- 作者: 田子忠雄
- 出版社/メーカー: 青蛙房
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: 単行本
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落語の世界の事件を、検事が解決するとどうなるか。元最高検検事の作者が、バッタバッタ処理していく。
時そば、らくだ、三軒長屋、居残り佐平次、酢豆腐、唐茄子屋政談等、あまり落語を知らない人でもどこかで聞いたことのある有名落語を中心に、発生した事件について、起訴状、論告、被疑者調書、参考人調書、被告人質問、論告、不起訴裁定書等々を使ってどのように処理していくかを記している。
刑事法に興味を持っている人にとっては、「検事」がどういう考え方で事件処理をしているのかが、この本から透けて見えて非常に面白いことだろう。不起訴裁定書が多いのは、起訴便宜主義(刑訴248条)の表れであり、悪いことをやった人でも、同情すべき理由からの犯行については、ほとんど起訴猶予にしてあげている。起訴した場合も厳罰が少ないのは、落語の登場人物が悪い奴でもどこか「憎めない」ところがあるからだろう。
また、被告人質問における検事と被告人の掛け合い(?)に裁判所が介入しているところ辺りは、裁判所の訴訟指揮権(規則208条等)がよく出ている。
「刑事法入門」「検察の仕事入門」としても優秀な作品である。
突込みどころとしては、現在の刑法を使っている(姦通罪を刑の廃止で不起訴とする等)のに、1件*1を除いては時効により不起訴という裁定がないことであろうか。
また、警察(岡っ引き!?)が相当頭が悪いのも突っ込みどころであろうか。汲みたてという落語において、好意を持っている三味線の女師匠が、恋人と舟遊びをすると聞いて、それを妨害したという事件が発生した。この事件は、検察庁に「業務妨害罪」で送致されてきた。予想通り、舟遊びは「業務」ではないから罪とならずという不起訴裁定書とあいなったが、いくらなんでも、こういう事件を業務妨害で送検する警察官はいないだろう。
これらの点を除けば、非常に優れた作品といえる。
まとめ
この本から透けて見えるのは、検事の中には、自分の好きなものを法律を使ってネタにするのが好きな人が少なからずいるということである。この本の作者はその「好きなもの」が落語だったわけである。
この元検事のような人がたくさん検察庁にいるのであれば、検察官になるのも面白そうだ。
この本を読んで、涼宮ハルヒの判決 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常のようなことをしているronnorは検察庁にシンパシーを感じた。