アホヲタ元法学部生の日常

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正義の戦隊と共謀罪

轟轟戦隊ボウケンジャー VOL.1 [DVD]

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 現在*1共謀罪法案が着々と作成されている。

 共謀罪とは、犯罪の実現を目指し、話合い等により意思を連絡させること(共謀)を罰するものである。
 犯罪は、

動機→共謀(陰謀)→予備→未遂→既遂

 という順番に発展していく。例えば、AとBが甲を殺したいと思い(動機)、殺そうぜと相談し(共謀)、殺すために銃を買い(予備)、甲に銃口向け(未遂)、引き金を打って甲を殺す(既遂)。
 通常の犯罪は、結果(例:人が死ぬ)が発生してはじめて罰せられる(既遂犯)。しかし、重い犯罪については、結果が発生しなくとも、その危険を起こす行為(実行の着手)がなされれば、それで罰せられる(未遂罪、盗むものを探して物色する場合の窃盗未遂等)。そして、重大な犯罪については、未遂罪に至らない、犯罪実行に資する準備行為をした時点で罰せられる(予備罪、殺人のためにナイフを購入する場合の殺人予備等)。更に、極度に危険な犯罪については、予備以前の、複数人が意思を連絡させた段階で罰している(陰謀罪、革命をたくらんで相談した場合の内乱陰謀罪等)。
 現行法上、予備の段階で罰せられる重大犯罪が31、陰謀段階で罰せられる超重大犯罪が8個である*2

 現在、なされている共謀罪の議論というのは、陰謀・共謀段階で処罰する犯罪を一気に100個以上に増やそうというものである。

 この共謀罪を考える上で大切なのは、共謀という初期の段階で処罰可能にすることで、危険な凶悪犯罪を未然に摘発するという共謀罪のメリットと、ただ相談しただけ*3で罰せられることは、これまでの「他人の利益を害するかその危険を発生させないと罰せられない*4」という原則が崩れ、また共謀があったかどうか、あったとして果たして結果につながる程の意思なのか*5は非常にあいまいであることから、罰する必要のない人まで罰せられ、人権を害する可能性があるというデメリットを理解することであろう。

 これまでの国会における共謀罪の議論において、政府は「対象となる集団」と「対象となる犯罪」を限定することで、デメリットを最小化しようとしてきた。
 以下に、2006年5月19日国会提出の与党再修正案を掲げる。

第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、組織的な犯罪集団の活動(組織的な犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が死刑若しくは無期若しくは長期五年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪又は別表第一(第一号を除く。)に掲げる罪を実行することにある団体をいう。)の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該組織的な犯罪集団に帰属するものをいう。)として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、その共謀をした者のいずれかによりその共謀に係る犯罪の実行に必要な準備その他の行為が行われた場合において、当該各号に定める刑に処する。ただし、死刑又は無期若しくは長期五年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪に係るものについては、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減刑し、又は免除する。
一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も 、前項と同様とする。
3 前二項の規定の適用に当たっては、思想及び良心の自由並びに結社の自由その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限するようなことがあってはならず、かつ、労働組合その他の団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない。

 要するに、単に共謀するだけではなく「組織的な犯罪集団(団体のうち、殺人、銃刀法違反、強盗等の重い犯罪を行うことを目的とする団体)の活動」として行う場合に限定し、共謀罪の対象となる犯罪も「長期4年以上の懲役」の定められている犯罪に限定することで、「飲み屋で上司にいやがらせをしようと話し合う」「労働組合が、争議行為の手段として暴行もしょうがないと相談する」といった場合を共謀罪の対象外にし、デメリットを最小化しようとしてるのである。
 さらに、2007年通常国会提出予定の修正案では、

