アホヲタ元法学部生の日常

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三博士没後100周年記念企画「法学ガール」〜新司法試験商法平成21年過去問その2

ブルドックソース事件の法的検討―買収防衛策に関する裁判経過と意義 (別冊商事法務 No. 311)

ブルドックソース事件の法的検討―買収防衛策に関する裁判経過と意義 (別冊商事法務 No. 311)

1.テトラちゃん
「先ほど話したように、360条において、『株主』の損害を論じてしまえば、これは条文から乖離するということで、間違いということになる。こういう、条文の文言から乖離した議論や、明文が存在することを忘れた議論、これは点数が低いね。また、確立した判例がある場合に、これを意識し、判例の内容を説明した上でこれに正当な批判を加え、その上で反対説を取るのならまだしも、確立した判例を完全に無視して議論するのは、実務家の卵としていかがかと思われてしまうかもね。そういう意味では、いつも条文と判例という基本的なところに立ち返って、その基本さえ守れていれば、何を書いても合格点、こう考えて基本的には間違いはないと思うよ。」
「分かりました。一定の制約はあるけれども、それさえ守っていれば自由、なんですね。」
「うん、そうだね。」

 
「設問5です。これは、[1]と[2]があります。」

〔設問5〕X社の臨時株主総会において,合併契約の承認議案に対し,賛否それぞれどれだけの数の議決権の行使があったと考えるべきか。次の①及び②の場合に分け,それぞれ理由を付して説明しなさい。
[1]X社株主には,X社に議決権行使書面を提出しつつ,Z社に委任状を交付した者はいなかった場合
[2]X社株主には,X社に議決権行使書面を提出するとともに,Z社に委任状も交付し,いずれにおいても合併契約の承認議案に対する賛否の欄に賛否を記載しなかったFがおり,同人の有する議決権が100個含まれていた場合

「そうだね。まず前提として、委任状や議決権行使書以外の株主の議決権はどうなっているかな。」
「賛成6000、反対1000です。」
「Zの5000議決権は?」
「あっ、反対です。」
「じゃあ、次に、議決権行使書でいこうか。明らかに賛成なのは、賛成の欄に丸をつけた人が。これが何議決権?」
「5000です。」
「明らかに反対なのは、「否」つまり反対の欄に丸をつけた人、これは?」
「2000です。」
「白票は?」
「2万9000個です。」
「この点を検討する前に、先に委任状をみてみようか?」
「賛成50、反対2000、白票10000です。」

投票方法 賛成 反対 白票
議場 6000 6000
議決権行使書 5000 2000 2万9000
委任状 50 2000 1万


「じゃあ、難しい問題に切り込んで行こう。まず、議決権行使書の2万9000個の白票だけど、どう考えるべきかな。」
「う〜ん、わかりません…。」
「あきらめたら、そこで試合終了だよ。問題文の資料は読んでいるかな。」
「資料ですか?」
「この問題だと、議決権行使書の図と、委任状の図だよ。」
「いいえ、だって、ただの参考かと思って…。」
「確かに、情報の中には重要度の差はあるけれど、わざわざ資料をつけたんだから、何か読み取ってもらいたいものがあるはずだよ。」
「あっ、分かりました。『議案につき賛否の表示をされない場合は、賛成の表示があったものとして取扱います』って書いてます。」
「そうだね。これを見つければ、後は、この記載どおり2万9000個を賛成にしていいか、ってことだね。」
「なんとなく、こういう文言が書いているから、それを見てあえて白票にした以上、賛成でいような。」
「うん、これは、実質的理由だろうね。白紙委任状みたいな感覚で、白紙議決権行使書を出す人もいるといった理由も主張されている。でも、こういう実質的理由だけでは、法律家の議として不十分だよね。法律を解釈しての法律家だ。」
「条文を、探すんですね。」
「よく分かってきたね。」
「ありました! 会社法施行規則66条です。」

(議決権行使書面)
第六十六条  法第三百一条第一項 の規定により交付すべき議決権行使書面に記載すべき事項又は法第三百二条第三項 若しくは第四項 の規定により電磁的方法により提供すべき議決権行使書面に記載すべき事項は、次に掲げる事項とする。
(中略)
二  第六十三条第三号ニに掲げる事項についての定めがあるときは、第一号の欄に記載がない議決権行使書面が株式会社に提出された場合における各議案についての賛成、反対又は棄権のいずれかの意思の表示があったものとする取扱いの内容
(後略)

