アホヲタ元法学部生の日常

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2010年代司法試験の「憲法」の方向性を決定付ける一冊!〜「憲法解釈論の応用と展開」

憲法 解釈論の応用と展開 (法セミ LAW CLASS シリーズ )

憲法 解釈論の応用と展開 (法セミ LAW CLASS シリーズ )

1.いわゆる「予備校答案」
  90年代からゼロ年代にかけ、司法試験の「憲法」には、不思議な答案が乱舞した。いわゆる「予備校答案」とか「人権パターン」という奴である*1

問題:AがBをしようとしたら、規制された。憲法上の問題点を論ぜよ。

こういう問題について、まずは、問題提起として、

Bが規制されるのは、AのBする権利を害しないか。

とやる。ここで、Aが外国人や法人なら、そもそも人権があるか*2を論じる。
 Bが憲法の人権カタログにあれば、すぐに「表現の自由憲法21条)が問題となる。」等と持ってくる。これに対し、人権カタログにない場合には、新しい人権の問題にする。


 このように、人権が特定(とりあえず、C権と呼ぼう)できれば、

しかし、C権も無制約ではない。憲法13条は「公共の福祉」による制約を規定する。

 ともってきて、二元的制約説を否定して、一元的内在的制約説に入る。「対立する人権相互の調整原理」といったキーワードで説明するのが「定番」である。


 その上で、いわゆる二重の基準を書く。つまり、精神的自由権は民主主義の根幹をなしているので、その制約により、民主的過程が歪められる可能性があるので厳しい基準で判断する。これに対し、経済的自由権は民主的過程に影響はないもで緩い基準で判断する。そして、C権の具体的な内容によって、明白かつ現在の危険、LRA、合理的関連性、明白性等々の違憲審査基準を選んであてはめて終わりである。


2.予備校答案の功罪
 少なくとも終わりの頃の旧司法試験*3では、予備校答案は極めて有効だった。それは、予備校答案以外の書き方の優秀答案は無視して良い程少なく、予備校答案ができる人同士の争いだったからである。確かに、一部の天才は、予備校答案ではないのに極めて優秀な成績を取るが、こんな人は無視できるくらいしかいない。合格を競うライバルは全て予備校答案であり、その中で、憲法が苦手なら「予備校答案のパターンを守る」ことで、BやC評価の「落ちない答案」を書ける*4。これに対し、憲法が「得意」な人は、例えば違憲審査基準選定のところで、その人権の特殊性に触れたり、あてはめで、判例と問題の事案の違いから、判例の射程に言及する等して、A評価を狙うという「牧歌的」時代であった。


 予備校答案は、数ヶ月練習すれば誰でもB評価を取れるという功績がある。本当に「出来の良い答案」がすぐ書けるようになるのではない。 予備校答案を書かない人は、書き方を添削してくれる人もおらず*5、まともな答案にならないという部分が大きかったと思われる。しかし、ワンパターンでどんな問題でも答案が書けるというのは、短期合格を目指す受験生には魅力的であった。これは、予備校答案の「功績」であり、短期合格者の多くが予備校答案を書いていた。


 ところが、予備校答案全盛に、学者は極めて不満であった。そりゃあ、個性やオリジナリティある「論文」*6が読みたいのに、どいつもこいつも金太郎飴なんだから、採点していて全く面白くない。
  そもそも、憲法は、各人の「価値観」が相違する中で、どううまく折り合いをつけるかという試み*7であり、ワンパターンとは真逆のはずである。例えば、憲法13条の「公共の福祉」なんて、現在は一人一説である*8。また、憲法は、「批判精神」が最も重要な科目だろう*9。それが、みんなワンパターンで書いているのだから、頭を抱えたくなる気持ちも良く分かる。


 予備校答案や人権パターンには問題がある、でも、じゃあ、どう書けばいいんだ?


3.法セミの超人気コーナーが本に
 本書は、法学セミナーの超人気コーナーを単行本化したものである。人気の理由は、予備校答案に対する代替案を示すところである。
  ドイツ憲法学では、三段階審査(防御権構成、三段階図式)といった考え方で憲法違反の有無を判断する。その考え方は、「主観法としての憲法と客観法としての憲法」等と難しいところもあるが、本書は、日本の今までの判例憲法学上の議論を踏まえ、三段階審査を解説するので、概念が頭に入りやすい。
 三段階審査の考え方は、
もし魔法少女契約を禁止する法律ができたら、ほむほむは? まどかは!〜まどマギと憲法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
で簡単に述べたので参照していただきたいが、
まず、保護範囲(Schutzbereich)を検討し、問題が憲法上の権利なのかを検討する。次に、 憲法上の権利であるとされた場合に、権利が「制約(Eingriff)」されているのかを検討する。憲法上の権利の制約は原則違憲だが、「違憲性阻却事由」つまり、そのような憲法上の権利の制約を「正当化(Rechtfertigung)」する理由がないかを検討する。
 こういう三段階で違憲審査を行う。


