アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

民訴ガール第6話「みんそ部がミスコンテスト出場?」その2 平成20年その2

要件事実マニュアル 第1巻(第4版)総論・民法1

要件事実マニュアル 第1巻(第4版)総論・民法1

学園祭本番。撮影したビデオを編集して特設サイトにアップしたところ、記録的なダウンロード数を記録し、みんそ部の4人が全員ミスコン最終候補の4名に残ってしまった。ビデオの撮影者ということで、ステージの眼の前に設置された関係者用の特等席で四人の激論を鑑賞することになった。


「エントリーナンバー1番、元気がとりえの律子です!みんな、よろしくねっ!」


白いスクール水着で舞台に駆け出す律子ちゃんに、会場から拍手が湧く。


「エントリーナンバー2番、沙奈です。よろしくお願いします!」


手を振りながら舞台に歩み寄る沙奈ちゃんは、ピンクのセパレートの水着にパレオを巻いている。


「エントリーナンバー3番、生徒会長兼みんそ部副部長の五月よ!」


白いビキニを自然に着こなすのが五月ちゃんらしいところ。


「エントリーナンバー4番です。みんそ部の部長をさせて頂いている、志保と申します。」


丁寧な口調で挨拶する志保ちゃんは、紺のスクール水着姿。五月ちゃんが、「せっかく大人っぽい身体をしているんだから、それを生かせる水着着たらって勧めたんだけど」とぼやいていたが、個人的にはこちらの方が…。


「それでは、予選を勝ち抜いた4名の皆様に、その美しさを競って頂き、最後に生徒の投票で最多得票を得た候補者がミス星海として本校の『顔』になります。生徒からは、プロモーションビデオの続きをという声が多く聞かれましたので、その後半を議論して頂きます。」


ミスコンテストは、学園祭最大のイベントという事で司会の放送部長も緊張気味だ。

III 以下の1から7までの文章は,前記Iの甲社に関するものである。
1. 前記IIの個人株主Jによる解任の訴えとは別に,甲社の個人株主であるKは,訴訟代理人に 依頼し,平成19年7月17日,甲社と取締役Bの双方を被告として,P地方裁判所に,取締 役Bの解任の訴えを提起した(Kは,会社法第854条第1項に規定する議決権又は株式の保 有の要件を満たしている。)。
同年8月24日に行われた第1回口頭弁論期日において,Kは,「取締役である被告Bは,銀 行から借り入れた30億円のほか,自己資金50億円を合わせた80億円全額が,約束に反し てハイリスク・ハイリターン型の商品に投資されており,しかも,この投資取引により平成 19年1月末ころには,多額の損失が生じていることを知った。ところが,被告Bは,この段 階でこのような投資取引を中止すれば,更なる損失を防止することができたのに,代表取締役 Aに取引を中止させるための措置を執らなかった。そのため,この投資取引による損失は拡大 し,同年2月中旬にAの指示により投資取引を終了した時点では,損失額が合計78億円にまで及んでしまった。したがって,被告Bには,法令又は定款に違反する重大な事実があり,解 任事由がある。」と主張した。
これに対し,被告らは,Kの主張を争い,「被告Bは,この投資取引が終了した後,平成19 年2月下旬になって初めて,Aからの報告で,この投資取引の具体的内容やこの投資取引により78億円の損失が生じたことを知らされたのであり,それ以前には,何も聞かされていなか った。」などと主張した。
裁判所は,争点及び証拠の整理をするため,本件を弁論準備手続に付した。
2. Kの訴訟代理人は,Kから訴訟委任を受けた後,本件について事実関係を調査していたが, その結果,Eが,平成19年1月末ころ,甲社にファクシミリを送信したこと,そのファクシ ミリ送信文は甲社代表取締役Aあてで,Eが投資した商品の銘柄,買付金額,時価等が一覧表 の形で記載されていたこと,その末尾には損失合計額として巨額の金額が記載されていたことなどの情報を得た。 また,Kの訴訟代理人は,この投資取引による損失が同年1月末ころには40億円程度になっていたことなどを,別の資料からつかんでいた。