「そうだね。66条1項2号で、議決権行使書に関する白票の取扱いをどうするかは、議決権行使書を作成する会社の判断に委ねられている。だから、会社法は賛成という意思表示があったものとする取扱いをすることを許容しているというのが条文上の理由、いわゆる『形式的な理由』になるね。」
「形式的理由によって法律論、つまり条文の解釈論であることを示し、実質的理由によって、その解釈が実質的にも正当化されることを示すんですね。」
「そう、これが法律解釈の基本だよ。」


「さて、そうすると、議決権行使書の賛成と反対はどうなる?」
「賛成が3万4000個、反対が2000個です。」
「いいね。さて、最後の難関が、委任状だ。まず、1万個の何も書いていない委任状は?」
「資料を読むと、『賛否を明示しない場合』『白紙委任とあるので、Zの意思通り反対です。」
「そうすると、どうなるかな?」

投票方法 賛成 反対
議場 6000 6000
議決権行使書 3万4000 2000
委任状 50 1万2000
合計 4万50 2万

「賛成が4万50議決権、反対は2万議決権です!」
「そう考えがちなんだけど、本当にそれでいいのかな。Zに賛成と書いた委任状を送った50個はどうなんだろうか?」
「賛成の欄に丸があるのに、Zが全部反対の意思表示をしています。」
「そうすると、これはどう考えるのかな。」
「えっと、う〜ん。」
民法だとどうなるのかな。」
「Zは権限はあるのに、それを濫用しているので、原則として反対の意思表示として有効ということでしょうか。」
「そうだね。93条但書類推の話は別にあるけど、有効説は十分にありえる筋だ*1。これだと、いくつになる?」
「賛成が、4万個、反対が2万50個です。」

投票方法 賛成 反対
議場 6000 6000
議決権行使書 3万4000 2000
委任状 1万2050
合計 4万 2万50

「そうだね。ところで、民法の教科書や資料集等で、白紙委任状を見たことはある?」
「はい。」
「どういうものだった?」
「なんか、●●に関する件を全て委任するってなってました。」
「そうだよね。その方が、全権を握れて代理人としては楽なはずだ、じゃあ、なんでZは賛否の欄を作ったんだろうか? Zが単に几帳面なだけかな? 問題文に何かないかな?」
「う〜ん、えっと…。あっ」

金融商品取引法に従って行われたものであった。

金融商品取引法ですか?」
「そう。金融商品取引法194条だ。」

(議決権の代理行使の勧誘の禁止)
金融商品取引法第百九十四条  何人も、政令で定めるところに違反して、金融商品取引所に上場されている株式の発行会社の株式につき、自己又は第三者に議決権の行使を代理させることを勧誘してはならない。

「これだけではよく分からないです。」
「そうだね。政令がある。金融商品取引法施行令だ。」

(議決権の代理行使の勧誘)
金融商品取引法施行令第三十六条の二  議決権の代理行使の勧誘(法第百九十四条 に規定する金融商品取引所に上場されている株式の発行会社の株式につき、自己又は第三者にその議決権の行使を代理させることの勧誘をいう。第三十六条の四から第三十六条の六までにおいて同じ。)を行おうとする者(以下この条から第三十六条の四までにおいて「勧誘者」という。)は、当該勧誘に際し、その相手方(以下この条及び第三十六条の六において「被勧誘者」という。)に対し、委任状の用紙及び代理権の授与に関し参考となるべき事項として内閣府令で定めるものを記載した書類(以下この条から第三十六条の五までにおいて「参考書類」という。)を交付しなければならない。
(中略)
5  第一項の委任状の用紙の様式は、内閣府令で定める。


「これでもよく分からないです。」
「5項の内閣府令というのは、上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令のこと。その43条を見てみよう。」

(委任状の用紙の様式)
上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令第四十三条  令第三十六条の二第五項 に規定する委任状の用紙には、議案ごとに被勧誘者が賛否を記載する欄を設けなければならない。ただし、別に棄権の欄を設けることを妨げない。

