アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

父親の話を無理矢理聞かせた杏子の責任

1.はじめに
アメリカでも好評上映されたという、劇場版魔法少女まどか☆マギカ
今日は、また新しい問題について検討してみたい。

ただ一つの願いを「他人」のために使ってしまった、さやか。
それを見てられない、杏子。
その理由は、自分もまた、ただ一つの願いを「他人」のために使ってしまったからだった。
新しい時代には新しい教えが必要。
そう考えて教義と違う教えを説き、破門された杏子の父親。
父親の話を真面目に聞いてくれれば、その素晴らしさが分かるはずなのに。
杏子はQBと契約をし、多くの人に、父親の話を真面目に聞いてもらうよう願った。
翌朝から、教会に押し掛ける人の波。
表の世界は親父が良くする、裏から杏子が魔女を退治する。
アタシと親父で、表と裏からこの世界を救うんだ
ってバカみたいに意気込んでいた杏子。
ところが、ある日からくりが父親にバレ...


大体こんな感じのシーンである。


とても重要なシーンであるが、法律家に感傷に浸っている余裕はない


このシーンには、1つ、法律的にいって、怪しい点がある。


魔法の力*1により、親父の話を無理矢理聞かせていいのか?



2.魔法で強要しても無罪!?
こういう「無理矢理」やらなくていいことをさせる系の犯罪としては、強要罪が挙げられる。

第223条1項  生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

要するに、「新興宗教の教祖の演説を聴く」といった義務がないことを他人に行わせると、強要罪になりかねないということである。


ただ、刑法は、義務がないことをさせること全般を罰するのではなく、そのうち悪質性の強いものだけに刑事罰を課す
「悪い」行為のうち、その一部だけを「犯罪」として刑事的に罰し、それ以外は、民事裁判で解決すること等で救済を図ってるのだ*2


具体的には、刑法223条は、暴行や脅迫という方法を用いて義務なきことを行わせることを禁止しているのであって、それ以外の手段により義務なきことを行わせても、強要罪にはならない。


本件では、たくさんの人が、杏子の父親の話を無理矢理聞かせられているが、その理由は魔法によるものであって、暴行や脅迫によるものではない。そう、杏子ちゃんに強要罪は成立しないのである。



3.監禁罪も、あるんだよ
ところが、もう1つ意外な犯罪がある。

刑法220条  不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。


監禁罪は、不法に人を監禁した場合に成立する。


監禁というのは、人が一定の区域から出ることを不可能又は著しく困難にしてその自由を奪うことである。典型的には、孤島におびき寄せて船を沈めるといった物理的な方法による監禁であるが、無形的、心理的な方法でも監禁は成立する。


例えば、複数の女性をマインドコントロールにかけて調教し、脱出困難な心理状態にしたという事案において、東京高裁は、

監禁罪に該当する行為には,有形的, 物理的な障害を手段とする場合のほか,被害者の恐怖心等を利用した無形的,心理的な障害による場合も含まれると解される。
東京高判平成22年9月24日*3

として、無形的な手段により一定区域から出ることを著しく困難な状態にしたことが監禁罪であると認めている。


 本件においては、杏子の願いは「父親の話を真面目に聞く」である。不真面目でもいいのであれば、話がつまらないといって途中で退場しても良いのだろうが、 真面目なのだから、父親の話が終わるまではその場に留まって聞き続けなければならない。実際、目の色を変えた聴衆が、杏子の親父を取り囲んで一心にその話に耳を傾けている姿が作中でも*4描写されている。これは、まさに魔法による無形的な方法により、退去を著しく困難にしたと言える。


 ここで、監禁罪が何を守ろうとしているのか(保護法益)については、「移動しようと思えば移動できる自由(可能的自由)」 と「現実に移動しようと思った時に移動できる自由(現実的自由)」のどちらと考えるべきか、学説が対立する。「ほむほむはまどかの部屋の中に閉じ込められたが、とりあえずは部屋に留まってクンクンしてようと思った」という場合には、可能的自由説からは監禁罪が成立する(被害者が現実に移動しようと思っていなくても、移動しようと思えば移動できる自由がないことには変わらない)が、現実的自由説の立場からは、部屋の外に出たいと思っていないのだから現実に「出たいけど出れない」という問題は生じていないので監禁罪は成立しない*5判例は可能的自由説を取る(最決昭和39年3月19日刑集12巻4号636頁)が、現実的自由説も有力である。


ここで、杏子事案においては、可能的自由説を取ると監禁罪が成立するものの、信者*6は、真面目に説教を聞きたいと思っており、特に移動したいとは思っていない。そこで、現実的自由説を取ると、監禁罪が否定されるとも思える。


ところが、現実的自由説の立場からも、移動の意思自体が抑圧された場合(「部屋から出ると殺す」と脅迫され、部屋の中に留まる場合)には、移動の自由の前提となる意思決定の自由が害されており、監禁罪の成立を肯定することはできる*7
杏子事例でも、信者は自発的に説教を聞きたいと思ったのではなく、魔法によって真面目に聞きたいと思わせられている。結局、魔法によって信者の「その場から立ち去るかどうか」という意思決定の自由が害されており、現実的自由説の立場からも、監禁の成立は肯定されるのだ。


まとめ
「親父の話を真面目に聞いてくれますように。」
その願いは、父親にカラクリがバレて呪いに変わった。
しかし、そもそも、「話を聞かされる方の人」の観点からすれば、「聞きたくもない話を聞かされ続ける」訳であり、その意味でも、「呪い」である
杏子が願いによって人を演説する父親の前に(いわば)縛りつけた行為は、監禁罪にも該当するのだ。


謝辞:フォロワーの@hiratti_classic様、@GTONIDUKA様のご意見を参考に本エントリを作成させて頂きました。ありがとうございました!

*1:正確にはQBによる願い事をかなえる力

*2:マインドコントロール等の結果、セミナー参加費用、商品購入代金等の名目で多額の金銭を支払わされたとの主張が認められ、損害賠償及び慰謝料の請求が認められた平成19年2月26日判例時報1965号81頁参照

*3:なお、PTSDが傷害に該当することを明示した最判平成24年7月24日の原審である。

*4:犬カレー空間のデフォルメですが

*5:山口「刑法(第2版)」234頁

*6:問いっていいのか分かりませんが

*7:山口「刑法(第2版)」235頁