マリア様がみてる 5 ウァレンティーヌスの贈り物〈前編〉 (コバルト文庫)
- 作者: 今野緒雪,ひびき玲音
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2000/03/03
- メディア: 文庫
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本日は私のような非モテにとって一年で一番辛い日、つまりバレンタインデーである。
先月情報法面白文献10選をやって意外な人気を博したので、それに味を占めて、バレンタイン判例を独断と偏見で10個選定したい。
情報法関連オススメ海外文献10選+おまけ(by 独断と偏見) - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
まず第10位はドジッ子社員事件です。ドジッ子は二次元では可愛いが、三次元では、という事案ですね。
被服店の契約社員が雇止めが違法として仮処分を求めた事案で、依頼を受けてバレンタインギフトの財布にチョコを同封したが、チョコレートが溶けた等のクレームを短期間に複数件発生させていること等から更新拒絶は可能とした事案(大阪地決平成14年12月13日労判844号18頁)
9位は、三倍返しならず、1万倍返しの事案です。ここまでくると意思能力が否定されるのもやむを得ないですね。
バレンタインデーにチョコレートをくれたケースワーカーの女性にジャガー(外車)を買いたいと発言する等の行動から、養子縁組当時意思能力がなかったとして、養子縁組を無効とした事案(名古屋家審平成21年11月20日)
8位は、婚姻関係の破壊有無の認定において、バレンタインデーが関係した事案です。この事案の面白いところは、離婚届を持ってきたらもう破壊されているだろうと思うかもしれませんが、「離婚届を渡すシチュエーション」がバレンタインデーのお返しと一緒だったので、婚姻関係の破壊が否定されたということですね。
原告の夫がバレンタインデーのお返しとともに離婚届を持ってきたとしても、当時原告は離婚といわれる理由が分からずそれを真剣に受止めておらず、被告が原告の夫との交際を始めた際婚姻関係は破綻していないとして、被告に慰謝料支払いを命じた事案(東京地判平成17年9月30日)
第5位〜第7位はまとめて同じような傾向の判例です。セクハラ加害者が「バレンタインにプレゼントをもらっているからセクハラじゃない!」と主張した事案です。残念ながら、この主張は全て否定されているようですので、本日(仕事・学校なら昨日?)バレンタインチョコをもらった相手から、後でセクハラと訴えられる可能性に留意が必要です。
セクハラを受けているはずの相手に対し、バレンタインデーに「いつも2人の愛をたくさん頂いています。ありがとうございます。愛を表現するバレンタインはとても美しいと思いました。」等と記載したカードを送ったが、宗教的権威である相手に絶対的に従順であるように教えられていた前提の下では矛盾しないと判断した事案(東京地判平成26年5月27日)
セクハラを疑われ懲戒免職になった従業員につき、バレンタインにハートマーク付きで「大好き」と記載されたチョコをもらったので相思相愛だと誤解した等の弁解は疑問だとしたものの、約2年後に懲戒解雇するのは時機を失しているとして、解雇を無効とした事案(東京地判平成24年3月27日)
教員のセクハラにつき、教員はバレンタインチョコをもらったとの抗弁を出したが、生徒が教師にバレンタインデーにチョコレートを届けるのは社会的儀礼の範囲内にとどまるものといえセクハラを受けていなかったとはいえないとして慰謝料を認めた事案(大阪地判平成20年5月20日)
第四位は、バレンタインのせいでワインがめちゃくちゃになったこの事件ですね。ワイン好きも非モテと連帯してバレンタイン廃止運動に加わるべきでしょう。
14度でワインを保管するという寄託契約において、被告がバレンタインの時期だけチョコレートをワインセラーで保管し、そのために10度位まで温度を下げた可能性があると認定した上で、その状況が被告から原告に明示されていたとすれば、わざわざ料金を支払って本件ワインセラーの利用をすることはないといえ、定温・低湿義務違反があったとした事案(札幌地判平成24年6月7日判タ1382号200頁)
ここで、第三位に入る前に、1つの事件を紹介しましょう。木谷明先生が朝日新聞のインタビューでこのように語っています。
「私が扱った事件で、うつ病にかかった母親が3人の子を殺した上で自分も自殺しようとしたことがありました。捜査段階の鑑定では『うつ病はそれほど重くなく、限定的な責任能力がある』とされていました。ところが、裁判所が鑑定を命じた鑑定人は『うつ病は相当重く、責任能力はない』という趣旨の鑑定書を提出。私は後者の鑑定の方が説得力があると思い、無罪に傾きました。それを感じた検事が、再鑑定を請求してきます。却下してもまたしつこく請求します」
「最後に論告で『懲役13年』を求刑した揚げ句、『再鑑定をしないまま無罪判決をしたら審理不尽になる』とまで声高に叫びました。これは、『再鑑定しないまま無罪にしたら控訴するぞ。そうしたら、お前の無罪判決などすぐ吹き飛んでしまうぞ』という意味の恫喝(どうかつ)です。結局、無罪判決をしましたが、検事は控訴できず、無罪が確定しました」
http://d.hatena.ne.jp/yumyum2/20121108/p1
検察による裁判のコントロールの実態がよく分かる事案なのですが、なんと、この事件もバレンタイン事件なのです。
内因性うつ病に罹患した母親が、バレンタインデーのためのチョコレートを作っていた2人の娘に対し、風邪薬と偽って睡眠導入剤を飲ませ、同人らを寝つかせた後殺害した後自殺を図った事案で、心神喪失による無罪を言い渡した事例(浦和地判平成元年8月23日判タ717号225頁)
一見関係なさそうな事件も実はバレンタインに関係していることがあるのですね。
さて、第三位は、女心の難しさにより一審と控訴審の判断が分かれた事案です。なぜバレンタインチョコレートを渡すのか(=なぜ私がもらえないのか)については、更に深い女性心理の考察が必要なようです。
教員による女子中学生に対する準強制わいせつがあったとされる半月後のバレンタインデーに、被害者が手作りチョコレートを渡している等として無罪とした一審判決(静岡地浜松支判平成22年5月24日)を破棄し、被告人の行為を拒み難い心情やぬいぐるみ等を買ってもらった事への返礼あるいは社交辞令的なものとも理解できる点を踏まえて考察すると必ずしも不自然ではないとして有罪とした事案(東京高判平成23年1月13日)
第二位は、教員が女子中学生からバレンタインチョコをもらうと服務規律違反と明示してくれ、非モテに「服務規律違反だから僕はチョコをもらってないんだ」という言い訳を与えてくれたこの事件ですね。
中学校の教師が生徒からバレンタインチョコレートを受領した行為及び当該生徒に対して返礼としてチョコレートを贈った行為並びにハロウィンに菓子を配った行為は服務規律違反であるが、懲戒解雇は余りに重過ぎるものと言わざるを得ないとして解雇を無効とした事案(東京地判平成23年4月15日)
第一位は、やはり、なんといっても、このリア充少年の事件でしょう。
地裁所長に対する強盗致傷事件の共犯とされる少年につき、彼女がバレンタインプレゼントを渡したので少年にはアリバイがあると証言し、大筋電子メールとも符合しているとしてその証言に信用性を認め、被告人に無罪を言い渡した事案(大阪地判平成18年3月20日判タ1220号265頁)
まとめ
結局バレンタイン判例のナンバーワンは、彼女にバレンタインのプレゼントをもらったことで強盗致傷の犯人から一転、無罪となった少年です。
結局我々非モテの日ではなかったということで。