「あっ、だから賛否の欄を設けていたんですね。法律から政令そして内閣府令と、たらい回しみたい。」
「そう、金融商品取引法は、証券取引法の改正という形を取って、いろんな金融関係の規制を全部1つに盛り込んだせいで、はっきり言って実務家でも金商法の専門家以外はほとんど『何が何やら』の状態なんだ。逆にいうと、金商法の条文をこうやって引けるようになれば、司法試験の条文操作なんて、もう何も怖くないはずだ。」
「まずは、会社法に慣れます。金融商品取引法を見ていると、会社法の条文が分かりやすいように思えてくるから不思議ですね。」
「そうだね。それで、なんで、金商法が、賛否を記載させているんだと思う?」
「株主が参加したいという意思の尊重、ですか?」
「そうだね。通説的な理解によれば、株当日総会会場に自らが赴けない株主は、代理人を通じて当日出席して意思を表示する。とすると、その意思ができる限り正確に反映されるように、少なくとも委任状を大々的に勧誘し、委任状勧誘に関する金融商品取引法の規制(委任状勧誘規則等といわれる)にのっとった勧誘をしないといけない場合については、賛否を委任状に記載させたといわれる。そうすると、50議決権はどう考えるべきかな。」
「反対と意思表示した代理人の行為にかかわらず、50議決権分は株主本人の意思である『賛成』と扱う、ってことですか。」
「うん、これも1つのありえる筋だね*2。そうするといくつ。」
「賛成が、4万50個、反対が2万個です。」

投票方法 賛成 反対
議場 6000 6000
議決権行使書 3万4000 2000
委任状 50 1万2000
合計 4万50 2万

「確かに、意思の正確な反映を強調すると賛成ということになる。でも、代理人が賛成としていないのに、賛成と扱っていいのかという強い批判もあるよね。」
「折衷説、ですか?」
「うん。反対と扱うと本人の意思に反するが、賛成とも扱えないから無効という考えもあるね。*3
「なるほど。3つも考えがあるんですね。」
「この考えで、合計するといくつになるの?」
「賛成が、4万個、反対が2万個です。」


投票方法 賛成 反対
議場 6000 6000
議決権行使書 3万4000 2000
委任状 1万2000
合計 4万 2万


「じゃあ、テトラちゃんは、どの考えをとるのかな。」
「金商法の趣旨は分かりました。でも、Zには代理権があるんですよね。民法は一般法です。明文で民法の特則があるなら分かりますが、そういうのがないのに権限を濫用しているというだけで無効というのは、民法理論と違っていておかしいです。だから、反対の議決権行使として有効とせざるを得ないと思います。後はZに対して損害賠償をして解決するというのでどうでしょうか。」

投票方法 賛成 反対
議場 6000 6000
議決権行使書 3万4000 2000
委任状 1万2050
合計 4万 2万50

そういう筋の通った理由がついていれば、どの説をとっても点数は同じだと思うよ。次が[2]だね。」



「100議決権を持つFが委任状と議決権行使書面両方を出しています。」
「実は、実務では結構こういうのがあって、この問題を作る際に参考にされたと言われるモリテックス事件判決(東京地判平成19年12月6日判例タイムズ1258号69頁)では、こういっている。」

 被告は,全株主に対して電話を行い,議決権行使書面の送付を依頼するとともに,原告に提出した本件委任状による代理権授与の撤回の意思を確認することができた株主に対しては,「委任状撤回通知書」と題する書面(甲2添付資料9−18)を送付して,原告に対する議決権行使の代理権授与の撤回の手続を行った。

「要するに、委任状を送った後、やっぱりやめたといって、議決権行使書面を送った人も相当数いたみたいだね。」
「へぇー、この問題のFって、ちょっと抜けてるなぁと思っていたんですが、そこまでおかしな事例ではないんですね。」
「まあ、刑法とかでは教室説例っぽいのがたまに出るけど、一般論としては、司法試験には比較的実務的な『あり得べし』な範囲の事例が出ることが多いよ。じゃあ、Fは賛成、反対?」
「難しいです…。」
「Fは、委任状、議決権行使書それぞれで賛成、反対どっちの意思を表示しているのかな。」
「委任状で白紙ですから、反対、議決権行使書で白紙ですから、賛成の意思を表示していることになります。」
「それを総合するとどう思う?」
「不統一行使(会社法313条)なのに同条2項の要件を満たしていないから不適法というのは、どうでしょうか。」
「面白いね。ただ、委任状では100議決権について反対の意思を示しているから、『統一しないで行使』した場合に該当するかは難しいかもね。発想はいいよ。」
「じゃあ、議決権は100しかないのに、賛成に100,反対に100を行使して、お互い矛盾しているので、不適法として、無効というのはどうですか。」
「それは、十分にありえる筋じゃないかな。不統一行使の条文を引きながら、『賛成と反対双方に議決権を行使したければ、50/50とかにすべき。100を賛成、100を反対というのは適法な不統一行使ではなく、矛盾した議決権行使と言わざるを得ず、これを有効とすることはできない。』とすれば、形式的根拠も示せるしね。」
「分かりました。」
「その場合の議決権数は?」
「39900と19950です。」

