アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

東雲なのが公道を歩くことは適法か!?〜「日常」と道路交通法

注意: いつもどおり、アニメ版日常第一話、コミック版第一巻のネタバレを含んでおります。なお、「なのは」という言葉が随所に出てきますが、リリカルな方とは関係ない記事ですのでご留意下さい。

日常 1 (角川コミックス・エース 181-1)

日常 1 (角川コミックス・エース 181-1)

あらゐけいいち先生の「日常」は、時定高校を舞台に、高校生と教員のシュールな「日常」が描かれる漫画&アニメである。


 「日常」には、個性的なキャラクターが多数登場するが、なんといっても筆者の一押しは、「東雲なの」である*1。東雲研究所の「はかせ」が作ったらしいロボ女子高生で、後ろにネジがついているから、ロボットなのがバレるのではないかというのが目下の心配事である。


 ところで、東雲なのは、機械なのだから、人間よりも「馬力」がある。つまり、人間であれば出ない力が出る。それが良い方向に使われれば何も問題ないが、裏目に出ることがある。
  今日が日直なのにそれを忘れていたなの。はかせに朝食を作る暇もなく、急いで学校に向かうと、前には男子高生が・・・
  激突した衝撃で、鮭等の危険物が撒き散らされ、なのも男子高生も、遠くに吹き飛ばされた
  流石に普通の人間であれば、これほどの被害を与えることはなかっただろう。


 なのは、普通の女子高生と同様に公道を歩いても良いのか?


2.東雲なのは歩行者・車両?
  道路交通法は、大まかにいうと、公道での歩行者と車両の往来を規制すると共に、公道の使用についての決まり等を定める法律である*2。よって、最初に検討すべきは、規制対象である、歩行者か車両にあたるかである。


  まず、東雲なのは歩行者か?
  道路交通法には「歩行者」の定義はない(道路交通法2条3項には、歩行者に「含めるもの」を定めるに過ぎない。)。
 その場合、本来的な「歩行者」の意味は日常的な語義を基準に判断することになるが、自分の足で歩いている人間(ホモ・サピエンスを意味すると解すべきである。
  まず、自分の足でという部分であるが、自分の足で歩いていない場合は、車両の運転/同乗になるか、道路交通法2条3項によって特別に「歩行者」とみなされるかのどちらかであろう。東雲なのは、自分の足で歩いているので、この要件は満たす。
 次に、生物学上の人間(ホモ・サピエンス)というのも必要である。つまり、道路交通法は、2条1項11号で「動物」を「人」と区別しているのであって*3、人以外の者が道路交通法で規制されるには明文が必要だろう。また、歩行「者」という文言は、ヒトを意味する。そこで、生物学上の人間に限定するべきだろう。なのは様々な人間との類似点が見られる。しかし、ホモ・サピエンスではない以上、「歩行者」には当たらない。


 では、歩行者ではないとして、なのは車両か。
 車両には、自動車、原動機付自転車(いわゆる「原付」)、軽車両、トローリーバスがある*4。このうち自動車、原付は説明不要だろう。
トローリーバスとは、電線から電気を得てこれを動力として走るバスである*5
 軽車両は自転車、荷車等の雑多なものを含む。しかし、いずれにせよ、基本は「車」なのであり、車輪がついていないものは、軽車両に該当しないと解すべきだろう*6


 そう、なのは、車両でも歩行者でもない


2.道路上での禁止行為
  ところで、車両でも歩行者でもなければ道路上で何をやってもよい訳ではない。
「公道上に荷物(車両ではない)を置いて通行を妨げる」といった状況を想定すれば、道路上でできることに限界があるのは自明であろう。 道路に危険や迷惑を及ぼす行為は規制されなければならない
そこで、道路交通法は、76条と77条で、絶対的禁止行為と相対的禁止行為を定める。


 絶対的禁止行為とは、誰であっても公道上でやっちゃいけないことである(道路交通法76条)。

(禁止行為)
第七十六条  何人も、信号機若しくは道路標識等又はこれらに類似する工作物若しくは物件をみだりに設置してはならない。
(中略)
3  何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。
4   何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。
一  道路において、酒に酔つて交通の妨害となるような程度にふらつくこと。
二  道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。
三  交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。
四  石、ガラスびん、金属片その他道路上の人若しくは車両等を損傷するおそれのある物件を投げ、又は発射すること。
(後略)

 道路に荷物を置いてはいけないというのは、道路交通法76条3項で禁止さている。ただ、なのは道路上に突っ立っているのではなく、歩いているので、放置されているのではない。なのが歩くことは道路交通法76条3項には違反しないだろう。
 また、なのが道路上で腕や足を発射するのは、道路交通法76条4項違反*7である。しかし、客観的な属性として人及び車両を損傷するおそれが必要である。例えば、火のついているタバコは投げてはいけないが、火のついていないタバコは*8投げ捨てても道路交通法違反ではないとされる*9誠意調査したものの、「シャケの投擲/発射と道路交通法」について論じた文献は見当たらなかったが、一匹ものの荒巻ジャケならともかく、鮭一切れであれば、客観的な属性として人及び車両を損傷するおそれはないとして、道路交通法違反ではないと解すべきように思われる。


