- 作者: 森田修
- 出版社/メーカー: 商事法務
- 発売日: 2005/06/01
- メディア: 単行本
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この本の特徴は、日本の民法の常識を覆すことである。
例えば、Aがパン屋を始める。この時、BがAに初期費用を融資したとしよう。この時Bを「初期融資者」という。その後、CがAに運転資金を貸したとする。
さて、お約束であるが、Aが倒産状態に陥った。この場合、日本民法の常識は「Bが担保を先に取っていればBがCに優先するが、Cが先に担保を取っていればCが優先する。BC両者が担保を取っていなければ、最終的には按分で弁済される」ということになる。
ところが、この本が描き出すアメリカ倒産担保法では、この常識が通用しない。この本が最後に紹介するSchwartzの議論によれば、「Bは担保権を持たなくとも常に*1Cに優先する」という考え方が示されているのである。このように最初に(多くの場合巨額・長期の)融資をする者(financer)が、優先的に弁済を受ける法理を「初期融資者の優越」の法理(Financer Dominance)と言い、この考え方がアメリカ倒産担保法の基本的な考え方となっていることを紹介してくれる。
なぜ、B(初期融資者)が優遇されるのか? それは、BがAの経営実態を把握しているという点にある。
(初期融資者)は、債務者の日々の事業の体調を知悉しており、倒産の最初の兆候を見逃さない。(中略)
(初期融資者)は、その私益に基づいて、次のいずれの介入をするかの判断を期待される。まだ債務者の事業に希望があるならば彼は他の債権者と協力して、救済融資を行うべきである。しかしもはや債務者の事業に回復の見込みがないのならば、融資を終了させるべきである。
(中略)
(初期融資者)は、債務者の事業に相当つぎ込んでいるプロであるがゆえにこそ、(中略)
(その他の債権者)のためのpolicemanとして働いてくれることになる。
森田修「アメリカ倒産担保法」p44
つまり、初期融資者は債務者の経営状態を把握して、債務者の倒産の兆候についてモニターを続ける。このモニターは、コストもかかるし、専門的知識もいる。このモニター役を初期融資者に(私益に基づきながら、実際には総債権者のために)行なわせる代わりに、初期融資者を優遇したのである。
その上で、日本の最近の改正法で、動産についても公示制度ができたことについて、批判的検討が行われている。
米国と日本では状況が違うので、法原理が異なるのは当然である。しかし、担保権者優越を常識と考えてきた私にとっては、かなり新鮮な議論の紹介であった。その他の部分についても、多少実務的過ぎる所があり、この近辺は、割愛しても十分だとおもったところがあったものの、それ以外については、法と経済学的観点の分析、日米を比較しての分析等があり、興味深かった。また、アメリカ法の検討を日本の制度の検討にまでつなげているところが心憎い。
まとめ
外国には、日本の常識と大きく外れる制度がある。
この制度の妥当性をつぶさに観察することが、逆に日本の制度の妥当性についても影響を与えることがある。
「背景が違うから」と言って一歩退くのではなく、日本の制度の再検討に利用できないかという視点は重要であろう。
*1:実は、5%位の範囲ではCに優先権を与えるといった議論があるが割愛