投票方法 賛成 反対
議場 6000 6000
議決権行使書 3万3900 2000
委任状 1万1950
合計 3万9900 1万9950


「そうだね。ところで、別の議論もあることを知ってる?」
「別の議論、ですか?」
「さっき、代理人による投票についてどう言ったっけ?」
「当日総会会場に自らが赴けない株主は、代理人を通じて当日出席して意思を表示する、つまり、委任状による反対の100議決権は、理論上は当日出席して行使しているのと同視できるということですね。」
「そうだね。議決権行使書については、298条1項3号という条文があるね。」

株主総会の招集の決定)
第二百九十八条  取締役(前条第四項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主。次項本文及び次条から第三百二条までにおいて同じ。)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
(中略)
三  株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
(後略)

「あ、議決権行使書を出せるのは『株主総会に出席しない株主』なんですね。」
「そのとおり。代理出席をしているから、これにあたらず、議決権行使書を出しても無効という考えが通説的な見解で、実務もこれにのっとって動いているといわれている。」
「なるほど、条文の根拠としては、不統一行使といった遠い所からもっていくよりはこの方が分かりやすいですね。」
「これは、裁判所の判決を書くのではなく、試験だから、どちらでも筋が通っていれば同じ評価になると思うよ。あくまでも、テトラちゃんが、より説得的だと思う方をとればいい。」
「じゃあ、委任状のみが有効で、議決権行使書は無効にします。」
「その場合の数は?」
「3万9900個と2万50個です。」
 

投票方法 賛成 反対
議場 6000 6000
議決権行使書 3万3900 2000
委任状 1万2050
合計 3万9900 2万50


 
「次が設問6ですね。」

X社の臨時株主総会の終了後,Z社が合併の実現を阻止するためには,会社法に基づき,どのような手段を採ることができるか(〔設問4〕で解答した手段を除く。)。合併の効力が発生する前と後とで分け,それぞれ理由を付して説明しなさい。

「ところで、どうして合併効力発生の前と後で分けるの?」
「それは…。」
「条文だよ。」
「828条、ですね。」
「そう。」

(会社の組織に関する行為の無効の訴え)
第八百二十八条  次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
(中略)
七  会社の吸収合併 吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内
(後略)

「828条1項7号により、吸収合併は、効力が生じてしまうと、もはや合併無効の訴えでしか無効を主張できない。それは、合併が多くのステイクホルダーに影響を与えるからだね。」
「そうすると、合併無効以外を考えるのが、効力発生前ということですね。」
「そうだね。例えば何があるだろうか。」
独占禁止法違反はどうでしょう。」
「面白そうだね。どういう風に議論しようか。」
「えっと、株主総会決議が法令に違反すると、無効になります。」
「決議の『内容』が法令に違反する場合に決議が無効になると表現したほうがよい。なぜかというと、そのほうがー」
「―厳密だから?
テトラちゃんがすかさず言う。
「そのとおり。『決議が法令違反』という表現は厳密ではない。決議のどこに法令違反があれば無効になるか、法律家は、これを明確にしなければならないからね。」

株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)
第八百三十条  株主総会若しくは種類株主総会又は創立総会若しくは種類創立総会(以下この節及び第九百三十七条第一項第一号トにおいて「株主総会等」という。)の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。
2  株主総会等の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる。

「言葉を厳密に使うこと。法学って、言葉が大事なんですね」
「そのとおり!法学は人に大きな賠償金を負わせたり、刑事であれば有罪にすることもある。そういう重大な物事を扱っているのだから、できるだけ誤解が生じないよう、法学は言葉を厳密に使うんだ。ところで、今回は決議の『内容』が法令に違反するのかな」
「決議の内容である合併をするということが、独占禁止法違反だから、あっ。」
「そうだね。単に独占禁止法違反があるだけではなく、独占禁止法違反が決議を無効事由になるのかは、独占禁止法違反が取締役の違法行為なのかという問題と同様に検討しておいた方がいい。ただ、どのような種類の法令であれ、違法な内容の決議は許されないと考えれば、無効といっていいんじゃないかな。」
「分かりました。」
「他の問題は指摘できるかな。」
「う〜ん、また会社法の条文を探す訳ですか?」
「その前提として、設問5によると、決議は可決されたの、否決されたの?」
「えっと、賛成が半分以上のような気がします…。」
会社法309条、基本条文だよ。」

株主総会の決議)
第三百九条  株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2  前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
(中略)
十二  第五編の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
(後略)

