アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

刑訴ガール第7話〜ゼミ室での映画鑑賞会〜司法試験平成21年設問1

入門刑事手続法 第5版

入門刑事手続法 第5版


注:刑訴ガールは、架空のロースクールを舞台にライトノベル調で司法試験を解説するプロジェクトです。ロースクールに進学しても、刑訴ガールはいません。


ロースクール進学の大きな代償は、「刑事ドラマを楽しめなくなる」ことだ。本来は主役の刑事さんに感情移入すべきなのに、「この手続は違法ではないか?」というところが気になってしまい、ストーリーに集中できない。


こんなことを考えていたのは、今、ゼミ室で、人気刑事ドラマシリーズの劇場版を見ているからだ。ロビン先生の刑事訴訟法のゼミのはずが、先生の明日の学会発表の準備が間に合わず、てんてこまいらしい。「ごめんなさい。明日シェイカー先生に絞られないよう、きちんと準備しておかないといけないのよ。今日は徹夜だから、またお肌の調子が悪くなっちゃうわね。それじゃあ、映画を見て、刑事訴訟法上の問題を検討しておいてね!」と言うやいなや、ロビン先生はあわてて去って行った。


「あらあら、ロビン先生がいらっしゃらないからといって集中力を切らしてはいけないのではなくて?一応授業の時間なのだから、映画のを見ることに注力されてはいかがかしら。」小声で正論を語る隣の席のリサさん。今日は、映画賞授賞式に出席するような、背中が大きく割れたフォーマルなドレスを着ている。


リサさんのいうことも、正論なんだけど、主役のP警部補が進める保険金殺人事件の捜査に対し、どうしてもツッコミを入れたくなってしまう。


あんなのは全部違法よ! 警察官のよくやる手ね!」と同調したのは、ひまわりちゃん。ロビン先生の前では、堂々と授業に潜ることにしたみたいだ。


「あらあら、刑事訴訟法は、犯罪摘発に必要な捜査を広く認めているのよ。具体的な事案を分析せずに、一方的に違法と言い切るのは子どものやることではなくて? やっぱり、『大人の魅力』の方がお好きよね?」こう言いながら、自然に腕を絡ませるリサさん。


「ひまわりも、もう子どもじゃないもん! ひまわり、もう16歳になったから、結婚だって、できるんだよ?」こう言いながら空いている方の腕をギュッと掴むひまわりちゃん。