 この考えを採用すれば、人権パターン臭がない答案が書けるということで、人権パターンを書いているライバルと「差別化」できる。
 また、本書は、人権パターンで割り切って単純に書く「学生A」と、人権パターンを念頭に置きながら問題の所在に気づいて悩む「学生B」の思考回路を紹介し、その後で両者をぶった切っている。Bのような悩みを抱えていたロースクール生は少なくないだろう。なるほど、だから従来の単純な考えではだめなのかという驚きに満ちており、学問的にも面白い。


 本書の人気っぷりは、Amazonで入荷されると即売り切れて2〜5週間待ちになり、二倍近い値段*10の古本が売れていることからも明らかである。


4.本書の「注意点」
 本書の注意点は、「初学者は読んでも分からない」ということである。文体は軽めだが、学生Aや学生Bのレベルに達していることが前提であり、基礎的な概念の説明はない。憲法13条の「一元説」や「二元説」のなんたるかが分からないと、サッパリ分からないだろう。少なくとも芦部は読んでおきたい。簡単なリトマス試験紙は、「学生Aや学生Bの発言を読んで、『あるある』と思うかどうか」だろう。何をいっているのか・・・という方は既に三段階審査で十分論文が書ける人か、まだまだ基礎を勉強しないといけない人だろう*11
また、問題の所在は示しているのだが、他の人の「名文」を引用してそのまま回答に替えているところもあり、含蓄ある文章というべきか、逆に真意が十分に分からないとも言える部分も少なくない。
  本書は言ってみれば「講義」のイメージだが、三段階審査には、「教科書」のイメージの本もある。これが、小山剛先生の「憲法上の権利の作法」であり、こちらと併せて読むことで、その真意を理解できるようになるのではないか。


 もう一つの注意点は、宍戸先生は、「こっちの世界」の人間ということである。論より証拠。いくつか引用したい。

 汚水処理場建設について、地元住民の理解を得るために、建設予定地区にあって、四季の祭りを通じて鎮守様として親しまれ、地元住民多数が氏子となっている神社(宗教法人)の慶大の社殿に通じる未舗装の参道を、2倍に拡張して舗装し、工事費用として100万円を支出した。
(中略)
友達から借りたゲームの、雛見沢村の古手神社を思い出すなあ。
宍戸常寿「憲法解釈論の応用と展開」116〜117頁

Yは「K県の高級住宅街の一家に勤めるメイド」を主人公としたアニメの熱狂的ファンクラブの一員であるが、同じクラブの構成員10名とともに、休日のK県内の繁華街の歩行者天国でメイドの服装をしてアニメの主題歌に合わせて踊っていた
(中略)
Yについては秋葉原で『ハレ晴レユカイ』を踊っている集団」でも良かった
宍戸常寿「憲法解釈論の応用と展開」138〜146頁

まとめ
これだけ優れた人権パターンへのオルタナティブが示されると、2010年代の新司法試験憲法の方向性は、三段階審査で決まりと言って良いのではないか。
「こちらの世界」の住人でいらっしゃる宍戸先生には、ぜひ、「アニメの事例で新司法試験予想問題・解答解説集」を作っていただきたい。
ムシウタと新司法試験 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
等の事例を三段階審査でどう考えるのか、興味深いところである。
なお、三段階審査は新たな人権パターン/予備校答案ではないし、新たな人権パターン/予備校答案にしてもいけないと思う。三段階審査を「頭の整理」に使った個性的議論が本来の姿であって、三段階審査っぽい金太郎飴答案が出現しないことが望ましい*12

*1:以下、標準的なパターンを述べるが、予備校毎に若干違うので、参考とご理解いただきたい。

*2:人権享有主体性

*3:「現行」司法試験と呼ばれていたもの

*4:BとかCも、時期によって全然意味が変わるのですが。

*5:「予備校答案の書き方」に矯正されるのが落ち

*6:クオリティは一定程度だろうが、そこに原石の片鱗が見えるもの

*7:長谷部説入ってます

*8:本書11頁

*9:本書179頁参照??

*10:これをプレミアムというかボッタクリというかは、各人の良識に委ねたい

*11:いずれも、本書はあまり役に立たないと思われる。

*12:「三段階図式」は、あくまでも「思考を手助けすることを目的としている。どのような事例でも、そのままの形でこれを全て再現するというようなことはしてはならない(本書26頁)」