入れると、少女の顔から突然笑みが消えた。グラウンドから照り返す月明かりが少女の顔を下から照らす*4


成仏しちゃうのよ。私たちはもう死んでるんだけど、研修所で真面目に勉強していると、ある日突然消えちゃうの。」


死んでいる? 僕たちが、既に?


「おい、僕はまだ生きている。お前は何を言っているんだ。」


彼女の言う事が信じられない、いや、信じたくない。僕は彼女が「天使」と呼んでいる女性の方にかけ寄った。近くで見ると、長門有希の髪を長くした感じの子だ*5


「お前は、天使なのか? 僕はもう死んでいるなんて、嘘だろ。本当に死んでいるなら、それを証明してくれ。」


天使は、表情1つ変えなかった。


「私は天使じゃない、ただの人。あなたが死んでいるか否かは、死の定義による。三徴候説ならば瞳孔も動くし呼吸もしているから生きているけど、社会通念上ならもう死んでいる。自分の脈を取ってみればすぐ分かるわ。」



そう言われて手首の脈を取る。



「脈が、ない。。。嘘だっ!



頸動脈もない、心臓も。。。。ない!



「僕はもう死んでいるのか。。。」


意識を失う前にこう呟いたことと、天使が一瞬微笑んだように見えたことだけを覚えている。




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司法研修所本館
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ねぇ、即日起案さぼってとんでん*6に行こうよ!




 民裁の即日起案*7の問題が難し過ぎるので、合議でもしようと、喫煙所*8の近くに行くと、昨晩の少女に声をかけられた。昨日と同様セーラー服を着ていて、スーツ姿の修習生の中で悪目立ちしている。


「えっと、今って起案中じゃないの?」



「だ〜か〜ら、」



こう言うと、一瞬彼女が真剣な表情をした。



「あなた、消えるわよ。」


そうだった。真面目に起案なんかしたら、僕は消えてしまうのだ。


「じゃあ、起案用紙になんて書けば?」


「そんなの簡単よ。好きな声優の名前でも適当に書けばいいじゃない。」



それで成仏を免れるなら、そうするしかないかないのか。。。頭を抱えながら、彼女に手を引かれて研修所の門を出ようとすると、目の前に「天使」が現れた。その後ろにはムキムキの守衛5人を連れている。



「即日起案中よ。」


「天使」が無表情につぶやく。


「だから何? ロシア人妹侵入事件を思い出してご覧なさい*9、無能な守衛を何人連れても、私たちを止められないわ*10。」


威勢良く叫んだ少女は、僕の手を掴むと、一気に跳躍し、研修所の門を飛び超えた。


、だな」


と僕は誰にも聞こえない声で呟いた。



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とんでん
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平日の朝のとんでんには、僕たち以外誰もいなかった。


「今は起案が始まったばかりだから、まだ他のメンバーが来ていないだけで、本当はもっとたくさんメンバーがいるのよ。」


ちょっと恥ずかしそうに弁解する、少女。


「私はユリよ、戦線のリーダー。ゆりっぺって呼んでね。君の名前は?」


「僕の、名前?」


突然頭が痛くなる。あれ、僕はなんていう名前だっけ?? 



「まあ、いいわ。司法研修所は東京と埼玉の境界線上にあるわ*11正負双方のエネルギーが流れ込む力の均衡点、言って見れば「異界」ね。」



それを言い出すと、町田だって異界になっちゃうんじゃ。。。


「そこ、黙りなさい。」


気付かぬうちに声が出ていたらしい。


「神が死人をこの異界に集めて成仏させようとしている、これが私たちの仮説よ。そして、神の意向に沿って我々を成仏に導くのがあの「天使」よ。だから、戦線は、一致団結して、天使の活動を妨害しようとしている。」


「妨害って、まさか、手荒い事を?」


「まさか、法曹の卵がそんなことをするわけないじゃない。皆で無視したり、椅子に画鋲を置いたり、洗濯物を隠したりする*12だけよ!