「あっ。第五編は、組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転でした。」
「そう。合併の決議は、309条2項12号で特別決議、過半数が出席し、3分の2以上の賛成が必要。」
「合併の承認決議ということで783条の周辺を見ていたんですけど、どこにも特別決議だと書いていなかったので、つい…。」
「これが、会社法の条文が分かりにくいといわれる例だね。309条2項は基本条文だから、常に確認しよう。」
「はい、分かりました。」
「そうすると、どうだろうか。」
「[1]については、4万と2万50個なので、否決、[2]では3万9900個と2万50個なので否決ということですか。」
「そうだね。否決なのに、議長が勝手に可決と宣言したことになる、これは少なくとも『決議の方法』の『法令』『違反』(会社法831条1項1号)だ。この他にも、合併比率の問題、議長不信任動議等を無視したこと等、決議取消事由なのか無効事由なのかはともかく、いろいろな違法行為がありそうだね。」
「これらを全部書かないといけないんですか。」
「そんな心配はない。重要なものをいくつか取り上げて議論できればいいよ。答案構成の段階で、どこまで書けるのかを時間と相談しながら、重要そうなものから1〜4と順位をつけて、『時間がないから優先順位1番と2番だけ書いた』というのでもいいかもね。」
「本番は、そういう感じなんですね。」
「そう、論点落としより、怖いのは、むしろ論理矛盾や条文判例との齟齬といった基本的な失敗なんだよ。」
「分かりました。じゃあ、独禁法違反で無効確認と否決を可決とした取消訴訟の2つにします。」
「うん。ところで、訴訟ってどれくらいかかるの?」
「分からないです。」
「先ほどのモリテックス事件は、かなり速く判決まで行った事案だ。裁判長が、結審に際して、このようなことを言っている。」

(株主提案と株主提案が対立し、会社の経営支配権に争いが生じるという)このようなケースでは、検査役報告書が提出され、事実関係にほとんど争いがなく、法律論のみ争いになる場合が多く、この場合、迅速に裁判所の判断を示すことが司法に期待される役割だと思う
江頭憲治郎ほか「株主に勝つ株主が勝つ」193頁

「そういう『トップスピード』の事案でどのくらいだと思う?」
「1ヶ月とか、でしょうか?」
「残念。あれは、6月総会の事案。判決年月日を見てご覧。」
「12月ですね。」
「提訴期間の3ヶ月(831条1項柱書)までは、別の株主が提訴する可能性があって併合が必要だ(837条)。だから、実際は、1審だけでも3ヶ月以内の判決は無理だね。」
「そうなんですか。」
「しかも、取消判決はいつ確定するのかな。」
「控訴、上告、あっ、最高裁まで行く、ってことですか。」
「そう、最高裁に行けば、数年はかかってしまうかもしれないね。ところで、合併の効力発生はいつ?」
「平成21年4月1日です。結局合併の効力は発生してしまい、合併無効の訴えしか使えなくなるんですね。」
「そうとは限らない。そのために、仮の救済が得られるよ。」
「仮の救済ですか?」
民事保全法で、仮処分を起こすことができる。取り消しや無効確認を本案とする仮処分命令を申し立てればいいんだよ。」
「なるほど、よくできてますね。」


「後段はどうかな。」
「これは、合併無効の訴えですね。」
「そうだね、無効原因になるだろうか。どういう枠組みで考えればいいのかな。」
対立利益、ですか。」
「うん、そうだね。基本的には、無効原因については条文に明示されていない。その場合、あえて無効の訴えという方法だけで瑕疵を主張できるとした理由は、誰でもいつでも無効を主張できるとすると、法律関係が混乱するからということで、法的安定性の要請は1つの重要な考慮事由だ。しかし、それを上回るほど重大な法令違反等があれば、これは無効とすべきだろう。」
「わかりました。独禁法違反は、内容が違法であって、独禁法はこういう合併を許容しない趣旨だと思うので、法的安定性の要請を超える重大な違反だと思います。」
「そういう考えは十分にありえるよ。」
「計算方法は、取り消し原因に過ぎないと考えるので、法的安定性の要請の方が重要であり、無効原因にはならないと思います。」
「その考えはあり得るけど、もう少し反対利益に配慮できないかな。」
「えっと、どういうことですか。」
「さっき、仮処分命令が出せるといってなかった。」
「なるほど、仮処分命令が発令されているのであれば、そういう裁判所の命令に違反する合併を有効とすることは適切ではないので、無効原因と考えていいということですね。」
「あくまでも1つの道筋だけど、原則は無効原因にならない、例外的に仮処分命令が出ていれば無効原因というのは、反対利益への配慮を見せることができるからいい筋道かもしれないね。」


