アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

法務のノウハウ

法務のノウハウ 

法務の技法

法務の技法

 

 

1 はじめに

 法律をある程度学んだ人が企業法務パーソンとして働き始めた時(典型はインハウスだがそれに限られない)、一番戸惑うのは、法律や契約の話とは全く違う次元の、仕事を円滑に進めていく上での「法務のノウハウ」である。目の前には現場の人がいる。この現場の人をどう説得するか。本には書いていない。一番参考になるのは、芦原一郎『法務の技法(初版)』(同シリーズ全体ではなく、本書のみ。)だが、限界もある。法務部門がいて先輩がいればOJTの中で教えてもらえるだろう。ただ、一人法務が大変そうなのは、こういう「ノウハウ」を教えてくれる先輩がいない可能性が高いことである。法律の話は本を読めば書いているが「目の前にいる現場の人を説得する方法」はなかなか分からない。

 

 以下、私の限られた経験を少し共有したい。

 

2 どのように目の前の現場の人を説得するか

 法務の観点から行うべき改善策や是正策があるとする。しかし、目の前に現場の人がいて、不満そうな表情を浮かべている。

 そもそも、現場でその改善策や是正策を実施するのは現場の人であって、法務ではない。法務の人が製造部門や営業部門に行って改善策や是正策を実施するなんて夢物語である。

 

 そうすると、現場の人に100%納得してもらうのは無理としても、最低限改善策や是正策を遵守してもらわなければならない。

 

(1)「ついで思考」

 コンプライアンス上必要な事項を実施しようとしない現場に対して前向きに対応させる上で、「(必ずやらないといけない)XのついでにYもやりましょう」と言うと、Yをやりたくない理由をひねり出していた現場が、「ついでなら」やってくれることが多い。

 今だと、各雛形の民法改正対応の際に、様々な「これまでどこかで雛形に挿入したかったが、なかなか挿入できなかった条項」を雛形に押し込むという方法があるだろう。

 

(2)「一応のプロセス」論

 例えば、相手方がいる案件で、現場が「相手方が絶対に飲まないからダメ」という場合、「一応プロセスだけでも経させてください、実際に相手がノーと言ったら後はビジネス判断ということで」とお願いすると、現場が相手に是正を求めてくれ易くなる。 

 この、「一応のプロセス」論でお願いした場合、最終的にやはり相手が飲まないので、ビジネス判断でリスクをとると言う案件もあるが、法務として合理的なポイントを突いている場合、結構相手も柔軟に対応してくれたりするので、有益な方法。

 ただし、「一応のプロセス」論は、基本的に、現場に対し「プロセスを経てダメだったら現場のビジネス判断でこれ以上の是正をしないことを法務として是認します」と言っているのと同じことになる以上、法務として「何が何でもノー」の案件(あまりない)では使ってはならない。

 

(3)「ダメ元」論

似たやり方として「ダメ元」論があり、「相手が強く反対したら、最後は諦めざるを得ないかもしれませんが、まずはダメ元で提案してみましょう」として、法務的に望ましい(が、現場としては厳しすぎるのではないかという印象を持つ)提案を会社の提案とすることを了承してもらう。

 

(4)「柔軟な方法」論

「(法務的に)望ましい姿」を実現するには様々な方法があるのであって、「●●という趣旨が実現される限りにおいて、現場の実情にあわせて柔軟な実現方法の相談に応じさせていただく」旨を徹底することで「できない/無理」を回避すべき。

 

 

(5)「是正の合理的時間」論

 流石に「今日から直せ!」と言われれば反発が大きいが、「では、これから一緒に書式を検討し、書式を今月末くらいまでに完成させ、来月から一緒に新書式でやりましょう」等、合理的な時間的配慮をすることで、現場の理解を得やすくなる。

 

 もちろん、「是正の合理的時間」論というのは、どのくらいの期間が「合理的」かによる。本当に重大な違法なら、即刻是正しなければならない、しかも、過去分も含めて是正しなければならない場合だってあるのであって、その意味では、例えば1ヶ月後等の「将来対応で問題がない」と言える程度のリスクに限定されることには留意が必要。

 

(6)「改善計画」論

「今回は現場でリスクを取るということで了とするものの、将来的な改善が必要なので、改善計画を立ててくださいね」とお願いするもの。今回は現場の意向を尊重することと「引き換え」にすることで、現場が将来の是正をし易くする。

 

(7)「次の改訂時期に是正」論

これと類似したものに「次の改訂時期に是正」論もある。例えば、一定期間で定期的に改訂されるものについて、その定期的な改訂予定を崩してまで今すぐに変えるということには反発があり得るところであるが、次の改訂時期まで待つことで現場が将来の是正をし易くするというもの。

 

3 どのように「ノー」というか

 法務パーソンにとって、「ノー」というべき場合がある。確かに「保守的にいうとやらない方が」とだけ言いつづけるのはある意味リスクを取らなくて済む。ただ、「ノー」ばかり言っていると「法務に相談に行くとダメ出しされてなんの意味もない」となってしまうので、「ノー」を言うべき場合は、きちんと考えた後でなければならないだろうし、その「言い方」にもコツがある。以下は「言い方」を考える上で参考になりそうなものを少し集めてみた。

 

(1)「気持ちとしては寄り添いたい」論

 コンプライアンス的に難しい事案について、最初から「何やっているの? ダメでしょう」という態度をとれば、現場から反発される。現場として実践している実務というのは、コンプライアンス的には疑問があっても、それはそれなりに理由がある。

 

 だからこそ、頭ごなしに否定するのではなく、「気持ちとしては寄り添いたい」と、まずはできるだけ現場を尊重し、現場に寄り添う意思があることをアピールする。「法務には現場に寄り添う気がない」と思われると、現場から相談がされなくなり、コンプライアンス上問題が生じる。

 

 

(2)「(寄り添いたいのに)是正をお願いしなければならない理由」

 とはいえ、結局は「ノー」という以上、「(寄り添いたいのに)是正をお願いしなければならない理由」を柔軟に使いこなす必要がある。
・経営陣からこの点のコンプライアンスの徹底を指示された
・監査(監査法人・内部監査・監査役等)の指摘事項
・顧問弁護士に指示された
・行政・業界団体からのガイドライン・指導等がある
等々。

 

(3)「ロジックを組むためのピースが足りない」論

まずは、「寄り添いたいので、最大限有利なロジックを組むため尽力します!」と宣言する。その上で、当該ロジックに必要な「ピース」として、Aという事実関係やBという事実関係があれば有利に組めるのだが、そういう事実関係はありますかと聞く方法である。

 

「ロジックを組むためのピースが足りない」論というのは要するに、結論としてダメという場合にプロセスとして法務は最大限有利な判断ができるよう頑張っているところ、求めている事実関係があるならOKといえるんだけどどうですか、という努力する姿を現場に見せるということ。

 

とはいえ、「ロジックを組むためのピースが足りない」論はある意味では「やってる『感』を出す」ノウハウの1つなので、この方法は多用してはならず、あくまでも、様々な方法と併用すべきである。(やりすぎると、現場に「どうせポーズでしょ?」と思われ、信頼をなくす。) 

 

4 おわりに

 これらは、私が法務パーソンとして実践しているノウハウの一端であるが、私はまだまだ「若手」法務パーソンであるので、入門編のノウハウしか公表できない。法務の先輩の皆様に、補足・追記等をお願いしたい。

 

 なお、私のツイッターアカウントの @ahowota では #新人法務パーソンへ というタグで、このような内容の投稿を行なっているので、ご興味のある方は、ツイッターで #新人法務パーソンへ タグをご検索頂きたい。