「いや、それだけで十分ヤバイでしょう。」


「とにかく、私は神にたどりつきたいの。天使なんかに負ける訳にはいかないのよ!」






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司法研修所本館教室
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  民裁の即日起案の返却日。うちのクラスの民裁教官、岡田基二裁判官は閻魔大王のような表情をしていた。


「Aは立華カナデ、椎名、竹山の3人。」


教官の目線の先には「天使」がいた。あの子、カナデって言うのか。


「Bは20人、Cが21人。Dの5人は深く反省するように。そして、お前はE。立て、この起案は何だ!


突然僕は岡田教官に立たされた。


なんで起案用紙に声優の名前だけ100人分も書かれているんだ! こんなひどい起案は研修所初まって以来だぞ! 明日までにAレベルの起案を提出しないと、非違行為で罷免*13にするぞ。」


僕に声優の名前を書かせた「犯人」であるゆりの方を見たが、ジト目で「馬鹿ねぇ」という顔をするだけだった。適度に不真面目な答案を書いてDを取ったのだろう。


「とにかく、ふざけた事は絶対に許さないからな! 後、坂木しずかは千菅春香にしないと平仄が合わないぞ。」


岡田教官の最後の言葉はすごく小さい声だったが、僕にははっきりと聞き取れた。



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司法研修所食堂
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 成仏して消えるのも嫌だが、流石に罷免されてしまうのは困る。ただ、ゆりにA答案のコツを聞いても「不動産には即時取得を適用しちゃだめよ。」とか「猫の保管契約は猫を生きて返すことがその債務の本旨となっているわ。」といったよく分からないアドバイス*14しか返ってこない。


 頭を抱えながら、麻婆豆腐を一人でかき込んでいると、肩を叩かれた。振り向くと、そこには、白いブラウスに、胸の下から始まる黒いふわふわのスカートという、いわゆる「童貞殺し」の服を来た「天使」、カナデがいた。カナデは無言で、僕の麻婆豆腐を指差した。


「何だ? 自分も食べたいなら、注文しろよ。」


「売り切れ。」


ぼそっと呟くカナデ。


「じゃあ、半分こしようか。」



 いつも無表情なカナデの表情が一瞬だけ明るくなる。向かいに座ってハフハフと麻婆豆腐をかき込むカナデの姿に、この子にも可愛いところあるんだなぁと思いながら、ついつい服で強調される胸に目が行ってしまう。Angel Busts!だな。