犯罪の実行行為がなくても謀議に加わるだけで処罰可能な「共謀罪」を新設する組織犯罪処罰法などの改正案について、自民党法務部会の「条約刑法検討に関する小委員会」は六日、共謀罪を「テロ・組織犯罪謀議罪」と改名し、当初六百以上を想定していた対象犯罪を四分の一以下に絞り込む方針を大筋で了承した。
 小委員会は「謀議罪」の対象を「テロ犯罪」「薬物犯罪」「銃器犯罪」「密入国・人身取引犯罪」「その他資金源犯罪など」の五つの犯罪類型に分類した上で、組織犯罪防止のために必要かどうかを検討し、百十六―百四十六の罪を列挙。一律に「四年以上」の懲役・禁固に当たる六百以上の罪としていた改正案から大幅に絞り込んだ。今後、対象犯罪について詰めの協議をし、二月中の修正案作成を目指す。
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200702060367.html

 報道によると、過去に提出された法案よりも、対象犯罪をテロ・銃器等の犯罪に絞り込み、その上で、犯罪名も「テロ・組織犯罪謀議罪」とすることで、市民団体や労働組合などが対象外であることを明確化するそうである。

 問題は、このような修正により、人権侵害の危険はなくなったのかである。ここで、考えるべきは


スーパー戦隊の活動である。


 ここでは、2月11日に最終話を迎えた轟轟戦隊ボウケンジャーを例に取ろう*6。あらすじは以下の通りである。

地球に眠る、大いなる力を秘めた古代の秘宝――プレシャス。世界を滅ぼすことも容易いそれらの秘宝を狙う悪は多くいる。民間団体・サージェス財団は、プレシャスを回収し悪の手に渡らないよう保護・管理するための精鋭部隊を結成した。彼らこそ轟轟戦隊ボウケンジャーである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BD%9F%E8%BD%9F%E6%88%A6%E9%9A%8A%E3%83%9C%E3%82%A6%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC参照

 そして、「ゴードム文明」や「ジャリュウ一族」等と戦いながら、ボウケンジャーがプレシャスを手に入れていくという物語である。

 さて、ボウケンジャーという団体の目的は、

他人の占有するないし他人の占有を離れた他人の物(プレシャス)の占有を取得し、これを妨害する者(敵)あらば銃や兵器で暴行を加え、傷害し、または殺すこと*7

 と定義されよう。最低でも占有離脱物横領罪や暴行、最悪の場合*8強盗殺人を目的としている団体なのである。しかも、そのために構成員はサバイバスター・サバイブレード等の銃刀法違反の武器を携帯し、極めつけはダイボウケンという兵器さえ所有している*9

 そう、ボウケンジャー共謀罪の適用される組織的な犯罪集団といわざるを得ないだろう。

 そこで、実際にプレシャスを探すために暴行・脅迫等を行わなくとも、未必的に妨害があれば暴行・脅迫を加えて任務を遂行するという*10意思の連絡の下、ボウケンレッドが

ゴードムの心臓、海水からエネルギーを取り出す超科学システム
ボウケンブラック・ボウケンイエロー、心臓を捜して来い! アタック!
轟轟戦隊ボウケンジャーTask1より

と言い、これに応じて彼らが水中に身を投じた時点*11で、最悪の場合強盗殺人、最低でも強盗罪*12共謀罪が成立するのである。強盗殺人であれば、その共謀罪の刑の重さは「五年以下の懲役又は禁錮である。

 このような処罰は合理的だろうか? 確かに、ボウケンジャーは時々やりすぎることはある。しかし、巨視的に見れば、悪の組織が巨大な力を持つことを未然に防ぐ役割を果たしており、公益に合致する。そこで、やりすぎた場合に個別に処罰すれば足りるのであり、それ以前の共謀段階で5年以下の懲役又は禁固という重い刑を科すことは、不合理といわざるを得ないだろう。

