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1.はじめに
いわゆる美少女ゲームにおいては、「ハーレム状態」、即ち1人の男性主人公と多くの女性キャラが同居し、性関係を取り結ぶ状態が頻繁に見られる。
例えば、「夜明け前より瑠璃色な」においては、義妹の麻衣、姉のさやか、「ホームステイ」に来たフィーナ、その付き添い人のミアが朝霧家にて主人公の達哉と同居し、かつ攻略対象となっている*1。
かかるハーレム状態は、一部の男性陣にとっては夢や理想の状態と言えようが、現実は厳しい。高等裁判所は、ハーレム状態を設定する契約は公序良俗違反の違法な契約であり、無効としている。
2.事案と判旨
この裁判例は、東京高裁平成12年2月30日判決*2である。
事案は以下の通りである。
Y女は大学一年生であった平成九年秋、アルバイト先でX1(男)と知り合い親密になった。当時、X1はX2(女)と同棲中であった。YはやがてX1らの同棲するアパートへ外泊するようになり、平成一〇年八月三日、ここでX1X2とともに男一人女二人の同棲生活を開始するに至った。この同居は、平成一一年三月一六日にYがアパートを出るまで継続した。そして、平成十一年三月にYが自宅に戻った後も、Yを連れ戻そうとのX1X2による働きかけは続いた*3。その後、X1X2は、「生活費として各自が一ケ月十六万円ずつを負担しX1に管理させる旨の合意が三人の間で平成一〇年八月五日に成立していた」として、立替えた生活費その他の費用の支払を求めて提訴した。
要するに、ハーレム生活をやめて出ていった女性に対し、男性とまだハーレム生活をしている女性とが、ハーレム契約に基づく支払を求めた事案と言えよう。
この事案について、東京高裁は
X1X2が主張する生活費に関する取決めの性格につき、単なる共同生活における費用の負担ではなく、X1とX2・Yとの聞の性的交渉を前提とした男一人女二人による同棲生活を維持するための費用負担に関する合意と認定し、このような合意は善良な風俗に反し無効である
とした。
3.判決の理由について
公序良俗違反(民法90条)というのはある契約等が社会の一般的秩序または道徳観念に反するとき、すなわち、その社会的妥当性を欠くときに、無効となる(90条)というものである*4。
上記高裁判決は一般論として、「婚姻や内縁といった男女間の共同生活は、本来、相互の愛情と信頼に基づき、相手の人格を尊重することにより形成されるべきものであり、それ故にこそ、その共同生活が人間社会を形づくる基礎的単位として尊重されるのである。法は、このような社会的評価に基づいて、この男女間の共同生活を尊重し擁護している。そして、このような人間相互の愛情と信頼及び人格の尊重は、その本質からして、複数の異性との問に同時に成立しうることはありえない」と述べ、一般論としてハーレム状態を否定した。
その上で、本件につき、「X1X2とYの三者による同棲生活は、仮に各人が同意していたとしても、それは単に好奇心と性愛の赴くままに任せた場当たり的で、刹那的、享楽的な生活であり、現に三人の共同生活では、相互の人間的葛藤から激しい対立関係が生じ、お互いに傷つけ合うに至っている。そして、このような共同生活によって、親族その他の第三者にも相当の被害を生じている。このように、X1X2とYの三名の男女による共同生活は、健全な性道徳に悖り、善良の風俗に反する反社会的な行為といわざるを得ず、社会的にも法的にも到底容認されるものではない。そして、それが本来の愛情と信頼に基づくものでないからこそ、生活費の分担を含めた前記のような取決めが必要となり、その取決めによって各人の自由を制限し、その収入を管理してまでも、異常な共同生活の維持継続を図り、かつ共同生活からの離脱を阻もうとすることとなるのである」として、公序良俗違反として無効とした*5。
4.判例の射程を読む
この判決は、一般論としてハーレム関係、即ち主人公が複数の女性に対し同時に愛情を育むことはあり得ないと判示し、その上で、具体的にハーレム契約(ハーレム関係をとりむすび、その費用等について分担する契約)が善良な風俗に反するとして無効としている。ハーレム関係に対して、非常に厳しい判決とも読める。
もっとも、現在は性に対する社会の考え方は変化し、しかも多様化している。この中で、ハーレム関係だからといって、全てこれを否定することは困難であろう。本判決は、「性に関する社会の考え方が急激に変化し多様化している現在、あるべき男女関係の姿を提示して、それに反する行為を一律に反良俗的なものとすることには困難がつきまとう。そうであるからこそ、事実認定において「好奇心と性愛の赴くままに任せた場当たり的で、刹那的、享楽的な生活」である点に言及し、当該同棲生活の反良俗性を強調したとも考えられる」と評されている*6。
このように本判決を読めば「好奇心と性愛の赴くままに任せた場当たり的で、刹那的、享楽的な生活」でないハーレム関係はなお有効と解することも可能である。
こう読めば、例えば、いわゆる鬼畜モノのハーレム関係は、いかに女性が同意していても無効であるが、上記けよりなのような関係であれば、なんとか有効と解することは可能であろう。
まとめ
ハーレム関係を否定するような判例が出されているが、判例の射程を正しく捉えれば、一律にハーレム関係を否定しているとまでは読めない。むしろ、好奇心と性愛の赴くままに任せた場当たり的で、刹那的、享楽的でないハーレム関係は十分有効と読める。
判例を読む際は、一面的な結論のみに左右されず、その理由付け、更にはその背景事情をとらえることで、正しく判例の射程を把握する必要があるのである。
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*2:判タ一一〇七号二三二頁、「私法判例リマークス2004年上」6頁
*3:なお、Y、X1双方の親を交えた話合いにより、平成一〇年一〇月以降Yが支出した生活費の過払分およびX1による暴行の慰謝料等としてX1がYに二○万円を支払うことで示談が成立した。
*5:このような取決めや合意を有効として、それに基づく請求を訴訟手続によって認めることは、社会的、法的に容認され得ない善良な風俗に反する行為を、裁判所が法の名の下に擁護し助長することにほかならず、許されるものではない。したがって、X1X2が本訴各請求の根拠とする生活費負担の取決めないし合意は、仮にその事実があったとしても、「善良な風俗に反するものとして無効というべきである」と判示