「食べないの?」


とカナデに言われて気付く。お皿の上には、もうほとんど麻婆豆腐がなくなっていた。


「そういえば民裁起案Aだったんだってな、あんな難しい記録、どうやって起案するのか全然想像つかないよ。」


「要件事実に基づいて整理すればいい。貸して。」


そう言うと、カナデは僕の手元の記録を奪った。


〔第2問〕(配点:200〔設問1から設問4までの配点の割合は,4:4.5:7:4.5〕)
次の文章を読んで,以下の1から4までの設問に答えよ。
I 民事裁判実務修習中の司法修習生K(以下「K修習生」という。)は,配属先の裁判所で,Xが Yに対して提起した保証債務の履行を求める訴えの訴状等を検討して,以下の【メモ】を作成し た。なお,X,Y,A,Bはいずれも株式会社である。後記は,その内容に関する担当裁判官J (以下「J裁判官」という。)とK修習生の会話である。
【メモ】
1. Xは,平成16年9月13日,Aに対し,3600万円を次の約束で貸し付けた(以下,この消費貸借契約に基づくXのAに対する貸金債権を「本件貸金債権」という。)。
弁 済 方 法 等 平成17年1月20日,同年5月20日,同年9月20日及び平成1
8年1月20日に各800万円並びに同年5月19日に400万円 利 息年9%
遅延損害金 年14%期限の利益喪失 Aが前記弁済を1回でも怠ったときは,Aは当然に期限の利益を喪失する。
2. Aは,平成15年10月6日,Bとの間で,AがBに対して3年間継続して機械部品を販売する旨の契約(以下「本件基本契約」という。)を締結し,Yは,同日,Aとの間で,本件基本 契約に基づいてBがAから購入した機械部品の売買代金債務について,連帯保証する旨の契約 書を作成した。
3. XとAとは,平成16年9月13日,本件貸金債権を担保するために,本件基本契約に基づく将来の売買契約によって発生する代金債権をAからXに譲渡する旨合意し,その旨の債権譲渡登記をした。上記債権譲渡の際,XがAに対して譲渡担保を実行する旨の通知をするまでは, Aに代金の受領権がある旨をも合意した。
4. Aは,Bに対し,本件基本契約に基づいて,平成17年6月14日に代金500万円で,同 年7月15日に代金1200万円で,同年8月10日に代金1500万円で,同年9月5日に 代金400万円で,それぞれ機械部品を売った。
5. Aが,上記1の平成17年9月20日にするべき弁済を怠ったため,Xは,Aに対し,同年 10月8日,譲渡担保を実行する旨の通知をした。
6. Xは,Bに対し,同日,債権譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて, 登記事項証明書を交付して通知をした上,上記4の売買代金の支払を求めたところ,Bは,こ れに応じなかった。
7. 平成17年11月下旬,Xは,Yに対し,Bの売買代金債務についての保証債務の履行を求 めたが,Yは支払わなかった。
8. Xは,Yに対し,保証債務の履行を求めて本件訴訟に及んだ。
【J裁判官とK修習生の会話】
J裁判官: 訴訟物はXのYに対する保証債務履行請求権ですね。保証債務の履行請求をするための請求原因事実は,一般的には,(ア)主債務の発生原因事実,(イ)保証契約の締結とされ ているので,本件では,(ア)AとBが売買契約を締結したことと,(イ)YとAとが保証契 約を締結したことになりますね。
AのYに対する保証債務履行請求権を,Xが取得して行使できることを基礎付けるための請求原因事実が何かを検討してみましょう。
K修習生: 債権譲渡担保の法的構成をどのように考えるかによって違いそうです。
J裁判官: それでは,あなたの考える法的構成を前提として,本件事案の契約について請求原因事実を考えましょう。 本件においてXA間で債権譲渡担保の契約を締結したとの事実はもちろん必要だとし て,そのほかにも要件事実として必要か否かが問題となる事実が幾つかありますが,そのうち,例えば,
1 本件貸金債権の発生原因事実
2 債権譲渡登記をしたこと
3 譲渡担保を実行する旨の通知をしたこと
4 債権譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて,登記事項証 明書を交付して通知をしたこと
が,それぞれXのYに対する本件請求の請求原因事実になるか否かについてはどう考え ますか。
〔設問1〕 あなたがK修習生であるとして,あなたの考える本件債権譲渡担保の法的構成を簡潔 に説明した上,J裁判官が示した前記1から4までの各事実がXのYに対する本件請求の請求原 因事実として必要か否かについて論じなさい。
III J裁判官は証拠調べを終え,平 成18年5月12日,口頭弁論を終結した。弁論終結後のある日,K修習生は,J裁判官との間 で以下のような会話をした。
J裁判官: 先日,本件証拠調べの結果,認定し得る事実の内容をレポートにして提出してもらい ましたが,なかなか頑張りましたね。一通り見せてもらい,適宜修正してみました。私 としては「認定事実の概要」のとおりの事実が認定できると考えています。
K修習生: 証拠から事実を認定するのもなかなか難しいですね。
J裁判官: そこで,次に,この事実が証拠上認められる事実であるとして,証明責任の所在は考慮しないで,実体法的観点から検討してみてくれませんか。
【認定事実の概要】
1. Xはいわゆる総合商社である株式会社,Aは機械部品の製造販売を目的とする株式会社,Y は大型機械の製造販売を行う株式会社,Bも同種の中型・小型機械の製造販売を行う株式会社 で,YはBの親会社である。もともとAとYとは,Aが製造販売する機械部品をYに販売する という取引関係があった。
