アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

刑訴ガール第4話〜メイド喫茶と伝言ゲーム〜司法試験平成23年設問2

刑事訴訟法 (LEGAL QUEST)

刑事訴訟法 (LEGAL QUEST)


引き続き、司法試験平成23年設問2となります。第3話がシリアス路線だった反動で、第4話は萌え路線に走っています。3、4話を通算すると平均的になる、とご理解頂ければと思います。


注:刑訴ガールは、架空の法科大学院を舞台にしたフィクションです。法科大学院に進学しても、刑訴ガールはいません。


僕は、昔教室だったところの一角で司法試験の過去問を解いている。今は? メイド喫茶だ。


「メイドの質が低くて申し訳ございません、ご主人様」と言いながら、わざとらしくお辞儀をしているのは、メイド服を着た同級生の山田だ。山田の着ているのは、いわゆるフレンチメイド服といわれるメイド服で、スカートが短く、胸元が開いている。「メイドは慎みがあってなんぼ」という個人的信条からは、これを本物のメイド服とは認めんぞ、決して*1今日は学園祭。うちのクラスはベタにメイド喫茶をやることになっていた


客と言っても僕はただの「サクラ」なんだから、いつも通りため口で話していいぞ。


「あれ、クラスの女子がみんな嫌がって、結局メイドやるのが男だけになったって、鈴木から聞いてなかった?


う〜ん、メイド服を着て女装してるのに、こうやって「ため口」で話されるのも、それはそれでまた違和感ありありだなぁ。とにかく、僕は、鈴木から、「うちのクラスのかわいい子達がみんなメイド服着てるから、その光景を眺めながら一日サクラをやってくれ」って頼まれたから、これは『俺得』な話だと思って、今日一日、ここでサクラとして賑わいを演出することに同意したんだ。 …そもそも今日他に何かする予定があったのか、は聞かないでくれ…。


「鈴木には、『男しかメイドがいないせいで閑散としてるからサクラをやってくれ』と言って頼むよう伝えたんだけどなぁ。まあ、いずれにせよ高校の学園祭でメイド喫茶をやった時よりもメイドの質が低いことは認めざるを得ないな。あの時は、ミスコンの1〜3位が全員俺たちのクラスの喫茶店でメイドをやっていた訳だから。」


って、山田、お前の高校は男子校だろ*2


そんな訳で、僕以外に客がいない、閑散としたメイド喫茶の一角で、僕は、黙々と平成23年刑訴の司法試験問題を解くことになった。1000円とボッタクリの「萌え萌えコーヒー」(ただのインスタントコーヒー。「萌え注入パフォーマンス」は丁重にお断わりした。)を飲みながら、問題を解く。もし集中力が解けて目を上げてしまうと、同クラ男子の絶対領域が見えてしまい、「誰得」という思いにかられるから、必然的に勉強に集中せざるを得ない。意外と捗るかも、これ。

