アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

杏子のさやか殺人未遂事件!?〜愛は殺意を超える!?

魔法少女まどか☆マギカ (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

魔法少女まどか☆マギカ (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

1.さやか対杏子決闘事件
杏さやを理解する上で重要なのは、最初の「死闘」である。
マミ先輩が非業の死を遂げ、マミ先輩の縄張りの魔女を狩る魔法少女がいなくなった。そこで、第4話では杏子が見滝原にやってきて、魔女を狩ろうとする。ところが、既にさやかが魔法少女契約を済ませていた。

「でもさあ、こんな絶好の縄張り、みすみすルーキーのヒヨッ子にくれてやるってのも癪だよねぇ」
「決まってんじゃん」
「要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょう?」
「…その子」
魔法少女まどか☆マギカ第4話奇跡も、魔法も、あるんだよ

第5話では、相交わる二つの刃。さやかは、杏子の槍に腹部を突かれ、しゃがみ込む。

「だってチョロそうじゃん。瞬殺っしょ、あんな奴。それとも何?」
(中略)
「おっかしいなぁ。全治3ヶ月ってぐらいにはかましてやったはずなんだけど」
(中略)
「言って聞かせてわからねえ、殴ってもわからねえバカとなりゃあ…後は殺しちゃうしかないよねッ!?」
「終わりだよ」
魔法少女まどか☆マギカ第5話後悔なんて、あるわけない


 こんな杏子は、刑法的にどう評価されるのか?


2.故意はある?
 当然問題となるのは殺人罪(刑法199条)」である。もっとも、さやかは結果的には死んでいない以上、殺そうとしたけど死ななかった場合、殺人未遂罪(刑法203条、199条)を検討することになる。
 殺人罪実行行為と言える行為がなければならない。要するに、人の死の危険を生む行為をまずは行う必要がある。
そうすると、大量の鎖でつながった棒(槍の柄が仕込み多節棍になっている)でさやかの腹部を突くという攻撃を行った行為(「第一行為」)や、続いて、槍の切っ先で刺すために、高く飛び上がり、さやかを突き通さんと飛びかかる行為(「第二行為」)は、十分に生命の危険ありとして、実行行為と言って良いだろう。
未遂犯は結果が発生する必要はない。そこで、人の死という結果の発生や、実行行為と結果の間の因果関係*1は問題とならない。検討すべきは、故意(殺意)である。杏子はその行為を「さやかを殺してやるつもりで行ったか」という問題である。


 ここで、第4話の時点で「要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょう?」 と言っているし、第5話では「瞬殺っしょ、あんな奴。」と言っているが、これだけで殺意を認定するのは早過ぎる。喧嘩の前に「あいつぶっ殺してやる」と発言したからといって殺意があったとは直ちに言えない。この発言は、敵意を持っていたことを推認させるに過ぎないと言われているのだ*2。実際、愛する娘の外泊に切れて「ぶっ殺してやる。」と怒鳴って包丁を投げつけた父親について、「単に強がりで述べた可能性があり、これらをもって殺意を有していた根拠とするには足りない」等として、殺人罪の成立を否定した判例もある*3


 本件を検討する上で重要なのは、
「おっかしいなぁ。全治3ヶ月ってぐらいにはかましてやったはずなんだけど」
という発言だろう。この発言は、第一行為が、命を奪うのではなく、全治3ヶ月の怪我をさせるだけの目的であることを示唆する。しかも、第一行為で、使用している武器は、槍の切っ先ではなく「柄」の部分である。そこで、第一行為について、杏子に殺意はなく、あくまでも「傷めつけてやる」というだけのつもりであったと解すべきであろう


 ただ、第二行為は、流石に殺意が認められるだろう。ほむほむが「それには及ばないわ」と言わなければさやかが槍で突き刺された訳で、槍の切っ先で刺すために、高く飛び上がり、さやかを突き通さんと飛びかかる行為は極めて人の死の結果を招く可能性が高い。しかも、「言って聞かせてわからねえ、殴ってもわからねえバカとなりゃあ…後は殺しちゃうしかないよねッ!?」「終わりだよ」と言っているのだから、これは殺意がないと言うのは不可能に近いだろう。
 よって、杏子には、殺人未遂罪が成立する。はずである…。


3.不能犯
しかし、世の中そんなに簡単にはいかない。問題は、さやかが契約済みの魔法少女だということである。
魔法少女なのだから、普通にさやかを槍でメッタ刺しにしても、ソウルジェムのパワーでいくらでも再生できる。要するに、さやかの身体・肉体を槍でメッタ刺しにすることは、全くさやかの死にはつながらない行為なのである。杏子がさやかを真に殺すためには、さやかのソウルジェムを破壊しなければならない。しかし、第6話で、まどかが間違えた時に杏子が驚いたように、杏子はソウルジェムの秘密を知らなかった。
すると、第二行為で杏子がやろうとしていた「ソウルジェムはともかく、さやかの身体をメッタ刺し」というのは、杏子の「主観」としては殺人だが、客観的には、さやかを「殺す」という意味では「何ら意味のない行為」と判断されるだろう。
そういう場合には、刑法的にはどのように判断されるのか?