2. Aは,Yからの紹介を受け,Bとの間でもAが製造する機械部品を売買することになった。 しかし,AにとってBは初めての取引先であり,いまだ信用が不十分であったこともあり,親 会社であるYがBの売買代金債務を連帯保証することとされた。
そこで,Aは,平成15年10月6日,Bとの間で,継続的に機械部品を売買する契約を締 結した。契約期間は3年間とし,機械部品はBからの発注後1週間以内に納品し,代金は納品 の3か月後に支払うものとされた。AとBのそれぞれの代表取締役が同日に上記内容の基本契 約書に署名押印した。その際,上記基本契約に基づく売買契約によって生ずるBのAに対する 売買代金債務について,Yがこれを連帯保証するとの合意がされ,Yの代表取締役が上記基本 取引契約書の連帯保証人欄に署名押印した。
AとBとの間の機械部品の取引は,以後概ね一月に1回行われたが,取引額は300万円か ら2000万円くらいまで様々であった。Aは,契約どおり,Bからの発注後1週間で注文さ れた機械部品を納品し,Bも納品の3か月後には約定どおりAに代金を支払ってきた。
3. Xは,Aから運営資金の融通を依頼され,前記I【メモ】1記載のとおり,Aに対し,平成 16年9月13日,3600万円を,利息年9%,遅延損害金年14%とし,5回の分割返済 (1回目から4回目までは各800万円,5回目は400万円,1回目は平成17年1月20 日,2回目は同年5月20日,3回目は同年9月20日,4回目は平成18年1月20日,5 回目は同年5月19日,利息は各分割金の支払期日にそれまでの利息を支払うものとし,Aが 分割金の弁済を1回でも怠ったときは,当然に期限の利益を喪失するものとする。)の約定で, 貸し付けた。
そして,Aは,Xとの間で,前記I【メモ】3記載のとおり,平成16年9月13日,上記 借入金債務を担保するため,上記A・B間の機械部品の継続的売買契約の契約期間中これに基 づく売買契約によって将来生ずべきAのBに対する売買代金債権をXに譲渡する旨の契約を締 結し,A及びXはその旨の債権譲渡登記をした。なお,本件譲渡担保契約では,XがAに対し て譲渡担保を実行する旨の通知をするまでは,Aに代金の受領権がある旨の合意がされた。
Aは,Xに対し,平成17年1月20日と同年5月20日にはそれぞれ元金800万円を支 払うとともに,それまでの利息も支払った。
4. Aは,上記2の契約に基づいて,さらに合計4回にわたって,Bに対し,機械部品を代金合 計3600万円で売った。前記I【メモ】4記載のとおり,第1回は平成17年6月14日に代 金500万円(同月21日に機械部品引渡し),第2回は同年7月15日に代金1200万円(同 月22日機械部品引渡し),第3回は同年8月10日に代金1500万円(同月17日機械部品 引渡し),第4回は同年9月5日に代金400万円(同月12日機械部品引渡し)であった。
5. Aは,平成17年に入ったころから業績が思わしくなくなっていたが,上記のとおり同年5 月20日にXに元利金を支払ったものの,そのころから資金繰りが苦しくなり,Bに対して機 械部品を売却するたびに,生じた代金債権をすべて金融業を営むZに売り,代金を得て事業資 金に充てざるを得なくなった。
すなわち,同年6月14日付売買契約に基づく代金債権500万円については,同年7月8 日代金450万円で,同年7月15日付売買契約に基づく代金債権1200万円については, 同年8月1日代金1000万円で,同年8月10日付売買契約に基づく代金債権1500万円 は,同月20日代金1200万円で,同年9月5日付売買契約に基づく代金債権400万円は, 同月12日に代金200万円で,それぞれZに売却した。そして,Aは,Bに到達した各内容 証明郵便(順に同年7月11日,同年8月3日,同年8月22日,同年9月14日到達)で各 債権譲渡の通知をした。
6. Bは,上記合計3600万円の売買代金債務のうち,第1回売買分500万円については, 平成17年9月21日,Zに弁済した。また,第4回売買分400万円については,AからZ への債権譲渡の内容証明郵便の送付を受けた後,同年9月22日,Zから受けた電話に対し, 特に何も考えないで特に何の留保もせずその譲渡を承諾した。
7. Xは,Aが平成17年9月20日に支払うべき借入金の分割金800万円を支払わなかった ことから,Aに対し,数回にわたりその支払を催告したものの,Aの担当者からもう少し待っ てほしいとの言い訳しか得られなかったため,同年10月8日到達の書面で,Aに対し,譲渡 担保を実行する旨の通知をするとともに,併せて,同日,Bに対し,AのBに対する4回分の 売買代金債権すべてについて,債権譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことを債権 譲渡登記の登記事項証明書を交付して通知した(前記I【メモ】5及び6記載のとおり)。
8. ところで,第4回売買(代金400万円)については,BはAから目的物である機械部品す べての引渡しを受けたものの,売買目的物に直ちに発見することができない瑕疵があり,しか も,その瑕疵は,商品としての価値自体を失わせるような重大なものであった。Bは,第4回 の売買の商品の納入後1か月程経って,この瑕疵に気付き,平成17年10月19日,Aに対 して第4回の売買契約を解除するとの意思表示をした。
〔設問3〕 あなたがK修習生であるとして,
1XA間の法律関係を検討し,
2Xは,Y及びZに対し,それぞれどのような請求をすることができるかについて,それぞれ金額を明示して論じなさい。なお,利息及び遅延損害金(遅延利息)の問題は省略してよい。

