アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

刑訴ガール第10話〜朝のマンション 窓ガラス壊してまわった〜刑事訴訟法平成20年設問2

少年事件ビギナーズ

少年事件ビギナーズ


注:刑訴ガールは、架空のロースクールを舞台にライトノベル調で司法試験を解説するプロジェクトです。ロースクールに進学しても、刑訴ガールはいません。


「本当、少年事件って難しいわ。」ひまわりちゃんが、珍しく弱音を吐く。ここは、東京都心から大分離れたメトロ駅前の喫茶店だ。


ひまわりちゃん自身が「少年」*1のくせに。


「うるさいわね。私は付添人よ。」


今回ひまわりちゃんが担当しているのは、15歳の少年。中学校の卒業式の日に、夜の校舎に忍び込んで窓ガラスを壊してまわったとして家裁送致されている。


「壊したのが、分離可能性のある窓ガラスだけだったから、建造物損壊罪にならずに済んでよかった*2けど、窃盗までついているからしょうがないのよね。」


卒業式で起こった身柄事件を、なんで夏にやっているのかといえば、少年が犯行後に行き先もわからないまま、盗んだバイクで走り出してしまったからだ。その後は放浪を繰り返してすさんだ生活習慣も身についてしまったから、要保護性ダダ上がり、ということである。


「最初の接見の時、『お嬢ちゃん、デリヘルの子? あれ、呼んだっけ? まあ、その胸じゃチェンジだわ。』って言われたのよ。絶対許さないわ!」ひまわりちゃん、目が本気だ。


まあまあ、そういう問題のある言動をする子こそ、更生に向けて付添人の果たすべき役割が大きいということじゃないかな。そもそも、警察と検察の違いどころか、検察と裁判官の違い、ひどい時には、付添人が味方だってことさえ知らない子もいるって聞くよ。


「だからこそ、接見を繰り返して信頼を得るしかないじゃない。幸いにも、ここ鑑別所だと、留置と違ってアクリル板なしに話ができることだし。」


靴底をすり減らして何度も会いに行くという意味では、家裁調査官さん達にも頭が下がるなあ。たくさんの少年を同時に担当して忙しそうだけど、せっせと鑑別所に足を運んで本人や鑑別技官の話を聞いているから。


「そうね。被害弁償をしたり、新たな社会資源を求めて関係者と交渉するという辺りは、付添人ならではの仕事だと思うけど、少年のバックグラウンドの詳細な把握だとか、少年の心理の分析とかは専門性を持った調査官さんの方が上手なことが多いわね。少年院送致か試験観察かをの境界事案とか、事件によっては最後まで意見が分かれることもあるけど、基本的にはどうするのが少年を更生させるのに一番いいのかという点を一緒に考えるという意味で協力関係にあるから、いつも面談が楽しみだわ。」こういいながら、砂糖とミルク多目のコーヒーをすするひまわりちゃんには、経験を積んできた付添人としての風格が感じられる。


「うふふ、ひまわりちゃんは、自白事件に向いているのではなくて? 否認事件を検察官と渡り歩いていくには、知識も経験もまだまだではなくて?」今日のリサさんは、ブルー系のシンプルな服だが、これは法務教官に貸与されるという制服だろうか。


