アホヲタ元法学部生の日常

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艦隊これくしょん法学(艦これ法)研究序説〜艦娘被害対策弁護団設立宣言

1.はじめに
 艦隊これくしょん、略称「艦これ」とは、角川とDmmが組んで提供しているオンラインゲームであり、旧日本軍の艦船をモデルとして擬人化された「艦娘」達を育成し、最強の艦隊を組成することを目指すゲームである。*1約100種類という多彩な艦娘のレパートリーによって、どんなプレイヤーでも、必ず一人以上の「お気に入り」を見つけられるところや、課金しなくても普通に楽しめるところ等が受け、多くのプレイヤーが「提督」として参加している。
 私も、提督の一人として、いつの間にかボーキサイトが底をついてしまう「大食い」ぶりは確かに困りものであるものの、一航戦のプライドをかけて戦う姿がなんとも可愛い赤城たんを秘書艦にしてニヤニヤしているところである。
 さて、艦これがこのように多くの人によって楽しまれると、自然と多種多様の法律問題が生じて来る。艦娘は法的にどのように位置づけられるのか、適用されるのは旧軍法なのか自衛隊法なのか、愛する艦娘と結婚できるか、ロリ艦隊を編成してもいいのか等々。一つの法領域を形成しているか否かは、対象の特異性よりも規律原理・法原理の独自性で決められるという考え*2によれば、これらの問題を「艦これ法」と総称するのはやや仰々しいとなるのかもしれないが、艦隊これくしょんを法的に研究すべきであるとの筆者の問題意識を広く世に問うため、これをあえて、艦隊これくしょん法学(艦これ法)」と名付けたい。


 なお、本論稿の内容の重要部分は、既に筆者のツイッターアカウント(@ahowota)でツイートしたものであり、本稿にはフォロワーさんとの議論の結果が含まれている。フォロワーの皆様にここに感謝の意を表したい。



2.艦娘、その特異な存在
 艦娘というのは大変特異な存在である。ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律「人と動物のいずれであるかが明らかでない個体」を作り出すことへの懸念を表明し、人クローン胚の移植等を禁止しているところ、艦娘は「人と艦船のいずれであるかが明らかではない個体」である。


 このような、艦船と少女を合体させるという発想は、一見すると意外に見える。しかし、ちょっと待って欲しい。船舶は動産だが、船舶法に基づき、名称(船名)を有し(同法7条)、住所(船籍港)を有し(同法4条)、国籍を有する(同法4条)等、人間と類似した取扱いを受ける*3。つまり、艦娘のコンビネーションは、「法律」という観点からはとても自然な結びつきなのだ!


 法律的に見ると、艦娘が船舶の定義に該当するかが問題となる。船舶の定義は、法律によって異なるところであるが、例えば、船舶法上、「船舶」は定義されていないところ、通説は、社会通念上の船舶、つまり、物の浮揚性を利用して、水上を航行する用に供される一定の構造物のことを言うと解する*4。艦娘もこの定義には当てはまるので、「船舶」だろう。


 しかし、船舶に該当するからといって、それがすなわち人間ではないということにはならない。艦娘は、外観上ただの「変なコスプレをした少女(ミリオタ?)」であり、感情を持ち、提督を始めとする人間とコミュニケーションを取る。そして、法律的に重要なのは、契約を締結する意思を持っているところである。例えば、提督が、艦隊を編成しようとすると、それぞれ特有の言葉で参加表明をしており、これは、提督による雇用契約の締結の申し込みと、艦娘による承諾の意思表示と解される。また、提督が、艦娘に装備を追加すると、それぞれ特有の言葉で感謝の意を表明するが、これは、提督による贈与契約締結の申し込みと、艦娘による承諾の意思表示と解される。艦娘がホモ・サピエンスであるかは疑義があるが、このような、契約を締結する意思を持っている主体は、少なくとも民事法上人間と同様に扱うべきであろう*5


 この問題が顕在化する1つの側面は、轟沈した艦娘の処遇である。(あまちゃんではないが)「海の女」である艦娘を水葬に付すのは自然な心情であり、艦娘が「人間」であれば、法的にも、水葬に付す事が可能(船員法15条)である。しかし、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律43条1項は「船舶」の海上投棄を禁止する。つまり、人間か船舶かで、水葬の可否が変わってくるのだ。いずれにも該当し得ると解すると、これは、法律間で矛盾がある場合として*6後法が前法に優先するという法原則が適用され、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律が優先すると解されるが、いかがだろうか?