まあまあ、二人とも、喧嘩しないで、きちんと具体的な事例を個別に検討しようよ、な。


こんな論争を生んでしまった映画は、ざっというとこんなストーリーだ。

1 警察は,平成21年1月17日,軽自動車(以下「本件車両」という。)がM埠頭の海中に沈んでいるとの通報を受け,海中から本件車両を引き上げたところ,その運転席からシートベルトを した状態のVの死体が発見された。司法解剖の結果,Vの死因は溺死ではなく,頸部圧迫による 窒息死であると判明した。警察が捜査すると,埠頭付近に設置された防犯カメラに本件車両を運 転している甲野太郎(以下「甲」という。)と助手席にいるVの姿が写っており,その日時が同年 1月13日午前3時5分であった。同年1月19日,警察が甲を取り調べると,甲は,Vの頸部 をロープで絞めて殺害し,死体を海中に捨てた旨供述したことから,警察は,同日,甲を殺人罪 及び死体遺棄罪で逮捕した。勾留後の取調べで,甲は,Vの別居中の妻である乙野花子(以下「乙」 という。)から依頼されてVを殺害したなどと供述したため,司法警察員警部補Pは,その供述を 調書に録取し,【資料1】の供述調書(本問題集8ページ参照)を作成した。
2 警察は,前記供述調書等を疎明資料として,殺人,死体遺棄の犯罪事実で,捜索すべき場所を T化粧品販売株式会社(以下「T社」という。)事務所とする捜索差押許可状の発付を請求し,裁 判官から【資料2】の捜索差押許可状(本問題集9ページ参照)の発付を受けた。なお,同事務 所では,T社の代表取締役である乙のほか,A及びBら7名が従業員として働いている。
Pは,5名の部下とともに,同年1月26日午前9時,同事務所に赴き,同事務所にいたBと 応対した。乙及びAらは不在であり,Pは,Bを介して乙に連絡を取ろうとしたが,連絡を取る ことができなかったため,同日午前9時15分,Bに前記捜索差押許可状を示して捜索を開始し た。Pらが同事務所内を捜索したところ,電話台の上の壁にあるフックにカレンダーが掛けられ ており,そのカレンダーを外すと,そのコンクリートの壁にボールペンで書かれた文字を消した 跡があった。Pらがその跡をよく見ると,「1/12△フトウ」となっており,「1/12」と「フトウ」 という文字までは読み取ることができたが,「△」の一文字分については読み取ることができなか った。そこで,Pらは,壁から約30センチメートル離れた位置から,その記載部分を写真撮影 した[写真1]。
3 同事務所内には,事務机等のほかに引き出し部分が5段あるレターケースがあり,Pらがその レターケースを捜索すると,その3段目の引き出し内に預金通帳2冊,パスポート1通,名刺 10枚,印鑑2個,はがき3枚が入っていた。Pが,Bに対し,その引き出しの使用者を尋ねた ところ,Bは,「だれが使っているのか分かりません。」と答えた。そこで,Pらがその預金通帳 2冊を取り出して確認すると,1冊目はX銀行の普通預金の通帳で,その名義人はAとなってい て,取引期間が平成20年6月6日からであり,現在も使われているものであった。2冊目はY 銀行の普通預金の通帳で,その名義人はAとなっていて,取引期間が平成20年10月10日か らであり,現在も使われているものであった。X銀行の預金口座には,不定期の入出金が多数回 あり,その通帳の平成21年1月14日の取引日欄に,カードによる現金30万円の出金が印字 されていて,その部分の右横に「→T.K」と鉛筆で書き込まれていたが,そのほかのページには 書き込みがなかった。また,Y銀行の預金口座には,T社からの入金が定期的にあり,電気代や 水道代などが定期的に出金されているほか,カードによる不定期の現金出金が多数回あった。そ の通帳には書き込みはなかった。次に,Pらがその引き出し内にあるパスポートなどを取り出し, それらの内容を確認すると,パスポートの名義が「乙野花子」で,名刺10枚は「乙野花子」と 印刷されており,はがき3枚のあて名は「乙野花子」となっていた。印鑑2個は,いずれも「A」 と刻印されていて,X銀行及びY銀行への届出印と似ていた。Pらは,その引き出し内にあった ものをいずれも元の位置に戻した上,その引き出し内を写真撮影した。
4 引き続き,Pらは,X銀行の預金通帳を事務机の上に置き,それを写真撮影しようとすると,
Bは,「それはAさんの通帳なので写真を撮らないでください。」と述べ,その写真撮影に抗議し た。しかし,Pらは,「捜査に必要である。」と答え,その場で,その表紙及び印字されているす べてのページを写真撮影した[写真2]。さらに,Pらは,Y銀行の預金通帳を事務机の上に置き, 同様に,その表紙及び印字されているすべてのページを写真撮影した[写真3]。なお,Pらは, X銀行の預金通帳を差し押さえたが,Y銀行の預金通帳は差し押さえなかった。
5 次に,Pらは,パスポート,名刺,はがき及び印鑑を事務机の上に置き,パスポートの名義の 記載があるページを開いた上,そのページ,名刺10枚,はがき3枚のあて名部分及び印鑑2個 の刻印部分を順次写真撮影した[写真4]。なお,Pらは,そのパスポート,名刺,はがき及び印 鑑をいずれも差し押さえず,捜索差押えを終了した。

