劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [前編]始まりの物語/[後編]永遠の物語 鹿目まどか 始まりの物語/永遠の物語 (1/8スケール PVC製塗装済み完成品)
- 出版社/メーカー: グッドスマイルカンパニー(GOOD SMILE COMPANY)
- 発売日: 2014/03/21
- メディア: おもちゃ&ホビー
- この商品を含むブログ (11件) を見る
注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。
1.「宴の後」
「…なさいよ。…起きなさいよ。」女の人の声。体が揺すられる。
頭がガンガンする。何が起こっているんだろう?
「本当に手間かけるんだから、バケツの水でもぶっかけてやろうかしら。」
あわてて起きると、そこには、まだサンタ服のかなめさんがいた。
「う〜ん、おはよう。どうしたの?」大きなあくびをする。
「もう、心配したんだから…。」突然泣き出すかなめさん。
「ど、どうしたの。」
「突然研究室で倒れて…。しょうがないから、タクシーでうちまで連れて来たのよ…。」
「そ、そうだったんだ、ごめんね。」そういえば、クリスマスパーティーをやっていて、あるところから記憶がないなぁ…。
「もう、シャンパンをあんなにがぶ飲みするなんて、信じられない!」
「ご、ごめんなさい…。」
「もう午前11時よ。必修の授業終わっちゃうわね。」そういえば、今日の午前中は必修の授業があったはずだ。
「授業さぼらさせちゃって、ごめんね。」
「午後からは授業ないでしょ。『責任』取って、どっかに連れて行ってもらいますからね。」
「どっかって、どこに?」
「もう、それくらい、自分で考えられないの?」
「そんな事言われても…。じゃあ、あそこに行こうか?」ロースクール生が連れ立って行くといえば、あそこしかない。
「ちょっと、マフラーを忘れているわよ!」そうだった。昨日はかなめさんの手編みのマフラーをプレゼントしてもらっていたんだ。
2.裁判傍聴デート!?
「え、ここなの?」
地下鉄の駅を下りると、かなめさんが失望の声を上げる。僕たちが来たのは東京地方裁判所*1だった。
「え、ロースクール生が連れ立って行くところといえば、ここでしょ。」
「ムードもへったくれもないじゃない。まったく。」
「なら、別のところにする?」
「別に。ここでいいわ。」
不機嫌なかなめさんと一緒に、玄関ホールの開廷表で環境法関係の事件がないか探したところ、一カ所だけ水質汚濁防止法違反事件というのがあった。早速、法廷に向かう僕たち。
A社は,B県C町の海沿いにD製鉄所を設置して操業をしているが,その岸壁に幾つかの亀裂があり,そこを通して排出水が数か月にわたって海に漏出している事実が,海上保安庁によって確認 された。同庁の分析によれば,D製鉄所に適用されるpH(水素イオン濃度)に係る排水基準値を はるかに超える高アルカリ水であった。D製鉄所は,公有水面を埋め立てて造成した土地に立地し ているが,捜査の結果,原因は,造成の際に用いられた埋立材料であることが判明している。D製鉄所には,場内で発生する汚水の処理をする水処理施設があり,これは水質汚濁防止法の下の特定施設となっている。その設置届出において,A社は,埋立地全体を特定事業場の所在地とし ている。D製鉄所の工場長E及びA社は,「特定施設が設置されている工場である特定事業場から, 排水基準値違反の排出水を,排水口を通じて排水した」として,水質汚濁防止法違反で起訴された。
〔設問1〕
A社及び工場長Eは,以下のように主張している。このような主張に対して,どのような反論 をすることが考えられるかを論ぜよ。
「水質汚濁防止法が規制対象としているのは,特定事業場内で発生する排水が特定施設の排水 と合流してパイプの先から排水されたものに限定されるはずである。本件では,特定施設以外の 部分から直接に公共用水域に排水されているのであるから,同法の規制対象外である。したがっ て,水質汚濁防止法第31条第1項第1号及び第34条に該当しないから,A社及び工場長Eは 無罪である。」
〔設問2〕
結局,工場長E及びA社のいずれに対しても,罰金刑が確定した。ところで,A社は,D製鉄 所の場内で発生する産業廃棄物である廃プラスチックを焼却処理するための施設を設置し,B県 知事から廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に基づく中間処 理施設許可を得ている。
(1) A社が,水質汚濁防止法上,有罪とされたことにより,D製鉄所の許可に対して,廃棄物処 理法上,どのような影響があるか。【資料】を参照しつつ説明せよ。
(2) 法律相互の上記の連携措置を,廃棄物処理法はどのような趣旨から設けたのかを説明せよ。
【資 料】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第4条の6 法第七条第五項第四号ハに規定する政令
で定める法令は,次のとおりとする。
(法律番号は省略)
一 大気汚染防止法
二 騒音規制法
三 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
四 水質汚濁防止法
五 悪臭防止法
六 振動規制法
七 特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律
八 ダイオキシン類対策特別措置法
九 ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法
〔設問3〕