3.艦これと民法
 民法でいうと、まず、ドロップは「所有者のない動産(無主物)」を所有の意思をもって占有したとして、これにより、提督が所有権を取得するとも解される(無主物先占民法239条)。しかし、これはそう簡単ではない。そもそも、帝国海軍に属している艦船が一時的に敵軍に拿捕されていただけであれば、無主物ではあく、所有権は移転しないと解される*7。また、漁業会社が従業員を雇って漁労に従事させるような場合には、漁獲により会社が占有を取得し、会社が所有権を取得すると解されるところ*8、提督がドロップで艦娘をゲットするのも同様に、帝国海軍のために所有権を取得するに過ぎないと解することにも合理性がある。結局、無主物先占っぽい状況はあるものの、詳細に検討すると、提督はドロップでは艦娘の所有権を取得できない可能性が高いことに留意が必要である。


 次に、近代化改修は、付合と解される(動産の場合は民法243条)。付合の分かりやすい例としては、家屋の床を貼り替えた場合がある。床材は、1つの動産として独立した所有権の対象となるが、これが家という不動産に貼付けられる(従として付合)と、もはや家の一部であって、それに対する独立した所有権は消滅するのである。例えば千代田を「餌」*9に赤城たんの近代化改修をする場合、赤城たんという動産と千代田という動産が結合し、もはや分離できなくなったと言える*10。この場合には、付合が成立するだろう。
 その法的効果は、「主たる動産の所有者が、全体の所有権を取得するが、主たる動産の所有者は、償金を支払わなければならない(243条、248条)」ということである。例えば、提督が、赤城たんについて、「俺の嫁」として、帝国海軍から払い下げを受けていたとしよう*11。そうすると、帝国海軍の所有物である千代田であっても、付合により全体が提督のものになるのである。但し、帝国海軍に対して償金を支払わないといけない。えっと、軍艦一隻っていくらでしたっけ???



 更に、民法的に面白い問題が、建造や開発、具体的に言うと期待した艦船が建造されないことの契約違反の有無である。

事例1 民間人提督Aは、戦艦レシピに従い、400/30/600/30で建造を行ったところ、軽巡多摩が出た。この場合、 Aは工廠を契約違反で訴えることができるか。

 この場合、Aと工廠の間の契約が、請負契約であるか、準委任契約であるかが問題となる。もし、請負契約であれば、契約内容は「仕事を完成させる」こと、つまり、戦艦を作ることであるから、軽巡を出すことは契約違反であろう。これに対し、準委任契約であれば、契約内容は「一生懸命頑張る事」である。そこで、一生懸命頑張ったにもかかわらず、相当の割合で重巡が出て、割合は少ないが軽巡が出ることもあるのであるから、不運にして軽巡が出た場合にも契約違反はないということになるだろう。
 ここで、請負契約と準委任契約の区別はいろいろあるが、1つの重要なメルクマールは、完成物の具体的な内容が確定していたかどうかである*12。要するに、何が完成すべき仕事だか分からないのに、仕事の完成を約する請負にはならないだろう、ということである(そこで、完成物の具体的な内容が確定していなければ準委任と判断されやすい)。
 事例1について完成物の具体的な内容が確定していたかを考えると、そもそも、戦艦レシピというのは比較的戦艦が「出やすい」というだけであって、必ず出るものではない。しかも、戦艦には個性がある訳で、艦娘の種類まで考え出すと、何が建造されるかは、まさに「運を天に任せる」話である。完成物の具体的な内容は確定していないと言わざるを得ない。そうすると、到底「何か具体的仕事を完成させる」という話ではなく、単に「適切な艦船建造に向けて頑張る」というだけの話であって、準委任契約だろう。
 以上より、事例1の提督Aは、法的に言うと工廠に対して文句を言えないということになる。


4.俺の「嫁」
 さて、提督の皆様の中には、秘書艦となる艦娘が固定化して、「俺の嫁」状態になっている方も多いのではないか。かく言う筆者も、赤城たんにぞっこんであり、「俺の嫁」状態である。
 そもそも、婚姻の要件は両当事者の婚姻意思と届出だけである(民法742条参照)。すると、提督が、人間と同士すべき艦娘と婚姻をすることも許されると解すべきであろう。いや、許されなければならない!!