供述調書
本籍,住居,職業,生年月日省略
甲野 太郎 上記の者に対する殺人,死体遺棄被疑事件につき,平成21年1月24日○○県□□警察署におい て,本職は,あらかじめ被疑者に対し,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げて取り調
べたところ,任意次のとおり供述した。
1 私は,平成21年1月13日午前2時ころ,V方前の道で,Vの首をロープで絞めて殺し,その死体を海に捨てましたが,私がそのようなことをしたのは,乙からVを殺すように頼まれたからでした。
2 私は,約2年前に,クリーニング店で働いており,その取引先に乙が経営していたT化粧品販売という会社があったため,乙と知り合いました。私は,次第に乙に惹かれるようになり,平成19 年12月ころから,乙と付き合うようになりました。乙の話では,乙にはVという夫がいるものの, 別居しているということでした。
3 平成20年11月中旬ころ,私は,乙から「Vに3000万円の生命保険を掛けている。Vが死 ねば約2000万円ある借金を返すことができる。報酬として300万円をあげるからVを殺し て。」と言われました。私は,最初,乙の冗談であると思いましたが,その後,乙と話をするたびに 何回も同じ話をされたので,乙が本気であることが分かりました。そのころ,私にも約300万円 の借金があったため,報酬の金が手に入ればその借金を返すことができると思い,Vを殺すことに 決めました。そこで,平成21年1月11日午後9時ころ,乙から私に電話があったとき,私は, 乙に「明日の夜,M埠頭で車の転落事故を装ってVを殺す。」と言うと,乙から「お願い。」と言わ れました。
4 1月12日の夜,私がV方前の道でVを待ち伏せしていると,翌日の午前2時ころ,酔っ払った 様子のVが歩いて帰ってきました。私は,Vを殺すため,その後ろから首にロープを巻き付け,思 い切りそのロープの端を両手で引っ張りました。Vは,手足をばたつかせましたが,しばらくする と,動かなくなりました。私が手をVの口に当てると,Vは,息をしていませんでした。
5 私は,Vの服のポケットから車の鍵を取り出し,その鍵でV方にあった軽自動車のドアを開け, Vの死体を助手席に乗せました。そして,私は,Vが運転中に誤って岸壁から転落したという事故 を装うため,その車を運転してM埠頭に向かいました。私は,午前3時過ぎころ,M埠頭の岸壁か ら少し離れたところに車を止め,助手席の死体を両手で抱えて車外に持ち出し,運転席側ドアまで 移動して,その死体を運転席に押し込み,その上半身にシートベルトを締めました。そして,私は, 運転席側ドアから車内に上半身を入れ,サイドブレーキを解除し,セレクトレバーをドライブレン ジにしてからそのドアを閉めました。すると,その車は,岸壁に向けて少しずつ動き出し,前輪が 岸壁から落ちたものの,車の底が岸壁にぶつかってしまい,車がその上で止まってしまいました。 そこで,私は,車の後ろに移動し,思い切り力を入れて後ろのバンパーを両手で持ち上げ,前方に 重心を移動させると,軽自動車であったため,車が少し動き,そのままザッブーンという大きな音 を立てて海の中に落ちました。私は,だれかに見られていないかとドキドキしながらすぐに走って 逃げました。
6 その後,私は,乙にVを殺したことを告げ,1月15日の夕方,乙と待ち合わせた喫茶店で,乙 から報酬の一部として現金30万円を受け取り,その翌日の夕方,同じ喫茶店で,乙から報酬の一 部として現金20万円を受け取りました。
甲野 太郎
以上のとおり録取して読み聞かせた上,閲覧させたところ,誤りのないことを申し立て,欄外に指印 した上,末尾に署名指印した。(欄外の指印省略)
指印

前同日 ○○県□□警察署
司法警察員 警部補
P

平成21年司法試験刑事系第2問*1


捜索差押許可状
被疑者の氏名甲野太郎 昭和32年9月29日生
罪名殺人、死体遺棄
捜索すべき場所、身体又は物○○県□□市桜が岡6丁目24番4号日本橋ビル1階 T化粧品販売株式会社事務所
差し押さえるべきもの本件に関連する保険証書,借用証書,預金通帳,金銭出納帳,手 帳,メモ,ノート
請求者の官公職名司法警察員警部補P
有効期間平成21年2月1日まで
有効期間経過後は,この令状により捜索又は差押えに着手することができない。この場合には、これを当裁判所に返還しなければならない。有効期間内であっても、捜索又は差押えの必要がなくなったときは、直ちにこれを当裁判所に返還しなければならない。
被疑者に対する上記被疑事件について,上記のとおり捜索及び差押えをする ことを許可する。
平成 21 年 1 月 25 日
簡易裁判所 裁判官 某



