アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

遠山キンジは強猥罪にならず無罪〜緋弾のアリアと刑法

いつもどおり、アニメ第一話のネタバレを含んでおります。


緋弾のアリア (MF文庫J)

緋弾のアリア (MF文庫J)

1.「緋弾のアリア」とは
 「緋弾のアリア」とは、警察には手に負えない武装集団に対処するため、国際的な犯罪者撃退資格武装探偵(武偵)」制度が導入され、武装した武偵が私人の依頼を受けて不届きものを制圧する世界を舞台にした物語である。
  武偵養成高校、東京武偵高校に通う「劣等生」遠山キンジのところに、ある日、空から少女が降ってくる*1。それは、Sランク武偵の金崎H.アリアであった。


2.強制わいせつ罪!?
(1)キンジに着せられた「強制猥褻犯」の汚名
 第一話では、キンジの「女難の相」が現実化した。  「武偵殺し」と思われるセグウェイに「自転車に爆弾が仕掛けられている、減速しても爆発、助けを呼んでも爆発」と脅されるキンジ。転校生のアリアは、空中からパラシュートで急降下し、キンジを助ける。ところが、勢い余って体育倉庫の防弾跳び箱内に二人が転がり込んでしまう。
 キンジが目を開けるとそこには洗濯板、いや、アリアの制服がめくれ上がった姿が。アリアは意識が戻ると、

・・・へ・・・へ・・・
ヘンタイーーーー!
さっ、さささっ、サイッテー!!
このチカン! 恩知らず! 人でなし!
(中略)
あれは強制猥褻! レッキとした犯罪よ!
赤松中学緋弾のアリア」37頁〜45頁

と、キンジを強制わいせつ罪の犯罪者として逮捕しようとする。


 刑法176条は、強制わいせつ罪を規定する。

刑法第176条 13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。


キンジはこの強制猥褻罪にあたるのか? キンジはその身に振りかかった疑いを晴らせるのか?


(2)洗濯板でも猥褻!?
  ここで、アリアの胸は65のA→Bのブラを着けて、なんとか寄せて上げようとしたが、いかんせん、上げるための肉がなく、上がっていない。こんな洗濯板でも強猥になるか?


 幼女への強制猥褻犯の弁護人は、繰り返し、「乳房が未発達だから猥褻行為にあたらない」という主張を繰り返してきた*2。しかし、大阪地堺支判昭和36年4月12日*3や、新潟地判昭和63年8月26日*4等、裁判所はこのような主張を認めず、胸が小さくても強制猥褻罪が成立するとしてきた。
  貧乳を愛し、貧乳にこそ猥褻さを感じる少数派の人権を守ろうという裁判所の姿勢は、「人権の最後の砦」の役割を果たしていると言え、高く評価できる*5
 クギュ声で、見た目はせいぜい中学生、少なくとも胸は小学生というアリアも、強制猥褻罪によって保護されるのである。


(3)「不作為犯」論
  ところで、上で条文を掲げたとおり、法律の規定は、「わいせつな行為をした者」を処罰することとなっている。
 たしかに、胸をはだけさせて、身体に胸を押し付ける行為を「自ら積極的に行えば」強制わいせつ罪になるだろう*6
  ところが、キンジは積極的に行為をした訳ではない。あくまでも、アリアに助けられ、ゴロゴロと転がったら、「偶然制服がめくれ上がり、『寄せて上げようとしているブラ』が見え」、その後、丁度いい位置にいたため「セグウェイと戦うアリアの胸が押し付けられた」に過ぎない。
 このような、本人が積極的に行動を行っていない場合を、法的には「不作為」という*7
  法律の条文に書いていないなら、一律無罪では? こういう考えもあり得る。しかし、例えば「火災保険金が欲しいXは、家の神棚のロウソクが今にも倒れかかっているのを知りながら、これをそのままにして外出し、一家が全焼した」といった事案では、自分で火を着けた場合と同視できるだろう。