次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事 例】
1 平成22年5月1日,A女は,H県警察本部刑事部捜査第一課を訪れ,同課所属の司法警察員
Pに,「2か月前のことですが,午後8時ころ,結婚を前提に交際していたBと電話で話している と,Bから『甲が来たから,また,後で連絡する。』と言われて電話を切られたことがありまし た。甲は,Bの友人です。その3時間後,Bが私の携帯電話にメールを送信してきました。その メールには,Bが甲及び乙と一緒に,甲の奥さんであるV女の死体を,『一本杉』のすぐ横に埋め たという内容が書かれていました。ちなみに,『一本杉』は,H県I市内にあるJ山の頂上付近に そびえ立っている有名な杉です。また,乙も,Bの友人です。私は,このメールを見て,怖くな ったので,思わず,メールを消去しました。その後,私は,このことを警察に伝えるべきかどう か迷いましたが,Bとは結婚するつもりでしたので,結局,警察に伝えることができませんでし た。しかし,昨日,Bとも完全に別れましたので,警察に伝えることに踏ん切りがつきました。 Bが私にうそをつく理由は全くありません。ですから,Bが私にメールで伝えてきたことは間違 いないはずです。よく調べてみてください。」などと言った。その後,司法警察員Pらは,直ち に,前記「一本杉」付近に赴き,その周辺の土を掘り返して死体の有無を確認したところ,女性 の死体を発見した。そして,女性の死体と共に埋められていたバッグにV女の運転免許証が在中 していたことなどから,女性の死体がV女の死体であることが判明した。
そこで,同月3日,司法警察員Pらは,Bから事情を聞くため,Bが独り暮らしをしているK マンション403号室に赴き,BにH県警察本部への任意同行を求めたところ,Bは,突然,司 法警察員Pらを振り切ってKマンションの屋上に駆け上がり逃走を試みたが,同所から転落して 死亡した。
2 同日,司法警察員Pは,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,前 記Kマンション403号室を捜索し,Bのパソコンを差し押さえた。
そして,同日,司法警察員Pは,H県警察本部において,差し押さえたBのパソコンに保存さ れていたメールの内容を確認したところ,A女とBとの間におけるメールの交信記録しか残って いなかったが,Bが甲及び乙からV女を殺害したことを聞いた状況や甲及び乙と一緒にV女の死 体を遺棄した状況等を記載したA女宛てのメールが残っていた。そこで,司法警察員Pは,この メール[メール1]を印刷し,これを添付した捜査報告書【資料1】を作成した。また,司法警 察員Pは,直ちに,[メール1]をA女に示したところ,A女は,「[メール1]には見覚えがあり ます。[メール1]は,Bが作成して私に送信したものに間違いありません。Bのパソコンは,B 以外に使用することはありません。私がパソコンに触れようとしただけで,『触るな。』と激しく 怒ったことがありますので,Bのパソコンを他人が使用することは,絶対にないと断言できま す。」などと供述した。
3 V女に対する殺人,死体遺棄の犯人として甲及び乙が浮上したことから,司法警察員Pらは, 直ちに,甲及び乙の前歴及び前科を照会したところ,甲には,前歴及び前科がなかったものの, 乙には,平成21年6月,窃盗(万引き)により,起訴猶予となった前歴1件があることが判明 した。
また,司法警察員Pは,差し押さえたBのパソコンにつき,Bと甲との間におけるメールの交 信記録,Bと乙との間におけるメールの交信記録が消去されているのではないかと考え,直ちに 科学捜査研究所に,消去されたメールの復元・分析を嘱託した。
さらに,司法警察員Pらは,前記メールの復元・分析を進めている間に,甲及び乙が所在不明 となることを避けるため,甲及び乙に対する尾行や張り込みを開始した。
4 その一方,司法警察員Pは,V女に対する殺人,死体遺棄事件を解明するため,甲及び乙を逮 捕したいと考えたものの,まだ,[メール1]だけでは,証拠が不十分であると判断し,V女に対 する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪事実により甲及び乙を逮捕するため,部下に対し,甲及び乙 がV女に対する殺人,死体遺棄事件以外に犯罪を犯していないかを調べさせた。その結果,乙に ついては,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪の嫌疑が見当たらなかったが,甲につい ては,平成22年1月10日にI市内で発生したコンビニエンスストアLにおける強盗事件の2 人組の犯人のうちの1名に酷似していることが判明した。そこで,同年5月10日,司法警察員 Pは,コンビニエンスストアLに赴き,被害者である店員Wに対し,甲の写真を含む複数の写真 を示して犯人が写った写真の有無を確認したところ,Wが甲の写真を選択して犯人の1人に間違 いない旨を供述したことから,その旨の供述録取書を作成した。
その後,司法警察員Pは,この供述録取書等を疎明資料として,前記強盗の被疑事実で甲に係 る逮捕状の発付を受け,同月11日,同逮捕状に基づき,甲を通常逮捕した【逮捕1】。そして, その際,司法警察員Pは,逮捕に伴う捜索を実施し,甲の携帯電話を発見したところ,前記強盗 事件の共犯者を解明するには,甲の交遊関係を把握する必要があると考え,この携帯電話を差し 押さえた。なお,この際,甲は,「差し押さえられた携帯電話については,私のものであり,私以 外の他人が使用したことは一切ない。」などと供述した。
司法警察員Pは,直ちに,この携帯電話に保存されたメールの内容を確認したところ,Bと甲 との間におけるメールの交信記録が残っており,その中には,BがV女の死体を遺棄したことに 対する報酬に関するものがあった。そこで,司法警察員Pは,同月12日,殺人,死体遺棄の被 疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,この携帯電話を差し押さえた。引き続き,司法警察員P は,パソコンを利用して前記Bと甲との間におけるメール[メール2-1]及び[メール2- 2]を印刷し,これらを添付した捜査報告書【資料2】を作成した。
甲は,同日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記強盗の被疑事実で勾留され た。なお,甲は,前記強盗については,全く身に覚えがないなどと供述し,自己が犯人であるこ とを否認した。
5 同月13日,司法警察員Pの指示を受けた部下である司法警察員Qが,乙を尾行してその行動 を確認していたところ,乙がH県I市内のスーパーMにおいて,500円相当の刺身パック1個 を万引きしたのを現認し,乙が同店を出たところで,乙を呼び止めた。すると,乙が突然逃げ出 したので,司法警察員Pは,直ちに,乙を追い掛けて現行犯逮捕した【逮捕2】。その後,乙は, 司法警察員Qの取調べに対し,犯罪事実について黙秘した。そこで,司法警察員Pは,乙の万引 きに関する動機や背景事情を解明するには,乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する 証拠を収集するよりほかないと考え,同日,窃盗の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部 下と共に,乙が単身で居住する自宅を捜索し,乙のパソコン等を差し押さえた。
その後,司法警察員Pは,同日中に,H県警察本部内において,差し押さえた乙のパソコンに 保存されたデータの内容を確認したところ,Bと乙との間におけるメールの交信記録が残ってい るのを発見した。そして,その中には,[メール2-1]及び[メール2-2]と同様のBがV女 の死体を遺棄したことに対する報酬に関するメールの交信記録が存在した。
乙は,同月14日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記窃盗の被疑事実で勾留 された。
6甲に対する取調べは,司法警察員Pが担当し,乙に対する取調べは,司法警察員Qが担当していたところ,司法警察員P及びQは,いずれも,同月15日,甲及び乙に対し,「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認した。
すると,甲は,同日,「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を供述したため,司法警察員Pは,同日及び翌16日の2日間,V女が死亡した経緯やV女の死体を遺棄した経緯等を聴取した。これに対し,甲は,[メール1]の内容に沿う供述をしたものの,上申書及び供述録取書の作
成を拒否した。そのため,司法警察員Pは,同月17日から,連日,前記強盗事件に関連する事項を中心に聴取しながら,1日約30分間ずつ,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関する上申書及び供述録取書の作成に応じるように説得を続けた。しかし,結局,甲は,この説得に応じなかった。なお,司法警察員Pは,甲の前記供述を内容とする捜査報告書を作成しなかった。
一方,乙は,同月15日に余罪がない旨を供述したので,司法警察員Qは,以後,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関連する事項を一切聴取することがなかった。
7 甲は,司法警察員Pによる取調べにおいて,前記強盗の犯人であることを一貫して否認した。 同月21日,検察官は,甲を前記強盗の事実により公判請求するには証拠が足りないと判断し, 甲を釈放した。
乙は,同月18日,司法警察員Qによる取調べにおいて,前記万引きの事実を認めた上,同月 20日,弁護人を通じて被害を弁償した。そのため,同日,スーパーMの店長は,乙の処罰を望 まない旨の上申書を検察官に提出した。そこで,検察官は,乙を勾留されている窃盗の事実によ り公判請求する必要はないと判断し,同月21日,乙を釈放した。
その一方で,同日中に,甲及び乙は,V女に対する殺人,死体遺棄の被疑事実で通常逮捕され た【甲につき,逮捕3。乙につき,逮捕4。】。甲及び乙は,同月23日,H地方検察庁検察官に 送致された上,同日中に前記殺人,死体遺棄の被疑事実で勾留された。なお,甲及び乙は,殺人, 死体遺棄の被疑事実による逮捕後,一切の質問に対して黙秘した。また,司法警察員Pは,殺人, 死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,甲及び乙の自宅を捜索したも のの,殺人,死体遺棄事件に関連する差し押さえるべき物を発見できなかった。その後,検察官 は,Bのパソコンにおけるメールの復元・分析の結果,Bのパソコンにも,甲の携帯電話及び乙 のパソコンに残っていた前記各メールと同じメールが保存されていたことが判明したことなどを 踏まえ,勾留延長後の同年6月11日,甲及び乙を,殺人,死体遺棄の事実により,H地方裁判 所に公判請求した。
検察官は,公判前整理手続において,捜査報告書【資料1】につき,「殺人及び死体遺棄に関す る犯罪事実の存在」,捜査報告書【資料2】につき,「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録 の存在と内容」を立証趣旨として,各捜査報告書を証拠調べ請求したところ,被告人甲及び被告 人乙の弁護人は,いずれも,不同意の意見を述べた。