「まずは、コンクリートの壁の写真撮影をしたこと(写真1)は正当化されるのかしら。」口火を切る、ひまわりちゃん。


写真撮影については、判例「現に犯罪が行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつ撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われる」場合には適法としている(最判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁)。そうか、今回は、1月13日頃行われた殺人の捜査のために、1月26日に写真撮影が行われているので、「現に犯罪が行われたのち間がない」という要件が欠けて違法ということか。


「あらあら、捜査における写真撮影の適法性に関する基本的な枠組みを誤解しているのではなくて?*2 そもそも、この判例は、被疑者の容貌を撮影した事案についてのものよ*3。だから、『何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有する』として、被侵害利益の重要性を強調しているわ。」


今回は、壁のメモというプライバシーについての事案なのだから、判例の射程外、ということか*4


「うふふ。現行犯性の要否については、最決平成20年4月15日刑集62巻5号1398頁が明示的に否定しているところよ。この事例は、防犯ビデオの犯人の容貌と被疑者の容貌を比較するため、公道やパチンコ店での被疑者のビデオ撮影したケースだけど、現行犯性がなくとも、他人から容貌を観察されること自体は受忍すべき場所での撮影は、必要性や相当性がある場合に適法になるとしているわ。」


そうか、でも今回は、他人からメモの内容を観察されること自体は受忍すべき場所ではない気もするなあ。


「あらあら、そもそも、平成20年最決も昭和44年最判と同じ、容貌撮影に関するものよ。だから、この2つの判例が今回の事案に当てはまらないのは当然ね。むしろ、昭和44年最判が基準を示す直前に述べた、『身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法218条2項*5のような場合のほか』というよう言及がヒントを与えてくれているのではないかしら?」


刑訴法、つまり、法律の規定があれば、このような点を問題にしなくても、その根拠規定の法解釈により写真撮影が認められる場合であれば、適法、ということか。


「うふふ。じゃあ、今回はどの規定になるかしら。」



218条1項の捜索差押許可状の問題かなあ。



「二人とも、勝手に進めてるんじゃないわよ! 捜査機関は、捜索・差押えの許可を得ているだけであって、裁判所によって認められているのは、物の占有を物理的に取得することだけで、写真撮影ではないわ。もし、メモの内容を強制的に五感により認識し、それを証拠資料としたいなら、それは検証だけど、検証令状は得ていないわよね*6。」


「あらあら。今回は、捜索差押許可状が出ているけれども、それは、どの点について裁判所が司法審査を及したという意味なのかしら。」と僕に振る、リサさん。


う〜んと、甲野太郎について、保険金殺人及び死体遺棄という被疑事実について嫌疑が認められるので、本件に関連する保険証書,借用証書,預金通帳,金銭出納帳,手帳,メモ,ノートの差押えをすることが正当化される、ということなのかな。



「うふふ、そうすると、今回、司法審査の結果、差押えて占有を取得することさえ許されているのだから、写真撮影というより権利侵害が低い態様の処分を行うことも、この捜索差押許可状の効力として認められていると解し得るのではなくて。」


「法は侵害『態様』によって処分の種類と令状を使い分けているわ。侵害の『程度』が低いからといって、別の種類の処分を行っていいことにはならないわ。」


ここは学説上は争いがあるけれど、実務はもう固まっているのではなくて? 私も、撮影行為の性質が『検証』だということ自体は否定しないわ。でも、実務では、捜索差押の際に、捜査機関が証拠物や執行状況を写真撮影することは、捜索差押に付随するものとして許されるとしているわ*7。付随的な場合に留まらず、捜索差押許可状の本来の効力とする論者もいて、私はむしろそちらに親和性を感じているけれど、結論において撮影が認められることに実務上争いはないわ*8。」



