アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

環境ガール11 大波乱の夏合宿その2 平成22年第2問設問2

環境法入門〔第4版〕

環境法入門〔第4版〕

注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.富士山麓の大波乱
 今日の宿泊先は富士山の麓のホテル。先に富士山の見える浴場に行って、旅の疲れを癒した後、今日宿泊する客室に入った時だ。


「ど、どうして男女別室じゃないんですか!」和室の中心で、浴衣姿のかなめさんが叫ぶ。


「あらあら、部屋を予約する時に、『何人様ですか』と言われて、四人って答えたんだけど、そういえば、そのことを失念していたわ。」戸惑うほむら先生。


「さくらちゃんも嫌でしょ。」同意を求めるかなめさん。


「私は別に構いませんよ。先輩とは将来の結婚を約束した仲ですし。」


「ど、ど、ど!?」かなめさんが声にならない声を出す。


「あれ、そうだっけ?」突然の展開に慌ててさくらちゃんに確認する。


「先輩、忘れないでくださいよ。さくらが三歳の時、喘息で苦しんでいるさくらを抱きしめて、さくらと結婚してくれるって言って下さって、私とっても嬉しかったんですから。」


「すっかり忘れてた、ごめん。」確かに、そんなことがあった気がする。


「そんな15年も前のこと、時効です、時効! 婚姻適齢を大幅に下回るそんな年齢での婚約なんて無効です、無効!」声が裏返るかなめさん。


「あら、大審院判例が、婚姻年齢に達していない人と、将来婚姻年齢に達した後に婚姻することを目的として、婚姻の予約をできるとしているのをかなめ先輩はご存知ないのですか*1?」


「もう、ダメっていったらダメなの!


「かなめさんも、法曹の卵として、どんな時でも感情的になっちゃだめだわ。そうね、法律家らしく、二人で法律で勝負して、今日四人でこの部屋で寝るかどうかを決めたらどうかしら。例えば、平成22年の第2問設問2なんかいかがかしら。」


「分かりました、その勝負受けさせていただきます!」即答するさくらちゃん。


「なら、私は被告をやりますけど、それでいいなら。」熟慮の末絞り出すように答えるかなめさん。


「うふふ、問題文のなお書きがポイントね。」意味深にほほえむほむら先生。

二酸化窒素の環境基準値については,厳しすぎるという科学的知見が蓄積されてきたことから, 基準値が緩和されたとする。この措置に不満なBは,その直後に取消訴訟を提起できるか。原告 Bの主張と被告の反論について論ぜよ。なお,原告適格については触れなくてよい。


2.環境基準の処分性
「まず、私からいきます。改定告示につき、国に対して取消訴訟、つまり、『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』『の取消しを求める訴訟』(行訴法3条2項)を起こすには、その対象である改定告示が処分、つまり、『その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの』である必要があります。環境基準が緩和さられると、それにより汚染物質の増加が許容され、国民の健康等に重大な影響を及ぼします。その意味で、直接国民の権利・義務を形成・確定する効果があると言うべきです*2。」さくらちゃんが立論を始める。

「環境基本法第16条第1項は、『政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。』としており、環境基準は、『維持されることが望ましい基準』、つまり、政策目標を定めた基準に過ぎません*3。そこで、このような努力目標を示す指標は直接国民の権利・義務を形成・確定するものではないと一般的に解されており、本件と類似の事例でも、裁判所によって処分性が否定されています*4。」かなめさんが、さくらちゃんの論理に乗って反論する。


「環境基準を行政計画と同様の法的性質と理解するものね*5。ただ、環境基準は、その基準の受け皿となる法制度がどのようなものかによってその法的性質が変わり得るから、環境基準の法的性質そのものが争われている本件のような事案では、一般論としての環境基準とはなんぞやという議論だけでは不十分な気もするわね*6。」ほむら先生がコメントする。


「本件では、二酸化窒素の環境基準が問題となっているところ、大気汚染防止法の総量規制基準の基礎となる総量削減計画が、環境基準の達成を目途としています(大気汚染防止法5条の3、5条の2)。つまり、総量規制基準は、環境基準から相当の確実さをもって決定*7され(措置導入基準*8)、これによって、事業者に対して直接的法的効果が生じる訳です。病院開設中止勧告(医療法30条の7)があれば相当程度の確実さを持って保険医療機関の指定を受けることができなくなることを理由に処分性を認めた最高裁の考え方をここに応用すれば、処分性を肯定可能です。」


