アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

民訴ガール第2話 みんなで法に触れてみよう! 〜平成18年その2

重点講義 民事訴訟法 下  第2版

重点講義 民事訴訟法 下 第2版


「みんなで法に触れてみよう!」


大きな文字で書かれた横断幕が体育館にたなびく。


ここは、星海学園中等部。みんそ部の初仕事は、「法教育」ということで、系列の中学校で、模擬裁判の実演をすることになった。つい先日衣替えを終えたばかりの淡い色の制服を身にまとった女子中学生が、広い体育館にずらっと並ぶ姿は壮観である。おっと、じろじろ見ていると、僕が法に触れてしまう*1


模擬裁判の事案は、保証人が債権者に対して求めた請求異議訴訟。保証人側を志保ちゃんが、債権者側を律子ちゃんが担当し、訴訟指揮は僕が行う。最後は、どちらの議論が説得的か、聴衆の中学生に判決を決めてもらうという筋書きだ。

1. Xは,Yに対して3600万円の保証債務の履行を求める訴えを提起した後,Bに対しても 売買代金合計3600万円の支払を求める訴えを提起した。なお,XB間の訴訟の口頭弁論は, XY間の訴訟の口頭弁論とは併合されなかった。
2. Yは,上記保証債務履行請求訴訟の訴状及び呼出状の送達を受けたが,この件は主債務者であるBが適切に処理してくれるものと信じて,答弁書を提出せず,また,口頭弁論期日にも出頭しなかった。その結果,この訴訟の口頭弁論は平成17年12月20日にY欠席のまま終結 し,平成18年1月10日,Y敗訴の判決書がYに送達され,2週間後にこの判決が確定した。Yはその後,Xやその代理人からは何らの通知や連絡も受けていない。
3. 平成18年5月中旬,Yは,Bから連絡を受けて,上記1のXB間の売買代金請求訴訟の口頭弁論が同年3月下旬に終結し,X敗訴の判決が同年5月10日に確定したことを知った。
4. XB間の訴訟の判決理由によれば,裁判所は,売買代金債権合計3600万円のうち,(1)第1回分の500万円については,Bが平成17年9月21日に当該債権の二重譲受人である Zに弁済したこと,(2)第4回分の400万円については,Bが同年10月19日に商品の瑕 疵を理由に売買契約を解除したこと,(3)第2回分の1200万円及び第3回分の1500万円については,Bが平成18年2月10日に商品の瑕疵を理由にそれぞれ各売買契約を解除したことを根拠として,Xの請求をすべて棄却していた。
5. L弁護士は,Yから,XB間の訴訟でBが勝訴したことを理由に,Xからの強制執行を免れる方法はないかと相談を受けた。L弁護士の事務所で実務修習中の司法修習生M(以下「M修習生」という。)は,この相談に立ち会った後,L弁護士と以下のような会話をした。
L弁護士: Mさん,さっき相談があった件で,Xからの強制執行を免れるためにはどのような手続を採ればよいですかね。

M修習生: Xに対して請求異議の訴えを提起する方法が考えられます。ただ,本件では異議の理由が立たないような気がします。

L弁護士: そんなに簡単にあきらめないで,いろいろな考え方があるのだから,本件で強制執行を免れることができるとする結論を導くための理由として,どのような考え方を根 拠とする主張が有り得るかについて検討してみてください。それから,請求異議訴訟でそのような主張をしたとき,Xはどのような考え方に基 づいて反論をしてくるかを予想し,これに対する再反論ができるかどうかを検討して報告してください。
〔設問4〕 あなたがM修習生であるとして,L弁護士が指示した前記事項について,検討の結果 を述べなさい。ただし,XY間及びXB間の各判決の適否や妥当性については,検討の対象としないこと。


「今日は、請求異議というちょっと特殊な手続についての模擬裁判を見て頂きます。簡単に言うと、債権者が保証人に勝訴したので、強制執行で取り立てようという事案です。でも、保証人は、納得がいっていません。それは、保証人が敗訴した後、債務者が債権者に勝訴したからです。みなさんは、民法保証債務の附従性というのを勉強しましたか?」


は〜い!