「これは長いなぁ。。。」



「研修所の記録という意味では大したことはない。設問1の範囲では、登場人物は原告Xと被告Y、そしてAとBのわずか4人XがAにお金を貸した。Xは、AがBに対して持つ売買代金債権をAから譲渡担保として譲り受けた。この売買代金債権にはYの保証がついていた。それだけの話。」



どこかから紙とペンを取り出してさらさらと4者の関係を図解したカナデ。



「この紙とペンってどこから!?」



ヒラヒラした服に武器を隠すのは戦いの常道。



「え?」


まじまじとカナデの姿を上から下までみつめてしまう。


「口が滑った。訴訟物は?」


カナデは少し恥ずかしそうにうつむいて、話題を変えた。


「保証債務履行請求権」



「正確に。AとYの間の根保証契約に基づく保証債務履行請求権。XとYの間には根保証契約はない*15。」


「確かに。」


「ブロックダイアグラムを作る。まずはKgから。」


「ケー、ジー?」



「ドイツ語だとカーゲー、請求原因のことね。」


「その、請求原因って?」


「まさか、記憶喪失?」


「そうだけど、悪いかよ。」



「これ、読んで。」


要件事実入門

要件事実入門



帯に岡田教官によく似たマッチョな男性の姿が描かれた本を渡される。


「これは!」


要件事実の本質が、分かり易い言葉とマンガによって頭の中にすっと入って行く。ワクワクして心がせり上がっていく。
 要件事実論の前提は、裁判規範としての民法である。つまり、「大前提→小前提→結論」という法的三段論法でいうと、民法等の規定が裁判官に対して与える「裁判においてどのように裁くべき」かという準則が大前提を提供し、裁判において小前提としての事実が証明されると、それに基づき結論(判決)が出て、判決が確定することで法律効果が発生するという考え方である*16。そして、だからこそ、大前提である裁判規範に証明責任を組み込んで民事裁判の効率化を図ることができる。そして、それぞれの当事者が自分が立証責任を負う法律要件についてのみを自己の大前提として攻撃防御方法を展開するのだ*17


「そういうこと。例えば無権代理人に対する損害賠償請求(民法117条1項)でいう、『代理権を有していなかったこと』という要件は、実体法上の要件ではあるけど、原告が主張立証する必要はなく、代理権の存在をむしろ被告側が主張立証する必要がある。」


カナデが具体例で僕のいいたいことをまとめてくれる。


「そうか、要件事実でいう、請求原因(Kg)→抗弁(E)→再抗弁(R)→再々抗弁(D)→再々々抗弁(T)は、こういう裁判規範としての民法に基づいて当事者の攻撃防御方法を整理しているってことか。」


エロ童貞*18


「えっ?」


まさか、さっき胸をジロジロ見ていたのを気付かれたか?