 そういう場合に、刑法は不能犯という理論を展開している。外形的には未遂行為の段階まで至っているが、その結果の発生が「不能」であるため、そもそも、未遂犯すらならないというのが不能犯のポイントである。
人を殺そうとした悪い奴がいるのに未遂にならないなんて、と言わないで欲しい。刑法は、みんなの守りたい利益(法益)を保護している。逆に言えば、みんなが守りたい利益が侵害された/侵害されそうになった場合にだけ刑罰を課せば十分であり、およそ利益が侵害されるおそれがなかったのであれば、いくら内心が悪い奴でも刑罰を課す正当性はない。これが、刑法の基本的な考え方なのだ*4
では、いかなる場合に「不能犯」として無罪になるのか。それは、「方法の不能」と「客体の不能の2パターンに分けて考察すべきである*5
客体の不能というのは、客体の不存在等により既遂に至らなかった場合である。例えばこういうことである。「道を歩いているオヤジをカツアゲ(暴行・脅迫により財物を奪う=強盗)しようとして、暴行、脅迫を加えたが、オヤジは一銭も持っていなかった」。「一銭も持っていないオヤジ」という客体(対象者)に特異な事情があって、客観的には強盗できっこない(財産を奪えない)というのが「客体の不能」であるが、この場合には、一般人が見て犯行を遂げることが可能と思われる限り、強盗の成立を認めるのが判例である*6。確かに、たまたま一銭も持っていないからといって強盗が成立しないのは不合理であろう。
これに対し、方法の不能は、既遂を生じさせるべき方法が不適切だった場合である。例えば、覚せい剤原料から覚せい剤をつくろうとしたが、原料が偽物だったので、どう頑張っても覚せい剤はできなかったとか、そういう、やり方のミスである。この場合、多数の判例*7は、客観的にみて不可能であれば、不能犯として無罪という*8
この違いがなぜ生まれるのか。いろいろな整理の仕方があるが、1つの整理として、こういう理解が可能だろう。強盗について、一銭も持っていないオヤジだって、日によってはいくらか持っていることがあるだろう。「一銭も持っていないから不可罰」といえば、また同じ犯人に襲われてしまい、お金を取られる危険がある。そう、客体の不能の場合みんなが守りたい利益が侵害される危険はあるのだ。これに対し、方法の不能の場合、100回覚せい剤をつくろうとしても、その「間違った原料」を使うという方法を取る限り、100回失敗する。そうであれば、客観的にみて覚せい剤が作れないのなら、みんなが守りたい利益が侵害される危険はない


 本件は、方法の不能なのか客体の不能なのか、分かりにくいが、上記の整理でいけば、「同じことを何度もやったらどうなるか」で考えればよいと思われる。ソウルジェムを破壊しない限りさやかは死なない。つまり、何度槍で刺しても死亡の結果は生まれないのだ。そうすると、「さやか(魔法少女)を殺すのに、ソウルジェムへの攻撃ではなく、身体を攻撃した」という方法が客観的に殺人の結果を生じさせ得ない場合として、杏子は不能犯、無罪なのだ!!


4.最後に残った加重傷害罪
 そして、さやかには現に傷がついていない*9。そうすると、「傷害」の結果すら発生していない。

刑法第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

傷害罪を規定する刑法第204条は、「人の身体を傷害した」場合に傷害罪で処罰するとする。杏子はまだ人の体を「傷害」するに至っていない(未遂)。
このような、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立するのが、刑法208条の「暴行罪」であり、なんと、2年以下の懲役に過ぎない。いつも杏子がやっている万引き(窃盗)よりも軽いのだ!*10


 これでよし。こう思っていたら、問題が…。
 杏子は、槍を使って、人を傷害しようとしている。結果的には傷がついていないが、こういう「銃砲又は刀剣」を用いた傷害については、特別の法律が規定されている。


暴力行為等処罰ニ関スル法律


である。
その第1条の2は、銃砲・刀剣による加重傷害を定める。

暴力行為処罰法第一条の二 銃砲又は刀剣類を用いて人の身体を傷害したる者は一年以上十五年以下の懲役に処す
2 前項の未遂罪は之を罰す
注:カタカナをひらがなに直した

 特筆すべきことは、刑が最低1年、最高15年と非常に重いこと、及び、未遂罪が処罰されることである。
 そう、杏子の傷害未遂事件には、銃砲・刀剣による加重傷害未遂罪が成立するのである。

まとめ
 魔法少女の身体をいくら攻撃しても、ソウルジェムを破壊しない限り、生命を奪う客観的危険はない。そこで、身体を攻撃する方法自体が間違っており、「方法の不能」として、殺人未遂にすらならない(不能犯)。
 そこで、殺人罪としては不可罰で、傷害をしようとして傷害結果が生じなかった場合、つまり「暴行罪」に過ぎないようにも思われる。
 ところが、槍を使ってしまったために、加重傷害未遂罪という重い犯罪が成立してしまう。
 杏子がさやかに愛のムチを振るう場合には、銃砲や刀剣を使わないように気をつけるべきである。そうでないと、想像よりもずっと重い罪が課せられる可能性があるのである。

*1:本当にその「実行行為」によって「結果」が発生したのという問題

*2:水谷規男「疑問解消刑事訴訟法」176頁

*3:横浜地判平成10年4月16日判例タイムズ985号300頁

*4:正確には旧派刑法でしょうか。

*5:山口厚刑法総論」236頁以下参照

*6:例えば、大判大正3年7月24日刑録20輯1546頁

*7:山口厚刑法総論」237頁の分析による。

*8:東京公判昭和37年4月24日高刑集15巻4号210頁

*9:テレビの画面を見る限り。

*10:刑法235条により窃盗罪は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金