(略)
〔設問2〕 捜査報告書(【資料1】及び【資料2】)の証拠能力について,具体的事実を摘示しつ つ論じなさい。


【資料1】
H県警察本部刑事部
司法警察員 警視正
死体遺棄
捜査報告書 S 殿
平成22年5月3日
H県警察本部刑事部捜査第一課 司法警察員 警部 P 印
被疑者 B (本籍,住居,職業,生年月日省略)
被疑者Bに対する頭書被疑事件につき,平成22年5月3日,被疑者Bの自宅において 差し押さえたパソコンに保存されたデータを精査したところ,A女あてのメールを発見し たので,同メールを印刷した用紙1枚を添付して報告する。
[メール1]
送信者: B
宛先: A女
送信日時: 2010年3月1日 23:03 件名: さっきはゴメン
さっきは,電話を途中で切ってゴメンな。今日の午後8時に甲が家に来たやろ。ここか ら,すごいことが起こったんや。いずれ結婚するお前やから,打ち明けるが,甲は,俺の 家で,いきなり,「30分前に,俺の家で,乙と一緒にV女の首を絞めて殺した。俺がV女 の体を押さえて,乙が両手でV女の首を絞めて殺した。V女を運んだり,V女を埋める道 具を積み込むには,俺や乙の車では小さい。お前の大きい車を貸してほしい。V女の死体 を捨てるのを手伝ってくれ。お礼として,100万円をお前にやるから。」と言ってきたん や。甲とV女のことは知っているやろ。甲は俺の友人で,V女は甲の奥さんや。乙のこと は知らんやろうけど,俺の友人に乙というのがいるんや。その乙と甲がV女を殺したん や。俺も金がないし,お前にも指輪の一つくらい買ってやろうと思い,引き受けた。人殺 しならともかく,死体を捨てるだけだから,大したことないと思うたんや。その後,すぐ に,甲の家に行くと,V女の死体があったわ。また,そこには,乙もいて,「俺と甲の2人 で殺した。甲がV女の体を押さえて,俺が両手でV女の首を絞めて殺したんや。死体を捨 てるのを手伝ってくれ。」と言ってきた。その後,俺は,甲と乙と一緒に,V女の死体を俺 の車で一本杉まで運び,そのすぐ横の土を3人で掘ってV女の死体をバッグと一緒に投げ 入れ,土を上からかぶせて完全に埋めたんや。V女の死体を埋めるのに,午後9時から1 時間くらいかかったわ。疲れた。分かっていると思うが,このことは誰にも言うなよ。こ れがばれたら,俺も捕まることになるから。そうなったら,結婚もできんわ。100万円 もらったら,何でも好きなもの買ってやるから,言ってな。


【資料2】
H県警察本部刑事部
司法警察員 警視正
殺人,死体遺棄
捜査報告書 S 殿
平成22年5月12日
H県警察本部刑事部捜査第一課
司法警察員 警部
被疑者
P 印

被疑者 (いずれも,本籍,住居,職業,生年月日省略)
被疑者甲及び同乙に対する頭書被疑事件につき,平成22年5月12日,H県警察本部 において差し押さえた甲の携帯電話に保存されていた甲とBとの間におけるメールの交信 記録を用紙1枚に印刷したので,これを添付して報告する。
[メール2-1]
送信者: B
宛先: 甲
受信日時: 2010年4月28日 22:00 件名: 早うせえ
V女の死体を埋めたお礼の100万円払え,早うせえや。 お前らがやったことをばらすぞ。
[メール2-2]
送信者: 甲
宛先: B
送信日時: 2010年4月28日 22:30 件名: Re:早うせえ
もう少し待ってくれ。 必ず,お礼の100万円を払うから。
平成23年司法試験刑事系第2問*3


