- 作者: 弘兼憲史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/06/23
- メディア: コミック
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島耕作がついに社長になったそうである。見事な出世街道である。こうなれば、「会長島耕作」→「顧問島耕作」→「相談役島耕作」という路線は規定路線だろう。
2.「社長島耕作」は商標登録されている?
ここで、プレステ2発売時に、すでにプレステ3が商標登録されていたというニュースを思い出した。最低でも、「会長島耕作」くらいは、商標登録されているのではないか?
ここで、利用するのは「特許電子図書館」である。ここの「簡易検索(商標)」から検索すれば、今日本で登録されている商標名がわかる。
ところが、「社長島耕作」すら見つからない。
1. 登録3357360 課長島耕作
2. 登録3357361 課長島耕作
3. 登録4003920 課長島耕作
4. 登録4003921 課長島耕作
5. 登録4033795 課長島耕作
6. 登録4789549 島耕作\SHIMAKOHSAKU
7. 商標出願2007-117882 島耕作
この7件だけ、実質的には「課長島耕作」と「島耕作」だけなのである*1。この少なさはなぜなのだろうか?
また、注目すべきは「指定商品」の範囲である。
商標というのは、それによって、他社商品と区別をし、その商標がついているものであれば安心だと顧客を信頼させ、誘引する(顧客吸引力)。他人の商標を自由に使えるとすれば、商標による区別ができなくなり、顧客も困るし、製品をよくしようとする企業努力をも阻害する。そこで、商標を登録することで、独占使用を許した。
商標登録をしても、すべての商品・サービスについてその商標を独占できるわけではない。例えば、三菱は自動車等ではいわゆる財閥の三菱グループ企業が商標を独占しているが、鉛筆の業界では、三菱グループとまったく無関係の三菱鉛筆が「三菱」という商標を使っている。
そして、独占使用できる商品等の範囲を画するのが「指定商品」なのであるが、ゲーム、宝飾品、被服、石鹸等のみが「指定商品」となっており、「本」「漫画」はない*2。なぜなのだろうか?
3.タイトルと商標
書籍のタイトルについては、登録申請された商標が特定の書籍のタイトルを示すものである場合には、「品質」表示として、商標登録できないとされている*3。この理由はなかなか難しいのであるが、簡単にいうと「タイトルは、著作物を示すものであっても、出所を示すものではない」というところがポイントなのである。
商標は、他社商品との区別して、顧客を誘引するところにポイントがあるのだから、その出所を示す機能がなければならない。タイトルは、その「本」を示す意味はあっても、出所、例えば出版社がどこであるかを示す訳ではない。出所を示すのは、出版社の商号*4等である。そこで、原則として、商標登録はできないのである*5。
他人の商号を本のタイトルに使っても、それが商標として使用されない限り、つまりどこの商品かを示す目的で使われていない限りにおいて、商標権侵害にはならない*6。そこで、仮に誰かが「会長島耕作」の商標をとっても、弘兼憲史氏はなんら問題なく、「会長島耕作」を描けるのである*7。
もっとも、本のタイトルが、本以外のもの、例えば、あるゲームに使われ、そのゲームの出所を示す機能を持つようになれば*8、それは「本のタイトル」としての使用ではない。このような場合には、商標になり得る*9。
島耕作シリーズは、団塊の世代を象徴する作品として知名度が上がり、グッズ等も出てきている。そこで、それらのグッズ等の出所を示すものとして、上記の商標の登録申請がなされ、登録が下りているのである。
本のタイトルは、それ自体重要な意味を持つが、「出所を識別する」意味を通常は持たない。
だからこそ、他の商品のように、「シリーズものは、先の商品が出るずっと前に商標権を取る」といったことをする必要はないし、そもそも、出所識別機能を持つようになるまでは、商標が取れないのが原則なのである。
「会長島耕作」が商標登録されていないのは、こういう理由があったのである。
*2:ちなみに、「モーニング」は、雑誌・新聞について、講談社が商標を持っている。第1877699号
*3:専門的にいうと、商標法3条1項3号は、「その商品の(中略)品質(中略)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は登録できないとする。例えば「優れた」「特別」「うまい」等の品質を普通に表示するフレーズは、みんなが自分の商品のよさを示すために使い得る表示であり、これでは「他社の商品との区別」ができない。だから、こんなものは、商標として独占を許すことはできない。これが3条1項3号である。そして「書籍の題号については、題号がただちに特定の内容を表示すると認められるときは、品質を表示するものとする。」(商品に係る商標審査基準5(1)より)とされている。
*5:なお、上記のような解釈が定まったのは漱石商標事件といわれる事件による、昭和24年10月25日審決
*6:東京地判昭和63年9月16日
*7:但し、4条1項10号により、講談社関係者以外はたぶん「島耕作」の入った商標を取れないと思われる
*8:例えば、
*9:なお、上記通達5(2)においては、原則として、雑誌・新聞については、タイトルも商標とできるとされており、「書籍」を指定役務としての申請については、「雑誌・新聞」に変更すれば登録が下りる。