 しかも、興味深いことに、母体保護のため、法律上、妊娠をした船員は、仕事が免除される(船員法87条1項)。歴戦に疲れた艦娘達は、


「もう疲れた。装備外して民間船になりたい。」
「退役したければ妊娠しちゃえばいいんだよね」
「どういうこと?」
「船員法87条よ、船舶所有者は、妊娠中の女子を船内で使用してはならないのよ。」


といった女子会トークをしているのかもしれない。


 ただし、提督の皆様の中で、複数の艦に対し「俺の嫁」状態になっている場合には留意が必要である。この場合、婚姻届を出していなくとも、事実婚の域に達していれば、貞操義務が発生するので、大変危険である。更に、生活費の問題もある。

事例2 島風は提督B(年収500万円)と将来を約束して提督執務室に「愛の巣」を作り、布団や風呂(家具職人を招聘)等を用意して同居を開始した。しかし、実は提督Bはスクール水着フェチであり、伊号潜水艦にぞっこんになってしまって、愛の巣に伊号を入れ、島風とは別居状態である。島風は提督Bに対して生活費を請求できるか。島風の前に、提督Bが愛宕とも同様の状態になっていた場合にはどうか。

 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する(民法760条)。この場合には、島風が提督Bに対して慰謝料を請求できるのに加え、生活費(婚姻費用)を請求できる。裁判所の算定表*13によれば、多分艦娘は無収入なので、婚姻費用は年収500万円の提督なら毎月6〜8万円である。すると、中間の7万円とすると年間84万円である。愛宕たんが同じ状態だったら、愛宕たんにも婚姻費用を負担するので更に84万円が出て行く。艦これでハーレムをやりたい提督は、それにみあう多額の出費を覚悟せねばならない*14


5.ボーキサイトもぐもぐの法的考察
 さて、この点との関係で、大食いの赤城たんがボーキサイトをもぐもぐ食べていることは法的にどのように評価されるか。


 まず、ボーキサイトを食べさせるだけでいいのか、というと多分だめだろう。船員法上、700トン以上の船の船員には食料表に基づく糧食を支給しなければならない(船員法80条3項)。その中には、給糧艦「間宮」を使って支給できる菓子もあるが、お菓子だけではダメであって、炭水化物、タンパク質、野菜等をバランスよく至急しなければならない。しかも、船舶料理士制度により、遠洋区域を航行する総トン数1000トン以上の船舶については、船舶料理士によりその調理を管理させなければならない(船内における食料の支給を行う者に関する省令1条)。そして、ボーキサイトは、食料表にはない。赤城たんに対しては、たとえ彼女が嫌がっても、バランスのよい食事を食べさせることが必要なのだ。


次に、貴重な資源を浪費している点はどのように評価されるか。船員法21条は、海員の遵守事項を規定する。その第6号は「船内の食料又は淡水を濫費しないこと」である。赤城たんの消費の仕方は、贔屓目に見たとしても、これに反していると評価せざるを得ないのではなかろうか。


 なお、特殊な事例であるものの、通常よりメンテナンス等の手間がかかる装置について、様々なトラブルが起こったことから、これが瑕疵ある欠陥品として提訴されたが、裁判所は、買主の適切なメンテナンスによって回避可能な想定内のトラブルが生じたに過ぎないとして売主を免責した(東京地判平成20年4月24日)。そう、赤城たんは「欠陥艦」ではないのである。


