アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

刑訴ガール最終話〜遊園地でのデート後編〜平成18年設問2

刑事訴訟法 法律学全集 (43)

刑事訴訟法 法律学全集 (43)


注:刑訴ガールは、架空のロースクールを舞台にライトノベル調で司法試験を解説するプロジェクトです。ロースクールに進学しても、刑訴ガールはいません。



 色々な所を回っていたら、あっという間に日が暮れて、閉園時間が迫って来た。


「最後に、観覧車に乗りましょう*1。」ノートに書き込むひまわりちゃん。


時間が遅いこともあってか、観覧車はすいていて、すぐに乗り込むことができた。


「最後に乙との関係でのメモの証拠能力の問題を検討しましょう。」心なしか、ひまわりちゃんの手が震えているように感じる。


問題となっているのは、このメモのことだ。

以下の事例を読んで,後記の設問1及び2に答えなさい。なお,各供述の内容は,信用できるものとする。
(中略)


5 I警察署刑事課警察官らは,1月31日までの間,A銀行B支店における強盗致傷事件につ
いて捜査したところ,次の結果を得た。
(1) メモの記載内容
甲から押収した前記メモの上半分には,手書きの地図の記載がある。地図上のJ公園東出 口付近に「×」印の記載があり,その下に手書きで「乙、車の中で待ってる」の記載がある。 地図については,捜査の結果,A銀行B支店からJ公園までの経路を示したものと判明した。
メモの下半分には,手書きで「決行は、24日閉店まぎわ」,「名前がわかる物は持って行 かない」,「車は盗んだのを使う」,「取った金は半分ずつ分ける」の記載がある。
これらの手書き文字について筆跡鑑定を行ったところ,甲の筆跡と同一人の筆跡であるこ とが判明した。
(2) その他の捜査結果 甲から押収した前記携帯電話について,その発信履歴を捜査した結果,1月24日午後3
時1分に,I市内M町居住の乙(女性)方に電話をしていることが判明し,乙について捜査 したところ,平成8年から約9年間,A銀行B支店に勤務していたが,平成17年2月に退職したこと,甲とは小学校の同級生であることが判明した。
1月24日午後3時20分ごろ,J公園東出口付近で,白の軽乗用自動車が停止している のが目撃されているが,本件当時,乙は,白の軽乗用自動車を所有していたことが判明した。
このほか,甲から押収した前記刺身包丁付着の血痕を鑑定した結果,Vの血液型と一致し た。
6 I警察署刑事課長Z警部は,2月1日,K地方裁判所裁判官に対して,甲に対する強盗致傷 被疑事件について逮捕状を請求し,同日,その発付を受けた。甲は,I警察署内において,同 日午後4時30分,前記逮捕状により逮捕された。逮捕後,弁解の機会を与えたところ,甲は, 強盗致傷の被疑事実について認めたほか,乙との共謀についても認める供述をした。同月3日 午前10時,甲は,乙との共謀によるA銀行B支店における強盗致傷の事実でK地方検察庁に 送致され,同日から10日間の勾留,更に10日間の勾留延長を経て,同月22日,同事実に より起訴された。
7 I警察署刑事課長Z警部は,その後,甲の供述に基づき,強盗致傷被疑事件について,乙に 対する逮捕状及び乙方に対する捜索差押許可状を得た。I警察署警察官は,これに基づき,乙 を逮捕し,乙方を捜索した。その結果,乙方から,前記メモの記載どおりの筆圧痕の残るレポ ート用紙1冊が発見されたので,I警察署警察官はこれを差し押さえた。その後,乙は,勾留 を経て,甲との共謀によるA銀行B支店における強盗致傷の事実により起訴されたが,この間, 一切の供述を拒んだままであった。
8 甲は,公判においては公訴事実をすべて認め,有罪判決を受けた。
9 その後,乙は,第1回公判期日において,公訴事実について,甲との共謀を否認した。
第2回公判期日において,証人として出廷した甲は,次のとおりの供述をした。
(1) 乙との関係
1月24日に私がA銀行B支店で行った強盗致傷は,乙と相談してやりました。
乙と私は,小学校時代の同級生で幼なじみです。乙が昨年2月にA銀行B支店を辞めたと き,乙から,W支店長に嫌われ,いじめにあって辞めさせられたと聞きました。
(2) 乙との相談について 乙は,ひどくWを恨んでいて,「何か仕返しをしてやりたい。」と言っており,昨年12月ごろには,「B支店に強盗に入ってちょうだい。Wは意気地なしだから,包丁か何かで脅せば, すぐに金を出すはずよ。」と言うので,私もだんだんその気になってきました。
昨年12月24日,私が乙の家に遊びに行ったとき,また,強盗の話になりました。乙は, 「会社の給料日の多い25日の前日には,翌日の払戻しに備えて多額の現金を準備している はずだから,24日の閉店間際に入るといいと思う。」と言ったので,そのとき,私は,「絶対にばれないなら,やってもいいよ。」と答えました。
(3) メモについて
私が公務執行妨害で逮捕されたとき,持っていたボストンバッグの中から出てきたメモは, 昨年12月24日に,乙の家で作成したものです。乙方にあったレポート用紙に,最初に乙がB支店からJ公園東出口付近までの地図を書き, 乙は,「この地図のとおりに逃げて,J公園の茂みのところで車を乗り捨てて,金だけ持って, 公園の東出口まで来てちょうだい。そこで,私が車の中で待ってるから。」と言い,公園の東 出口付近に「×」印を付けました。その後,私は,乙の目の前で,「×」印のすぐ下に「乙、 車の中で待ってる」と書き入れました。地図の下に「決行は、24日閉店まぎわ」,「名前が わかる物は持って行かない」,「車は盗んだのを使う」,「取った金は半分ずつ分ける」と書い たのも,私です。乙から,先ほども言ったように,「24日の閉店間際に入るといいと思う。」 とか,「あんたの名前が分かってしまうと,すぐ私も疑われるから,自分の名前が分かるよう なものは絶対に持っていっちゃだめよ。」とか,「だから,車も自分のを使わないで,盗んだ 車を使ってね。」とか言われたので,私が書き留めたのです。「取った金は半分ずつ分ける」 というのは,この日,乙が,「取った金は半分ずつ分けるってことでどうかしら。」と言った ので,私も,「それでいいよ。」と答えたのですが,乙は金に汚いところがあるので,後で乙 が変なことを言わないように私が乙の目の前で書き留めておいたのです。
(4) 犯行状況
今年1月に入ってから,私は,目出し帽,白色軍手,刺身包丁を買い,インターネットで他人名義の携帯電話も買いました。そして,私は,1月24日昼ごろ,I市N町で白とシル バーのツートンカラーの普通乗用自動車を盗み,その車でA銀行B支店に乗り付け,同日午 後3時ごろ,同店に押し入りました。そして,私は,店内にいた客に刺身包丁を突き付け,「動 くな。動くと殺すぞ。」と言って脅し,カウンター内にいた支店長らに,「早く金を出せ。札 束を用意しろ。」と大声で怒鳴って,現金1800万円を奪い取り,逃げる際に私を捕まえよ うとした従業員Vの左腕を刺身包丁で刺してけがをさせました。
その後,私は,乙がメモに書いた地図のとおり,J公園まで逃げて来て,車を乗り捨て乙 の待つ東出口付近まで逃げようとしていたところを警察官に見つかってしまったのです*2


