アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

刑訴ガール13話〜遊園地でのデート前編〜平成18年その1

刑事訴訟法教室

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注:刑訴ガールは、架空のロースクールを舞台にライトノベル調で司法試験を解説するプロジェクトです。ロースクールに進学しても、刑訴ガールはいません。



舞浜駅前に午前10時に来なさい!」日曜の朝、ひまわりちゃんからの突然の通告。


しょうがないなぁ、と思ったが、もう午前9時だ。あわてて仕度をして家を出るが、東京駅での乗り換えで手間取って、10分位遅れてしまう。素早い京葉線の乗り換え方法なんて、リア充には常識かもしれないが、僕のような非リアにとっては不知である。



「レディを待たせるなんて、許さないんだから!」プンスカ怒るひまわりちゃん。今日はめずらしく髪を下ろしている。しかも、いつもの制服じゃなくて、薄いベージュのワンピースに、黒のフレアスカート。ワンピースについたダークブラウンのリボンがアクセントになっている。


今日はこれから遊園地に行く、ってことかな。


「集合場所でわからなかったの? チケットは用意してあるわ。」ひまわりちゃんは、チケットを2枚取り出して1枚を僕に渡すと、僕の手を引いて、駅から徒歩で行ける距離にある遊園地に向かって歩き出す。幸運なウサギをマスコットにしたこの遊園地は、日曜日ということもあって、家族連れやカップルで賑わっていた。


「あらあら、二人とも、よろしくやっているようね。」突然声をかけてきたのは、おとぎ話に出てくるお姫様の格好をしたリサさん。


ここは、コスプレはだめなところでは?


「うふふ、コスプレだとわからない位本物に似せればよろしくてよ。」上品に笑う様子は、本物のお姫様もたじろいでしまう程だ。


「私たちも、『偶然』この遊園地で遊ぶことになったのよ。お二人は気兼ねなく遊んで来てね。」笑みを浮かべるロビン先生。


「二人で私たちを監視するつもりね。遊園地のペアチケットをくれたのは、そういう策略だったのね! 汚いわ!」リサさんを非難するひまわりちゃん。どういう風の吹き回しで遊園地に来ることになったのかと思ったら、そういうことだったのか。


「うふふ、ただの『偶然』よ。私たちにはどうぞお構いなく、お二人でお楽しみ下さいませ。」上品なお辞儀をしてロビン先生と一緒に去って行くリサさんの姿は、まるでプリンセスとその従者のようだ。


「あいつらの監視をかいくぐらなければいけないわね。そうだわ。」こう言って、ひまわりちゃんが取り出したのは、ひまわりちゃんがいつも持ち歩いている被疑者ノート*1だ。


こ、これをどうしろと?


「シッ!」こういうと、ひまわりちゃんは、ペンを取り出し、被疑者ノートにメモを始めた。


「これからは、盗聴されてもいいように、言いたい事は、このノートに書きましょう。」


分かったよ。それじゃあ、どこに行こうか? ひまわりちゃんの言うがまま、ノートを使ったやり取りが始まる。


「ラージ・ライトニング・ヒルにしましょう。」ひまわりちゃんが書き込んだアトラクションは、人気のジェットコースターである。


アトラクションの前に到着すると、そこには長蛇の列が並んでいた。300分待ちという看板に怖じ気ずく事なく、ひまわりちゃんは真っすぐに最後尾に向かう。「待つ」能力は弁護人の資質の1つだろう。接見室が1つしかない警察署に弁護士が殺到すると、長時間待つことはザラだ。