6.軍法か自衛隊法か
 さて、艦これの法律問題で一番難しいものの1つが、適用法令が軍法か自衛隊法かである。
 艦娘はどうも第二次世界大戦当時の旧帝国海軍の艦船のようであるから、当時の軍法を適用するというのは自然と思われる。そうすると、例えば、問題が起こった場合には、軍法会議で裁かれるし、適用されるのは海軍刑法ということになるだろう。例えば、ドロップして入手した艦娘は、そもそも敵前逃亡をした可能性もあるのだから、軍法会議でその艦娘が帝国海軍の艦隊から離れた経緯を詳細に調査し、もしクロであれば、厳しい処罰をする、ということになるだろう。



 これに対し、自衛隊法が適用されるのであれば、以下のような規律になるだろう(もちろん軍法会議はない。)。


 まず、民間人提督は、高度の専門的知識経験又は優れた識見を有する者を一定の期間活用して遂行することが特に必要な業務に従事させるという、「任期付隊員制度」(自衛隊法36条の2)に基づき認められているのだろう。


 次に、海戦での武器使用は、防衛出勤を命ぜられた自衛隊による、自衛隊法88条に基づく「武力行使」と解される。防衛出勤は閣議決定に基づき総理大臣が決定し、国会承認を得る(事態対処法9条、自衛隊法76条1項)。武力行使自体は、総理大臣が閣議決定に基づき判断する(自衛隊法7条)。ただ、いくら武器を使えるとしても、自由自在に使えるのではない。鎮守府正面海域のような領海のみならず、公海や外国領海らしきマップもある。特に武力行使の目的をもって自衛隊を他国の領海に派遣する「海外派遣」憲法上の疑義が大きい。
 ところで、例えば、某国が日本に対して誘導弾を打ち込んできて、これを防ぐには、某国国内にある誘導弾基地を叩くしかないという場合、某国国内の当該基地を攻撃することは、違憲な「海外派遣」なのだろうか。自衛隊違憲とする学説によれば、具体的な検討をするまでもなく違憲なのであるが、政府解釈によると*15他に手段がないと認められる限り、敵国にある基地を叩く事も、自衛の範囲に含まれ、可能だと解している。
 この解釈によれば、海外らしきマップでの敵軍との海戦の合法性・合憲性は、個別具体的に、自衛のために他に手段がないと認められるのかによるのだろう。もっとも、一人の提督として、色々なマップを戦った感想を述べると、かなり戦争が「泥沼化」しており、仮に初期の段階では、自衛のために他に手段がないと認められる場合があったとしても、現時点では、一度総力戦を始めてしまった以上、後には引けないとして戦闘を続けているだけではないかという疑問もあるところである。この辺りは、一提督に破計り知れない、戦争の全体像とも絡む話であり、この位にさせて頂きたい。



 さて、元々の疑問は、適用法令が軍法か自衛隊法かであった。この点、どちらを適用すべきかについての決定的な根拠がない。艦娘の形式を見ると旧軍法と考えるべきであろう*16が、例えば霰が「んちゃ、とかは言いません」と言ったり、満潮が「倍返しだ」と言ったり、村雨「主砲も魚雷もあるんだよ」というように、明らかに現代のアニメ・ドラマのネタを意識している点は自衛隊法説に優位性がある。結局、現時点では、判断がつかない。他日に期したい。


7.艦これと労働法
 艦娘と提督の関係は、労働関係と考えられる。それは、艦娘が(燃料と弾薬がある限り)、どんな酷い状態(例えば大破)でも提督の命令とあらば出航して戦闘をすることを強いられており、明らかに使用従属関係が認められるからである。


 この場合、難しいのは、労働法が適用されるか、それとも、船員法が適用されるかである。ここで、 「海上労働法は陸上の労働法とは体系的に異なるといってもよい」*17と指摘される。この理由は、明治時代には「小国家」論によって説明された。要するに、船舶は国土の延長であり、そこに人々が生活している。もっとも、そこには国家権力が及ばないので、船長が官吏として国家の権力を行使するということである*18。ただ、この説明は、なぜ民間人がほとんどである船長を一般的に官吏と見られるのか等と批判された。そこで出てきたのが船舶共同体論である。船員その他旅客は船内で共同生活を営みながら一つの社会を形成し海上の危険を克服しなければならない。そこで、船長が規律(紀律)遵守のための命令・懲戒ができる等、海上労働について特別の法体系が認められたのだ*19。現在では、この船舶共同体論には批判も多いが、伝統的通説として重要な地位を占めている*20