「裁判所は、環境基準と総量規制の間にそこまで密接な連動関係を認めていません。総量規制基準は各種の複雑かつ流動的な諸要素を総合、勘案して決定されるものであり、環境基準のみから直接的、自動的に決定されるものではない、ようするに環境基準は総量規制基準導入のきっかけにすぎないとしています*9。また、環境基準の厳格化であれば、それにより、基準が達成できなかったところが出て、総量規制基準が導入されるという関係にあるかもしれませんが、今回は、緩和に過ぎず、更に関連は薄いでしょう*10。」


「各種法規制は環境基準を前提に総合的、計画的に行われているのですから、環境基準と各種法規制の間に直接の関連性がないという見方自体に疑問があります*11。」食い下がるさくらちゃん。


「ここは、見解が分かれているけれども、実務家登用試験としては、環境基準と総量規制の間に直接の連動関係がないという立場を前提に検討すべきではないかしら。」このほむら先生のコメントで、さくらちゃんは作戦を練り直さないといけなくなる。


「環境基準と総量規制の間に直接の連動関係がないということは、環境基準が変わったとしても、だからといって、ただちに、それにより事業者が総量規制を受けて排出が制限されるという意味での関連はないという、事業者との関係でのみ問題になる点に過ぎません。Bのような公害被害住民との関係では、環境基準設定の場面はもちろん、総量規制の場面でも、Bが義務を負うということはないのですから、Bとの関係で、環境基準と総量規制の間に直接の連動関係がないことを理由に処分性を否定すべきではありません*12。」さくらちゃんが新しい議論を展開する。


「それって、原告が誰かによって、ある行為につき処分性があったり、なかったりすることになる訳?」かなめさんの疑問はもっともだ。


「ここで言いたいのはむしろ、仮に、事業者にとって直接法的な不利益が生じる関係がないとしても、環境基準の緩和により、Bにとって、法的な不利益が生じるならば、その点をもって、処分性を認めることができるという議論です。各種法規制の前提となる改定告示を争うことが最も実効的な救済方法であるところ、国道43号線判決は、原判決が環境基準を受忍限度とした判断を是認しており、環境基準が緩和されれば、受忍限度が緩和され、これによって、民事責任を追及する場合に被害が救済されなくなるというという法的効果が生じます。そしてこの点は司法判断になじみますので、環境基準引き下げにつき処分性を認めるべきです*13。」


「環境基準は、法律上の許容限度・受忍限度を設定するものではないのであって、環境基準と受忍限度が一致する場合と一致しない場合があるに過ぎません。国道43号線判決は、環境基準と受忍限度が偶然一致した事案と読むべきです*14。」


3.問題文の「なお書き」の意味
「原告と被告側の議論が概ね出て来たわね。ここはどちらもあり得るところで、処分性自体については、さくらちゃんの議論も説得力があるわ。ただ、原告は結果的には負けそうね。」


「ど、どうしてですか?」硬直するさくらちゃん。


「紛争の成熟性の問題もあるけど、原告適格も難しそうよね*15。東京高判の処分性の枠組み自体であれば、これを崩そうというさくらちゃんの議論について行政法学会の賛同者は結構いると思うけど、結論として本件で本案審理をすべきとまで言う人は少数派に留まりそうね。」


「そうなんですか」不満気な顔をするさくらちゃん。


「でも、この問題は、『原告適格については触れなくてよい』としているから、今回の勝負は引き分けでいいでしょう、ねぇ。」って、僕に向かってウィンクしないでください、ほむら先生。


「は、はぁ。」とうなずく。



「それじゃあ、引き分けだから、現状維持ってことでいいわね。」微笑むほむら先生。


「な、なんですって!」二の句が継げないかなめさん。


「3対1の多数決なんですから、尊重して下さいますね、せ・ん・ぱ・い♪」満面の笑みを浮かべるさくらちゃん。


こうして、その晩の部屋割りが決まったのだった

まとめ
 学説間の対立はほとんどないといわれる環境法ですが、環境基準の処分性については下級審裁判例とそれに対する有力な批判的学説があることから、それぞれの立場を整理して理解することが大事だと思われます。

*1:大判昭和6年2月20日新聞3240号4頁

*2:後記東京高判昭和62年12月24日判タ668号140頁における控訴人の主張参照

*3:北村132頁

*4:Basic140頁、東京高判昭和62年12月24日判タ668号140頁

*5:Basic141頁

*6:図解として北村134頁参照、特に北村133頁は、廃棄物処理法上のダイオキシン類に関する環境基準につき「処分性はあるのではないだろうか」とする。

*7:Basic141頁

*8:北村133頁

*9:北村133頁参照

*10:実務環境法講義26頁参照

*11:実務環境法講義26頁参照

*12:Basic140頁

*13:Basic140頁、大塚324頁参照

*14:北村134頁参照

*15:Basic140頁、大塚324頁参照