設問1の事務処理に時間がかかってしまい、残り時間があまりない中、設問2に入る。この年も伝聞か。

第2 設問2
1 本件において2通の捜査報告書に証拠能力があるか、これは伝聞証拠(320条)であるから、捜査報告書がどの伝聞例外に該当するかが問題となる。
2 思うに、捜査報告書は、捜査官が捜査をした結果を記載するものであり、捜査直後にその内容を正確に記述するものとして、実況見分調書に類似する。よって、実況見分調書と同様検証調書の要件(321条3項)を満たせば、証拠能力が認められるものと解する。
3 以上より、Pが公判で証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、資料1及び2資料2の証拠能力が認められる。
以上


よし、できた、できた。何か色々と細かい問題はありそうだけど、面倒くさいし、よく分からない。間違った事を書いたら逆に減点だから、目をつぶってしまえ。これが「守りの答案」だ。



「あんた、馬鹿じゃないの? 捜査報告書がどの伝聞例外類型に該当するかなんて、そんな論点あるはずないじゃない!」突然後ろから大声で罵倒される。振り向くと、ひまわりちゃんがいた。うちのクラスの誰かから借りた(強取)らしく、メイド服が、ぶかぶかだ。本来マイクロミニのはずのスカートが膝まで来ており、絶対領域は1ミリあるかないかだ。


「ど、どこ見てんのよ! まさか、捜査実務を知らずに刑訴の勉強なんてやってないでしょうね?」


いや、捜査実務を知っているロースクール生なんて、元検察事務官とか、元警察官とか、元裁判所事務官とかといったレアケースだけだと思うな。


「とにかく、捜査報告書って、どういう内容が書かれているものなのか、言ってみなさい!」


えっと、捜査の結果を報告している訳だから、こんな捜査をしたとか、あんな捜査をしたとか…。


「だから、具体的な捜査よ、問題は。」


えっと、今回の問題だと、メールを印刷するとかかなぁ。


「捜査報告書って、メールを印刷した結果を貼り付けるだけなの?」


いや、それ以外にも…。


「例示は理解の試金石よ*4。例えば、実質的には参考人*5の供述調書みたいな捜査報告書が作られることもあるわ。また、簡単な実況見分みたいなことをやった時に、報告書のタイトルが捜査報告書になっていることもあるわね*6。」


あ、そうか、要するに、捜査報告書にはいろいろな内容のものがあるということか。


「やっと分かったのね。まったく、ニブいんだから。だから、『捜査報告書』というタイトルを問題とするのではなく、その報告書に記載されている具体的な記述内容から判断しないと明後日の方向に行ってしまうわ。」


なるほど、こう考えるのか。えっと、そうすると、伝聞例外のうちのどれに該当するのだろう。


「馬っ鹿じゃないの? なんでその証拠が伝聞証拠かどうかについて検討せずに、ダイレクトに伝聞例外を探してる訳?」今日は、僕が座って、ひまわりちゃんが立っているから、ちょうどひまわりちゃんが僕を見下す格好になる。ひまわりちゃんの機嫌が良さそうなのは、きっとそれが理由なのだろう。一般的な取調室の構造が、取調官が奥の席で、その後ろに窓があるため、窓からの逆光で、被疑者にとって取調官が大きく見える、というのと似ている。


いや、捜査報告書は書面だろ。書面は当然伝聞証拠なんじゃないの?


「あらあら困ったわね。まあ、既習者でも、伝聞はよく理解できていない人が多いから、ある意味しょうがないのではなくて。」突然現れてうふふ、と微笑むリサさんは、ひまわりちゃんと異なり、正統なヴィクトリアンメイド服を着ている。そうそう、これこれ、これこそ本当のメイド服だ。う〜ん、眼福、眼福*7


「突然現れて、ひまわりの台詞を取るな〜!」手足をバタバタさせるひまわりちゃん。


「まずは、伝聞証拠の意義について考えてみましょうか。伝聞証拠の定義はどうなっていて?」リサさんも、ひまわりちゃんをあやすのがうまくなってきた。


伝聞法則は憲法37条2項の被告人の反対尋問権を実質化させるため認められたものだから、*8反対尋問を経ていない供述証拠



「あらあら、公判期日で証人が主尋問では答えていたのにその後、反対尋問で黙秘をした場合はどうなって? また、主尋問の次の日に反対尋問が予定されていたんだけど、主尋問が終わった夜に証人が死亡したら*9? そもそも、被告人の反対尋問権だけを強調しちゃうと、被告人本人の供述については、被告人の反対尋問なんて考えられないのではなくて?」


う...。



当然予想される反論に対する準備もせずに軽々と発言するのは、実務家として失格よ。反対尋問を重視する見解もあるけど、320条がその文言上検察官・被告人の双方に区別なく適用されることからは、事実を認定する裁判所が直接見聞きした事実を認定する直接主義、そして、検察官・被告人双方が反対尋問を行い攻防をするとの当事者主義の双方を根拠としているところ、これらはいずれも公判中心主義*10の実現を狙いとしていると考えれば、現行法を整合的に解釈できるわ*11!」



そうすると、伝聞証拠の定義はどうなるのだろう。



「あらあら、まずは、320条1項の文言から考えてみましょう。文言上証拠能力が否定されるのは?」


公判期日外の供述を内容とする証拠、かな。


「うふふ、いいじゃない。証人尋問権を過度に重視しない立場からは、この『供述』という言葉に、日常語と異なる意味を含ませるのが一般的だわ。供述とは『人が一定の事実を見て、それを記憶し、これを表現し叙述したものを、その事実の存在の証明のために用いる場合』といわれていて*12、だからこそ、伝聞証拠は『公判期日外の供述を内容とする証拠であって、その供述の内容の真実性を立証するために提出・使用される証拠』*13になるのだけど、分かるかしら。」


