よくわかる税法入門 第4版―税理士・春香のゼミナール (有斐閣選書)
- 作者: 三木義一
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2008/03/31
- メディア: 単行本
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そこで、税法の知識0の元法学部生が税法に入門する上で最適な本を、池袋のジュンク堂で捜索した*2。
1.名前に偽りなしー「よくわかる税法入門」
立命館の三木義一教授の「よくわかる税法入門」は、税法の入門書の中では一番わかりやすい。
税法ゼミの学生の市木君と仁木さんに、税理士の春香先生が質問をするという対話形式で税法の「基本」がわかる。
対話の後、「まとめ」として、ゼミの先生(三木先生)の解説が入る。
市木君と仁木さんのレベルが、「普通の法学部生」なので、市木君と仁木さんのレベルにあわせた春香先生とゼミの先生の解説はわかりやすい。
入門書であるが、現行制度について憲法上の問題点を指摘したり、外国の制度との比較をする等、内容はかなり深い。
「税法のリーガルマインド」という意味では、特に、「非課税であることが必ずしもすばらしいこととは限らない」という指摘*3は興味深かった。例えば、本を古本屋に売って得た収入は、非課税とされている(所得税法9条1項9号)。これは、「税金を払わなくてよい」という意味で、一見「納税者に有利」なように見える。しかし、非課税であるということは、逆に言えば、2000円の本を古本屋に500円で売った際の損失(1500円)を、他の所得からマイナスして税金を減らすことができないということになる(同法9条2項)。このように、「必ず制度の裏と表の両面をみなければならない」という、税法を学ぶ上で非常に重要な点が、わかりやすく解説されているのである。
「パートの人がなぜ年収を103万円以下にしようとするのか?」
「消費者は消費税を払う義務を負っているのか?」
「先生の原稿料は何所得?」
「違法な収入でも税金を払わないといけないのか?」
といった、興味深いテーマについて進められる対話を読み進むと、租税法の教科書が理解できるようになる*4
30テーマ、約350頁と、入門書にしては量が若干多いことや、若干難しい内容を含んでいる*5ため、一冊を読み終わるまである程度の時間がかかるが、帰属所得等、「教科書の説明に必ず出てくるわかりにくい概念」について、対話形式で具体的に説明されているため、その後の教科書の理解が楽になる。
本書は、まさに「すごい税法の入門書」といえよう。
2.スタンダードではないけど面白い「スタンダード所得税法」
- 作者: 佐藤英明
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 2009/01
- メディア: 単行本
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スタンダード所得税法の冒頭には、「私のような立場の研究者が書けば、まあ、だれが書いてもこういう中身と説明になるだろう、という意味で、『スタンダード』と名づけました。」という記載*6がある。
これはある意味正しいが、ある意味明らかに誤っている。
「扱う項目及び扱う深さ」という意味では、この説明は正しい。実務的な内容や、細かすぎる内容を切り落とし、すっきりと重要事項だけを説明して終わっている。入門書段階を終えた者が、次に学ぶべき内容を的確に示しているという意味では、そのとおりである。
しかし、「説明方法や記述内容」という意味では、スタンダードであるとの説明は誤っている。
まず、いい意味で、「教科書」であり、「学術書」ではない。そこで、参考文献を「ケースブック租税法」1冊に絞込み、それ以の参考文献をそぎ落としている。よく、「これが通説である(金子●●頁)」といった、他の基本書の引用も一切ない。このため、スムーズに読み進めることが可能になる。
また、1つの項目を説明する際に、LectureとNext Stepという2つのまとまりを作り、基礎的で必ず学んでおくべき内容をLectureに、その上の先進的内容をNext Stepに記載している。そこで、時間がない人は、Lectureだけを一度読み、その後で両方読むといった効率的勉強ができるようになっている。これもすばらしい。
さらに、著者の突っ込みもいい。例えば、友達に対する1000万円の金銭債権を800万円で他人に譲渡したという場合において、その譲渡損(200万円の損失)が必要経費等にならない(所得計算上、無視される)という説明をしたところで、
なお、付言すれば、友人に貸した金の債権を他人に売るのはオニの所業ではなかろうか。
佐藤英明「スタンダード所得税法」210頁
と突っ込む。
こういう突っ込みは、著者独自のものであろう。
そして、事例に出てくる人名が「コナタ*7」「ハルヒ*8」「タイガ*9」「ヒソカ*10」…というのは、狙っているってことですね、佐藤先生!?
まとめ
三木先生の「よくわかる税法入門」は、タイトルそのままとてもわかりやすく的確な内容の税法の入門書である。
佐藤先生の「スタンダード所得税法」は、スタンダードではないところが多々あるが、非常に面白い所得税法の教科書である。