 このような、絶対的禁止行為に該当しない場合でも、相対的禁止行為に該当する可能性がある。これは、道路交通法77条である。例えば、道路上で工事をするのは迷惑だが、それが必要・有用な場合もある。このような、交通の妨害となり、交通に危険を生じさせるおそれがある場合だが、一定の社会的な価値があるものについては、道路交通法は、原則として禁止されるが、警察署が許可をすることで可能になるようにしている。これが相対的禁止行為である。

第七十七条  次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(中略)を受けなければならない
一  道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人
二  道路に石碑、銅像、広告板、アーチその他これらに類する工作物を設けようとする者
三  場所を移動しないで、道路に露店、屋台店その他これらに類する店を出そうとする者
四  前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者

 ここで、東雲なのが登校する行為は、道路工事、工作物設営、屋台出店のいずれにも該当しない。
  もし、道路交通法76条にも77条にも該当しないとすると、これは自由な行為と解すべきである。
道路交通法は歩行者・車両の通行という本来的用法を規制した上で、これ以外の道路の使用は、76条、77条で規制する。つまり、立法者が危険だったり迷惑と考えた行為は76条と77条に網羅されているのだから、それ以外の行為は、「自由」と解さなければならない。そう、東雲なのを含む歩行型*10ロボットは、法律だけを見ると自由に公道を歩ける


3.ロボット実証実験規制
 ところが、近時重要な動きが出た。上に引用した道路交通法77条1項4号を再度引用してみよう。

四  前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会がその土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者

 公安委員会が指定した行為については、相対的禁止行為として、警察署長の許可が必要である。
  公安委員会は各都道府県毎にある。日常の舞台は「時定市」であるが、群馬県伊勢崎市を舞台としているというのが定説である*11
ここで、 群馬道路交通法細則は、近時、35条9号で、ロボット実証実験を署長の許可事項とした。

第35条 法第77条第1項第4号の規定により警察署長の許可を受けなければならない行為は、次に掲げるものとする。(中略)
(9) 道路において、ロボットの移動を伴う実証実験をする行為


 人間型と異なり、車輪がついているロボットやセグウェイ等の利用については、従来、道路交通法上なかなか微妙な問題が出ていた*12
  そこで、いわゆる「特区」としてロボット実証実験を警察署長の許可の下で行うことが認められ、全国展開に至った*13


 これは、車両型ロボットの発展という意味では素晴らしいことである。しかし、ロボットの定義が置かれていないことから、本来自由なはずの二足歩行型ロボットについても、警察署長の許可が必要な可能性が高くなってしまった。つまり、はかせは、なのの登校について事前に時定警察署長の許可を得なければならない

 
 ここで重要なのは、道路交通法77条1項4号は「一般交通に著しい影響を及ぼすような」「方法により道路を使用する行為」について、公安委員会の指定で持って警察署長の許可なくできないようにしていいと決めている。逆に言えば一般交通に著しく影響を与えない行為は指定しちゃいけない。
   東雲なのの強大な力は交通の危険を与えるおそれがあるようにも思われるものの、はかせに「柔軟ギミック」でも着けてもらえれば解決するはずである。そう、例えば一定の大きさ以下の交通の迷惑や危険がない二足歩行ロボットは、少なくとも道路交通法77条1項4号がいう「一般交通に著しい影響を及ぼすような」「方法により道路を使用する行為」とは言い難いのではないか。
  ロボット全てについて警察署長の許可が必要とするように読める今般の「特区」及びその全国展開は、「ロボット」に限定をつけず、二足歩行型を含めるという意味で、道路交通法77条1項4項が公安委員会に認める範囲を超えて過度に規制するという問題があったのではないかと思われる*14

まとめ
「日常」は、単にシュールなギャクが京アニの手でうまく描かれるアニメというだけではなく、道路交通法における公安委員会の指定内容が広過ぎないかという問題を問いかける、法学的にも興味深いアニメだったのである!!

*1:決して、「なのが一歳だから」という理由ではない。

*2:それ以外にもいろいろ目的はあるのですが、「東雲なの」関係だけだとこうなります

*3: 軽車両 自転車、荷車その他「人」若しくは「動物」の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう。

*4:道路交通法2条1項8号

*5:道路交通法2条1項12号

*6:道路交通法2条1項11号はそりや牛馬を含むとするが、これは、原則として車がついていないのは軽車両に含まれないが、例外的に道路交通法が明文で規定することで、これに含ませるという意味と解すべきである。

*7:正確には、はかせが違反

*8:ポイ捨て条例等の問題はあっても

*9:道路交通法研究会「最新注解道路交通法」495〜496頁

*10:いかなる意味でも車や車両がついていないもの

*11:京アニ「日常」舞台探訪 伊勢崎駅の旧駅舎は跡形もなかった。 – さざなみ壊変等参照。前橋にある県庁といい、伊勢崎商業高校といい、群馬は最近のアニメの舞台として人気ですね!

*12:2005年の問題意識を物語るものとして千葉県の弁護士9名 弁護士法人リバーシティ法律事務所 千葉の法律相談 -千葉県弁護士会所属-参照

*13:千葉県の弁護士9名 弁護士法人リバーシティ法律事務所 千葉の法律相談 -千葉県弁護士会所属-

*14:憲法学/行政法学的に言えば、委任立法における委任の範囲を超えているのではないかということ