言葉としては分かるのだけど、その内容が曖昧模糊としていて、ピンと来ない。


「そうね、ここはロースクール生でも、きちんと理解している人が少ないところね。例えば、甲がVを殺すという場合において、丙という人がこれを目撃していた、としましょうか。甲の殺人罪の裁判で、丙が証人として呼ばれて、『甲がVを殺すのを見た』と証言した場合、この証言は伝聞証拠になって?」


なんとなく、伝聞証拠にならなそうだなぁ。


「次に、同じ裁判で、丙さんではなく丁さんが証人として呼ばれて『丙が「甲がVを殺すのを見た」と言っていた』と証言したのであれば、この証言は?」


なんとなく、こっちの場合には、伝聞証拠になりそう。


「うふふ、そうよ。でも、問題は、なぜその差が出るかというところよね。」


それが分かれば…。


「あんたそれでも本当に既習者? 学部から、いや、人生最初からやり直した方がいいんじゃないの? そもそも、日常生活では、伝聞証拠だって普通に使って判断の材料にしているわよね。あんたが、鈴木から聞いた『山田の話』とやらを信じたのは、日常生活では、伝聞証拠を判断の材料としても、特に大きな問題がないからよね。でも、刑事訴訟法は、原則として、伝聞証拠を証拠から排除し、そもそも裁判所による判断の材料とすることを拒んでいる。これはまさに直感に反する(counter-intuitive)話な訳で、受験生が問題を見て、直感で伝聞か非伝聞かを直感で憶測しても、間違えるのは当然よ。でも、伝聞法則は1つのロジックに基づいて作られているから、このロジックさえ理解しておけば、どの問題であっても、このロジックを適用するだけで伝聞証拠かどうかが分かるようになるわ。このひまわりちゃんが特別に図示して説明してあげるから、ありがたく思いなさい!」どこからかミニホワイトボードを調達してきたひまわりちゃん。枠に取り付けられた花を見る限り、多分メイド喫茶の入り口にあった看板を使用窃盗して来たものだろう。


丙発言(甲がVを殺すのを見た) 知覚殺人を目撃
記憶目撃内容を記憶
表現(真摯性)嘘をつかず記憶のまま述べる
叙述通常の言葉の意味通り、言い間違いなく述べる
丁発言(丙発言を聞いた)知覚発言を聞く
記憶発言内容を記憶
表現(真摯性)嘘をつかず記憶のまま述べる
叙述通常の言葉の意味通り、言い間違いなく述べる


「まず、丙の発言は、目撃から証言まで、知覚・記憶・表現・叙述という4段階の過程(供述過程)を経ているわ。この過程それぞれに、知覚なら見間違い・聞き間違い、記憶なら記憶の薄れや混同、表現(真摯性)なら嘘をつく、叙述ならその人独自の特殊な用語法を用いているとかいい間違いをするといった誤りが介在する可能性がある。実際に、山田から鈴木そして、あんたへの『伝言ゲーム』のどこかで、『クラスの野郎どもが女装しているメイド喫茶』が、『美人メイドのいるメイド喫茶』に化けた訳よね。まあ、ひまわりちゃんがいる訳だから、結果的には間違いではないけど。」


それを自分で言うなって。


「うるさーい!うるさーい! いずれにせよ、こういう間違いがあっても、日常生活では大した話ではない。でも、刑事裁判では一人の人の命を奪うことだってできる。この各段階のどこかに間違いが潜んでいれば、全くの無実の人が有罪になってしまうこともある。平成23年に再審無罪が確定した布川事件*14は、自白の問題もあったけれど、目撃者の供述について、供述がなされた経緯の不自然さ、変遷、他の証拠との不整合性等から信用性を否定していて、これが無罪の重要な理由になってるわ。だからこそ、事実認定をする裁判所がこの様子を直接見聞きし、また、当事者が反対尋問をすることで、この各段階に誤り等がないか吟味する必要があるわ。」


なるほど。


「あらあら、ひまわりちゃんにしては、珍しく丁寧な解説ね。丙が証言をしている最初の事例の場合には、丙が公判廷で証言しているから、丙についての4つの過程それぞれについての必要な吟味がなされたとみていいわね。だから、これは伝聞証拠ではないから、裁判所が証拠として活用できるわ。」


この証拠に基づいて甲の有罪を認定できる、ということか。


「伝聞法則は、証拠能力の問題だから、伝聞証拠ではないということは、裁判所が判断材料の1つに使えるというだけよ。後はこれを信じるか(信用性)は裁判所の判断ということね。」


そうか、証拠能力と証拠評価は違うんだった。


「これに対し、次の、丁が公判廷で証言する場合には、公判廷にいるのは丁だけだわ。そうすると、丁についての4つの過程(上記図の下の過程)は吟味できても、丙についての過程は(丙が公判廷にいない以上)吟味できない。だから、丁の証言(の丙の話を内容とする部分)は伝聞証拠よ。」



そうか、伝聞証拠かどうかの違いはこう考えるのか。


「うふふ、後は、書面の場合だけど、丁度オムライスが来たみたいだから、ケチャップで書いて教えてあげましょうかね。甲がVを殺したとして起訴された事件において、丙が作成した『私(丙)は甲がVを殺すのを見ました。』という書面は伝聞証拠なのかしら。」いつの間にリサさんが特大オムライスを注文していた、って本当にでかいなぁ。


う〜んと、考え方は、知覚・記憶・表現・叙述の過程を吟味できるか、ってことかな。


「そうよ。こういう図になるわね。書面では、この各過程を裁判官が供述態度を見たり、反対尋問をしたりして吟味できないから、証拠能力がない、ということになるわ。」オムライスのキャンバスに、赤い字が踊る。

丙書面(甲がVを殺すのを見た) 知覚殺人を目撃
記憶目撃内容を記憶
表現(真摯性)嘘をつかず記憶のまま記載
叙述通常の言葉の意味で、書き間違いなし



「そこ、リサさんのサービスに鼻の下伸ばさない! 私がスパルタで特訓するわ。」



「あらあら、釣った魚には、きちんと餌をやらないと死んでしまうわよ。ひまわりちゃんも、きちんとサービスしてあげないと。特訓の成果が’出たら、ひまわりちゃんがふぅふぅしてオムライスを冷ましてあげる、とか。」『釣った魚』って、リサさんも面白い比喩を使うなぁ。いったい誰の事だろう?