「そんなことないわ。甲の覚せい剤否認事件もあれからきちんと考えてるわよ。」


そういえば、この間現場検証に行った覚せい剤否認事件で、ひまわりちゃんは、捜査の問題点を主張して違法収集証拠で覚せい剤を証拠排除するって息巻いていたなあ。


1 警察は,暴力団X組による覚せい剤密売の情報を入手し,捜査を行った。その結果,覚せい剤取締法違反(譲渡罪)の前科1犯を有しているX組幹部の甲が,覚せい剤を密売してX組の活動資金を得るという営利の目的で,平成20年1月上旬ころ,Aマンション201号室の甲方において,多量の覚せい剤を所持しているという嫌疑が濃厚となった。そこで,警察は,前記覚せい剤営利目的所持の犯罪事実で,差し押さえるべき物を,本件に関係する覚せい剤,小分け道具,手帳,ノートとし,捜索すべき場所を,Aマンション201号室の甲方とする捜索差押許可状の発付を受けた。甲方は,5階建てのAマンションの2階にあり,その間取りは4LDKバストイレ付きであって,甲方の玄関ドアの右隣には,共用部分の通路に面して,ガラス窓が設置されており,その窓は,アルミサッシ製で,2枚のガラス(各ガラスの大きさは,縦1.2メートル,横0.9メートルである。)が引き戸になっている。ほかに同通路に面した窓はない。甲方には,常時,X組の組員2,3名が起居している。なお,覚せい剤営利目的所持の罪とは,「営利の目的」つまり,犯人が自ら財産上の利益を得,又は第三者に得させることを動機・目的として,覚せい剤をみだりに所持した罪をいい,その法定刑は,1年以上の有期懲役,又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金である。
2 平成20年1月15日午前8時ころ,司法警察員警部補Pは,前記捜索差押許可状を携帯して,司法警察員巡査部長Qら5名の部下とともに甲方の捜索に赴き,甲方玄関ドア前の通路に集まった。Qが甲方のドアチャイムを鳴らしたところ,甲方内からドア付近まで近づいてくる足音が聞こえ,その直後,「何ですか。」という男の声がした。そこで,Qは,ドア越しに「警察だ。ドアを開けろ。」と告げたが,ドアは開けられることなく,「やばい。」などという男の声がして,ドア付近から人が遠ざかる足音が聞こえ,さらに,室内から,数人が慌ただしく動き回る足音が聞こえた。Qは,ドアノブを回してドアを開けようとしたが,施錠されていたので,ドアを手で激しくたたき,ドアチャイムを鳴らしながら,「早く開けろ。捜索令状が出ている。」と数回にわたり怒鳴ったが,ドアが開けられる気配はなく,また,甲方内からの応答もなかった。そこで,Qは,甲方の玄関ドアの右隣にあるガラス窓を開けようとしたが,施錠されていたので,所持していた手錠を用いて向かって右側のガラス1枚を割って,約20センチメートル四方の穴を開けた。この時点で,最初に警察であることを告げてから約30秒が経過していた。Qは,その穴から手を差し込んでガラス窓内側のクレセント錠を外した上,同ガラス窓を開けてそこから甲方内に入った。Pら5名は,Qに続いて,順次,そのガラス窓から甲方内に入り,「置いてある物に触るな。」と言いながら甲方内の各部屋に散っていった。Qらが,甲方内に在室している人物を確認したところ,甲がリビングルームに,2名の組員がそれぞれ別々の部屋にいて,合計3名が甲方内に在室していることが判明し,Qらは,これら3名の近くで,その行動を注視できる位置についた。そこで,Pは,甲に対し,前記捜索差押許可状を示した。この時点で,Qが最初に甲方内に入ってから約3分が経過していた。その後,Pらは,甲を立会人として,覚せい剤等を探し始めた。Qは,リビングルームに置かれたサイドボードの引き出しの中から赤色ポーチを発見し,これを開けて見たところ,同ポーチ内には,ビニール袋入りの50グラムの白色粉末があった。
3 そこで,Qが,甲の承諾を得て,その場で白色粉末の予試験を実施したところ,これが覚せい剤であることが確認できた。Qは,「被疑者甲は,みだりに,営利の目的で,平成20年1月15日,Aマンション201号室の甲方において,覚せい剤50グラムを所持した。」という被疑事実で,甲を現行犯人として逮捕するとともに,刑事訴訟法第220条第1項第2号により,この覚せい剤を差し押さえた。なお,Qが割った甲方の窓ガラスは,直ちに,業者により修復され,その費用は2万円であった。


「あらあら、営利所持被疑事件について裁判所の令状発付を受け、『本件に関係する覚せい剤』を押収したこの過程にどんな違法があるとおっしゃるの? まさか、『必要な処分(222条1項、111条1項)』と解される予試験を問題視されているの*3?」


「そこではないわ。まず、令状の呈示(222条1項、110条)がされてないわ。令状の呈示は原則として、執行に着手する前に処分を受ける者に示す方法でなすことが必要よ(安富164頁)。」


