アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

数学ガールから、法学ガールへ〜「文系にとっての最強の萌え」は?!

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)


1.理系にとって最強の萌え!
 プログラマで、プログラミング系のライターもされている結城浩先生が書かれた、《数学・青春・物語》。これが数学ガールである。
 数式を展開するのが趣味の高校生の「僕」と、クールな同級生のミルカさん、元気な妹系下級生テトラちゃんが織り成す、数学をテーマにした青春の一頁。
 《理系にとって最強の萌え》の看板通り、2011年5月現在、第18刷まで版を重ね、続刊や、漫画化等もされている。


  本書は、高校数学でつまづいた文系法学徒も十二分に楽しめる*1が、読みながらふと思ったのは、法学でも同じ企画ができるんじゃないか?ということである。


2.単純変換だけで法学小説に
 まず、「数学ガール」の本文に何のひねりもない単純変換を施しただけで、これが上質の「法学小説」になってしまうということは、意外と知られていない。
このことを、 *2極一部だけサンプル的に示してみよう。テトラちゃんと主人公の僕(「先輩」)の間の会話である。

「昨日、先輩が解説してくださった、(a+b)(a-b)=a2-b2という公式がありますよね。参考書を見ていると、(x+y)(x-y)=x2-y2と書いてあるのもあります」
(中略)
「はい、aとbを使うのとxとyを使うのとではどちらがいいんだろうーと考えてしまうんです」
(中略)
「先輩は、ふだんどんな勉強をしてーなさっているんですか」
「問題を解いているときもあるけれど、ただ何となく数式をいじっているときもあるよ。たとえば……うん、そうだ。今日は一緒にやってみようか」
結城浩数学ガール」79頁〜80頁より


 これをそのまま「数学から法学に変換」するだけで、法学小説として十分成立する。

「昨日、先輩が解説してくださった、『XがYから土地を購入したら、ZがXより先にYから同じ土地の譲渡を受けて登記を得た』という事例がありますよね。基本書を見ていると、『甲が乙から土地を購入し、丙も同じ土地の譲渡を受けた』と書いてあるのもあります」
(中略)
「はい、XとYを使うのと甲と乙を使うのとではどちらがいいんだろうーと考えてしまうんです」

(中略)
「先輩は、ふだんどんな勉強をしてーなさっているんですか」
「問題を解いているときもあるけれど、ただ何となく条文を操作しているときもあるよ。たとえば……うん、そうだ。今日は一緒にやってみようか」

 もっとも、これは著作権法上著者のみに許された行為である「翻案」以外の何者でもないので、一定以上の長さの文章についてこれを行うには、結城先生の許諾が必要である。


3.妄想はオリジナルストーリーへ 
 そうすると、数学ガールをリスペクトしたオリジナルのストーリーで、「法学の奥深さ」を知ることができる小説を作る方が望ましいだろう。


 多分、舞台はロースクールだろう*3
テトラちゃんキャラは、理系出身の純粋未修の女の子をイメージしている*4
そのテトラちゃん(仮)と「僕」が会話する。

「各論点について、文理解釈・拡張解釈・類推解釈・反対解釈をすること自体はできるんです。でも、どの解釈を採用すべきかがどこにも書いてないんです!  判例は一見妥当に見えるけど、判例を批判する評釈を読むと本当に妥当かがもう分からなくなるんです!」
テトラちゃん(仮)は興奮気味にまくし立てた。落ち着かせようと、僕は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「よく『三段論法』って言う言葉が使われているよね。」
「前提となる事実に法律をあてはめると、結論が出るっていうことですよね。」
「そう。でも、本当に三段論法を使うだけで、一義的な結論が出るのならば、優秀な法律データベースを持ったコンピュータに裁判をしてもらうのが最も適切だってことになる。」
「それがそうなっていないのは、現在のコンピュータが発展途上だから、ってことでしょうか。」
「いや、いくらコンピュータが発達しても、人間の裁判官が裁くことになると思う。それは、そもそも『事実』というものも『法律(規範)』というのも、重層的で複雑なものだからさ。」
「重層的で複雑って・・・。」
「テトラちゃん(仮)は、適用すべき『法律』について、どの解釈を採用すべきかがどこにも書いてないということに気付いた。これはとても重要なんだ。法律の解釈のあり方として、『クリスマスキャロルの新章を書く』という例えが言われている*5。もう少し身近な例えを使えば、好きなアニメのアフターストーリーの同人誌を書くということでも良い。既にアニメが放映されているから、キャラクターや世界観はおおよそ決まっているし、アフターストーリーだから、夢オチにでもしない限り、それまでの登場人物の行動も既に決まっている。その意味で『制約』はあるけれど、それ以外は、同人誌の書き手の自由なんだ。魔法少女まどか☆マギカで言えば、『魔獣退治ではノルマを果たせなかったQBが、まどかからエネルギーを得ようとまどかに会いに行く』という話でもいいし、『上条君がさやかに後ろから支えられながらバイオリンの名手としての地位を確立する』話でもいいだろう。」
「その、アフターストーリーが、法解釈とどう関係するんでしょうか??」
テトラちゃん(仮)は、急な話の展開に、目を白黒させた。
「条文の解釈はいろいろあり得るけれど、常に問題となる条文を特定した上で、その条文の『文理』、つまり辞書上の語義をスタートラインとしないといけない。条文を無視するのは立法論でしかない*6。また、これまで下されてきた判例に必ずしも従う必要はないけれど、『判例が下っている』という事実は変えられない。既に主張されている学説も同じだ。法律家は、こういう様々な『縛り』の中で解釈をしなければならず、それを無視した解釈論は『誤った』解釈論ということになる。でも、そのような縛りを意識した上で、事案の解決にふさわしいと思う解釈手法を文理解釈・拡張解釈・類推解釈・反対解釈等から選択して適用するのが、『正しい』解釈なんだ。この『正しい』解釈は複数あって良い。テトラちゃん(仮)は、判例の解釈も正しそうだし、これを批判する評釈の解釈も正しそうだと思ったんだよね。」
「はい。」
「多分、判例の解釈も、評釈の解釈も、いずれも『正しい』っていうのが正解だね。どちらも、制約の中で、適切と考える解釈手法を展開したってことだ。」
正解が複数あるって、自然科学とは大分違いますね。テストではどうすればいいんでしょうか。
「テストでどうするか、悩む必要なんかない…(後略)


