アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

小学生と恋愛した部長を自主退学処分としていいのか!?―ロリきゅーぶ!の法律問題

毎度ことながら、本エントリは、ロウきゅーぶのネタバレをしております。ラノベ版1巻、アニメ版4話の、男子バスケ部との決戦終了くらいまでの内容が記載されておりますので、悪しからずご了承ください。
最近のロウキューブに関する法的考察にはマンガと法律 87th ロウきゅーぶ! 第12話「僕の夢は君の夢」より | RPガスのブログ
があります。


ロウきゅーぶ! (電撃文庫)

ロウきゅーぶ! (電撃文庫)

1.3人の偉大なるロリコン
ロウきゅーぶ!。別名「ロリきゅーぶ!」といわれる程、格好いいロリコンが登場する物語である。
まずは、主人公、長谷川昴。歴戦の男子バスケ部相手に、超短期間でど素人集団の女子バスケ部を戦力に組み上げる。まさに

その才覚は、シュート決定率もさることながら、類い希なるゲームメイク能力によるところが大きい
蒼山サグロウきゅーぶ!1巻」29頁

と評されるだけのものがある。


しかし、今回光を当てたいのは、昴が*1七芝高校を志望した理由である。バスケ部部長の水崎新である。
水崎部長は、顧問の一人娘(11歳)と恋仲になり、部活を追われ、学校は自主退学となり、バスケ部まで1年の長期謹慎とあいなった。しかし、

直ちに両親によりその関係は断ち切られようとされたが、二人は頑なに固持し、最終的にはロミオだのジュリエットだの戯曲じみた大騒動にまで発展した。
蒼山サグロウきゅーぶ!1巻」27頁

これと決めた相手のためにはどんな障害もものとしない。これぞまさに漢の中の漢である。そこで、今回は、水崎部長に焦点を当てて、自主退学にしていいのか検討したい*2


2.自主退学の3つの問題
まず先に断っておきたいのは、以下、七芝高校を私立と仮定する。公立でも、大筋は同じだが、いわゆる民事手続ではなく、行政手続の問題になるので、若干ずれが生じることはご理解いただきたい*3
さて、そもそも自主退学っていったい何だろうか。自分でやめようと思い立って自分で辞めたのであれば、本人の自己決定の問題で、これを第三者が有効無効と議論する意味はない。しかし、本当に水崎先輩の意思で退学したのか?


千葉地判昭和62年10月30日判例時報1266号81頁という判決を引用しよう。

退学処分という形をとると、(中略)他校への再入学の道も難しくなるため自主退学勧告という形をとることが認められ、そうだとすると、さらに生徒の就職や結婚等の将来に重大な影響を与えることを避けるために実際には、退学処分相当な場合でも自主退学勧告処分にとどめているのが実情であると考えられる。本件でも(中略)副校長が生徒に「自主退学勧告処分は拒んでもよい」という注意を与えた形跡は認められないし、かえって生活指導部長が事実を報告し副校長が保護者に事実を確認した上でその処分として自主退学勧告と決定したと申し渡していることからすると、本件自主退学勧告は懲戒処分というべきである。

要するに自主退学は少し軽めの退学処分という、ある種の懲戒処分であると認めたってことである。


ここで、学校教育法施行規則26条2項は、学校長は、「学校の秩序を乱しその他学生又は生徒としての本分に反した者」を懲戒できるとする。
しかし、学校は刑務所ではない、教育・教化の場である。そんな学校で懲戒をすることが可能なのは、問題行動ある生徒に対し適切な制裁を加えることがむしろ、生徒の教化・育成という教育目的達成につながるからであり、教育的配慮に基づき懲戒を行わなければならない*4
このような懲戒権の行使は学校長の裁量に任せられているが、校長はその裁量の範囲でのみ懲戒権を行使できるのであって、例えば処分の前提事実が存在しない場合や、処分が社会通念上著しく妥当性を欠き裁量の範囲を超えた場合には、当該懲戒処分は違法・無効となる*5


上記判決も

(退学処分も自主退学勧告処分も)生徒を校外に追いやることにかわりはないから、その処分が校長の裁量の範囲内であるかの検討にあたっては、退学処分に準じて考察することが必要である。

としている。


(1)学外からの排除は教育上やむを得ないか
 ここで、過去の退学処分の裁判例を見ると、概ね、改善の見込みがないことと、学外への排除が教育上やむを得ないと認められる場合にのみ限られるとしている*6


 ここで、過去に問題を起こした者であるかというのは改善の見込みがないことや学外への排除が教育上やむを得ないことを判断する上で非常に重要なポイントとなっている。上記東京地判昭和38年11月20日は、このような要件を判断するために、「原則として、教育機関にふさわしい方法と手続により本人に反省を促す過程を経る必要があり、この反省過程を経た後においてもなお反省の情が認められず、再び同種の行為を犯す具体的危険が存在すると認められる場合に初めて退学処分を断行し得る」とする。また、喫煙による退学処分が争われた事例でも、既に2回*7謹慎処分を受けている事案では退学処分が有効とされ、反面、過去に問題行動を起こしたことがなかった場合には、退学処分は懲戒権の濫用として無効とされている*8