「待ちなさい! まるで、無限定に写真撮影が認められるような口ぶりだけど、実際のところは全く違うでしょう。仮に一定範囲の撮影が認められるとしても、必要な範囲を超えて無関係な写真を撮影したり、辺りをくまなく撮影することは違法よ(大津地決昭和60年7月3日刑月17巻7−8号721頁、東京地判平成4年7月24日判タ832号153頁)。」


「うふふ、確かにその目的・方法・程度・必要性に照らし、令状の効力の範囲として適法といえる*9必要があるわね。この点については、あなたはどう思って?」


う〜ん、今回の「1/12△フトウ」というメモは、13日未明と思われる殺害時刻から考えると、12日にM埠頭でVと待ち合わせて殺すということを意味する可能性があり、『関連性がある』『メモ』といえる。だから、本来差押えが可能な証拠物を占有取得の代わりに撮影することが目的の写真撮影といえる。撮影が必要なのは、壁の一部を破壊し取り外して差し押さえることが時間も手間もかかるからであるところ、その方法・程度は、単にカレンダーを外して壁から約30センチメートル離れた位置から撮影したというだけであって、むしろ写真撮影にとどめる方が壁を破壊するよりも処分を受ける者にとって不利益が小さい。そこで、差押えに付随する処分として適法、ということかな。



「あんたね、付随的というけれども、差押えをしていないのだから、『処分』はどこにあるの? 要するに、これは、差押えに代えて写真撮影をしている事案だけれど、これこそ、検証令状を取るべき場合に検証令状を取ることを怠たっただけよ。似ている事例で適法性を否定した裁判例もあるわよ*10。」


「あらあら、ここは見解の相違ね。まず、「大は小を兼ねる」という見解も学説からも一定の支持を受けていることを指摘しておくわ*11。加えて、藤島意見は、写真撮影に対する準抗告の可否という文脈ではあるものの、実質的に写真撮影という手段で対象物件を差し押さえたとみなし得ると述べているわ。「付随性」という言葉にこだわる必要はなく、『実質上の押収』と言える行為は捜索差押許可状の効力として行えると解すべきところ、今回の写真撮影は、まさにこれにあてはまるのではなくて?」


「藤島裁判官は、被処分者の権利を拡張しようという趣旨で、写真撮影に対する準抗告が一定の場合に可能だと言っただけ*12であって、これを被処分者の権利を更に制限するために使うなんて言ったら、藤島裁判官は怒ると思うわよ*13。ここはどこまで行っても平行線みたいだから、まだ写真2があるわ。写真4つを全部一律に検討するのではなく1つ1つについて事案毎の特性に応じた検討が必要よ。」


「うふふ、1つ1つ個別に検討すべきという点は私もひまわりさんに賛成よ、でも、結局全部適法になるのではなくて?」


ゴホンゴホン。えっと、写真2は、X銀行の通帳か。これは、『本件に関連する』『預金通帳』として、差押えの代わりに行う撮影なのかな。でも、X銀行の通帳って、その後で差押えてしまっているから、撮影する必要はないのではないかな。


「そうよ、差押えにより、通帳そのものが捜査機関の下に保管されるのだから通帳の内容を1つ1つ写真に撮影する必要はないわね。だから、違法捜査だわ。」


「あらあら、通帳には、TKという鉛筆の書き込みがあるってことを看過されているのではなくて? この書き込みには、どういう意味があるのかしら?」


う〜ん、甲の調書だと1月15日に乙から30万円をもらったとなっていて、その前日に30万円を引き下ろしているというのは、殺人の報酬の原資という可能性がある、だから、関連性がある、ということかなぁ。


「あらあら、確かに関連性はあるけれど、撮影を正当化する決定的な要素はその先にあるのではなくて?」


「リサさん、もったいぶり過ぎよ。ひまわりちゃんは短気なのよ! どうせ、TKは甲野太郎の頭文字だとでもいいたいのではないの?」



「うふふ。それはそのとおりだけど、ポイントは『鉛筆』なのよ。」


そうか、鉛筆だから、ボールペンと違って*14保管の過程等で消えてしまうかもしれない。押収時に間違いなくこのメモ書きがあったことを立証するには写真撮影が必要、ということか。


