- 作者: 吉田利宏
- 出版社/メーカー: 法律文化社
- 発売日: 2011/12/01
- メディア: 単行本
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1.法律も、条文も、ないんだよ。
憲法・民法・刑法・商法・訴訟法。全て条文がある。そこで、よくわからない場合でも条文に戻って考えることで、理解を深めることができる。
しかし、こんなやり方が通用しない法律がある。これが行政法。特に行政法総論と言われる分野では、「行政法」という名前の法律ははない。多数の法律の中から概念を抽出するという次第だ。そこで、学生として、依るべき所がわからないまま、「行政行為」「行政庁」「給付行政」等の聞き慣れぬ概念が羅列される。こういう状況において、行政法が苦手な人が増えるのは、ある意味当然である。
もっとも、行政法は大事である。新司法試験、公務員試験の試験科目というのももちろんだが、実社会において行政は極めて大きな役割を占めている。そこと交渉する際の共通言語で切り札なのが、行政法だ。
2.藤田も、櫻井も、あるんだよ。
これまで、いろいろな行政法入門書を探してきた。藤田宙靖「行政法入門」は、豊富な具体例で説明する標準的教科書で万人にオススメできる。
- 作者: 藤田宙靖
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2006/11/10
- メディア: 単行本
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万人にはオススメできないかもしれないが、ぶっちゃけ話がいろいろ書かれているアイアン・メイデン櫻井女史の傑作。櫻井敬子「行政法のエッセンス」
- 作者: 櫻井敬子
- 出版社/メーカー: 学陽書房
- 発売日: 2007/10
- メディア: 単行本
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等々、良い入門書は多い。
しかし、分かりやすさという意味ではすごい本を見つけた。
それが、吉田利宏「つかむ・つかえる行政法」である。
- 作者: 吉田利宏
- 出版社/メーカー: 法律文化社
- 発売日: 2011/12/01
- メディア: 単行本
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3.こんな法律書、絶対、おかしいよ!?
藤田「行政法入門」が、「具体例で学ぶ行政法」なら、吉田「つかむ・つかえる行政法」は、「例え話」で学ぶ行政法である。
例えば、行政庁概念。具体例で説明してくれる「行政法入門」は、
私たちは、(中略)国に対して税金を納めなければならないこととされているわけですが、これを法律学的ないい方でいいかえてみると、結局、国が私たち国民に対して国税を(中略)徴収する権利を持っているということになるわけです。
ところで、この場合、この権利は誰の権利かというと、それは当然、法人格をもち、権利義務の主体であることを法律上認められている「行政主体」としての国だということになります。
ところが、実際の法律の上では、国民に対して現実に税金を(中略)強制的に徴収したりするのは、国そのものではなくて、単なるその一機関であるにすぎない税務署長の任務とされているのです。実際、課税処分や納税の督促などは「○○税務署長」という名前でなされています。この場合の税務署長の立場がまさに「行政庁」だ、ということになります。
藤田宙靖「行政法入門」25頁
と、租税債務の具体例を使って説明する。これ自体、普通の基本書よりずっと分かりやすい。
しかし、「つかむ・つかえる行政法」は、異次元である。
ある大きな駅のコンコースは夜になると若者のたまり場となりトラブルが生じています。たまらず駅はコンコースに貼り紙をすることにしました。その貼り紙には次のようにありました。
ここに深夜たむろする行為を禁止する 駅長
この「駅長」の部分が「◯◯駅」であってもへんな感じですし、「××電鉄」でもしっくりきません。やはり、駅長名でするのが一番よいように感じます。駅は鉄道会社のものですが、駅長こそが、鉄道会社のためにその駅を管理する存在だからです。
吉田利宏「つかむ・つかえる行政法」31頁
こういう「例え話」で説明するのが、「わかる・つかえる行政法」の特徴だ。
本当の初学者の方には非常にオススメできるし、そうでははない方も、
「無効訴訟とかけまして『めんつゆ』と解きます。その心は、どちらも意外な使われ方が評判です」
吉田利宏「つかむ・つかめる行政法」175頁
とか、「朝食に野菜を食べるといいよ」と「朝食にトマトなどの野菜を食べるといいよ」の違いから分かる行政事件訴訟法の改正(吉田利宏「つかむ・つかえる行政法」186頁)等々ニヤニヤしてしまうだろう。
まとめ
吉田利宏「つかむ・つかえる行政法」は、例え話で行政法にスムーズに入門するという意味で入門者にオススメであるし、ひととおり分かる方にも「行政法漫談」でニヤニヤできるという意味でオススメである。
ところで、この本、雰囲気が
会社法であそぼ。
に似ているなぁと思っていたら、葉玉元法務省民事局付検事と同様、吉田先生も衆議院法制局参事等を歴任される等のバックグラウンドをお持ちであった。