 本件では、水崎部長は過去に問題を起こしたことがなく、むしろ、バスケ部部長として輝かしい成果を残してきた。そうすると、仮にこれが校則違反の不純異性交友*9に該当するとしても、未だ学校からの排除が教育上やむを得ないとまでは言えず、今回は停学・訓戒等の他のより軽い処分を行い、その後に依然として改善が見込まれない場合にはじめて学校から放逐することが許されると解するのが判例と整合的と思われる。
 すると、本件の処分は著しく妥当性を欠き裁量の範囲を超えた無効なものと言える。


(2)学外の問題
ここで、水崎部長は顧問の娘を頑なに愛しており、また、不純異性交友を繰り返すことは確実であって、温情をしなかったことも裁量の範囲内という意見もあり得るだろう。
しかし、これが学内の問題というよりは、校外の問題だという点が指摘できる。
教師の監督義務は学校外の行為にまで及ばないのが原則であり、校外の行為の場合、教師によって発見されるというよりも、市民や他の生徒からの通報等によって明らかになる事が多く、見つかった者はアンラッキーであって見つからない者との間に不公平が生ずると指摘されている*10
 そこで、少なくとも学校外で行われた場合には学内よりも軽い処分を行うべきであり、重い処分を行うことが許容されるのは、違法薬物の使用等犯罪行為に該当するような、非行の程度が極端に重大な場合に限られると解されている*11
 すると、本件では、学外で、同高校の生徒ではない女の子と付き合うというだけであり、それ自体が犯罪行為に該当するような重大な非行とは到底言えない*12
 その意味でも、懲戒処分が著しく妥当性を欠き裁量の範囲を超えた無効なものと言える


(3)適正手続と懲戒者の悪意
 いやいや、学外の問題ではなく、「学内にいる教師である顧問の娘」との関係が問題だから軽減の必要はないと言う人もいるかもしれない。ロリコンは風当たりが強いので、そういうことも想定する必要があろう。
 さらに、退学等の不利益処分については適正手続の保障が必要と解されている。つまりどんな悪いことをしても、その処分決定の過程において適切な手続が保障されていなければ、手続違反で無効なのである。こういう扱いが「事案の解決として妥当なのか?」と思う人もいるだろうが、そもそも、手続保障を受ける権利(憲法31条参照)への侵害自体が大きな問題であり、不当な手続が行われた場合これを無効にすることで将来にわたっての適切な手続を保障させるために警告するという意味もある。
 具体的には、予め不純異性交友について自主退学までの処分が下されるものと知っていたか、意見を聞く機会が与えられていたか、そして、職員会議等において議論が尽くされたか等が問題となる*13
 すると、*14単なる恋愛で学校を放逐されると知らされていたとは到底思われない。また、処分は顧問の独断で決まり、上司はそれを追認しただけのようである*15。そう、自主退学処分は、適正手続の観点からも不適法である

 この点重要なのは、懲戒が、不当な意図で行われているということである。要するに、懲戒は教育的配慮に基づき懲戒を行わなければならないところ、全く異なる観点から懲戒処分、少なくとも、処分を重大な自主退学処分とすることが決められていいはずがない。
 この点、学校関係ではないが、労働関係事件においては、組合に打撃を加え、組合を弱体化させる目的で行われた懲戒解雇が無効とされる*16。要するに、そのような不当な意図をもっての懲戒処分は許されないとされているのである。

顧問の教師、元々やる気無かったんだとさ。転任してきた時に、無理矢理部活の担当をさせられたらしくて。だから副部長とか監督とかが酌量求めても一切聞き耳持たず。本当は一気に廃部まで持って行くつもりだったらしい。先輩の話だと、これでもまだ救われた方なんじゃないかって。
蒼山サグロウきゅーぶ!1巻」26頁

要するに、顧問によってこの件が組合つぶしならぬ部活つぶしに使われた訳であり、加えて「この野郎、俺の娘を」という私怨があったと推認しても不合理とは言えないだろう。


以上の3つの観点を総合すると、いかに校長に裁量があるといえ、水崎部長の自主退学処分は、その裁量権を逸脱した違法無効なものと言える。


3.謹慎処分の3つの問題
 そうすると、バスケ部の1年間の謹慎処分もまた問題である。判例は、

部活動が学校教育活動である以上、部活動における教師あるいは顧問の指導ないし懲戒行為についても、(中略)正当な懲戒権の範囲を逸脱した行為は違法というべきである。
岐阜地判平成5年9月6日判例タイムズ851号170頁

として、部活動にも上記の懲戒権濫用法理が適用されるとする。本件でも、1年間の謹慎処分が正当な懲戒権の範囲を逸脱したかが問題である。

ここで、参考になるのは、ラグビー部が高体連に1年間の対外活動自粛届けをしたという懲戒処分の効力が争われた事案*17である。この事案は、ラグビー部において恒常的に上級生が下級生にいじめを行うことが発覚したことから、暴力的体質を改善するため活動自粛を決断したとされ、そのような判断は「社会通念上合理性を欠いているとはいい難」いとして有効とされた*18