「わ、分かったわよ。もし、猛特訓の結果、あんたが設問2にうまく答えられたら、このオムライス、まだ熱いから、私が冷ましてあげるわ。」


いやいや、僕はもう子どもじゃないから自分で冷ませるんだけどなぁ...。


「異論は認めないわ! じゃあ、さっきの丁が『丙が「甲がVを殺すのを見た」と言っていた』と証言した事案なんだけど、証言の場所が、甲がVを殺したとして殺人罪で起訴されている法廷ではなくて、丙が甲について嘘八百を並べ立てて名誉を毀損したという名誉毀損罪で丙が起訴されている法廷だったら、これは伝聞証拠?それとも伝聞証拠じゃない?」


う〜ん、難しいなぁ、伝聞証拠にも見えるし、伝聞証拠でないようにも見える…。


「いい? 丙が(公然と)「甲がVを殺すのを見た」と発言しさえすれば、それが間違っていようが間違ってなかろうが、名誉毀損罪の構成要件該当性は満たされる訳。だから、この事案では、特に、丙の供述の4過程を吟味する必要はない。丁の供述の4過程は吟味が必要だけど、それは丁が法廷にいるから吟味は可能ね。だから、伝聞証拠じゃないのよ!」ひまわりちゃんは、さっきのホワイトボードの横に注記を付ける。


名誉毀損行為が問題となっている(要証事実)場合
丙発言(甲がVを殺すのを見た) 知覚殺人を目撃表現の真摯性に欠ける(意図的に嘘をついている)場合はもちろん、知覚・記憶・叙述に誤りがあろうがなかろうが、丙発言が存在しさえすれば、名誉毀損罪の構成要件該当性は満たされる
記憶目撃内容を記憶
表現(真摯性)嘘をつかず記憶のまま述べる
叙述通常の言葉の意味通り、言い間違いなく述べる
丁発言(丙発言を聞いた)知覚発言を聞く全て法廷で吟味可能
記憶発言内容を記憶
表現(真摯性)嘘をつかず記憶のまま述べる
叙述通常の言葉の意味通り、言い間違いなく述べる


「今ひまわりちゃんが説明した問題は、要証事実*15の問題ね。要証事実というのは、裁判官から見た、当該証拠によって証明しようとする事実*16。さっき、供述とは『人が一定の事実を見て、それを記憶し、これを表現し叙述したものを、その事実の存在の証明のために用いる場合』とか、伝聞証拠は、『公判期日外の供述を内容とする証拠であって、その供述の内容の真実性を立証するために提出・使用される証拠』と言たけど、キーになるのは「その事実の存在の証明のために用いる」と「その供述の内容の真実性を立証」ね。」


その内容通りの事実があったかどうか、ということか。


「うふふ、その訴訟において、発言/書面の内容が真実であるか否かが重要な問題か、というのが問われているのよ。殺人罪の立証(甲がVを殺したことが要証事実の場合)のためには、丙の発言の内容が真実であるかが重要な問題(丙の発言が真実でなければ、そのような発言があったこと自体は、殺人を立証する上で意味をなさない)だから、丙についての各過程の吟味が必要。だから、丁の証言は伝聞証拠だわ。しかし、少なくとも名誉毀損罪の構成要件の立証(丙が名誉毀損発言をしたことが要証事実の場合)のためには、丙がその発言(つまり構成要件該当行為)をしたかどうかだけが問題で、丙の発言内容の真実性は直接関係がない。だから、丙についての各過程の吟味は不要になって、丁の証言は伝聞証拠ではないのよ。」


なるほど、証拠の中に、誰の供述過程が存在するのかを漏れなく図示し、要証事実を裁判官の立場から考えて、その要証事実に鑑みて、供述内容の真実性が問題となっていなければその供述過程の吟味は不要。供述内容の真実性が問題となっていれば、供述過程の吟味がなされているかを考え、吟味がなされていなければ伝聞証拠になる、こういうことか。


「あらあら、理解が深まったようね。」



えっと、リサさん、平成23年の試験問題だと、「殺人及び死体遺棄に関す る犯罪事実の存在」とか「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録 の存在と内容」っていう「立証趣旨」ってのも問題になっているんだけど、立証趣旨と要証事実の関係はどう整理すれば...。


「ここで、証拠を提出する当事者は、『立証趣旨』といって、その当事者自身がその証拠によって立証することを意図する事実を記載する*17んだけど、裁判所は立証趣旨に拘束されず、裁判所が当該訴訟の証拠構造に鑑みて必要とされる事実の立証のため、当該証拠を用いることができると解されているわ。だから、要証事実が何かを判断する上で、立証趣旨は参考になるけど、これをうのみにしてはだめよ*18この事案において、裁判官は、この証拠からどういう事実を立証しようとしているのか、を考えることよ*19。」