まとめ
自民党が提出しようとしている共謀罪法案修正案の限定方法は、「犯罪集団」の限定方法が甘いため、ボウケンジャー等の共謀まで処罰するという不合理を生じる。
暴力団対策法*13暴力団を「指定」しているがその基準は①暴力団の威力の利用を目的とする集団で、②一定比率以上の犯罪経歴者の存在、③階層構造の要件を要求する厳しいものである。この要件の下であれば、ボウケンブルー以外は犯罪経歴者がいないボウケンジャー共謀罪適用を免れられる。
共謀罪創設が仮に国際組織犯罪防止条約加入に不可欠だとしても、暴対法の基準に近い厳しい犯罪集団の限定方法を用いる*14か、条約5条を留保して加入*15することで、不当な人権侵害を防げるのではないか。獣拳戦隊ゲキレンジャーが、共謀罪での検挙第一号にならないことを心から願う。

付記:もちろん、正義の集団の中には、「科学特捜隊」のように、防衛軍の下部組織として政府のコントロール下に置かれているものもある*16。警察が、「被疑者を制圧し、必要に応じては暴行・射殺をする」集団であったり、自衛隊が「日本に攻め入る敵を殺す」集団であっても、その共謀が合法(違憲かはおいておく)なように、正義の戦隊も国の傘下に下ることで共謀罪の適用を回避できるだろう。しかし、政府のコントロール下に置くと、日本のような民主国では秘密が守れず、「秘密チーム」たる意味がなくなる等の問題もあるので、必ず政府のコントロール下に置くべきともいえないだろう。

関連エントリ:「悪の組織」における男女平等 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:2007.02

*2:http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/060914.pdf

*3:だけという表現は多少オーバー。顕示行為(犯罪実行に資する行為)が必要。

*4:構成要件実現の現実的危険を引き起こすことで処罰される

*5:冗談なのか、本気なのか等

*6:ボウケンジャーは敵を倒すことを主目的としない団体であり、スーパー戦隊のうちで一番共謀罪に該当しにくいことに注意。

*7:「悪の手」がプレシャスに伸びていることを認識しながら、それを排除し、プレシャスを入手せんとしている以上、妨害者を実力で排除することもまた団体の目的とすべきであろう。暴力団が主目的を「道を極める」こととしても、その手段として暴力等を行う以上、暴力等もまた暴力団の目的と解すべきなのと同様。

*8:未必的に

*9:もちろん、ボウケンジャーの行為の中には、正当防衛(刑法36条)や緊急避難(刑法37条)に当たる場合もなくはない。しかし、Task.24でボウケンイエローがダイボウケンでネガティブシンジケート達を踏み潰す等、過剰防衛はおろか、正当防衛にもならない行為(防衛の意思を欠く、ないしは積極的加害意思)があるがほとんどである。また、正当防衛のためであれ、民間人が銃器を狩猟・スポーツ以外の目的で所持することは禁止されている。

*10:黙示の

*11:この場合は受諾の黙示の意思表示と共に顕示行為と取れるでしょう

*12:なお、判例は窃盗をし、被害者の抵抗があれば暴行脅迫もしょうがないと考え、窃盗予備行為を行った者について、(事後)強盗予備罪の成立を認めている。最決昭和54年11月19日刑集33巻7号710頁参照

*13:http://www.houko.com/00/01/H03/077.HTM

*14:団体を限定するのに参加罪ではなく共謀罪というのは5条1項(a)(i)の解釈としてなかなかきついが、1条の目的規定ないし3条を用いて「組織的な犯罪集団」を縮小解釈する等が考えられる

*15:アメリカは5条を留保して加入しているとされる。留保した上で、限定した共謀罪を作って加入すれば、条約の趣旨・目的と両立する留保(条約法条約19条)として認められるのではないか。

*16:パリに本部を置く国際科学警察機構の日本支部で、正式名称は科学特別捜査隊といい、通称「科特隊」とも呼ばれる。英語表記はSSSP(.Science Special Search Party)。一般の警察では手に負えない異変、怪事件の捜査や、他の天体の侵略者からの防衛が主要な任務である。日本では、防衛軍の下部組織として位置付けられている。http://www14.big.or.jp/~hosoya/ttdf/team/sssp.htmより