「あらあら、令状呈示は憲法35条の直接の要請ではないわよ*4。令状の事前呈示が物理的・事実上不可能な場合についてまで事前に呈示しなければならない訳ではないわ。」


「入ったらすぐ、令状を示して要旨を告げればよかったんじゃないの。」


「うふふ、室内に複数人いたのは外からもわかっていたことよ。一人に令状を呈示している間に、他の関係者に証拠隠滅をされたら困るでしょ。しかも、Pらがやったことは、証拠隠滅工作を防ぐために室内に立ち入って現場保存のための措置を取ったことだけよ。令状呈示前に執行に必要な事前準備としてその場に立ち入り、何らかの現場保存的措置を講じることは許されるわ。先例もあるのではなくて(東京地決昭和44年6月6日刑月1巻6号709頁)。」


「もっとひどい違法があるわ。甲方のガラスを割ったことよ。」本丸に食らいつくひまわりちゃん。


「あらあら、ガラスを割ることも、222条1項の準用する111条1項による『必要な処分』としてできるのではなくて?」


確か、捜索差押えの実効性を確保するために必要であり,社会通念上相当な態様で行われている行為が『必要な処分』として認められるのではなかったかな。


「うふふ、最決平成14年10月4日刑集56巻8号507頁ね。今回Pがドアを手で激しくたたき,ドアチャイムを鳴らしながら,『早く開けろ。捜索令状が出ている。』と数回にわたり怒鳴ったのに、室内からは施錠を解く様子が全くみられなかったのよね。そういう令状による捜索・差押えを行う上で実力による侵入必要性があるところで、必要最小限の行為として、ガラス窓を割っただけだから、問題ないのではなくて?」


「あくまでも、相当の方法の処分でなければいけないのよ。『覚せい剤事件で証拠隠滅のおそれが窺われる事情があったとしても、専門業者に依頼して開錠するなどの方策をとらず、いきなり窓のガラスやドアを破壊するようなことは許されない』のよ(安富169頁)。」


「それは、専門業者に依頼して開錠する時間的余裕があることが前提ではなくて? 今回は、数人が慌ただしく動き回る足音が聞こえており、覚せい剤をトイレ等に捨てて証拠隠滅してしまう可能性があったわ。専門業者なんて呼んでいたら、いつまでかかるのかしら。確かに、物の破壊には『やむを得ない理由』が必要(犯罪捜査規範140条2項)だけど、今回の状況は、まさにやむをえない事情の下、最小限の行為としてガラス1枚だけを割っただけよ。金庫の鍵についての判示だけど、速やかに捜索を行わなければならない場合には合鍵の作成等をせずに破壊することも許されるとした下級審の先例もあるわ*5。」


「そもそも、マンションの201号室は組事務所でしょ。組事務所にガサ入れるのに、鍵がかかっている事態すら事前に想定できないなんて、警察側の手落ちよ。まさか、昔の、警察とヤクザが癒着していた時代と同じやり方をしていたんじゃないの? そもそも、2万円を出して窓を修復してるけど、適法な範囲を逸脱しない限り損害賠償義務は生じないんだから(安富170頁)、修理をしたこと自体が違法行為の自認ね。」


「あらあら、そこまで言うのは言いすぎではなくて。犯罪捜査規範140条2項は捜索・差押え等を『終えたときは、できる限り原状に復しておくようにしなければならない』と書いているのをご存知なくて?」


ここは平行線だなあ。情状を争う自白事件の弁護と、否認事件の弁護。似ているところもあるが違うところもある事件を同時に何件も抱えながら臨機応変に切り替えて対応できる刑事弁護人。ひまわりちゃんに、そんな頼もしさを感じた。

まとめ
 お陰様で、実質的に土曜日中に更新し切ることができました。いろいろと至らないことがあろうかと存じますので、ご指摘頂ければ幸いです。

*1:少年法上「少女」とはいわない。

*2:なお、最決平成19年3月20日刑集61巻2号66頁は、「当該物 と建造物との接合の程度のほか、当該物の建造物における機能上の重要性をも総 合考慮して決すべき」としており、窓や扉のガラスを器物損壊罪の客体に当たるとした最判昭和46年3月23日刑集25巻2号239頁を実質的に判例変更したのではないかという点にも留意することが必要であろう。

*3:覚せい剤所持容疑での捜索中に発見した覚せい剤の予試験は、必要な処分の例とされる。安富169頁参照

*4:百選51頁

*5:東京地判昭和44年12月16日下民集20巻11−12号91頁