アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

「紅」の法的考察〜村上銀子と個人情報保護法

紅 (紅シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

紅 (紅シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

*注:いつものことですが、本稿は、小説版「紅」(第一巻)および、アニメ版「紅」の内容のネタばれを含みます。ご注意下さい。
1.紅とは

 紅とは、駆け出しの揉め事処理屋の紅真九郎が、五月雨荘にて、大財閥の娘(7歳)、C級映画(含アダルト)好きの空手家(バスト77)、武術の師匠の娘(最近のお気に入りは「巫女装束」を着ること)、黒尽くめの美女(愛した男(?)の骸骨を身に着けている)、等々とのハーレム生活を営むアニメ(小説)である(*1*2)。
 さて、真九郎の幼馴染にして同級生という好ポジションにいながら、あんまりフラグが立たないため、見る人*3をやきもきさせるのが、村上銀子である。眼鏡っ娘でいつも手元にノートパソコン、強気だけれども運動オンチというのがチャームポイントである。
 この銀子の職業は情報屋であり、新聞部の個人情報を使って新聞部員を追い出し、新聞部室を自室として利用している。
 銀子のような「情報屋」という仕事は、個人情報保護法下、どのように扱われるのだろうか。そして、真九郎を始めとする情報屋から情報提供を受ける人は、どのようなことに注意する必要があるのだろうか。


2.個人情報保護法の概要
 個人情報保護法は、「個人情報」を「個人情報取扱事業者」が取り扱う際に、情報収集・情報管理を適正に行うための様々な措置を取るように義務付けている法律である。
 「個人情報」は、生存する個人に関する情報で、当該情報に含まれる情報から特定の個人を識別できるものをいう(2条1項)。ポイントは3つで、まずは、生存する個人に関する情報という点が重要である。そこで、すでに死んでいる真九郎の両親に関する情報は、ここでいう「個人情報」ではない*4。次に、情報の内容は、個人に関する情報であればその内容は制限はなく、氏名生年月日等の個人を識別する情報に限らず、例えば「趣味」や「嗜好」「家族構成」も含む。更に、その情報から「特定の個人の識別」が可能なものであることが必要である。この辺りがちょっとわかりずらいので例を出すと、例えば、「武藤環の趣味が、C級映画鑑賞である」という情報も、個人情報である*5。もっとも、「C級映画鑑賞、最近見た映画『幼い妖精たちの誘惑』*6」というだけの情報では、特定の個人とのつながりがないので、個人情報にはならない。

 しかし、個人情報を扱っている人すべてが、個人情報保護法の規制に服する訳ではない。5000*7以上の個人情報をデータベース化したものを、事業のために使っている者個人情報取扱事業者とされており*8個人情報保護法の規律は、基本的には、この個人情報取扱事業者に及ぶと考えてよい*9
 そこで、紫が今後5000以上の人と個人的に知り合った結果、その住所録データベースに、5000人以上のデータが入っても、それを個人的に年賀状を書く等のために使う限り、事業のために使うと言えないことから、個人情報取扱事業者ではない。また、真九郎はまだ揉め事処理屋になったばかりのため、クライアント等のデータが5000人分を超えるとは考えがたい。そして、過去6ヶ月間ずっとデータベース化された個人情報が5000人分を超えなければ、これまた個人情報取扱事業者とされない。

3.「情報屋」と個人情報
 情報屋を仕事としてお金を儲けるためには、いくら少なくとも5000人分の「情報」データベース*10は持っていないとどうしようもないだろう。銀子も、個人情報取扱事業者となる可能性は高い。そこで、以下、銀子が個人情報取扱事業者である場合を考える。

 まず前提として、個人情報取扱事業者が収集管理について制約を受けるのは「個人情報」であるから、「法人」の情報の入手は*11個人情報保護法上の問題を生じさせない。例えば、「悪宇商会は暴力団フロント企業である」という情報は、個人に関する情報を含まないので、個人情報には当たらないのである。

 さて、個人に関する情報について考えよう。ここでポイントは、情報屋は「情報を収集し、これを他人に提供することで収入を得る」というビジネスモデルで商売をしているということである。例えば、九鳳院紫の個人情報を収集し、これを他人に提供することで、収入が得られる訳である。
 個人情報取扱事業者は、情報収集の際、利用目的を公表・通知しなければならない(18条)。そして、情報はこの利用目的の範囲でしか利用できない。情報屋が「あなたの個人情報をいただきました。目的は、これをあなたに興味がある人に売ってお金を稼ぐことです。」といった通知をするとは考えられないが、通知・公表をしないと個人情報保護法違反」なのである*12。また、この目的の範囲外で利用することも、個人情報保護法違反である。なお、次の「情報を売る」場合と同様、通知公表により権利利益が害される場合等には利用目的通知が不要という除外事由(18条3項)があるが、この要件については、後述する。
 次に、個人情報を「売る」、つまり、本人以外に提供する*13場合を考えよう。個人情報を提供するには、原則として、本人の同意が必要である(23条)。例外的に本人の同意が不要な場合としては、(1)オプトアウト、(2)法令、生命身体保護、公衆衛生等の特定の場合の2つがある。
 (1)オプトアウトというのは、「第三者への提供を利用目的としており、こういう内容のデータを第三者に提供します。求めがあれば提供をやめます」等の事項を本人に通知するか公表しておけば、第三者に提供してもよいというものである。なお、公表方法は「本人が容易に知りえる状態に置く」ことであり、これについては経産省ガイドラインでは「本人が知ろうとすれば、時間的にも、その手段においても、簡単に知ることができる状態に置くこと」とされており、情報屋がこのような要件を満たすオプトアウトをするのは、現実には困難ではないか。
 (2)例外要件に該当する場合というのは、例えば、経産省ガイドラインで例示されているのは「総会屋情報の共有」である。同意が必要という原則貫くと、「Xが総会屋であることについてY社と情報を共有する」場合にまで、総会屋Xの同意が必要になる。Xが同意するかは不明であるし、仮に同意しても、Y社が狙われやすくなる。これでは、到底総会屋の不当要求を防げない。そこで、こういう場合には、「本人に通知あるいは公表することにより、権利利益を侵害するおそれがある場合」として、同意が不要となる。
 この例外の要件はあまり広くないが、なぜ、高いお金を出してまで情報を買うかといえば、こっそり情報を入手しなければ権利利益が害される場合だからということは多いのではないか。総会屋以外にも、「自分をストーキングしている人の素性を知りたい」等の場合についても、情報屋が「ストーカーの被害者の●さんにあなたの素性を教えますよ!」と伝えることは、被害者への被害を拡大させかねないので、同意不要といえるだろう。