「並んでいる間に、甲についての違法捜査について検討しましょうか。」


甲についての違法捜査というのは、こういう事件のことだ。

以下の事例を読んで,後記の設問1及び2に答えなさい。なお,各供述の内容は,信用できるものとする。【事例】
1(1)H県I市内を管轄するI警察署は,平成18年1月24日午後3時,同市内にあるA銀行B支店支店長Wからの110番通報を受け,直ちに警察官を現場に臨場させた結果,次の同店従業員Vの供述により,強盗致傷事件の被害状況が判明した。
(2)A銀行B支店従業員Vの供述要旨私が店内で業務をしていた午後2時55分ごろ,突然,刺身包丁を右手に持ち,目出し帽をかぶり両手に白い軍手をはめた男が支店に入ってきました。その男は,カウンター前にいたお客様のCさんに刺身包丁を突き付け,「動くな。動くと殺すぞ。」と叫びました。店内にはほかのお客様や支店長以下の私たち職員がいましたが,犯人は,私たちに向かって,「警察に通報したやつは殺す。早く金を出せ。札束を用意しろ。」と大声で怒鳴りました。
私は,日ごろW支店長から,「強盗に入られたら人命第一に考え,金を渡しなさい。」と言われており,W支店長を見ると,「早く金を渡してやれ。」というように私にうなずいていたので,とっさに,自分の机の上にあった一万円札100枚の札束18束をカウンター越しに犯人に向かって投げました。すると,犯人は,それを拾って,持っていた茶色のボストンバッグに入れ,すぐに入口の方へ向かって逃げていきました。そこで私は,カウンターを飛び越え,犯人を追い掛けて取り押さえようとしたのですが,途中で犯人に刺身包丁で左腕を刺され,ひるんだすきに逃げられてしまいました。その後,私は,入口から出た犯人を追ったのですが,入口のすぐ前の路上に,上が白・下がシルバーのツートンカラーの普通乗用自動車がエンジンをかけっ放しで止まっており,犯人は,その運転席に乗り込むとすぐ発車して,銀行前の南北に走る県道を南方向に向かって全速力で逃走しました。なお,車のナンバーは,0703でした。
犯人は,車に乗り込む直前に携帯電話で話をしていました。全部は聞き取れませんでしたが,「成功したぞ。例の場所で待っててくれ。」と言っているのは,はっきりと聞き取れました。
犯人は,目出し帽をかぶっていたので,人相も年齢も分かりませんでした。身長はCさんとちょうど同じくらいだったので,170センチメートルくらいで,体格は中肉中背です。また,上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色のジャージ上下を着ていました。
2同日午後3時20分ごろ,I警察署地域課のX巡査及びY警部補は,制服を着用し,パトカーに乗車してI市内J公園前の道路において警ら中,本署から無線により前記強盗致傷事件の犯人を発見せよとの指令を受け,その際,前記1の捜査結果の連絡を受けた。
X巡査及びY警部補は,J公園内で犯人を捜していた同日午後3時25分ごろ,A銀行B支店から南西方向に直線距離で約5キロメートル離れた同公園内に停車中の,上が白・下がシルバーのツートンカラーで,「I520ち0703」のナンバープレートを付けた普通乗用自動車を発見した。同車運転席には,上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用した30歳くらいのスポーツ刈りの男甲が乗車していた。
X巡査及びY警部補が同車に近づくと,甲が運転席側窓を開けたので,X巡査は,甲に対し,運転免許証の提示を求めたところ,甲は,「免許証は家に忘れてきた。」と言った。そこで,X巡査が,「あなたの住所と氏名は。」と聞いたが,甲は何も答えなかった。さらに,X巡査が,窓越しに車内を見ると,助手席上に茶色ボストンバッグが置いてあるのが見えたことから,「その助手席のバッグはあなたのものですか。」と質問したところ,甲は,とたんに落ち着きをなくし,そわそわしながら,「そうですよ。」と言った。X巡査が,「では,ちょっと中を拝見させてもらえませんか。」と言ったところ,甲は,「何で見せる必要なんかあるんだ。関係ないだろう。」