 
「ところで、出題形式は大大問だったけれどもほとんど設問1〜3とは無関係です。大大問にする意味はあるのでしょうか。」
大大問、2科目が融合した問題を4時間で解く。平成22年までは、民事系は大大問1つと大問1つを配置し、民法・民訴を融合した問題、民法・商法を融合した問題、商法・民訴法を融合した問題が出題されていた。平成21年の問題も設問2ということで、民法と商法を融合した問題。
「全くないね。平成23年から大大問は廃止されたけど、こういう問題なら、大大問を事実上廃止するのと同じだね。」
「大大問はどうして出題されていたのですか。」
「実務では、民法だけの問題、商法だけの問題、会社法だけの問題といった、単一争点の問題はあまりなく、もちろんメインの問題は1つだけという事案は多くても、複数の領域の複数の問題が複雑に連なることが少なくない。その意味では、当初5年の試みは、実務との架橋という法科大学院制度の理念に沿ったものともいえるね。」
「それでは、どうして、大大問がなくなったんですか。」
「融合問題で出題しにくい分野があると言われるね。例えば民事訴訟法では事実が何か分からないことを前提にした問題群があるけど、これは、一定の事実が存在することを基本的には前提としている民商法と融合させるのは難しいかもしれないね。」
「問題の作り易さだけが原因ですか。」
「あとは、受験生のレベルと言う問題も指摘されているね。」

司法研修所の教官からは,入所前に基本的なことをもっとしっかり学んできてほしいという意見をしばしば聞く。受験者は,まだ司法試験で融合問題を中心に問えるような水準にはなく,まずは各法律分野の基本を十分に理解しているかどうかを問うべきではないか,という考え方もある
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi01800011.html

「理想は高かったけれども、現実は、ということなのでしょうか。確かに、純粋未修にとって3年で優秀な答案を書くのは難しいかもしれません。」
「まあ、そうしょげ込まないで。理念自体が放棄されたのではなく、今後も大問の中に例えば会社法上の請求に加え民法上の請求も入れるであるとか、詐害行為取消/債権者代位の問題に民事執行をからめるとか、そういう融合問題は出題される予定だよ。まずは基礎を固めること、これが試験でも、実務でも必ず役に立つはずだから。」
「分かりました。」
 
 
「でも、こういう問題を見てると、シンパシーを感じるというか、ある意味で勇気づけられます。」
「勇気ってどういうこと?」
「だって、Zにとっては、好きなXが、心変わりしてDを本気で愛しているって状態な訳ですよね。DにXが奪われないよう、交渉差止仮処分、違法行為差止請求、総会決議取消/無効確認の訴えを起こし、それを本案として仮処分も起こす。更には合併の効力発生後には合併無効の訴えを起こす…。本当に、一途で、まさに純愛ですね。」
「テトラちゃんは、想像力が豊かだね。この事案を擬人化するなんて。」
「だって、えっと…。こういう一途なYを見ていると、私もまだまだ頑張れるって…。あら、嫌だ。私何を言っているのでしょう。ご、ごめんなさい。」
テトラちゃんは、突然赤面して、駆け出していった。
 

2.ミルカさん
「全く。直接証拠がない場合の事実認定ができてないわね。二回試験の裁判科目なら不合格よ。」
聞き慣れた声がするので振り向くと、ミルカさんが微笑んでいた。事実、認定??何を言っているのだろう。
情況証拠と間接事実から、主要事実の存否を認定する。刑事裁判と違って証拠制限がないし、民事裁判と違って要件事実や立証責任を考える必要もないから、その意味でもずっと簡単なのにね。」
ミルカさんは、時々突拍子もないことを言う。
 

「ところで…株主総会決議取り消しの訴えを本案として仮処分ね、何条?」
えっと…。会社法の法条をめくるが、見つからない。 
会社法なの?」
 「えっ?」
 「民事保全法23条2項」

民事保全法23条2項 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

民事保全法は開いたことがなかった。
「困ったわね。民事保全法も当然に司法試験の範囲よ。サンプル問題にはその趣旨が明確に書かれている。」
 

民事訴訟法に関する分野の出題範囲については,民事訴訟法のほか,民事執行法及び民事保全法等の関連法も,法科大学院民事訴訟法の講義の中で通常触れられる部分は,これに含まれるものである。
[新司法試験サンプル問題(民事系科目)]
http://www.moj.go.jp/content/000006342.pdf

 

民事保全法・執行法は3年次の配当科目で…。」
「そんなのは理由にならないわ。弁護士になって事件を解決する上でその法律を知らないなんて言ってられる? 今覚える。これよ。民事保全の目的は、現状と将来の権利確定・実現のタイムラグを埋めること*4
 

タイムラグを…埋める?