「うふふ、反対に、弁護人からの、『捜査機関が書き込んだ偽造じゃないか』という主張を封じるという意味もあるのよ。」一瞬、リサさんの目線が、ひまわりちゃんを射抜く。


「だからといって、全部のページの写真撮影をすることはないのではなくて?」抵抗するひまわりちゃん。


「うふふ。最近は熱心な弁護人の方がたくさんいらっしゃるから、弁護人の方に、『今は→TK以外何も書き込まれていないが、捜査機関が都合の悪い書き込みを消したのではないか』なんて疑惑をもたれないように、通帳の全体について、差押え時点の状況を記録して、その証拠価値を維持することが必要よ。『本件に関連する』『預金通帳』として差押えは可能なものだから、写真撮影をしたところで、追加的なプライバシー侵害の程度は微々たるものにすぎないわ*15。」


「じゃあ、写真3はどうなのよ。こっちには書き込みはないのに、その表紙及び印字されているすべてのページを写真撮影しているわ。」戦いの場を移すひまわりちゃん。これが吉と出るか、凶と出るか。


「あらあら、こちらは簡単なのではなくて?」


こちらも、全体を撮影している目的は、捜査機関が都合の悪い書き込みを消したのではないかと言われないようにするためなのかなあ。


「あらあら、Y銀行の通帳は、X銀行の通帳と違って差し押さえていないわよね。どうして差押えをしなかったのだと思って?」



どうしてだろう? 書き込みがないから証拠としての価値が低いってことかなあ。


『Y銀行の預金口座には,T社からの入金が定期的にあり,電気代や水道代などが定期的に出金されているほか,カードによる不定期の現金出金が多数回あった』というのが鍵ね。まず、16日に甲が乙から受け取った20万円の原資が問題となっている、というのは押さえておく必要があるわね。そこで、カードによる不定期の現金出金関係を確認して、どこからこの20万円が出たかを突き止める事が必要よ。だから、『本件に関連する』『預金通帳』になるわ。」


なるほど。


「うふふ。でも、ここで終わりではないの。捜査機関は、関係者に不合理な不便や苦痛を与えるつもりはないわ。あくまでも、捜査に必要最小限の範囲だけね。」ウィンクするリサさん。


そうか、『電気代や水道代などが定期的に出金されている』ってことは、これは乙のメインで使っている口座なのか。


「捜査機関としては、メインの通帳を差押えたら、きっと困るだろうと考えて、より不利益が少ない写真撮影を選んだ、ってことよ。」うふふ、と微笑むリサさん。


そうすると、同じ通帳でも、X銀行は主に現状を記録化して証拠価値を維持するためだけど、Y銀行は壁のメモと同じで、被処分者の不利益を最小化するという目的だったのか。



「捜査権を日常的に濫用しておいて、よくいけいけしゃあしゃあと、『捜査に必要最小限の範囲』といえるわね。まあいいわ。流石に写真4は違法って認めざるを得ないわよね。令状に列挙されていない物なのだから。」


確かに、「パスポート,名刺,はがき及び印鑑」については、「本件に関連する保険証書,借用証書,預金通帳,金銭出納帳,手帳,メモ,ノート」のどれにもあてはまらないから、これだけは、ひまわりちゃんの言い分に分があるのではないか。


「あらあら、二人とも、写真撮影の目的を誤解しているのではなくて? 差押え対象以外は写真撮影をしてはいけないという法はないわ。今回撮影をした目的は何か想像できて?」



う〜ん、単に捜索差押えの手続を撮影して、適法にやっていることを後で立証しようとしているとかじゃないかな。



「そういう目的にも関わらず、『パスポートの名義の記載があるページを開いた上,そのページ,名刺10枚,はがき3枚のあて名部分及び印鑑2個 の刻印部分を順次写真撮影した』というような差押え対象物以外の物に対する執拗で、まさにリサさんが先ほどおっしゃっていた「実質上の押収*16」ともいえる写真撮影という方法の間に何ら合理的関連性はないから違法なことは明らかね! 昭和60年大津地決なんて、まさに今回と同じように関連性のない物を撮影したことを違法としたものよ。」