大気汚染防止法の下でのばい煙に係る排出基準の遵守が求められる場所は,水質汚濁防止法の 下での排水基準の遵守が求められる場所とどのように異なっているか。その相違及び理由を説明せよ。
「弁護人は、無罪を主張しているね。」
「理屈の上からは、無理よ。」一瞬で否定するかなめさん。
「えっと、31条2項、同1項1号、12条1項だから、過失によって*2『排水基準に適合しない排出水を排出し』たんだよね。弁護人のいうとおり、造成の埋め立て材料から汚染物質が漏出しただけで排出といえるかは1つの論点じゃないの?」
「環境法ローヤーなんだから、きちんと条文にもとづき判断しなさい。」機嫌の悪いかなめさん。
「えっと、12条1項は『排出水を排出する者は、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならない。』って言っているけど…だから?」
「本当鈍い男ね。大気汚染防止法13条1項を見なさい!」
「『ばい煙発生施設において発生するばい煙を大気中に排出する者(以下「ばい煙排出者」という。)は、そのばい煙量又はばい煙濃度が当該ばい煙発生施設の排出口において排出基準に適合しないばい煙を排出してはならない。』だけど、あれ? 大気汚染防止法は『当該ばい煙発生施設』だけど、水質汚濁防止法は、『特定施設』じゃなくて『特定事業場』だなぁ。」
「気づくのが遅いわね。水質汚濁防止法8条1項と大気汚染防止法2条7項は?」
「えっと、排水口は『排出水を排出する場所』で、排出口は『煙突その他の施設の開口部』だ。」
「そのとおりよ。つまり、これは、どういうことを意味しているの?」
「えっと、水質汚濁防止法は特定事業場から排出水が排出されれば、それが特定施設からかどうかや、パイプの先からかとは関係なく、どこでも規制されるけど、大気汚染防止法は、ばい煙発生施設の煙突その他の開口部からの排出だけを規制しているってことかな。」
「そうよ、判例実務は排出や排水口を広く捉えていて、特定施設に起因しない場合でも、排出基準違反罪としているわ*3。継続的に事業活動をする以上、その敷地全体から公共用水域のへの排出を規制することが可能だし、汚染者支払原則や未然防止アプローチを取ればこういう広義の規制には合理性があるわ*4。」
「そうすると、大気汚染防止法でも、汚染者支払原則や未然防止アプローチからは、同じように考えるべきなんじゃないかな」
「大気汚染防止法の場合、事業場をドームで覆ってその頂上からの排出の規制を観念することはできるけど、非現実的でしょ*5。」
「今回は、埋立地全体を特定事業場の所在地としているから、やっぱり有罪なのか。」
「そうね、これで有罪が確定するとどうなるのかしら。」
「確か、廃棄物処理法7条5項4号ハ、廃棄物処理法施行令第4条の6第4号により、水質処理法で罰金刑に処せられると、廃棄物処理法の欠格事由だよな。欠格事由になると、確か、許可が取消されるはず…。」
「7条は一般廃棄物よ*6。産業廃棄物であれば、廃棄物処理法14条5項2号イで欠格事由が定められ、これにあたると、15条の3第1項1号で取消ね。取消の有無のところで、行政に裁量がある?」
「『その許可を取り消さなければならない』とあるから、義務的で、裁量はないのかな。」
「そうね。ここは、悪貨が良貨を駆逐するという逆選択現象に歯止めをかけるために悪質な業者を追放しようと平成12年改正で義務的取消になったわ*7。そもそも、関連する生活環境保全法違反の場合にこれを欠格事由、許可取消し事由とするのは、社会的にコンプライアンスが強く求められる廃棄物処理法に関して、生活環境保全という共通目的を持つ法令の重大な違反者に廃棄物処理に関する業や施設の許可を与えるのは不適当であるという法政策意図がある訳よ。」
「そうすると、ミスで埋め立て材料から汚染物質が出てしまうだけで、同じ会社の全ての工場での廃プラスチック焼却が全部できなくなっちゃうわけか。ちょっとかわいそうじゃないかな。」
「そこは、義務的取消であるが故に硬直的だとして問題視される現象の1つね*8。裁量的取消なら、まあこういう事情ならいいことにしましょうっていう裁量が働く余地があるけど。」
「この問題は、どうやって解決すべきなのかな。」
「立法による改正もあるけれども、現行法を前提とすると、例えば、検察官には起訴裁量があるわ。公訴権濫用とされる場合は限定されている*9けど、こういう『重大な効果がある事』と、悪質な環境法令違反に対して『毅然と対応する必要性』の双方を衡量しながら、過失の重大さや、汚染が生じた理由がA社側の選択によるところが大きいのか、埋め立て業者が真犯人でA社は埋め立て材料確認ミスをした責任はあるけど被害者的立場なのか等を踏まえて、起訴裁量を適正に行使することが期待されているわ。」
「環境刑法も、それを実務で適切に使うのはとても難しいんだね。じゃあ、行こうか。」
裁判が終わった頃には、裁判所の周りは暗くなっている。僕たちは内堀通りを抜けて東京駅に向かう。東京駅前に広がる、イルミネーション。
「素敵ね。」かなめさんが声を上げる。
「これをかなめさんと一緒に見たくてね。寒いでしょ、マフラーに一緒に入るかい。」かなめさんにもらったマフラーの半分をかなめさんにも巻いてあげる。
「デートのはずが、裁判所に連れて行かれたから、ショックだったわ。でも、最後はデートらしくなったわね。」
大きな木の根元で自然に足が止まる。
「昨日は答えを言う前に、倒れちゃってごめんね。僕の答えは」そういうと、かなめさんを抱きしめる。
「かなめさんだよ。愛してる。」耳元でささやく。
「もう、もったいぶらないでよ。私は、ずっと前から」その言葉が終わる前に、僕は、環境法ガールの口を塞いだ。
まとめ
ということで、環境法ガール最終編パートAが終わりました。あれ、平成25年第2問は?