 このように、情報屋稼業は、個人情報保護法違反の可能性が高いが、法人情報のみを扱うか、「生命身体財産等の利益を守るためには、情報取得・提供を知らせないことが必要」な場合にのみ情報の取得・提供をすることで、個人情報保護法に違反せずに業務を継続できるのである。

<以下、一応ネタばれを含みますので、反転してご覧下さい>
 そこで、九鳳院家の情報を入手し、これを真九郎に提供することも、「紫が誘拐の危機に瀕しており、真九郎がボディーガードをしている」という前提の下では「誰がどのように誘拐する可能性が高いのか」を知る範囲で必要な限りにおいては、生命身体財産等の利益を守るためには、情報取得・提供を知らせないことが必要」な場合といえ、適法ではないか*14


4.情報屋から情報提供を受ける場合の注意点、その他
 真九郎の場合は、個人情報取扱事業者ではないので、関係はないが、例えば柔沢紅香が銀子から個人情報を取得する場合、個人情報保護法の問題があるか*15

 ここで、紅香は長年揉め事処理屋をやっており、5000人以上のクライアント・ターゲットのデータベースを持っていることは間違いないだろう。そうすると、個人情報取扱事業者となる。個人情報保護法17条は個人情報の「適正な取得」を義務付けており、他人への提供(23条)のための要件(通知・公表・同意等)に違反した情報の取得もまた、不正な取得という見解が有力である*16

 そこで、上記の要件を満たさない、情報屋が個人情報を売ることが「個人情報保護違反」の場合に、紅香が情報屋から情報を取得することは、「紅香(=提供を受ける個人情報取扱事業者)にとっても、個人情報保護法違反」となるのである。この点は、一般企業(個人情報取扱事業者)が、探偵、名簿屋、情報屋から情報提供を受ける場合に注意すべき点であろう。

 なお、このような個人情報保護法違反は、原則として刑罰の対象とならない*17。その理由としては、立法当時、本人の同意を得ないで第三者に情報を提供することが国民一般の法意識に照らして刑罰で罰する程の行為にあたるとの共通認識があるとはいえないから*18とされている。
 この点は、銀子にとっては朗報ではあるが、インターネットによる情報収集を専業とする銀子には、不正アクセス防止法等、包囲網が張られており、それが徐々に狭まっていることには注意が必要である。

まとめ
 銀子は、ある情報を取得・売却する場合には、「生命身体財産等の利益を守るためには、情報取得・提供を知らせないことが必要」かどうかを吟味しなければ、個人情報保護法違反になる可能性が高い。とはいえ、違反により刑罰が科される可能性は低い。
 銀子には、法律の範囲内で今後も我々を萌えさせてもらいたいものである。

*1:いつもどおりのことですが

*2:正確な説明については、アニメ公式サイト等ご覧ください

*3:自分だけ?

*4:なお、両親に関する情報が、真九郎の情報と結び付けられた場合において、「真九郎という生きている人の個人情報」として「個人情報」となる可能性があることに注意

*5:環は生きていないので、個人情報ではないとかは言わないでください...

*6:p118参照、なお「裏モノ」ということは、これを他人(真九郎)に提供する目的で所持することは児童ポルノ法違反の可能性が高いことに注意。今後法改正がなされると、単純に所持するだけでアウト

*7:6ヶ月以内に一度でも5000を超える場合

*8:2条3項

*9:認定個人情報保護団体が、5000未満の個人情報しか扱っていなかったら?等の例外的な話は除きます

*10:なお、エクセルシートにデータが入力されているが、順番がランダムといった場合でも体系的に検索可能となれば個人情報保護上のデータベース(「個人情報データベース等」)といえる。

*11:民法上の不法行為や、窃盗等の問題は別にあるが

*12:なお、まともな地図会社等は、「住宅地図を作って売るため」といった目的をインターネット上等で「公表」していることが多い。

*13:これを「第三者提供」という。

*14:500頁すべてがその範囲の情報かは不明であるが

*15:銀子と紅香は仲が悪いので、情報提供を受ける可能性が低いとかは言わないでください....

*16:藤原静雄著「逐条個人情報保護法」74頁等

*17:大臣の命令に反する場合等の例外的場合のみ、56条以下参照

*18:三上・清水・新田「Q&A個人情報保護法」p111