
- 作者: 小谷武
- 出版社/メーカー: トール
- 発売日: 2003/10
- メディア: 単行本
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1.商標法の難しさ
商標法は奥が深い。
一見、「他人のブランドは勝手に使うな」というだけのシンプルな内容かとも思われるが、商標法の扉を開けると、その内容は実に奥が深く面白い。
例えば、バッグ・カバンを例に取れば、タグ等に着いている「ブランドロゴ」が商標なのは感覚的に分かるが、地模様(パターン)はどうかとか考え出すと、「あれ、どうだろう?」と、奥の深さが伺える*1。
ただ、逆にいえば、入門する立場からは非常に難しい法律とも言える。判例や対立する学説の本質を理解するのは非常に難しい。
特に、初学者が陥りがちな誤りは、商標法の基本的な概念である「商標」「商品」等をあいまいなまま、判例等の最先端の問題の検討に入るという問題である。商品や役務が何かについては定義規定すら置かれていないので、まあ、日常語の意味でいいだろうと思っていると、落とし穴にはまる。
2.分かりやすい入門書
小谷武先生は、弁理士試験に最年少で合格され、以来三十年以上に渡り、商標法畑を歩まれた弁理士である。その小谷先生が、何百件という判例を研究した成果を、わかりやすい入門書にとりまとめた。これが、「商標法入門」である。
最初に出てくるのが、結婚式の祝辞である。
万平君、絵美ちゃん、ご結婚おめでとうございます。
(中略)
今回、ここでご挨拶せよとのご命令で「結婚」ということを考えてみたのですが、商標制度と結婚制度というのが、とてもよく似ているということに気がつきました。
男女のカップルも、結婚式を挙げずに婚姻届を出さないで一緒に暮らし始めましても、他人の商標権ではなくて、他人の旦那様を取ってしまうようなものでない限り、つまり、他人の迷惑にならないかぎり自由ということになります。
しかし、これを特許庁に登録するように市役所に届けておきますと、相手に対する独占権をくれます。つまり、奥さん、旦那さんを独占できるのですね。
小谷武「商標教室基礎編」18頁
結婚と商標の類似性から、商標の特徴を分かりやすく説明してくれる*2。
そして、商標とは何か、商品・役務とは何か、商標の顕著性とは何か、商標登録制等の、商標法を理解する上で必要不可欠な重要事項を具体的な事例に沿って分かりやすく解説する。
全く難しい言葉を使わないのに、読み終わると、それだけで判例の意味が分かるようになる*3。「基礎編」の姉妹編として、二冊の判例編も刊行されており、ポパイ事件、BOSS事件、テレビまんが事件等の有名事件の本質を分かりやすく解説する。基礎編で基礎力をつけて、判例編に入れば、十分な実力を短期間でつけられるだろう。
3.一定の知識がある人も新たな発見が
本書は、全くの入門者だけではなく、一定以上の知識がある人にとっても、「なるほど」と思わせてくれる。
例えば、商品論は、日常語の「商品」 とは大分かけ離れた議論で難しいが、本書を読めば、ノベルティ、不動産、サンプル等について、なぜ、商品に当たるか/当たらないかがよくわかる。こういう問題をスルーして、「判例の結論が納得がいかない」となっている人は、本書は必読といってよかろう。
また、本書のコラムでは、真正商品の並行輸入やトレードシェープ等、応用的話題を分かりやすく取り扱っている。
更に、類似性の例示で、類似性が認められる場合に「=」、認められない場合に「×」を使っているので、一部のカテゴリーの読者は、カップリングを想像して楽しめる。
こういう楽しみ方ができるのも、本書の特徴だろう(?)
4.発行者元の倒産!?
ここで、現在Amazonでは、同書は絶版本になっている*5。どうして、こんな良い本が絶版に!? その理由を探ると、悲しい事実が発覚した。
同書の発行元は、「トール」という耳慣れない会社である。どうも、商標調査等を行っていたらしい。しかし、倒産してしまったとのことである。
発行元が倒産すれば、どんな良書でも絶版になってしまう。なんとか、復刊してもらいたいところである。
まとめ
本書は極めて優れた本であるが、2003年の初版後、発行者の倒産のため絶版となり、改訂されていないという問題がある。確かに、具体例が「阪神優勝」であったりとやや古い*6ので、その後の判例の発展を反映させて復刊されれば、もっと素晴らしいと思う。
発行元の倒産に負けず、ぜひ、判例の追加等をした補訂版を出していただきたい。
*1:この点は本書87頁参照
*2:但し、法律に関わりがある人は兎も角、法律に興味のない参加者に、このスピーチが受けたかは不明である。
*3:もちろん、六法の基礎は分かっているのが前提です。
*4:
*5:中古は若干流通しているようである
*6:2003年の優勝は大イベントでした。阪神と関係ない人が阪神優勝商標を取ってグッズ等を売ろうとした事件があったのですが、もう、記憶がない方も多いのではないでしょうか。本書148頁。