独り言。とにかく、第三者と被告の間の根保証契約に基づく保証債務履行請求権を主張するためには、何を主張すればいい?」


「訴訟物である保証債務履行請求権の発生原因事実と、Xへの移転。」


カナデがさらさらと

1 根保証契約の成立
2 1の主債務の発生原因事実(AとBとの間で、機械部品の売買契約の成立)

と書いていく*19


あ、そうか。やっと問題の位置づけが分かってきたぞ。


「後半の、『Xへの移転』の部分が設問1の債権譲渡担保の話ってことか。」



「そう」


明るくなった僕の顔を見て、カナデの声も幾分か明るさを帯びる。


「債権譲渡担保って、確かいろんな類型があったような気がしたけど、よく覚えていないなぁ。」



「一定の事由が発生した時点で債権譲渡の効果が発生する停止条件型、債権譲渡の予約を内容とする予約型がある*20。」


「あれ、問題文には『本件貸金債権を担保するために,本件基本契約に基づく将来の売買契約によって発生する代金債権をAからXに譲渡する旨合意し,その旨の債権譲渡登記をした。』つまり基本契約締結と同意に、譲渡担保契約を締結し、当該譲渡担保契約時に、将来債権を含めて、『本件基本契約に基づく債権』を一括して譲渡しているんだけど*21、これは、停止条件型でも、予約型でもないような。。。」



「いわゆる本契約型。将来債権の譲渡も債権が明確に特定されていれば有効(最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁)であるところ、本件では、『本件基本契約に基づく債権』という形で特定がされているから、このような債権譲渡担保契約も有効。」


そうか、第三の類型かぁ。


「そうすると、それを前提に、(1)本件貸金債権の発生原因事実、(2)債権譲渡登記をしたこと、(3)譲渡担保を実行する旨の通知をしたこと、(4)債権譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて,登記事項証明書を交付して通知をしたことの4つが請求原因事実になるかを判断すればよいのか。」



「うん、債権譲渡担保契約の成立による債権移転の要件事実は?」



「えっと、譲渡担保契約は絶対必要だよね。後、担保だから被担保債権(債務)、本件でいうと貸金債権(債務)の成立が必要。」



「要件事実的に言うと、債務の発生原因事実と、これを被担保債務とする債権譲渡担保契約の成立となる。これで全て?」



カナデは几帳面な字でブロックダイアグラムにさらさらと書き込んで行く。


「う〜ん、なんか足りない気がするなぁ。」


「譲渡担保の目的物は有体物?」


このヒントで分かった。


「そうか、担保のために譲渡された債権の発生原因事実を主張しないと、いけないのか。」



「3600万円の貸し付けと、これを担保にするための将来の売買代金債権を譲渡する旨の約定を主張しただけでは、契約後口頭弁論終結時までに具体的に発生し、(譲渡担保契約に基づき)原告に譲渡された売買代金債権が具体的に何かが分からない。これでは、保証債務履行請求権として具体的にいくらの請求権が発生したかが不明になる。」


 カナデは、こう言いながら

3 債務の発生原因事実
4 3を被担保債務とする債権譲渡担保契約の成立
5 4により譲渡される債権(本件売買代金債権1〜4)の発生原因事実


 といわゆる簡易ブロックダイアグラム*22の形式でメモをする*23。本件売買代金債権1が500万円の、2が1200万円の、3が1500万円の、4が400万円の債権だ。



「あれ、そうすると、(1)は必要だけど(2)〜(4)は不要ということで終わりなのかな? でも、問題文には『上記債権譲渡の際,XがAに対して譲渡担保を実行する旨の通知をするまでは, Aに代金の受領権がある旨をも合意した。』とあるなぁ。」



司法研修所の起案はそんなに簡単にはいかないだろう。



「記録に現れている事実の中には、要件事実的に意味がある事実と、意味がない事実がある。意味がある事実だけを取り上げて整理するのも法曹としての能力。」


顔色一つ変えないでカナデはこう言うが、それって、僕のこと整理能力がないってディスってるってことだよね?



