アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

環境法ガール13 大波乱の夏合宿4 平成21年第2問

環境法 第4版 (有斐閣ブックス)

環境法 第4版 (有斐閣ブックス)


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.観光客が多過ぎる?
「先輩、おはようございます。」

「ほら、チャッチャと起きなさい。」

「あら、みんな、おはよう。」


夢の世界から急に現実に引き戻され、バスを降りる。周りにはたくさんのバスと車が止まっている。


「やはり、世界遺産に指定されただけあって、観光客も多いですね。」白いワンピースに麦わら帽子のさくらちゃんは、寝起きにも関わらず元気そうだ。


「1000円の入山料も、登山者数の抑制にはつながっていないようですね。」かなめさんは防寒対策でカーディガンを羽織っている。


世界遺産指定前から、富士山は、富士箱根伊豆国立公園の中核の1つだった訳だけど、この自然公園制度を考えると、今の状況も理解しやすいわね。」ここでも環境法につなげるほむら先生。


「それはどういう意味ですか。面白そうです!」反応するさくらちゃん。


「例えば、『道無き道を歩かないとアクセスできない、手つかずの優れた自然の風景地』があったとしましょう。これを国立公園等に指定して保護することはできる?」微笑むほむら先生。


「その言い方だと、多分できないってことだと思うけど、どうしてだろう?」まだ頭が回らない。


「自然公園法1条は、『優れた自然の風景値を保護するとともに、その利用の増進を図』ることを目的としています。未踏の原生林等は、利用増進が難しいので、自然公園法の枠組みで保護することは困難です*1。」


「かなめさんの言う通りよ。自然保護法は伝統的に、風景重視、レクレーション重視だからね*2。そもそも、自然公園法の前身である国立公園法の所掌部署は(一時期)『厚生省体力局施設課』だった*3訳で、景勝地を開発して、国民に自然に親しんでもらい、国民の保健休養等に役立てようっていう発想が根っこにあるのが分かるわよね。」


「自然公園法にそういう限界があるから、自然公園法に加えて、自然環境保全法もあるんですね。」さくらちゃんは朝から頭が回る。


「半分正解で半分間違い、かな。建前はそのとおりで、生活環境に近い自然や、未踏の原生林を保護するのに自然公園法が『帯に短したすきに長し』というのが、自然環境保全法を別建てで作った制度的な理由よ。でも、実際のところ、本当は自然保護を目的とした総合的な法律を作って自然公園法もそこに一本化しようとしたんだけど、政治的に当時の環境庁の力が弱くて農林省林野庁)と建設省の折衝の結果、他の省庁の権限を侵さない範囲に限定した自然環境保全法を作るに留まったという背景も指摘できるわね*4。」


2.自然公園内の規制
「今日は時間もないし、私たちみな軽装だから、上には登らないけど、5合目の時点で、下では見られない植物が色々と生育しているのが分かるでしょ。」

ほむら先生の声に下を見ると、麓では見かけない植物が群生している。

「こういう美しい自然は、自然公園法でどのように守られているんですか?」さくらちゃんが聞く。

「あら、丁度いいわね。そうしたら、この問題を検討しましょう。」ほむら先生が、用意していた問題を取り出す。

A県にあるB国定公園は,美しい山岳に恵まれた自然公園である。B国定公園にはカタクリ(自然公園法第13条第3項第10号の指定を受けている。)の群落があり,近隣に住む甲は,そのカタクリの群落の保護・生育を図ることを目的とする団体(以下「本件団体」という。)を設立して代表者となり,会則も作成して,これまで約30名の地域住民の会員とともに,10年以上にわたって, そのカタクリの群落の生育調査を行い,年数回の一般向けの観察会や保護・生育のための提言を行ってきた。
ところで,約3年前から,B国定公園の特別保護地区内の遊歩道沿いにある前記カタクリの群落に近接した空き地に,乙が多数回にわたって数百本もの廃タイヤを投棄し,廃タイヤが野積みされた状態になっている。そして約1年前から,前記野積みされた廃タイヤからの自然発火により,頻 繁に「ぼや」が発生したため,甲ら本件団体のメンバーは,前記野積みされた廃タイヤの処理につ いて,A県に対し,早急に対策を講じるよう何度も交渉をしていた(1)。
その後,前記野積みされた廃タイヤの自然発火により大規模な火災が発生し,B国定公園におい てA県が公園事業として設置していたビジターセンターが焼失するとともに,前記カタクリの群落 も焼失した(2)。
この場合について,以下の設問に答えなさい。
〔設問1〕
1の段階及び2以後の段階において,それぞれA県知事は乙に対し,行政上,どのような対応 措置を採ることができるか。ただし,廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく措置は除くものとする。
〔設問2〕
1の段階で,本件団体が乙に対し,前記野積みされた廃タイヤの撤去を求める裁判上の請求を したときに,その請求は認められるか。予想される当事者の法的主張とそれに対する相手方当事者の反論とを指摘しながら論じなさい。