「立証趣旨は共謀ってことね。」ひまわりちゃんが書き込む。もう、ノートは最終ページに近い。


共謀の存在は、共謀共同正犯における構成要件であるところ、本件で乙は共謀を否定している。そして、共謀は共謀者の謀議時の発言自体からその成立が推認できる訳だから、(発言の内容の真実性が問題なのではなく)当時どんな発言をしたかが要証事実となる*3



「そうすると、本件メモは?」


要証事実との関係で内容の真実性が問題となるのが伝聞証拠であるところ、本件ではメモの内容の真実性ではなく「共謀メモに記載された謀議時の発言そのものの存在」が問題だから、非伝聞、ということかな。


「検討が甘いわね。本件メモは、信用できる甲の供述によれば、*4甲が書いたものだわ。つまり、謀議の際の乙の発言が要証事実だとした場合、甲が、乙の発言を知覚・記憶してメモと言う形に表現・叙述するという供述過程を経てはじめてこのメモが作られているのだから、甲が正しく(要証事実たる)乙の発言を聞き取り、記憶して、これをメモに記載したかという意味での、メモの内容の真実性が問題となるわ。典型的な伝聞証拠*5ではないのかしら?」微笑むひまわりちゃん。昼間は分からなかったが、薄いラメ入りのリップを塗っていたらしい。窓から差し込むイルミネーションの光に、ひまわりちゃんの唇がつややかな輝きを見せる。


もちろん、共謀加担者全員の間で、口頭で共謀の意思を確認していても、その結果をメモしたのはそのうちの一人だけであり、その人の供述過程についてその誤りをチェックするための反対尋問を経ずに証拠とすることは伝聞法則に抵触する*6


「それで?」せかすように書き込む、ひまわりちゃん。その柔らかい指が僕の指に触れる。


まず、現在の心理状態についての供述について通説は非伝聞としている*7。少なくとも、このメモから甲の犯行当時の心理状態を推認するために用いる限り、このメモは、非伝聞だ。