 
「そう。金銭債権の請求をしている間に資産が浪費・隠匿されれば、請求認容判決もすべて画餅。そこで、本案、つまり正式な訴訟で権利確定するまえに、仮に裁判所が判断をする。」
 裁判には時間がかかる。その間に財産隠し等がされる可能性が高い。


「合併の効力が発生するとどうなる?」
それは、合併無効の訴えでしか争えなくなる。
「その前に、取消し事由を主張して訴訟を起こしたとして、いつ判決が?」
半年や一年はすぐにかかる。4月1日は…。
「経過するわね。そう、だからこそ、合併決議執行停止の仮処分が実務上も認められている。この法的性質は、仮の地位を定めるための仮処分民事保全法が定める三種類の手続きは、分かる?」
いや…

「1つ目が仮差押え。金を払えという金銭債権を持っている場合、判決をもらった際に財産隠しがされてしまって判決が画餅にならないよう、例えば、不動産等を仮に差し押さえてしまう。2つ目は係争物に関する仮処分。典型が占有移転禁止の仮処分で、例えば貴重な絵画を買ったはいいが、売主が第三者に転売しようという場合には、引渡請求訴訟で勝訴する前に、第三者に引き渡してしまうことを禁止する。そして3つ目が仮の地位を定めるための仮処分。争いある権利関係について、訴訟等による権利関係の確定を待ってられない場合に仮の地位を定めるため利用される。」
この3つ目が、今回の…。
「そう、保全命令には、保全権利と保全の必要性が必要。被保全権利は、本案の判断の前に仮の命令を出して守ってもらいたいという権利ないし権利関係が本当にありますかという問題。例えば、総会決議に瑕疵がなければ、仮に命令を出してストップしてもらう意味はない。そこで、被保全権利はないとされる。保全の必要性は、本案の判断までなんで待てないのかということ。待てるんだったら、わざわざ裁判所が公権力を行使するまでもない。」

種類 内容
仮差押え 金銭債権保全のため、資産を仮に差し押さえる
係争物に関する仮処分 係争物の権利移転を禁止
仮の地位を定めるための仮処分 争いある権利関係について、訴訟等による権利関係の確定を待ってられない場合に仮の地位を定める


なるほど。
「特に仮の地位を定めるための仮処分については、本案による権利関係の確定前に裁判所に命令を出して貰わないと債権者に著しい損害や急迫の危険が生じるという場合という要件が必要(23条2項)。そう簡単に合併の停止を認めてしまえば、円滑な合併手続きが阻害される。ところで、23条2項の『債権者』は今回は?」
 「仮処分を申し立てる人だから、株主?」 
「普通はそう。例えば、出版差し止めといった場合には、名誉毀損・プライバシー侵害を受けている人が申立てる。つまり『債権者』=『申立人』。ところで、会社訴訟を株主が提起できるのは、私益のため?」
いや…。 
「こういう権限を自益権との対比で?」
共益権? 
「共益権ね。そうすると、この訴訟は究極的には誰のため?」 
「会社…かな?」 
「そう、そこで、実務的には、株主Zではなく、会社Xについて『著しい損害又は急迫の危険』を考える*5。今回は?」 
独占禁止法違反のレピュテーションリスクを考えれば…。」 
「そう、重大なレピュテーションリスクがあると考えれば、会社に『著しい損害又は急迫の危険』が認められる。」
なるほど、会社法360条の「回復することができない損害」の話とパラレルに考えられるとは。

 
「このような仮の地位を定めるための仮処分の場合、手続の特則がある。民事保全法23条4項」
 

民事保全法23条4項第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

「趣旨は?」
手続…保障?
「発令された場合に債務者、会社に影響が大きいため、手続保障の観点から、通常は審尋、非公開で意見を聞く。要件を満たすとして、主文は?」

 
甲府地裁に先例があるわ(主文については、新谷勝「会社訴訟・仮処分の理論と実務第2版」190頁、第一東京弁護士会保全処分の実務」336頁参照)。総会決議取消訴訟を本案とした案件。」