「あらあら、撮影目的そのものの捉え方が根本から違うのではなくて? 乙の通帳というけれども、通帳の名義人はAよね。そうすると、本当に乙がこの口座の持ち主なのかが問題となるわ。」


同じレターケースの中に、乙のパスポート、乙の名刺複数毎、乙宛ての葉書複数毎という、本人以外が持つ可能性が低いものが、1つだけではなく複数種類揃っていることによって、2通の通帳にかかる口座を乙が管理しているということが推認できる。この意味で、本当に2通の通帳が『本件に関連する』ということを裏付ける、差押手続の適法性担保ために必要な撮影ということか。



「じゃあ、A名義の印鑑はどうなのよ。乙名義ではないじゃない。」最後の抵抗をするひまわりちゃん。


「単に通帳を持っているだけでは、それを下ろせないわよね。届出印か、暗証番号が必要よ。届出印と酷似している印鑑が一緒に保管されていることで、単に乙がこの通帳を所持しているだけではなく、自ら入出金等の管理をしていた、つまり、乙の口座であるということを推認させるのではなくて?」


議論に夢中になっているうちに、映画は既に終わっていたようだ。他のゼミ生は帰り支度を始めている。「写真撮影」という曖昧模糊とした概念から抽象的に議論するのでく、個々の事案に応じた正しい規範を選択肢、捜査機関がどのような意図で行ったのかを客観的状況から推認して、規範をあてはめていく。生きている「刑事訴訟法」は、映画よりも面白い。

まとめ
 刑訴ガール第7話を投下させて頂きます。引き続きご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします。

*1:http://www.moj.go.jp/content/000006456.pdf

*2:採点実感には「これを単に任意捜査として許されるか否か という観点からのみ論じている答案」が見受けられたとある。

*3:誤記修正させて頂きました。

*4:ご指摘を受け補足させて頂きました。

*5:現3項

*6:誤記修正させて頂きました。

*7:下級審裁判例に、東京地決平成元年3月1日判タ725号245頁。藤島補足意見(最決平成2年6月27日刑集44巻4号385頁)は、検証の性質はあるものの、捜索差押に付随するため、捜索差押許可状により許容されている行為であるとしており、参考になる。

*8:上記藤島意見は「差押物件の証拠価値を保存するため発見された場所、状態においてその物を写真に撮影することが、捜査の実務上一般的に行われている。このような撮影もまた検証と解されるべきものであるが、捜索差押に付随するため、捜索差押許可状により許容されている行為であると考えられる。」とする。

*9:佐々木・猪俣「捜査法」293頁参照

*10:大阪地決昭和56年8月10日

*11:「捜索・差押令状に記載された物件を差し押さえるまでもなく、物件の写真撮影によっても証拠保全の目的を遂げることができる場合に、差押えに代えて写真撮影をすることは、より権利制約的ではない捜査方法として適法とされる」 上口「刑事訴訟法」147頁等参照

*12:つまり、検証については、刑訴法430条で準抗告はできないが、藤島裁判官は、写真撮影が一定の場合には同条の「押収」に含まれ、その結果準抗告ができる可能性があると示唆したもの。

*13:以上は、原文から大幅に変わっていますが、野田先生から大変ご丁寧なご示唆を頂いたものです。ここに感謝の意を表させて頂きます。

*14:なお、今はフリクションボールペンがあるので、鉛筆と同じ問題が生じます

*15:なお、昭和60年大津地決では、立会人が抗議をしたことを不適法性を基礎付ける根拠としているところ、今回Bが抗議している。もっとも、Bは単なる事務所従業員に過ぎず、乙の個人レターケース(B自身のレターケースでないことはBも認めている)の中のものについて管理処分権はないと思われるし、そもそも差押え自体は立会人が抗議してもできるものである(強制処分)。結局、昭和60年大津地決が言っているのは、管理処分権ある立会人が同意していれば適法になる余地があるが、そのような状況はないからやはり違法だというだけであり、本件でもBの抗議は決定的事情ではないだろう。

*16:上記藤島補足意見参照