「じゃあ、理解を確認するため、設問2の資料1を分析しなさい!」


まず、Pが捜査報告書上に、自らの精査結果を記録するという過程が1つあり*20、その上で、Bがメールという形で自分が知覚した甲乙から殺人の自白を聞いた話と、甲乙と共に死体遺棄をした話について記録する過程がある(Bの供述書)。更に、Bのメールの中には、甲乙が殺人について自白し、死体遺棄行為への参加を勧誘するという過程もある。


「あら、あんたにしては珍しくいいじゃない。」少し驚きの表情を浮かべる、ひまわりちゃん。


今回は、甲乙による殺人・死体遺棄罪の裁判で、被告人は黙秘をしていて、本当に甲乙が殺人・死体遺棄をしたのかが問題となっている。だから、要証事実は、殺人・死体遺棄の有無だ。そうすると、メールの内容はPが正しく写したものでなければいけないから、Pの供述過程を吟味すべきだし、Bのメール全体についても、本当に甲乙から殺人の自白を聞いたのか、そして、甲乙と共に死体遺棄をしたのかが問題となるから、Bの供述過程を吟味すべき。甲乙の発言部分については、(各行為者同士の共謀による)死体遺棄に関する限りでは、死体を埋めるのを手伝ってくれとの発言は、まさに有罪となるため立証されるべきである共謀行為そのもの*21であり、死体遺棄の共謀という要証事実の限りでは、発言内容の真実性は問題とならない。これに対し、殺人に関しては、果たして殺人を行ったのかという点が問題となる*22から、甲乙の供述過程を吟味すべき。だから、伝聞証拠だ。


P捜査報告書知覚供述過程を吟味すべきなのにされていない!
記憶
表現(真摯性)
叙述
Bメール知覚供述過程を吟味すべきなのにされていない!
記憶
表現(真摯性)
叙述
甲発言知覚死体遺棄/殺人の違いに注意
記憶
表現(真摯性)
叙述
乙発言知覚死体遺棄/殺人の違いに注意
記憶
表現(真摯性)
叙述


「まあまあね。じゃあ、伝聞証拠だとなったら、これで終わり?」ひまわりちゃんの目が輝き出す。



伝聞例外の該当性を考える。



「全ての伝聞証拠を排除していたら逆に適正な裁判ができないこともあるから、使用の必要性があって信用性が担保されている(信用性の情況的保障)場合には、例外的に伝聞証拠にも証拠能力を認めるってことね。具体的には?」


Pについてみると、口頭での報告よりも正確性を保ち得る(必要性)し、物の状態の客観的認識をその場で記録する(信用性の情況的保障)という意味で、判例上321条3項が適用される実況見分調書*23と同様であり、同条の要件を満たせば伝聞例外となると言える*24。Bについてみると、被告人以外の者の供述を内容とする書面として323条1項3号の問題であるところ、Bは死亡しており供述不能といえ、甲乙は黙秘しているから、この証拠が不可欠と言える。更に、結婚を考えて真剣に交際している相手に対し虚偽を打ち明ける理由はない*25から、特信情況も認められる。よって、この点も伝聞例外といえる。甲乙については被告人であるが、甲については乙、乙については甲は第三者だから自らの供述を使う場合には322条1項、相被告人の供述を用いる場合には321条1項3号の要件を満たす必要がある。322条1項についてみると、いずれも殺人という不利益な事実を承認しており、その目的は、証拠隠滅工作に引き込むためであって嘘を言う理由はなく、任意になされている。また、321条1項3号についても、甲乙いずれも黙秘しており、被告人質問への回答を拒む可能性が高いところ、その場合には供述不能に該当し*26得る。そして、甲が捜査段階で自白した際の調書等が存在しないことから、そのような場合には、他の証拠(資料2)だけでは殺人罪の共謀共同正犯の要件である殺人行為及び共謀の立証のため不十分であって、Bのメール内の双方のメールが犯罪事実の存否の証明に欠くことができない。そして、証拠隠滅工作に引き込むためにその前提となる犯罪を打ち明けることは、特に信用すべき情況の下で行われたと見ることができる。よって、相被告人が(捜査段階のみならず)公判段階でも黙秘する場合に限り、証拠能力が認められる。



「そもそも、Bメールのうち甲乙の発言以外は証拠になるし、被告人各人についてはメール内の自分自身の発言部分が証拠になることから、それに加えてメール内の相被告人の発言部分まで不可欠性があるのか、等も問題になり得るけど、まあいいわね。もういっちょ、資料2よ。」ひまわりちゃんは上機嫌だ。


資料2は、Pの供述過程、Bの供述過程、そして甲の供述過程があるところ、Pについては、資料1と同様だろう。問題はBと甲であるところ、やりとりそのものが、犯罪の礼金の督促を行い、それに対する支払いを約する内容であるところ、犯行後とされる時間に犯行の礼金の督促に関する会話があったという事実があれば、その事実そのものから犯行を推認できるから、会話の「内容の真実性」は問題とならない*27。だから、Pについて321条3項の要件を満たせば、資料2は証拠能力を持つ。


P捜査報告書知覚供述過程を吟味すべきなのにされていない!
記憶
表現(真摯性)
叙述
Bメール知覚供述過程を吟味する必要なし。
記憶
表現(真摯性)
叙述
甲メール知覚供述過程を吟味する必要なし。
記憶
表現(真摯性)
叙述