3. 平成19年9月14日に開かれた第1回弁論準備手続期日において,Kの訴訟代理人は,この投資取引による損失の額が同年1月末ころ40億円程度になっていたことなどを示す投資取 引関係等の書証を提出した。
裁判所は,「本日の争点整理の結果,証拠関係からみると,平成19年1月末ころの時点で投 資取引による被告甲社の損失が40億円程度に達していたこと,これ以降も投資取引を継続す れば損失が更に拡大することがこの時点で予測可能であったこと,平成19年2月中旬に投資 取引が終了したが,その段階では78億円まで損失が拡大していたこと,投資取引が終了する までの間に,被告Bは,代表取締役Aに対し,投資取引を中止させるための措置を執らなかっ たことは,明らかにされたと思います。そうすると,被告Bが,平成19年1月末ころ,この 投資取引により被告甲社に40億円程度の損失が生じていたことを知っていたかどうかが実質 的な争点になりますね。」と述べた。
これを聞いて,Kの訴訟代理人は,甲社がEから受信し,Eが甲社のために投資した商品の 銘柄,買付金額,時価等が一覧表の形で記載され,その末尾に損失合計額として巨額の金額が 記載されていたファクシミリ文書(以下「本件文書」という。)が存在することを指摘し,「甲 社は本件文書を書証として提出すべきである。」と述べ,本件文書の提出に関し議論が交わされ たが,甲社の訴訟代理人は,「本件文書を任意に提出するつもりはない。」と述べた。
4. そこで,Kの訴訟代理人は,本件文書は,Bの解任事由に関して重要な事実を裏付けるもの になり得ると考え,第1回弁論準備手続期日終了後直ちに,本件文書について,次の内容を記 載した申立書を裁判所に提出して,文書提出命令を申し立てた。
(1) 文書の表示及び文書の趣旨 受信日として平成19年1月末ころの日付が印字されたE作成の甲社代表取締役Aあてファクシミリ文書であって,Eが甲社のために購入した投資商品の銘柄並びに買付金額, 時価及び利益・損失等が一覧表の形で記載され,かつ,末尾に損失合計額として40億円 程度の金額の記載があるもの
(2) 文書の所持者 被告甲社