と怒ったような口調で答え,その後もX巡査が,再三,バッグの中を見せてくださいと要求したが,言を左右にしてこれに応じず,また,なぜこのようなところに車を止めていたのかとの質問にも答えなかった。なお,この間,Y警部補がI警察署に応援を求めた結果,同日午後3時40分ごろまでに同署から更に6名の警察官がその場に応援に駆けつけた。
3同日午後4時10分ごろ,甲は,突然,助手席上にあったボストンバッグを左腕に抱えて持ち,運転席ドアを開けて降車した。そのため,X巡査及びY警部補ら警察官合計4名が甲の前に立ちはだかり,「一体どこへ行くんですか。」と聞いたところ,甲は,「おまわりに何でそんなこと言う必要がある。」,「どけ。この野郎。」などと怒鳴り始めた。この間,Y警部補は,甲の横に立ち,甲の身長が170センチメートル程度であること,体格が中肉中背であることを確認した。また,Y警部補は,甲に対して,「ちょっとこのバッグを触らせてもらっていいですか。」と聞いたが,それについて甲が何も答えなかったので,甲が持っていたボストンバッグを外側から触れてみたところ,札束と考えても矛盾しない形状の物が多数入っている感触を得た。そのため,Y警部補は,甲がA銀行B支店における強盗致傷事件の犯人ではないかと考え,甲に対して,「実は,さっきこの近くで銀行強盗があったんですよ。あなたはその件について何かご存じですね。ちょっと,署までご同行願えませんか。」と聞いたところ,甲は何も答えなかったが,X巡査は,このとき,甲の顔色が変わると同時にその耳が赤くなったのを確認した。その直後,甲は,X巡査とY警部補の間をすり抜けるようにして逃げようとしたので,X巡査が,甲の左腕を右手でつかんだところ,甲は,これを振り払うや,X巡査の顔面を右手のこぶしで1発強く殴った。そこでY警部補は,同日午後4時20分,甲に対し,「お前を公務執行妨害で逮捕する。」と言って甲を制圧しようとしたが,甲は,左腕でボストンバッグを抱え込むようにしながら,右腕を振り回すなどして激しく抵抗したため,さらに,X巡査及び警察官3名も応援して,警察官合計5名で暴れる甲の体を押さえ付けて制圧し,甲を逮捕するとともに,左腕からボストンバッグを引き離した。
X巡査が,甲が持っていたボストンバッグをみると,施錠はされておらず,ファスナーを開けると,中から一万円札100枚の札束18束が発見された。さらに,札束の下からは,刃の部分に真新しい血痕が付着した刺身包丁1本,携帯電話1台が発見されたほか,レポート用紙に書かれたメモ1枚が発見された。このほか,甲が乗っていた普通乗用自動車内を捜索したところ,助手席の下から,目出し帽1個,白色軍手1双も発見された。そこで,X巡査は,同日午後4時30分,前記のとおり発見された一万円札100枚の札束18束,刺身包丁1本,携帯電話1台,メモ1枚及びこれらが入っていたボストンバッグ1個並びに目出し帽1個及び白色軍手1双を,逮捕に伴って差し押さえた。
X巡査は,甲をI警察署に連行して,同日午後4時50分,甲をI警察署刑事課長Z警部に引致した。引致後弁解の機会を与えたところ,甲は,公務執行妨害の事実について認めた。また,同日午後8時ごろ,甲は,公務執行妨害の事実についてZ警部の取調べを受けた際,A銀行B支店における強盗致傷事件についても自ら進んで供述を始め,銀行強盗は自分の単独犯行である旨の上申書をI警察署長あてに提出した。
4同月26日午前10時,甲は,公務執行妨害の事実でK地方検察庁に送致され,送致を受けたK地方検察庁の担当検察官Pは,同日,甲を勾留請求したところ,勾留状が発付され,執行された。P検察官は,1月31日,甲をK地方裁判所公務執行妨害の事実により起訴した。


