アホヲタ元法学部生の日常

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ラディカルな考えとの付き合い方

刑事政策講義 (有斐閣ブックス)

刑事政策講義 (有斐閣ブックス)

 刑事政策について簡にして要を得た本。
 藤木刑事政策(刑事政策 (1968年) (Basic university library))も当時の本としては東京都の犯罪発生マップを入れる等、非常に意欲的で内容も面白いが、如何せん、「現代の犯罪」への対処の指針としては、余りにも古典過ぎる。
 この点、本書は、刑事政策の基本問題(刑罰・保安処分論、犯罪者の処遇論・特殊犯罪類型と対策)を押さえながらも、刑事政策の新展開をもまとめており、刑事政策入門としても、刑事政策の面白さを知るための本としても非常に「おいしい」本といえる。

 私が、この本の中で、面白いと思ったのは、フルスマンらが主導するアボリショニズムである。別に奴隷制廃止運動のことではない。日本語に訳せば刑事司法制度廃止主義といったところであろうか。

①刑罰制度は犯罪に対応する手段として唯一最高のものではない、
②犯罪は刑法制度の確立に先立つ特定の範疇や所与のものとして独自に存在するのではなく、刑法制度の結果として出現する、
③犯罪者つまり刑法により犯罪と定義された行為を行う者は、それ自体で他と区別して認識できるような異常な存在ではない、
との視点に立って刑罰制度の実証的機能を批判的に探求することにより、結局刑罰制度そのものの廃止を要求している。
森本益之他著「刑事政策講義」p24

犯罪者に対するあるべき方策を考えていたら、刑罰制度そのものをなくそうという考えに至ったのであるから、これほど興味深い考えはないだろう。
 この学派の学者の中には、「国の刑罰制度をなくし、今「刑罰」とされていたものと地域が向き合うようにする」という考えの人もいるらしい。つまり、現在は、犯罪として国が定義行為をした者を国の機関が裁くというのが基本形だが、今犯罪とされている行為をする人については、地域社会が教育や福祉の一環として対処しようというのである。

 もちろん、私は、この考えを即時日本に取り入れて、現存する刑罰制度を取っ払えというつもりはない。しかし、この考えの一部は現在の日本の現状、特に軽い犯罪を重ねる犯罪者への対処を考える際に大いに参考になるのではないか。
 知り合いのある法曹から聞いた話では、万引きや無銭飲食、賽銭泥棒等は、何度も何度も微罪処分を重ねて、それから刑事処分を受けることになるらしい。微罪処分というのは軽微な犯罪について、刑事手続きを警察段階で終わらせることである。この記録は「前歴」として残るが、検察には送られてこないし、裁判を受けることもない。そこで、検事の元にやってきたり、ましてや起訴されて国選弁護人がつく頃には、前歴4、5件なんていうのはざらで、前歴8件なんていうこともあるそうである。
 私は考える。なんで、こんなにたくさん犯罪を繰り返すに至るまで、警察段階で放って置いたのかと。
 微罪処分は、軽い犯罪について、警察限りで指導等をすることで、刑事政策的意義(一般予防、特別予防)が果たされるからこそ、警察限りの処分が可能となっている制度である。それにも関わらず、同じことを何度も何度も繰り返すというのは、微罪処分が役に立たないことを示している。
 じゃあ、警察に、微罪処分対象者本人を指導、訓戒するのみならず、仕事の斡旋、住居の斡旋、教育訓練といった任務を負わせることができるか*1。そんな役目は、現在の多忙な警察に期待する余地はないだろう。

 そこで、出てくるのが、アボリショニズムのいう、「犯罪者」を地域へという考え方である。微罪処分になるような人について、地域が住居、仕事を斡旋する、教育が必要であれば教育訓練をする。これによって、仕事や住居を与え、生活を安定させることが、最大の特別予防効果を生むはずである。

まとめ
アボリショニズムの考えは一見ラディカルで応用できなそうに見えるが、よく考えてみると、機能不全の微罪処分の代わりの制度を考える際の指針を与える等、非常に意義の多い考え方である。
アボリショニズムのみならず、総じてラディカルな考えについては、毛嫌いする人が少なくないが、一応その考えを理解した上で、応用できるところは実生活に応用する。こういう態度が大切なのではないか。

*1:万引き、無銭飲食、賽銭泥棒等を繰り返す人は、無職、住居不定が非常に多く、字がまともに書けないといった教育が不十分な人も多いそうである