「廃タイヤって、確か、廃棄物性が問題となっていて、リサイクルにも使えるから、全て廃棄物とは言い切れず、『占有者が自ら利用し又は他人に有償で売却することができないために不要になった物』と言えるか、性状、排出の状況、通常の取扱い携帯、取引価値の有無及び占有者の客観的意思を元に決めるっていう話を聞いた事があります*5。」


「それは、問題で『除くものとする。』といわれている廃掃法の問題じゃないかな。『多数回にわたって数百本もの廃タイヤを投棄』っていうんだから、仮にその基準を取ったとしても、廃棄物と言えると思うけど。」


「海域公園の話を考えないとすれば、自然公園法上、自然公園には、その核心的自然*6が含まれる特別保護地区、その周りの第1種から第3種までの特別地域、そして、バッファゾーンである普通地域に分かれます。特別保護地区、特別地域、特別地域の順に規制が緩くなります。今回は、特別保護地域なので、自然公園法21条3項が、禁止行為を定めています。廃タイヤの積み上げは、自然公園法の目的とする優れた自然の風景地の保護に反する行為であり、5号の『物の集積・貯蔵』として、中止命令、原状回復命令等を出せます(34条1項)*7。これに従わなければ行政代執行、刑事告発(83条参照)が考えられます。」かなめさんがまとめる。


「質問です。特別保護地区では、『物の集積・貯蔵』をするなとありますが、私たちのような観光客を考えると、他人の土地の上に勝手に物を積み上げてはいけないというのはあまりにも当たり前な気がするのですが。」さくらちゃんの質問。


「その質問は、自然公園制度が、地域指定制度を採用していることと関係するよ。富士山は誰の物かな?」



「だ、誰のものって、日本人みんなのもの、いや、世界遺産だから、世界のみんなのものですよね。」混乱するさくらちゃん。


最高裁は、8合目以上の土地は富士山本宮浅間神社最判昭和49年4月9日判時740号42頁)のものだとしました。」かなめさんが判例を指摘する。


アメリカの国立公園制度は、営造物制公園といって、国有地上に公園があるというたてつけになっているわ。これに対し、日本は、地域指定公園といって、国有地、公有地、民有地に関係なく、自然公園法の要件に満たすものを国立公園等に指定するから、国立公園でも4分の1以上は民有地なのよ*8。」


「なるほど、だからこそ、民有地の所有者といえども、国立公園内では、ゾーンに応じて、一定の行為ができないとされている訳ですね。」納得顔のさくらちゃん。


「もちろん、20条3項の行為も21条3項の行為も『許可を受けなければ、してはならない』というんだから、許可を受ければいいわ。でも、許可をしないこともできるから、その場合は、所有権が制限される訳で、これに対する不許可補償の制度もあるわね(64条)。」


「実際に火事が起こった場合には、59条に基づき、乙の故意・過失を問わず、費用負担を命じることができ、理論上は強制徴収もできます(66条)*9。」


3.環境団体訴訟と環境権
「そういう制度があるといっても、カタクリの群落等のかけがえのない自然が失われてからでは遅過ぎると思います。行政の腰が重いのであれば、市民が動くしかないのではないですか。」


「この、さくらさんの問題意識は設問2に反映されているわね。」



「この訴訟は、環境団体が乙という私人を訴える訴訟として、民事訴訟と解されます。代表者がいる団体なので、会則等において、多数決の原則で運営され、構成員の変更に関わらず団体が存続し、団体としての主要な点が規定されていれば、当事者能力自体は、権利能力なき社団(民訴29条)として認められます*10。問題は、原告適格であり、固有の請求権を主張する場合と第三者の請求権を主張する場合の双方が問題となります。」


「確か、団体固有の請求権として主張する場合として、これまで乙と廃タイヤの処理について交渉をしていたのであれば、紛争管理者としての資格があるとかそういう主張があった気がします。」