「まず、職務質問はどう思う?」サラサラと書き込む白い指が眩しい。今日はひまわりちゃん、僕に全部答えさせる気だな。


・上が白・下がシルバーのツートンカラーの普通乗用自動車
・0703のナンバー
上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色のジャージ上下
・犯人が逃げた方角で約5キロ離れたところで犯行の約30分後に発見される
といった事情から、少なくとも、何かの犯罪を犯し又は既に行われた犯罪について知っていると認められる(警職法2条1項)として職務質問が正当化される。


「『甲が運転席側窓を開けた』から、開始時点では職務質問に同意しているとも見ることができるわね。問題はその後ね。」


その後、甲は質問に回答しようとしないけれども、質問に応じようとしない被疑者には翻意して質問に答えるよう説得ができる*2


「45分という時間の評価もミニ論点としてはあるわね。降りてきた甲の前に立ちはだかかったのは?」


警察比例の原則に照らして許容される範囲での最低限の「停止」が認められる*3


「捜査の発展的性格」ひまわりちゃんが大きな字で書く。各行為を行う時点までに新たに認識できた事情を追加して捜査の適法性を判断しなさい、という意味だろう。


職務質問時に存在した不審事由に加え、
・免許証を提示できない
・住所や氏名を答えようとしない
・(犯人と同じ)茶色のボストンバッグを所持
・ボストンバッグを指摘されて落ち着きを無くする
・なぜ公園内に停車しているか説明できない
・突然ボストンバッグを抱えて下車する
といった事情から、単に前に立ちはだかる程度の方法で止めることは必要性、相当性がある。


「所持品検査は?」


所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる*4


「『ちょっとこのバッグを触らせてもらっていいですか。』と聞いて何も答えなかった事実の評価。」難しいところを突いてくるひまわりちゃん。


黙認?


「弁護人の立場からは、『答えないのは、承諾していないという意味』と解する。」


「おまわりに何でそんなこと言う必要がある。」「どけ。この野郎。」などと怒鳴り始めた甲が承諾するはずがない、ということか。


判例からは承諾がない所持品検査は禁じられるの?」


捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り認められる余地がある。


「外を触っただけなら、『捜索に至らないし強制にわたっていない』となりそうね。ただ、捜索に至らない程度の行為であつてもこれを受ける者の権利を制約するものでしょ?」


だからこそ、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容される


「本件では?」


これまでの状況に加え、
・どこに行こうとするのか質問されても答えず、怒り出す
・身長170センチ、体格は中肉中背
という新たに判明した事実を総合すれば、不審事由はなお高まっている。
そして、犯人であればボストンバッグの中には札束が入っているであろうところ、ボストンバッグの中身が何かについて外から確認するに留まるのは、必要性が高い反面プライバシー侵害の程度も低く相当。


「腕を掴んだのは?」


任意同行の一環たる有形力の行使の適否の問題。


行政警察活動と、司法警察活動どっち?」


警職法2条2項の行政警察活動としての任意同行と、刑訴法198条1項の司法警察活動としての任意同行があるけれど、この時点でY警部補が「甲がA銀行B支店における強盗致傷事件の犯人ではないかと考え」たから、司法警察活動。


「捜査官の主観に過度に引きずられるべきではないのではなくて? まあ、この段階では嫌疑がかなり濃厚になっているから、客観的に見ても司法警察活動と評価できそうね*5。」


強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである*6


「岐阜飲酒検知事件ね。本件は、強制手段にあたらないの?」


そもそも、すり抜けようとする左腕を右手で一瞬つかんだだけであれば、任意同行に「応じるよう」甲を「説得するために行われたものであり、その程度もさほど強いものではないというのであるから、これをもって性質上当然に逮捕その他の強制手段に当たるものと判断することはできない」


判例そのままのあてはめね。任意捜査としての相当性は?


これまでの状況に加え、
・札束と考えても矛盾しない形状の物が多数入っている感触を得たこと
・銀行強盗について質問されて甲の顔色が変わると同時にその耳が赤くなったこと
から、任意同行の必要性は高いところ、このような被疑者である甲が突然逃げ出そうとしたのだから、同行に応じるよう説得を継続するため、まさに「説得のためにとられ抑制の措置であって、その程度もさほど強いものではないというのであるから、これをもって捜査活動として許容される範囲を超えた不相当な行為ということはでき」ない



「逮捕に伴う制圧は?」


左腕をつかんだことが適法だから、警察官を殴ったことにつき公務執行妨害罪(刑法95条1項)が成立する。警察官らは公務執行妨害を理由とした現行犯逮捕を行っているところ、犯人と犯行は明白で、甲は氏名も住所も黙秘しているのだから、逮捕の必要性がないとはいえない。