 しかし、この事案と本件はかなり異なっている。
 まず1番目に、ラグビー部の事案は部員同士の暴力という部内の問題であったが、水崎部長の行為は、私生活上の行為であり、部活上の行為ではない。水崎部長自身の部活を自粛させるなら兎も角、1年もの長期間連帯責任を負わされることが合理的とは到底言えないだろう。
 そして2番目に、本件では活動自粛の根拠となる水崎部長の懲戒処分自体が違法・無効であることを指摘できる。前提となる処分の違法・無効は、後続の処分にも瑕疵(問題)を生じさせる。
 更に3番目に、自分が嫌々させられているバスケ部を取り潰したいという顧問の悪意による処分であり、職員間で十分に議論されていないことが挙げられる。これは、上記のような、暴力体質改善という正当な目的が認定された事案と全く異なる。
 このような3点を総合すれば、バスケ部の1年もの活動自粛、つまり、*19他の3年生からバスケ部としての活躍の場を奪う行為は裁量権を逸脱した無効なものと言える。


4.3つ目の法律問題!?
ロリきゅーぶ!は、実は、上記の水崎部長の懲戒処分の効力と、バスケ部の活動自粛処分の効力の問題以外にもう1つ、法律的に重要な意義がある作品である。
「契約の附款」という法律用語がある。要するに、契約の内容そのもののではない、契約にまつわる周辺的・付随的な事項であり、例えば期限や条件がこれにあたる。
昴は、智花との間で、慧心学園初等部女子バスケ部の正式コーチになる条件として「フリースロー50本連続」を定めたが、附款、つまり、いつまでに決めればいいのかという期限を定め忘れた

だって、五十本連続なんて絶対に無理だと思ったから、負けるわけの無い賭けだと思った。
だけど俺は一つ。とんでもないミスを犯していたのだ。
・・・・・・期限を決め忘れた
蒼山サグロウきゅーぶ!1巻」316頁

契約の附款だからといって甘くみてはいけない。ロリきゅーぶ!は法律家にとって大事なことを教えてくれる。

まとめ
部長自主退学処分や部活1年間謹慎処分は、手続や罪刑の均衡の問題に鑑み無効である。そうすると、七芝高校バスケ部が弁護士に依頼していれば、仮処分等で早期に救済され、昴は慧心学園初等部女子バスケ部のコーチにならずに、打倒伊戸田に燃えていたかもしれないのである。これでは、「ロリきゅーぶ!」が成立せず、第二のスラム・ダンクになってしまう*20
いずれにせよ、ロウきゅーぶ!は、学校の懲戒権の検討にはうってつけの題材であり、また、契約の附款の重要性を教えてくれる。ロリコンでなくとも、およそ法学徒であれば必見のアニメ/ラノベと言えよう。


なお、ひなたパンツ窃盗事件については
マンガと法律 67th ロウきゅーぶ! 第6話 「鉄板(メタル)マスター」より | RPガスのブログ
が詳しい。

*1:バスケ部が県内でも中の上レベルに過ぎない

*2:もう一人のロリコン? そりゃぁ、ひなた萌えの竹中っしょ。

*3:場合分けして論じるだけの行政法解釈能力はないです…。

*4:学校教育法施行規則26条、坂東司朗ほか「新版学校生活の法律相談」78頁

*5:第一東京弁護士会少年法委員会「子どものための法律相談」50頁、同旨坂東司朗ほか「新版学校生活の法律相談」178頁

*6:東京地判平成3年5月27日判例時報1387号25頁、東京高判平成4年3月19日判例時報1417号40頁、東京地判昭和38年11月20日判例タイムズ155号125頁他

*7:うち1回は喫煙による

*8:阪高判平成7年10月24日判時1561号34頁、大阪地判平成3年6月28日判時1406号6頁

*9:何年振りだろ、こんな言葉を使ったのは…。なお、最判昭和60年10月23日刑集39巻6号413頁のような合憲限定解釈をすると、青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段を用いる場合、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような場合、自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような場合等に限定されるという解釈の余地はないだろうか。

*10:坂東司朗ほか「新版学校生活の法律相談」84頁

*11:第一東京弁護士会少年法委員会「子どものための法律相談」51頁

*12:なお、本件では刑法177条後段該当事情を示唆する記載は見当たらない。

*13:子どもとともに考える弁護士の会「Q&Aヘルプ!子どもの権利110番」55頁

*14:援助交際ならともかく

*15:蒼山サグロウきゅーぶ!1巻」26頁

*16:メイン論点ではないが、最判昭和62年4月2日判例タイムズ644号86頁は「原審の確定した事実関係の下において、参加人X、同Yに対する本件解雇を労働組合法七条一号に違反する不当労働行為とした原審の判断は、正当として是認することができる。」とした。

*17:東京地判平成14年1月28日判例タイムズ1099号226頁

*18:東京地判平成14年1月28日判例タイムズ1099号226頁

*19:水崎部長はともかく

*20:それはそれで読みたいが。