 現在、船員法以下の海上労働法は厚労省ではなく国土交通省の管轄である。明治から海運担当省がこれを所轄してきた経緯、全日本海員組合が移管に反対した等の経緯があるが、何よりも上記の海上労働の特殊性が重要だろう*21


 もっとも、海上労働法と陸上労働法の大きな違いは、船長が規律をできること(つまり、懲戒の際にいちいち下船させて本社で懲戒しなくてもいい)、食料の供給等について詳しい規定があること、船長の義務等が細かく規定されていること等に過ぎず、労働そのものに関する規律はあまり変わらない。例えば、労働時間については、船員法60条で労基法変形労働時間制に似た規制があり、母港帰還時や入渠時に休日を付与することで、艦娘であれば1年の範囲で均すと週40時間になるようにすれば良い。提督、ま、まさか、遠征に行かせる第2艦隊以下の艦船について、帰還したらすぐに次の遠征に行かせてませんよね???


更に、憲法27条3項は「児童は、これを酷使してはならない。」とある。具体的には、16歳未満を船員として使用してはならない(船員法85条1項)し、18歳未満の船員を危険な作業や夜間作業に従事させてはならない(船員法85条2項、86条)。長門たん、陸奥たん、扶桑たん辺りの巨乳艦隊を組織すれば問題がないのだろうが、ロリ艦隊を組織されている提督の皆様、まさか、夜戦(深夜労働)なんてさせてませんよね?*22



 労働法に関し、もう1つ問題を検討しよう。

事例3 提督Cは、軽巡1隻、駆逐艦5隻で編成される第二艦隊に対し、鼠輸送作戦を命じた。しかし、艦娘は、自分は護衛や攻撃が仕事であり、輸送はその職務内容に入っていないとして不満である。提督Cの命令を聞く必要はあるのか。

 この点は、実務的には、提督と艦娘の間の現実の力の差の結果として艦娘が言う事を聞いているという現実があるが、本当にそれでいいのか、という問題意識である。そもそも、職務内容の変更については、就業規則等に職務内容の変更が可能であると規定されていれば原則として、使用者である提督は、職務内容は変更を命じることができる。しかし、例えば、「医者として採用されている従業員に対して医療事務を命じる」というのは通常できないだろう。これを職務の限定と言う。もし、艦娘が「艦隊護衛等の職務限定で採用されている」と解することができれば、提督にはそれ以外の職務に職務内容を変更することはできない、そう、輸送任務の拒絶が可能なのだ。万国の艦娘よ、団結せよ! 不条理な提督の命令を法律を用いて拒否するのだ!*23



8.艦これと刑法
 刑法的に言うと、大きな問題は、近代化改修及び解体である。艦娘を「殺す」として殺人罪にならないだろうか。

事例4 民間人提督Dは、駆逐艦白雪がドロップで出たので、装備を外して秘書艦の近代化改修に使った。Bは殺人罪(刑法199条)にならないか。

提督の中には、気軽に近代化改修及び解体をしている人も少なくないだろう。特に、デイリー任務の中に近代化改修と解体があることから、これにあわせて、カジュアルに近代化改修及び解体をしている提督も多いのではないかと思料される。


 もっとも、刑法199条は以下のように規定する。

刑法199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

 もし、艦娘が刑法199条の「人」であれば、提督Bは殺人犯として、最高刑死刑である。特に、日本では、一人を殺すだけでは死刑という量刑が選択されることは稀であるが、2人、3人となると死刑はあり得る。10人殺した場合には、死刑の可能性は極めて高いだろう。