「犯罪捜査規範126条1項で「逮捕を行うに当つては、感情にとらわれることなく、沈着冷静を保持するとともに、必要な限度をこえて実力を行使することがないように注意しなければならない。」とあるんだけど。」


甲は左腕でボストンバッグを抱え込むようにしながら右腕を振り回すなどして激しく抵抗していることから、5人で押さえつけるのも必要な限度内だろう。


「ボストンバッグ在中物の捜索・差押え?」


逮捕しているから、逮捕に伴う無令状捜索・差押え(220条1項2号)の問題。


「捜索できるのは?」


逮捕の現場において、被逮捕犯罪と関連性があるものを捜索し、差し押さえられる。


被逮捕犯罪は公務執行妨害よね。札束や携帯電話、メモは無関係では?」


ここは、公務執行妨害を行うに至る動機・経緯という重要な情状と関連すると評価できる。


「日本刀は?」


220条を伝統的な緊急処分として把握した上で、証拠保全の趣旨と逮捕執行の際の妨害排除目的の趣旨のそれぞれで機能的に要件を設定するという近時の見解*7によれば、被疑者の身体や所持品について凶器・逃走具を差し押さえることができるから、所持品であるボストンバッグの中の日本刀も含まれる。


「ここは、220条1項2号説、逮捕自体の効力説、そして、警職法2条4項説等根拠について見解が分かれているけど、結論にはほぼ争いはないわね*8。」


問題は自動車かな。緊急処分説を強調すれば、*9令状を取って自動車の中を捜索すべきであって、違法ということになるかな。


「これは、甲の有罪・無罪に影響がありそう?」


収集された証拠は出し帽や軍手だけであり、これらが証拠排除されても有罪無罪に影響はなさそう。


「もちろん、判決で違法と宣告されること自体に意味はあるし、国家賠償を求める余地もあるけどね。」


ただ、最高裁が採っているといわれる相当説からは同一管理権であれば認められるところ、甲はまだ自動車の真ん前にいたとして、同一管理権内と解され、動機経緯に関する証拠として目出し帽や軍手の差押えも可能となるかもしれない。


「最後に、取調べは?」


余罪ではあるけど、自ら進んで供述を始め、上申していることから、これを違法とはいえない。


「あんたにしては、よく検討できているわね。」大輪のひまわりのような笑顔を見せるひまわりちゃん。


ふと気づくと、既に列の最先端まで来ていたようだ。僕とひまわりちゃんは二人でジェットコースターに乗り込む。


「ぜ、全〜然怖くないんだからねっ!」そういうひまわりちゃんは顔は笑っているが、肩が震えてる。


もしかして、こういうの苦手とか?


「そんなこと、絶対な、ないんだからねっ!ギャーアーアーアー!」ひまわりちゃんのこの顔を知っているのは、僕だけだ。


……


どうして、苦手なジェットコースターなんかに乗ったの? ふと頭を横切った疑問。ジェットコースターから降りると早速ノートに書き込む。


「に、苦手じゃないわよ。吊り橋効果っていうのがあるって聞いたから、ジェットコースターに乗れば、あんたが振り向いてくれるんじゃないかって」ここまで書いたところで、ひまわりちゃんは顔を真っ赤にして二重線でこれを消した。


ふと横を見ると、まるでデート中のような二人が写った写真が販売コーナーのところに飾られているのが目に入った。

まとめ
 次回で本編の最終回です。ご愛読感謝です。

*1:被疑者に差し入れ、取調べの様子等をメモしてもらうためのノート

*2:安富63頁

*3:古江32頁

*4:最判昭和53年6月20日刑集32巻4号670頁

*5:この点は、緑「刑事訴訟法入門」30〜32頁が詳しい

*6:最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁

*7:緑「刑事訴訟法入門」135頁

*8:リークエ133頁

*9:三者が逮捕現場で証拠を破壊するといった事情がない以上