- 作者: 大木孝
- 出版社/メーカー: 現代人文社
- 発売日: 2010/10/01
- メディア: 単行本
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1.司法修習の姿を垣間見る
司法試験に合格して司法修習生となると、必ず埼玉県和光市にある、司法研修所で研修をしなければならない(集合修習その他全国各地で実務修習と言われる修習も行われる)。研修の内容は一応門外不出ということにはなっているが、「座学」中心で、法律文書の書き方を教えるところというイメージが強い。
しかし、刑事弁護教官を三年務め、今年新司法試験委員となった、大木孝先生の「和光だより」を読むと、法律家としてのマインドを教えてくれるところであることがよく分かる。
2.内容紹介
大木先生は、横浜弁護士会から久しぶりに選出された刑事弁護教官として、その折々の所感を同弁護士会のメーリングリストに投稿されていた。
このような投稿をエッセイ集としてまとめ直したのが本書である。
大木先生の、「やって見せ 言って聞かせて させてみて 褒めてやらねば 人は動かじ」というポリシーに従った、研修所生活の一コマ一コマが、分かりやすい図とともにまとめられている。
3.刑事訴訟法の論点を実務から照らす
刑事法学習者として極めて印象深いのが、「刑事訴訟法の論点を実務から照らす」というところである。
例えば、身体拘束解消(75頁以下)では、いわゆる講学上の論点である別件逮捕等について、「捜査機関として、どうやって長時間取調べをするか」という観点から考えることで、任意同行をして、帰りたいと言い出したら「ホテル等に同宿(承諾留置)」「軽い罪で身柄拘束(別件逮捕)」、そして「被告人取調」等という方法が連関をもって説明され、講学上の論点について、実務から照らすことで、その関係をよく理解することができた。
4.刑事弁護人としての姿勢
そして、随所にみられるのが、大木先生の刑事弁護人の姿勢を身につけさせようという熱意である。
例えば、模擬接見で、名前や家族を聞かない修習生に、「ケース研究をやっているのではない。目の前にいる『甲野太郎』という人間を見ろ。」と檄を飛ばす(66頁)、調書は読むが弁護側証人に質問しない修習生に「ここには事情を聞くからと言われて呼び出された人がいるんだけど、聞かなくていいの?」と叱咤する(146頁)等、熱く後進に刑事弁護魂を語っている。
まとめ
「和光だより」は、法曹を目指す人にとって、試験合格後の修習生活の素晴らしさを垣間見ることができるので、必読だろう。
それだけではなく、刑事法を勉強する学習者のみならず、刑事実務に携わる人にぜひ読んで欲しい本である。これによって、より多角的に刑事法を学べるだろう。
なお、研修所教官が二回試験(卒業試験)の採点をしてるのは秘密だと聞いたことがあるが、大木先生、本でバラしてしまって大丈夫なのでしょうか?