「えっと、確か最高裁判例があった。この受領権に関する合意はXA間の内部的合意に過ぎず、債権譲渡自体は契約時に確定的に効果が発生するというもののはず*24。」


「そう、だから、設問1は(1)のみが必要で、(2)〜(4)は不要。」


おお、思ったより簡単に正解が出た。



「じゃあ、設問3は、各債権につき抗弁以下を検討すればいいのか。要件事実の枠組みで検討すると理解が容易になるね。」



「大事なのはフレームワーク。美味しい麻婆豆腐のフレームワークができれば、麻婆茄子にしても美味しい。」



何か分かったような、分からないような。。。



「まずは、この売買代金債権はZに売ってしまったという主張だけど、いわゆる二重譲渡の話だよね。」



三者対抗要件具備の抗弁



カナデが要件事実論の用語に直してくれる。


「そうそう、AZ間の本件売買代金債権の売買契約の成立と当該債権譲渡につき第三者対抗要件を具備したことを主張すると、Zが確定的に債権者となってその結果Xへの債権の移転の効力が否定されるという抗弁になるはずだね*25。」



カナデは

1 AZ間で本件売買代金債権1〜4の売買契約の成立
2 1の債権譲渡につき第三者対抗要件具備

とメモをしていく*26


「この抗弁につき再抗弁は?」


カナデの質問にハッとする。


「そうか、Xも登記をしているから、これが第三者対抗要件になる。そしてZの通知よりXの登記が早いから、Xが勝つってことか*27。」


カナデは無言で、

1 Xへの債権譲渡につき第三者対抗要件具備

とメモをしていく*28


「再々抗弁以下は?」



カナデの声にもう一度問題文を見る。


「通知以外に『承諾』があるけれども、これも登記より後の話だから特に法的な意味はない。二重譲渡の関係では、これで終わり。つまり、再抗弁が証明されてXが勝つということだ。」


カナデがこくりと、うなずく。


「次が、本件売買代金債権1に関する弁済の抗弁だ。要するに、YはZに弁済したから債務は消滅したってこと。」


カナデは、

1 ZA間で本件売買代金債権1の売買契約の成立
2 BがZに本件売買代金債務1の弁済をしたこと

 と書き込む*29


「再抗弁は?」



う〜ん、ここが困ってしまう。


「Xは登記を既に経ているから、Zに優先するよね。そうすると、第三者対抗要件具備が再抗弁になるのかなぁ?」


馬鹿。」


カナデのキツい一言。



「じゃあ、どう考えるんだよ。」



対抗要件にも種類がある。」


あっ。カナデの言葉で記憶が溢れ出す。



「そうか、登記は第三者対抗要件今問題となっているBの弁済は債務者対抗要件の問題だ。そうすると、債務者対抗要件である通知がBに来たのは10月8日。そして、7月11日の通知を受けて9月21日に弁済しているから、債者は有効にZに弁済することができる。あれ、そうすると、この500万円ってXは第三者対抗要件を経ているのに回収できないのか。」


「BやYから回収できないというだけ。後はZに対し、第三者対抗要件において劣後しており、Bから回収したのは不当利得だとして返還を求めるべきことになる。」


カナデの説明は明快だ。


「最後は瑕疵担保責任による解除の抗弁か。隠れた瑕疵があって、解除すると意思表示したことだ。」


カナデは、

1 当該売買契約の締結時に、その目的物に、通常人の普通の注意では発見できない隠れた瑕疵があったこと
2 解除の意思表示

 と書き込む*30


「債務者は、債務者対抗要件備前*31に債権譲渡人に対抗し得た事由を譲受人にも対抗できるから(民法468条2項)、Yはこの抗弁を主張できる。」


カナデの説明するこの話は、いわゆる民法の知識だな。


「そして、今回解除の主張は債務者対抗要件具備後にされているが、民法468条2項の趣旨からは、解除原因が対抗要件備前に発生していれば、その事由を譲受人にも対抗できると解すべきであり、再抗弁は成立しない。つまり、本件売買代金債権4についても、XはYに請求できない。まとめると、本件売買代金債権2と3はYに請求できるが、1と4は請求できず、請求できる金額は2700万円だ。」