 問題は、刑法の「人」の解釈である。上記で、艦娘が人か船舶かよく分からないが法律的にみるとどうなのだろうか、という議論をしたが、これはあくまでも、「民事的に人間と同様に扱うべき」と述べたに過ぎず、刑事では別個の考慮が必要である。それが、罪刑法定主義である。
 これは、刑法の大原則であって、事前に法律で明確に何が悪いことか知らせられていなければ、どんなに非難に値することをしても罰せられないというものである。為政者による恣意的な処罰を避け、人権を守るための大変重要な原則である。この原則から、類推解釈の禁止が導き出される。類推解釈というのは「AとBは違うけど、似たようなものだから、Aに関する罰則をBにも適用しちゃえ!」というものである。これが許されれば、罪刑法定主義もあったものではない。人々は何が罰せられるか分からないまま戦々恐々と生きる訳で、萎縮効果は甚大である。そこで、刑法では、類推解釈は禁止されるのだ。
 艦娘は、ただのミリオタコスプレ少女ではなく、海戦になれば、船に変形する*24ホモ・サピエンスは船に変形しない。要するに、「艦娘」と「人間」はよく似ているが違うのであって、人間(「人」)についてこれを殺すことを刑罰をもって禁止する刑法199条の規定は、艦娘を殺すことに適用してはならない(類推解釈になってしまう)ということだろう。
 以上より、提督Dは無罪である。


 もっとも、無罪なら何をやってもいい訳ではないだろう。提督のさじ加減一つで、少女(艦娘)達が解体されたり、近代化改修の「餌」にされる。これは奴隷的拘束の禁止(憲法18条)の問題であり、提督に出航先を決められ肉体的自由がないのみならず、その命すら握られているというのは、同条違反の可能性が高いだろう。法クラ提督、特に弁護士の皆様についてみると、その使命が「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」である点(弁護士法1条1項)に鑑み、人権擁護*25の観点から、近代化改修及び解体を行うことは可及的に避けるべきではなかろうか。


9.艦娘被害対策弁護団の提唱
 上記の状況を見ていると、艦これは、人権的に非常に問題がある状態に陥っていると言わざるを得ない。その理由は、艦娘と提督の間の絶対的な力の差であろう。これを是正できるのは、法律の力しかない。
 筆者は、QB被害者対策弁護団の一員として、魔法少女まどか☆マギカにおけるキュゥべえの被害から魔法少女を法律の力で救おうと努力してきたが、現在の艦娘の存立する状況は、まどマギ魔法少女以下と言えよう。

艦娘被害対策弁護団設立宣言
「娘身売りの場合は当相談所へご相談下さい」
大恐慌の時代*26、借金のカタとして売られて行った娘達。その中でひときわ美しく、ひときわ不運な娘達を待ち受けていたのは、「艦娘」の仕事だった。潜水艦と飛行機を自在に操る強力な敵艦隊の前に多くの艦娘が轟沈していった。
艦娘達の待遇は、中破・大破した艦がいるのに夜戦を強行させ過労死(轟沈)を出す、疲労マークが出ているにもかかわらず、課金が嫌だといって間宮を購入しないといった悲劇は日常茶飯事であるが、このような所謂「ブラック企業」にもありそうなものに留まらない。
提督は、資材が足りないと言っては艦娘を「解体」し、お気に入りの艦娘を強化したいといっては、「要らない娘」の艦娘を近代化改修の「餌」にする。これは、戦時とは言え、いわゆる「特攻隊」の精神にも相通じる、人の命を無視した「人権蹂躙」である。
我々艦娘被害対策弁護団は、このようなかわいそうな艦娘をこの手で救済しよう! という法クラ提督有志によって結成された弁護団である。我々は、立法、行政に加え、法律の力を用いて「司法」の観点から、艦娘を苦境から救い出すことを志す。
戦時下、法律の力は平時より大分弱まっている。しかし、「気骨の判決」を書いた吉田大審院判事のように、軍部の圧力に負けない法曹もいたではないか。
愛する艦娘達を救うため、万国の法クラ提督よ、立ち上がれ!