 このような、積極的に行動した場合と同視できる場合を、法律の言葉では、「作為との等価性」と呼ぶ。作為との等価性があれば、不作為犯でも、処罰してよいのである。
  このような作為との等価性を基礎付ける重要な要素として「作為義務」という概念が主張されている。要するに、「ロウソクの火を消す」という積極的行為をする義務(作為義務)を負っていたのに、漫然と外出してロウソクの火を消さないからこそ、「放火」という作為しか規定されていない放火罪として処罰できるのだ。
 このような作為義務は、法令*8、契約・事務管理*9、慣習、条理*10等が根拠と言われる。要するに、これらの事情の組み合わせにより、「積極的に行為をした」と同視できる場合に、作為義務が認められ、不作為犯が処罰される*11


 本件では、胸がはだけている女の子を放置せずに服を戻してやった方が望ましいというのは事実であろう。しかし、キンジが服をはだけさせる原因を作ったのではなく*12、悪いのは「武偵殺し」である。少なくともこの短期間で服を戻してやる作為義務はないだろう。アリアのはだけた服を戻してやらないことは、「自ら脱がせる」こととは同視できないだろう*13
  また、胸を押し付けられたのは、キンジが狙ってやったというよりは、銃弾が乱舞する中、狭い跳び箱内の移動が難しいところ、アリアの射撃位置が丁度いい場所だったに過ぎない。そこで、作為義務はなく、作為との等価性を認めるのは困難であろう。


キンジの不作為は、「積極的わいせつ行為」と同視できない*14ので、強制わいせつ罪にはあたらない。キンジの汚名はすすがれたのだ*15


4.弁護士のチェック済み!
  なるほど、うまくキンジが無罪になるようにできているなぁと思っていたら、ライトノベル版の277頁にこんな記載が!?

この本の執筆に際しては、たくさんの人が赤松を助けてくださいました。
(中略)
『強猥』という漢字の読み方を教えて下さった武田弁護士。
赤松中学緋弾のアリア」277頁


緋弾のアリア」は、弁護士の協力を得て作られていたのだ!

まとめ
リーガル・チェックが入ったアニメ、「緋弾のアリア」は、法律の面からも楽しむことができる。
あの花とアリアは、一方をリアルタイム、一方を録画で見るのが正解だろう!

*1:一度、少女が空から降ってくること一般を考察したいです。「無主物だから原始取得(民法239条1項)できるのか?」とか。

*2:「猥褻と言えない、もしくは猥褻と言えるとしても、巨乳の場合よりもそのわいせつさの度合いは低い」といった主張

*3:刑集3巻3〜4号319頁、小学6年生の児童について猥褻が認められた事案

*4:判時1299号152頁、7歳の女児についてわいせつが認められた事案

*5:真面目な話をすれば、いくら性的に未発達でも、だからといって性的自由が害されてはいけないのであって、そのような少女の性的自由を守らんがため、乳房の大きさに関係なくわいせつ罪を認めているのである。

*6:暴行の程度は軽くて良いし、気絶を利用すれば準強制わいせつ罪である。

*7:ちょっと難しいことを言えば、不退去罪(刑法130条)のように、条文に不作為が明記されているのを真正作為犯、条文上は作為しか書いていないのを不作為で犯すのが不真正不作為犯である。以下は全て不真正不作為犯を前提にする

*8:例えば親の扶養義務、民法820条参照

*9:例えば看護義務

*10:物事の道理。怪我させたら救護しろ等

*11:前田雅英刑法総論(第5版)」137頁

*12:先行行為に基づく条理上の作為義務はなく

*13:逆に、戻してやったりすると、その時にどっかに触れてヒステリアモードに・・・というリスクもある。

*14:等価性がない

*15:なお、目的で切れるかもしれませんが、目的は主観ですので、先に客観性の強い作為義務を検討すべきでしょう。