「よく整理できたわね。」


カナデが嬉しそうだ。


要件事実の勉強って、面白いかも。


人生で初めて、そう思えた。


「そう。じゃあ、一生懸命勉強して、一緒に成仏しよっ!」


カナデは、これまでで一番の笑顔で、これまでで一番物騒なことを言い放った



第一話完

*1:これは、別に作者の妄想ではなく、元ネタのAB!のキャラクター設定が本当にこんな感じなのです。

*2:【なぜなにAB!】説明しよう! クラス連絡委員とは、司法研修所(当局)と司法修習生の間の連絡を受け持つ重要な役割を果たす修習生である。しかし、クラス連絡委員が修習生を組織して当局と対立することを避けるため、全修習生に交代で連絡役を務めさせることになってしまった。この物語では、一応その弱体化前のクラス連絡委員を前提としているのだ。

*3:【なぜなにAB!】説明しよう! 現在司法修習は1年間だが、これは、2年→1年半→1年4ヶ月→1年とどんどん短縮された経緯がある。2年修習だった頃は、修習は牧歌的で楽しかったと聞く。

*4:まるで法の光が世の隅々を照らすように。

*5:これも、別に筆者の趣味ではなく、元ネタであるAB!のキャラクター設定がこうなのです。

*6:【なぜなにAB!】とんでんとは、埼玉県和光市に実在するレストランである。研修所から近い。「戦線」の作戦本部の設定である。

*7:【なぜなにAB!】即日起案とは、朝から晩まで長い記録を読んで、質問に答えるという非常に大変なテストのようなものである。一応意見交換は禁止されている。

*8:【なぜなにAB!】意見交換は禁止されているが、二回試験と違って監視は緩い。だから、喫煙所等で「合議」をすることができる。しかし、合議のメンバーだけが変な回答を書く等弊害も多い。誰と友達になるかが勝負だ。なお、とりあえず、全員タバコは吸っていない設定です。

*9:今週のなぜなにAB!は事情によりお休みです。

*10:【なぜなにAB!】実際には守衛さんも含めて司法研修所のスタッフ様は頑張って研修所の平和を守って下さっている。ユリのような態度を取ってはいけないぞ!

*11:【なぜなにAB!】説明しよう! 研修所は和光市に存在するが、研修所のすぐ隣は東京都練馬区大泉学園である。本文中では格好良く描写されているが、違う側面から見ると、大泉学園駅からも、和光市駅からも遠いということ。元は湯島にあったが、そこも湯島天神の近くの「気」が集まるところだった。

*12:【なぜなにAB!】説明しよう! 天使はいずみ寮に住んでいる。女性階のランドリーはもちろん男子禁制。

*13:【なぜなにAB!】説明しよう! 司法修習生が罷免されると大変なことになる。ある修習生は実務修習中に犯罪を犯して罷免され、予備校講師に転身したそうだ。

*14:http://www.moj.go.jp/content/000036356.pdf参照

*15:岡口基一「要件事実問題集」397頁

*16:この点については、岡口基一「要件事実入門」30〜31頁参照。

*17:岡口基一「要件事実入門」32頁参照

*18:岡口基一「要件事実入門」18頁

*19:岡口基一「要件事実問題集」398〜399頁参照

*20:岡口基一「要件事実問題集」399頁

*21:岡口基一「要件事実問題集」399頁

*22:事実摘示の形で書く方がポピュラーと思われる。岡口基一「要件事実問題集」404頁参照

*23:岡口基一「要件事実問題集」399頁参照

*24:最判平成13年11月22日民集55巻6号1056頁

*25:岡口基一「要件事実問題集」400頁

*26:岡口基一「要件事実問題集」400頁

*27:岡口基一「要件事実問題集」402頁

*28:岡口基一「要件事実問題集」402頁。なお、債権譲渡登記がされた日を主張することになるので、優先関係が事実上現れることから、あえて「先」に対抗要件を具備したとの主張は不要である。同上。

*29:岡口基一「要件事実問題集」400頁

*30:岡口基一「要件事実問題集」401頁参照

*31:この前後関係は再抗弁に回る