こんな感じで、法学の基礎を体得できる小説があっても良いのではないか。
 テーマとしては、上記の「解釈の幅」の問題に加え、「説例で出てくるXやYは生身の人であって、解釈の後ろにある事実を大切にすべきこと」や、「法学はこの世の全ての事象*7を権利と義務で説明しようという、物理学にも比すべき壮大な営為」であること*8等、法学の基礎的だが重要なありとあらゆる問題がテーマになり得る。


4.物語と法学が響き合う本
「残念」な萌え実用書の典型は、「実用の部分が多すぎてストーリーが貧弱」なものと「ストーリー自体は萌えるが実用性に欠ける」ものである。
 数学ガールの素晴らしいところは、本文中に占める数学の解説部分がかなり多く、数式も多いのに、「ストーリーが立っている」ところである。
結城先生のインタビューを抜粋しよう。

結城: 話と無関係に数式を出してもしょうがないですよね。 話の流れの必然として数式が出てきた方がよい、と私は思っています。 といっても、数学的内容を説明するだけのために登場人物をご都合主義的に動かすわけにもいかない。 登場人物は生きているからです。 だから、数学的内容も大切にし、また物語も大切にした上で、 両者を相補的に働かせたいと思うんです。 数学的内容が分かれば物語をより深く理解できると同時に、 物語の世界に深く入り込めば、数学的内容も感覚的によく理解できるように…。


RUCM: …それって、素人考え的には不可能なように思えるんですけれど、いかがでしょう。


結城: 不可能と言われると困っちゃうんですが…。 今回の『数学ガール』を本にするにあたって、 私は「数学的内容と物語がうまく対応するように」ということを念頭に置きました。 いわば…《数学と物語という二つの声が響き合って、一つの音楽を生み出す》ことを願っているんです。
「『数学ガール』出版記念インタビュー」より*9


このような特質が、「数学ガール」を「漫画で数学を解説」といった多くの類書から、一歩も二歩も抜け出させていると思う。これが、「数学ガール」を 《理系にとって最強の萌え》たらしめる根源ではないだろうか。

まとめ
 法律を萌えながら理解できるよう解説する試みは多く、既にレビューした、「メイド喫茶でわかる労働基準法*10
等の既刊良書も少なくない。
  筆者らが共同で作成中のまどマギ法律同人誌サンプルも、そのような試みの一つである。
 もっとも、良い本はたくさんあっても、「数学ガール」のように《法学と物語という二つの声が響き合って、一つの音楽を生み出す》ことを極めた「最強の一冊」があるのかと問われると、未だにそこまで至るものはなく、現時点ではそのような高みを目指して相互に高め合っているというのが正しい現状認識ではないか。 
「 法学ガール」というタイトルの小説である必然性はないものの、このような法学とストーリーのコラボレーションが頂点に達し、 《文系にとって最強の萌え》が実現した作品が出てくることを強く期待している!

*1:但し、内容を完全に理解できている訳ではない

*2:分量的に著作上の問題がないと思われる

*3:法科大学院ではなく学部でもいいんですが、ミルカちゃんみたいに法律を極めた学部生が同級生にいるというのは自然ではない気がします。ローならいてもおかしくないと思われます。

*4:異論は受け付けます。なお、もう一人のミルカさんキャラはどうしましょうか?法務部の社会人経験を経てローに入学とかですかね?

*5:内田貴民法I」9頁。「連作小説の例え」

*6:山本敬三「民法講義I」524頁

*7:少なくとも私人間

*8:内田貴民法I」18頁

*9:http://www.hyuki.com/girl/interview.html

*10:一部の人にとって最も「敷居の低い」労働法入門〜メイド喫茶でわかる労働基準法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常