「まあ、しょうがないわね、約束どおり、オムライスを冷ましてあげるわ。」まんざらでもなさそうな表情の、ひまわりちゃん。


「あらあら、ここはメイド喫茶なんだから、きちんと萌えを注入してあげないと。」悪ノリするリサさん。


「べ、別に誰にでもやってあげてる訳じゃ、ないんだからね。あ、あんただけなんだからっ!」動揺しながらも、おもむろに、両手でハート型を作るひまわりちゃん。



「おいしくなーれ!萌え萌えキュン!」赤面しながらの棒読みに、初々しさが感じられる。


「あらあら、そんな小声でぼそぼそ言っても、『ご主人様』を喜ばせられないのではなくて?」挑発するリサさん。



「うるさい!黙れ!」スプーンで乱雑にオムライスをすくい、「ふぅーふぅー」と言いながら冷ますひまわりちゃんの姿は、ただの中学生にしか見えない。キレキレ(二重の意味で)の刑事弁護人だなんて誰も思わないだろう。


「あらあら、ひまわりちゃんは、いい奥さんになりそうね。うふふ」


「べ、別に、あんたのことが好きだからこうしてる訳じゃないんだから、勘違いしないでよねっ! 助手が熱いオムライスで火傷して、私が困るのがいやなだけなんだから!。」ひまわりちゃんが苦しい言い訳をしているが、オムライスはもうとっくに冷めきっており、そのままでもサクサク食べられた。





「失礼します、ご主人様。」皿が空になった頃、突然山田の声がした。ふと、気がづくと、リサさんの姿にひかれたのか、ここ、場末のメイド喫茶にも多くの人が集まって来ていた。


「そろそろご出発のお時間です。」満面の笑みでお辞儀をする山田。要するに、もうサクラは要らないから帰れということだろう。


じゃあ、帰ることにするよ。自習室にでも行って今日の復習をしよう。


「行ってらっしゃいませ、ご主人様!」メイド3人の声がハモった。



まとめ
 今回も、解説のメリハリと言う趣旨から、伝聞証拠に該当するか否かだけにフォーカスし、それ以外は結論だけを示すという対応を取ることとなった。この試みが成功しているか分からないが、皆様からの忌憚なきご意見を頂戴致したい。

*1:ご指摘を受け、修正いたしました。

*2:http://alfalfalfa.com/archives/6085792.html参照、但し設定上山田君の具体的な出身高校は想定していません。

*3:http://www.moj.go.jp/content/000073974.pdf

*4:数学ガール」より

*5:場合によっては被疑者の

*6:なお、写真ばかりの時は「写真撮影報告書」というタイトルが一般的

*7:ご指摘を受け、修正いたしました。

*8:事実認定をする裁判所の前での

*9:緑「刑事訴訟法入門」270〜271頁参照。ただし、320条1項の文言が「公判期日における供述に代えて」「公判期日外における」としていることとの整合性が問題となる。なお、憲法37条2項と320条1項の関係につき、緑「刑事訴訟法入門」269頁、リークエ347頁、最判平成7年6月26日刑集49巻6号741頁等が参考になる。

*10:捜査と公判の双方で構成される刑事手続において、処罰およびその前提となる事実認定の公正性・適正性を保障するには、公判手続が刑事事件の真の決着の場として、刑事手続の中軸に置かれる必要があるということ。リークエ13頁参照

*11:緑「刑事訴訟法入門」267〜268頁。なお、そもそも職権主義的背景を持つ直接主義と、当事者主義を接合させるのは可能かという問題はあるところである。田宮「刑事訴訟法」365頁参照。

*12:緑「刑事訴訟法入門」269頁

*13:緑「刑事訴訟法入門」271頁

*14:第3話参照

*15:これを「立証事項」とした方が正確であるという見解(リークエ349頁参照)があり、それはある意味もっとも(間接事実や補助事実の推認のために用いられる証拠もある)なところがあるが、「立証趣旨」との混同を避けるため、あえてここではより一般的な「要証事実」の語を用いる。

*16:緑「刑事訴訟法入門」272頁

*17:正確には、本来、証拠と証明すべき事実との「関係」(規則189条1項)を記載すべきだが、実務上は、「その証拠から請求者が立証しようとする事実」を簡潔に記載している。

*18:例えば本問でも、「検察官の立証趣旨の「メールの交信記録の存在と内容」の「存在」「内容」という言葉だけをとらえ,「交信記録の存在」 である場合には非伝聞証拠であり,「メールの内容」である場合には伝聞証拠であるなどと,検察官の立証趣旨を勝手に断じて論ずる答案が,いまだに多数見受けられた。」と採点実感が苦言を呈している。

*19:最判平成17年9月27日刑集59巻7号753頁参照。なお、この判例については、第6話〜夏だ、海だ、水着だ!〜平成21年設問2において解説予定。

*20:なおPの供述過程を無視した答案が多かったらしく、採点実感では「司法警察員により作成された捜査報告書の証拠能力が問われているにもかかわらず,メールを印刷したものであるから,知覚,記憶,表現の過程に誤りが入 り込む余地はなく,非伝聞証拠であるなどと断じた無理解を露呈する答案さえも見受けられた。」等と批判されていますね。

*21:甲及び乙の内心の状態を推認させる発言としての処理も可能

*22:単に「殺した」と発言したというだけでは、要証事実との関係で重要な証拠価値があるとは言えない。

*23:最判昭和35年9月8日刑集14巻11号1437頁等参照

*24:緑「刑事訴訟法入門」283頁、リークエ367頁参照

*25:なお、内容は外部事情たる特信情況の推認の限りでは利用できるところ、メールの内容がA女の供述内容や死体発見状況と合致することも指摘可能

*26:2号書面であるが証人の証言拒否を供述不能とした最判昭和27年4月9日刑集6巻4号584頁

*27:会話の内容が真実であればもちろんとても重要であるが、仮にその内容自体の真実性が不明であっても、会話の存在そのものが、犯行を推認する上で重みがある事実。