「その主張は、豊前火力発電所差止事件(最判昭和60年12月20日判タ586号64頁)で否定されているね。」


「第三者の請求権を主張する場合、会員の請求権であれば、団体を『共同の利益を有する多数の者』ととらえて、選定当事者(民訴30条)や任意的訴訟担当を使うことになります*11。」


「ただ、そこでいう『請求権』の内容が問題よね。カタクリの群生地の土地を会員が所有していればまた別だけど、単なる『地域住民』だとすると、どういう主張になるかしら。」


「人格権が侵害されていれば、撤去請求もできそうですが、難しそうですね。」



「ここは、いわゆる環境権の考え方とも関係してくるかもね。環境破壊により生命や健康に直接影響が生じれば、人格権で差し止めができる。でも、そこまでいかないと何も言えないのかということで、『人格権の防波堤』*12として、環境負荷発生により生活環境や自然環境に影響を及ぼせば、その段階で差止等を認めて行こう*13、そして、環境権侵害があれば受忍限度を問う事なく直ちに違法と判断してもらおう*14という発想から出て来た訳だよね。」


「確か、環境権は、憲法25条により認められることを政府も認めていると聞いたことがあります*15。」


「環境権は、文脈によって意味が違うから注意が必要よ。」注意するほむら先生。


「立法政策において、国民がより良い環境を享受し得る権利を最大限尊重していこうという点では、多くの賛同を得ていると言えるでしょうが、今回問題となっているのは、そのような場面ではなく、撤去請求等の根拠としての私権としての場面があります。このような意味では、『良き環境を享受し、支配し得る権利』*16等が提唱されていますが、立法措置がないままこれを差止や撤去等の根拠としては認められないと解されています*17。」


「確かに、環境権を支配権と捉えてしまうと、誰が支配できるのかって問題が生じるよね。この事案では、比較的利害関係の調整が簡単かもしれないけど、施設の建設とかでは、賛成派、反対派、一部賛成一部反対の人等がいるはずで、提訴した人に支配権があって利害調整の主体になれると考えてしまうと、提訴していない人の立場はどうなるのって、問題があるよね*18。」


「確か、景観利益のような法的に保護される利益では、差止等はできないと解されているようですから*19、美しいカタクリの群落を享受する利益が法的に保護されるといっても、せいぜい事後的損害賠償の問題に過ぎないかもしれませんね。」


「環境権論の主張のうち、周縁的部分は裁判例や立法で認められている*20けれども、なかなか私権としての構成は難しく、むしろ公法上の問題として、特に参加権としての環境権が注目されているわね*21。また、立法論としては、自然公園法に関して環境NPOに権限を認め、団体訴訟を認める制度設計等も議論されているわ*22。」


その後、みんなで、富士山の自然を満喫したのだった。

まとめ
1年分を2回でまとめると、1回分の量がどうしても多くなってしまうのですが、なんとか、21年は2回でまとめることができました。前編、中編がほぼ終わり、後は後編に突入します。最後までおつきあい頂ければ幸いです。

*1:北村548頁

*2:北村554頁

*3:北村549頁

*4:北村548頁

*5:厚生省生活局水道環境部環境整備課長「野積みされた使用済みタイヤの適正処理について」(平成12年7月24日衛環65号)

*6:「特別地域内で特に厳重に景観の維持を図る必要のある地区」。自然公園法21条1項とそれに基づく公園計画作成要領参照

*7:命令を出せるのが、別に許可条件違反の場合だけではないことについては、北村33頁参照

*8:北村557頁

*9:北村580頁

*10:最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁

*11:なお、カタクリを原告にすることについては、北村248頁参照

*12:Basic41頁

*13:北村49頁の図が分かりやすい

*14:Basic41頁

*15:Basic44頁。なお、第126回国会参議院予算委員会会議録6号(平成7年3月22日)19頁内閣法制局長官答弁参照

*16:大阪弁護士会環境法研究会「環境権」21頁以下

*17:なお、『将来世代からの信託に基づいて自然破壊を排除する権利』(自然享有権)については、北村51頁参照

*18:この点に関し、北村50頁「客観的にみれば、環境権の主張の根底には『みんなも自分と同じように考えるはずだ』という独善的な発想がある」とする。

*19:最判平成18年3月30日判タ1209号87頁、北村220頁。ただし、反対論としてBasic43頁参照

*20:Basic41頁

*21:Basic40頁

*22:行政の権限行使に関する文脈だが、北村247頁