壇の下から、元気な声が返って来る。大成功を収めた司法改革によって、国民、特に若い世代の司法への理解は格段に向上している。


「保証債務の附従性により、主債務がなくなったら保証人も支払う必要がないはずであり、保証人としては、主債務がないのに、なぜ払わないといけないのかという不満を持っています。でも、『3600万円を払え』という判決書があることも事実です。そこで、法律上は任意的なのですが(民事執行法4条)口頭弁論が行われたということを想定して、高等部のみんそ部所属のお二人に、二人に熱い弁論を交わして頂きましょう。」



「みんそ部の志保です。今日は、保証人の立場で立論させていただきます。実体法上、保証債務は主債務に附従するところ、主債務者の勝訴判決により主債務が消滅したことが確定しているのですから、保証人であるYとの関係でも保証債務は存在しないはずです。」


 長身を生かして、本物の弁護士のように堂々と弁論する志保ちゃん。


「これは、当事者間に既判力の拘束のあることが、当事者と実体法上特殊な関係、すなわち従属関係ないし依存関係にある第三者に、反射的に有利または不利な影響を及ぼすという、いわゆる反射効の議論ですね*2。」


裁判官席から、志保ちゃんに確認する。


「そのとおりです。最判昭和51年10月21日民集30巻9号903頁は『一般に保証人が、債権者からの保証債務履行請求訴訟において、主債務者勝訴の確定判決を援用することにより保証人勝訴の判決を導きうると解せられるにしても』としています。」



「私は律子です。この判決は、反射効を認めるかのように読める部分を残しつつ、結論としては本件に近い事案における請求異議を棄却しています*3最高裁は、反射効がたとえ認められるとしても、既に存在する保証人と債務者の間の判決の方が優先するという立場といってよいでしょう*4。」


重点講義を熟読して準備を重ねただけあって、律子ちゃんも反論に余念がない。


「今の二人の議論について壇上から、一言解説しましょう。中学生のみなさんは、今、『実体法』である民法を学んでいます。でも、全ての事件が実体法どおりに解決されるとは限りません。例えば、民事訴訟では、証明責任といって、原告が請求を立てたならば、それを基礎付ける証拠を提出しないといけません。そこで、『実体法』上、権利があっても、証拠が不足しているために、『訴訟法』上は、権利が認められないということがありえます。附従性というのは実体法上の問題ですが、訴訟法上の結果は必ずしも実体法と同じになる必要はなく、訴訟追行の結果を反映して異なる結果になることを妨げるものではないとも言われています *5最高裁が、この事例と似た事案で保証人の主張を否定したのも、この、『実体法と手続法の乖離』という点の表れともいえるでしょう。」


「律子さんが指摘するように、昭和51年最判は、保証人の側から立論する上で、不利であることは事実です。私たち法律家にとって、不利な判例がある時は、その判決を批判することと、その判決の射程外であると主張するという2つの方法があります。この判例に対する批判をするとすれば、求償を考えた場合の座り心地の悪さでしょう*6。すなわち、実体法上、保証人が債権者に支払えば、保証人は債務者に対して求償する訳です(民法459条1項)。これに対し、債務者は債権者に対して不当利得返還請求でもするのでしょうか? まさに、求償の循環が生じるというところであり、大きな問題です。」


志保ちゃんの法律に取り組む姿勢は、実務家並みだ。


「ここは、実体法的に、求償の循環を否定する解釈を取ればいいのではないでしょうか*7。例えば、債務者が勝訴した段階で債務は既に消滅しており、保証人の行為は、民法459条1項にいう『主たる債務者に代わって』弁済したとは言えない等の解釈を取ればいいだけのことです。」