まとめ
 艦これは、これだけで法学の一分野になるだけの材料を提供しているように思われる。現時点では検討が不十分なところも多々残っているが、今後、艦これ法学の研究が更に進むことを期待したい。
 また、上記の通り、各種各様の観点から艦これの法学的問題が検討できるが、一番の問題は、艦娘達が、人権蹂躙とも言える苛烈な状況下に置かれていることである。法クラ提督には、ぜひ、艦娘被害対策弁護団の理念に対し、賛同して頂きたいところである。

*1:改造を含めなくても

*2:海事法研究会「海事法」1頁

*3:海事法研究会「海事法」7頁

*4:神戸大学海事科学研究科海事法規研究会「概説海事法規」4頁

*5:この点は、例えば拙著「アニメキャラが行列を作る法律相談所」で詳述した

*6:この2つは特別法と一般法の関係ではないので

*7:この点、ドロップされる艦娘が常にレベル1であることから、本当に一時的に敵軍に拿捕された艦船なのかを検討する必要があるかもしれない

*8:我妻・有泉コンメンタール民法第3版449〜450頁

*9:水上機母艦をうまく使いこなせず、結果的に、空母の近代化改修に使うことが多いのが目下の悩みの1つです。うまく使いこなせればいいのですが、水上機母艦はなんとも使い勝手が悪いので…。

*10:法律上、「損傷しなければ分離することができな」い場合とあるが、当然損傷させようが何しようが分離できない場合も含むだろう

*11:船舶は、登記制度により権利変動が公示され、取引の安全が図られている一方、行政取締のために船舶登録制度を設けている。そこで、日本船舶である艦娘の所有者となった提督は、船籍港鎮守府)を管轄する登記所に登記を申請し、管海官庁に登録申請をしなければならない。管海官庁への登録を行うと、船舶国籍証書が交付される。船員法18条により備置義務があるので、必ず備え置く必要がある。船舶国籍証書は、商法687条により所有権移転の対抗要件でもある。

*12:この点に関する裁判例としては、システム開発契約の文脈では、東京地判平成20年4月24日や東京地判平成18年11月30日がある。

*13:www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf‎

*14:アラブ世界で、法律上4人まで妻を娶れるけど、それはその分の収入がある場合に限るってのと似た話ですかね。

*15:昭和31年2月29日衆議院内閣委員会鳩山内閣総理大臣答弁(船田防衛庁長官代読)

*16:なお、船舶安全法の要求する基準は現代の技術を前提としている。例えば船舶設備規程311条の22により備え付けが強制される海上無線通信システム(GMDSS)は、人工衛星を利用した船舶の海上安全通信システムであり、第二次世界大戦当時は存在しなかった。艦娘は同法の要件を満たさず、出航できない。

*17:海事法研究会「海事法」28頁

*18:海事法研究会「海事法」37頁

*19:石井照久「海上労働に関する法的規整の発達」法時13巻1号

*20:札幌高判昭和43年6月22日判タ225号226頁は「船舶が多くの人命を預つて海上を航行する危険共同体でありかつ乗組員が外部から隔離された一つの生活集団を構成する生活共同体でもあること、したがつて右の船舶共同体の長として船舶の安全運航の最高責任者の地位にある船長は、船内の統一をはかる統制権限をもたねばならず、そこで船員法は、船長に船舶内にあるすべての者に対し職務執行上必要な指揮命令を行なう権限を与えるとともに、命令の実行を確保するために具体的な処分あるいは身体拘束をなし得る等船内秩序の維持に必要ないわゆる船舶権を賦与している」としている。

*21:海事法研究会「海事法」27頁参照

*22:後、実務上よくありそうなのは、愛宕へのセクハラであろう。「天然?人工?」とか聞いてはダメです。

*23:なお、船員法30条で争議権に一定の制限がある。

*24:実は、艦娘のサイズの変化については、A説:常に人間大、B説:常に艦船大、C説:戦闘中は艦船大、秘書艦として働く際は人間大という3説が対立している。A説は大変小さな艦娘を海上で相互に砲撃しあうことの非現実性の問題があり、B説は提督執務室の家具のサイズ等に照らしおかしい(例えば、「提督の椅子」は明らかに提督用で人間大のはずだが、それと比べる限り秘書艦が艦船大には見えない)ということで、筆者はC説に与するが、この点は異論もあろう。

*25:外国人にも出来る限り人権を保障しようという最高裁の立場からは、艦娘にも出来る限り人権を保障すべきだろう

*26:上記のとおりこれが現代の「100年に一度の大恐慌」を指すのか、戦前の大恐慌を指すのかは不明。