「でも、甲の一方的な心理状態が分かっても、それと乙との共謀はつながらないわ?」


信用できる甲の供述という他の証拠*8によって、その場にいた甲乙両人とも、共通の犯罪意思を形成したことが証明されている。そこで、その場にいた2人のうちの一人である甲の犯罪意思が証明されれば、そこから甲乙両名について、メモ記載どおりの犯罪意思を推認し、共謀を推認するという意味がある*9


「最後に、もう一つよ。」


信用できる甲の供述によれば、甲は乙の目の前でメモを書いている、つまり、メモが「回覧」されているのと同様に考えることができる。回覧して確認に用いられたメモの記載は実質的には謀議参加者全員の供述であり、そのようなメモが存在さえすれば、そこに全員のその当時の一致する意思が述べられたものとして共謀の推認に用いることができる*10


「よく出来たわ。合格よ。」満面の笑みをたたえながら書き込むひまわりちゃん。もう観覧車は一番高いところまで来ていて、外には東京の夜景が広がっている。


「ねえ、ひまわりと、つき合って下さらない?」ひまわりちゃんの字が震える。


助手として僕は昔からつき合ってるつもりだけど。


「そういう意味じゃなくて」ちょっと怒った顔をするひまわりちゃん。


「ひまわりの恋人になって欲しいの。」書き終わると、ひまわりちゃんは、その手を僕の肩にもたれさせる。


ひまわりちゃんの肩を抱くと、想像以上にその身体が軽い。強く抱きしめるだけで折れてしまいそうな、柔らかさと脆さに驚く。緊張気味のひまわりちゃんの息づかいが、自分のもののように聞こえてくる。この距離ならば、言葉でしゃべっても大丈夫だろう。


もちろんさ、ひまわりちゃんのことを愛してるよ、と耳元でささやく。


「もお、盗聴されているかもしれないんだから、言葉を発しちゃだめって言ってるじゃない。言う事を聞けないなら、実力で口を塞ぐしかないわね。」ちょっと怒り気味の口調でささやくひまわりちゃん。


こうして、僕の唇は、人生で初めての、柔らかくて温かい女の子の感触を、肺の中の酸素が空っぽになるまで味わったのだった。



……




「うふふ、これは、めでたいわね。」


「おめでとうございます!」


観覧車を降りると、クラッカーが鳴って、リサさんとロビン先生が二人を迎えてくれた。


ど、どうして僕たちがつき合い出したって、分かったんですか?


「あらあら、これまでせいぜい手を握るだけだったのに、今は手を腰に回しているんだから、そんなの、間接事実から簡単に推認できることではなくて?」


「どうやら、『誤導尋問』にならなかったようね。」


「うふふ、なんか、面白そうなものがあるわね。」そういうと、リサさんは、僕の手から、被疑者ノートを奪い去る。


「これは、ひまわりたちの大事なものなんだ! 返せ、返せ!」ひまわりちゃんが追いかける。


「あらあら、二人が回覧しあって愛の謀議を形成したメモは、非伝聞なのではなくて?」楽しそうなリサさん。


「ここでは、記載者の現在の意思も、要証事実との関係で関連性があるわね。」悪ノリするロビン先生。


「刑事裁判の話は関係ないでしょ!」怒り狂うひまわりちゃん。


「「大ありよ。だって、ひまわりちゃんは『刑訴ガール』なのだから。」」二人の声がハモる。


刑訴ガール。ちょっと理屈っぽいけれど、とっても素敵な彼女ができた。

まとめ
 一応本編が完結しました。初のオリジナル作品を14話という長期連載にするという無謀なことをしたにも関わらず、最後まで見て頂いたこと、感謝しております。
まだまだクオリティが低いので、クオリティアップのために頑張って行く所存です。ありがとうございました。

*1:リア充の読者の皆様から「あの観覧車は葛西臨海公園のものであって遊園地内に観覧車はない」とのツッコミが入りそうなところですが、著者は非リアにつき、元ネタになっている「夢の国」には多分10年位行っておりません。その結果実態を良く知らないことを自白いたします。そもそも元ネタと同一である必要もないのでご容赦を。

*2:引用範囲がこの範囲に留まり、その前を引用していない理由は、前話で、メモの押収を適法としているからである。メモの押収を違法とした論者は、違法収集証拠の論点を論じるべきことになるだろう。

*3:安富511頁

*4:地図と×印を除く他

*5:大澤「伝聞証拠の意義」争点182頁

*6:事例演習241頁

*7:事例演習230頁以下参照

*8:あとは乙方から発見された本件メモ記載通りの筆圧痕の残るレポート用紙も。

*9:事例演習241頁

*10:リークエ355頁