債権者が、保証として、金一千万円またはこれに相当する有価証券を供託することを条件として、次のとおり命ずる。
  債務者が昭和三五年五月二三日甲府市橘町一八番地山梨県民会館映画講堂において開催した定時株主総会でなした別紙記載第二号議案及び第三号議案を可決するとの決議の効力を本株主総会決議取消訴訟事件の本案判決確定に至るまで停止する。
  債務者会社代表取締役は右決議を執行してはならない。
 訴訟費用は債務者の負担とする。
甲府地決昭和35年6月28日判例時報237号30頁

「ところで、このような命令が下されたとして、『決議を執行してはならない』ってのは、何が禁止されるの?」
….。
「合併承認決議後やることは?」
えっと…。
会社法785条」

第七百八十五条  吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
(中略)
3  消滅株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、その株主(第七百八十三条第四項に規定する場合における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主を除く。)に対し、吸収合併等をする旨並びに存続会社等の商号及び住所を通知しなければならない。ただし、第一項各号に掲げる場合は、この限りでない。
4  次に掲げる場合には、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
一  消滅株式会社等が公開会社である場合
二  消滅株式会社等が第七百八十三条第一項の株主総会の決議によって吸収合併契約等の承認を受けた場合
5  第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
(後略)

「一例として、会社法785条1項及び5項により、4月1日の20日前から同日までの間、反対した株主は株式買取請求権が行使できる。そしてその前に会社から買取請求のための通知が来る。公開会社なら、公告でもいいけれど。」
あっ。
「『債務者会社代表取締役は右決議を執行してはならない。』というのはそういう通知とかの効力発生までに行われるべき手続を進めることを禁止する効果がある、このように考えられる。」
なるほど。
会社法の教科書には、ここまでは詳しく書いていないし、司法試験にここまで出題されるかは疑問ね。しかし、今日、会社法の最先端の問題が仮処分で争われることは非常によくあることブルドッグソース事件が総会開催禁止仮処分だったことは有名。大大問は廃止されたけど、『商法』『民法』『民事訴訟法』と分かれて事件が起こる訳ではない。現実の問題に対応するためには、広い視野と知識が必要よ。」
 
 ミルカさんは、今後、実務家になったとしても、大所高所から事件を俯瞰し、法律の枠にとらわれず、最も適切な解決を図れるのだろう。自分はそんな実務家に、なれるのだろうか。ミルカさんの説明を聞きながら、ついそんなことを思ってしまう。

まとめ
GW中に3年分アップいたしました。
何とか今年の試験までに商法はアップできそうです。
よろしくお願いします。


目次
梅謙次郎博士、ボアソナード博士、穂積八束博士の没後100周年となる2010〜2012年を記念し、新司法試験の過去問を小説で解説する企画です。


法学ガールのコンセプト
商法ガール、始めます


平成23年民事系過去問【pdf直リン注意】
平成23年商法過去問解説その1
平成23年商法過去問解説その2


平成22年民事系過去問【pdf直リン注意】
平成22年商法過去問解説その1
平成22年商法過去問解説その2


平成21年民事系過去問【pdf直リン注意】
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平成20年民事系過去問【pdf直リン注意】
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平成19年民事系過去問【pdf直リン注意】
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平成18年民事系過去問【pdf直リン注意】
平成18年商法過去問解説その1
平成18年商法過去問解説その2


ご参考
バベル先生が憲法18〜23年を小説で解説された「憲法ガール」、傑作です
http://d.hatena.ne.jp/tower-of-babel/20130101/1324891852

*1:なお、委任状は事前に会社側に提示する実務なので、そうすると会社側悪意という問題があり得るが、本問では、ここまでの実務的知識は要求されていないだろう。

*2:但し、「代理人が賛成としていないのに、賛成と扱っていいのかという強い批判」があり、弥永教授は「株主の記載どおりに議決権が行使されたことになるわけではない」とおっしゃっている(別冊法学セミナー2009・83頁。「代理人は反対としていること」への配慮を意識しているところをアピールしておかないと、減点になる可能性がある。この場合、例えば、「会社法310条7項2号により、委任状は利害関係者が閲覧・謄写できるので、株主が真にどのような意思であったかを確認することができる」といった理由をつければ、少なくとも答案としては十分成り立つと考える。

*3:この場合、無権代理という議論は可能だが、代理権自体はZに授与されており、単に行使方法についての内部的合意違反にすぎないのではという反論に留意する必要があるだろう。

*4:平野哲郎「実践民事執行法民事保全法」280頁

*5:例えば、職務執行停止についてであるが、判例時報1287号7頁参照