律子ちゃんも反射神経鋭く反論する。


「議論も煮詰まったところですから、次の議論に行きましょう。その前に一言、基準時の問題を解説しておきましょう。」


議論が一段落したところで、前提問題の解説に入る。


「一度裁判をして勝ち、それが確定した後になってから、『判決で認められた債務は実は存在しないことを確認して下さい!』といった訴訟を起こされて、また債権の存在について争わなくなるといけないのであれば、最初の裁判に費やした努力が全部無駄になってしまいますね。そこで、判決が確定すると、もはやその主文で判断された事項、今回であれば、保証人は3600万円を払わないといけないということですが、その点に既判力という効力が生じます。でも、この効力は、まさに、これまでお互い頑張って訴訟を行った結果なのだから、その結果に責任を負いなさい(手続保障と自己責任)ということで認められている訳です*8。問題は、どの範囲の事実について争えなくなるかという事ですね。例えば、その訴訟の後で起こった事柄はどうでしょうか? つまり、『基準時』といわれる、裁判で最後に事実についての主張と証拠を提出できる時点(事実審の口頭弁論終結時、民事執行法35条2項参照)以降の新たな事情については、前の裁判でそれを前提に判断を受けることができなかったのだから、次の裁判で争っていい、これが、いわゆる『基準時』の問題です。」


「少なくとも2700万円については、保証人と債権者の間の訴訟の口頭弁論終結後に行われた解除を理由として債務者が勝訴したのであって、口頭弁論終結後の新事由として、保証人は援用可能です。」


志保ちゃんが主張を始める。


「でも、商品の瑕疵という解除原因は口頭弁論終結前に、既に発生していました。通説は、基準時前にいつでも解除権行使ができた以上、解除の効果の主張は既判力により遮断されるとしています*9。」


律子ちゃんも強力な反論をする。


「解除権は買主である債務者のみが持っていることを軽視してはいけないのではないでしょうか。通説が解除の主張を既判力で遮断する理由は、自らが解除権者であるにもかかわらず、基準時前に解除をせずに、基準時後に解除することが信義に反するという趣旨と解されます。解除したくても自らは解除することができない保証人について、基準時後の解除を主張することを否定すべきではないでしょう。」


観衆の中学生から、どよめきの声が上がる。


「で、でも、仮にその議論が通るとしても、それは2700万円だけ、つまり、900万円については、弁済や解除は、基準時前だから、請求異議の理由はないはずです。」


律子ちゃんが、絞り出すような声を出す。


「3600万円全部について、別の『基準後の新事情』もあります。つまり、実体法学者の多数説は、主債務者の勝訴判決が確定すると主債務が自然債務になる、つまり、基準時後に債務の性質が変わると解しているのです。これもまた、基準時後の事情と言えます *10。」


「保証人側の勝利だと思う方は拍手!」


そう僕が言うと、会場から、拍手の渦が湧き上がる。一人、また一人と立ち上がり、スタンディングオベーションだ。


保証人の勝利!


本当の裁判官は使っていないが、小道具として持って来た、「木槌」を打ち鳴らして、志保ちゃんの勝利を宣告する。


「今回、保証人が最終的に勝ったとしても、大変な請求異議訴訟をしなければならなかったのは、訴状を受け取ったのに、『主債務者が適切にやってくれるだろう』と思って何もしなかったからです。みなさんも、訴状を受け取ったら、弁護士に相談しましょう!」


こう締めると、満場の中学生から、また拍手が起こった。少なくとも多くの中学生に「法に触れてもらう」という模擬裁判の目的は達成できたようだ。

*1:例えば、東京都迷惑防止条例5条1項3号が「人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること」を禁止しているところ、類似する北海道迷惑防止条例に関する最判平成20年11月10日は、「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作」であればこれにあたるとして、ズボンの上から臀部を撮影することもこれにあたるとして処罰をしていることに留意が必要である。

*2:重点講義上748頁

*3:重点講義上764頁

*4:前同

*5:伊藤・加藤・山本「民事訴訟法の論争」(以下「論争」)89頁。ちなみに、同書に関する書評は、笠井先生のもの(http://www.yuhikaku.co.jp/review/detail/23)が有名だが、個人的にはこれ(http://ameblo.jp/tower-of-babel/entry-10054590587.html)が一番好きである。

*6:重点講義上765頁参照

*7:三木・笠井・垣内・菱田「民事訴訟法(リーガルクエスト)」(以下「リーガルクエスト」)454頁、なお、論争91頁も参照。

*8:リーガルクエスト412〜413頁

*9:伊藤512頁

*10:論争94〜95頁、なお、これは、『実体法』の学者の見解であり、『民事訴訟法学』においてこのような見解を取る学者は、山本和彦先生ほか一部に留まることには十分に留意が必要であろう。