(3) 証明すべき事実 Eの投資取引の失敗により,平成19年1月末ころ,甲社に40億円程度の損失が発生していたところ,

ア Aは,平成19年1月末ころ,この投資取引により,甲社に40億円程度の損失が発生している事実を知ったこと。

イ 被告Bも,Aを介するなどして,そのころその事実を知ったこと。
ウ 被告Bには,法令又は定款に違反する重大な事実があったこと。
(4) 文書の提出義務の原因 民事訴訟法220条3号又は4号
5. 平成19年10月5日に開かれた第2回弁論準備手続期日において,甲社の訴訟代理人は, 「本件文書は存在するが,民事訴訟法第220条第3号には当たらないし,同条第4号ハ又は ニに当たる文書であるので提出義務はない。また,任意に提出するつもりもない。」と述べた。
6. 平成19年10月12日,裁判所は,甲社に対し,文書提出命令を発し,この決定は,間も なく確定した。
7. 平成19年11月16日に開かれた第3回弁論準備手続期日において,甲社の訴訟代理人は, 「甲社は本件文書を所持しているが,提出するつもりはない。」と述べた。これに対し,Kの訴 訟代理人は,「甲社が文書提出命令に応じないのであれば,裁判所は,その制裁として,民事訴訟法第224条を適用すべきである。」と主張した。
〔設問4〕 以下は,第3回弁論準備手続期日が終了した後の,裁判長と傍聴を許された司法修習 生との会話である。
裁判長: 今日の弁論準備手続で,甲社は文書提出命令に従わないと陳述しましたね。
修習生: ええ,甲社はその理由について余り明確には述べませんでした。
裁判長: そうですね。これに対して,Kは,224条の適用を主張していましたね。そこで,せっかくの機会ですから,224条について勉強してみましょうか。どのように訴訟指揮をし,争点整理をしていくかを考える前提にもなりますね。
修習生: 本件では,224条1項と3項の適用が問題になると思いますが,これらの要件を満たすかどうかの判断は,なかなか難しい問題だと思います。
裁判長: そうですね。要件の問題も重要ですが,今日は224条3項が適用される場合の効 果に限って検討してみましょう。条文には「その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる。」とありますね。これはどのような趣旨の規定だと思いますか。 修習生: 証明妨害の典型的な例を明文化したものであるということを読んだことがあります。 裁判長: そうですか。効果を考えるに当たっては,どのような点に着目したらよいでしょうか。まず,当事者が文書提出命令に従わないことで,申立人,相手方,裁判所にとっ て,どういう影響があるかを考えてみてはどうでしょう。それによって,証明妨害の 効果として主張されている考え方がここにも当てはまることが理解できると思います。
修習生: これまで,224条3項の効果との関係で考えたことはなかったのですが,証明妨害の法理を勉強したときに,証明妨害の効果として主張されている考え方としては, 証明責任が転換されるという考え方(転換説),証明度が軽減されるという考え方 (軽減説),真実が擬制されるという考え方(擬制説),裁判所の自由心証にゆだねられるという考え方(心証説)などがあったと記憶しています。
裁判長: そうですね。あなたが指摘するとおり,224条3項は証明妨害の典型的な例といわれていますので,その効果についても,これらの考え方が成り立ち得るでしょうね。証明妨害については,ほかにもいろいろな考え方がありますが,224条3項の効果として,少なくともあなたの整理した四つの代表的な考え方の妥当性について検討し ておく必要がありそうですね。それでは,これらの考え方の中では,どの考え方がより妥当だと考えますか。それぞれの考え方の違いは,命令に従わなかったことによっ て生じる不都合を解消するための方法の違いという位置付けもできそうですね。そう すると,その方法が問題の解消手段として適切かという点も,どの考え方が妥当かを考える上で重要ですね。いろいろ指摘しましたが,以上のような観点から224条3 項の効果について報告してください。これは,一般論としての報告で結構です。これが一つ目の課題です。
修習生: 分かりました。御指摘の観点から検討してみます。

裁判長: 更に別のことを尋ねますが,本件で,仮に,224条3項が適用されたとすると,本件文書の不提出により「真実と認めることができる」相手方の主張は何でしょうか。 文書提出命令の申立書に「証明すべき事実」として記載された主張すべてに及ぶのでしょうか。まずは,共同被告Bがいることは差し当たり度外視して,専ら甲社との関係だけを 念頭において,本件事例に即して具体的に検討してください。これが二つ目の課題で す。
次に,本件では,文書提出命令に従わなかったのは甲社ですが,共同被告Bがいま すね。甲社については224条3項を適用すべき場合であったとして,共同被告Bと の関係を含めて考えると,本件訴訟において,本件文書の不提出によりどのような効 果が認められるでしょうか。これが三つ目の課題です。
以上の課題について,報告してください。次回の弁論準備手続期日までさほど間がありませんので,速やかにお願いします。
修習生: 分かりました。後半で指摘された点は,考えたことがありませんでしたが,頑張っ て検討してみます。
あなたが上記の修習生であり,早速,裁判長から提示された三つの課題について報告をするも のとして,以下の各問いに答えなさい。
なお,取締役の解任の訴えにおける解任事由の存在については,解任を求める原告側に主張立 証責任があるものとして答えなさい。
(1) 当事者が文書提出命令に従わないときの民事訴訟法第224条第3項の効果をどのように 考えるべきか,上記の会話中に言及されている四つの説を比較検討した上で,論じなさい。 なお,解答に当たっては,各説を「転換説」,「軽減説」,「擬制説」,「心証説」と略記して差し支えない。

(2) 本件文書の不提出について,民事訴訟法第224条第3項の適用があると仮定した場合,甲社との関係で「真実と認めることができる」Kの主張は何か,(1)で採用した考え方を前提に論じなさい。

(3) 甲社について民事訴訟法第224条第3項を適用すべき場合であると仮定する。甲社とBが共同被告であることを考慮すると,本件訴訟において,甲社の本件文書の不提出について, どのような効果が認められるべきか,論じなさい。

「小問1については、みんなの意見がかなり違っているみたいね。それなら、先に小問2と小問3を議論して、それから小問1に入るってことでよろしいかしら。」


小問1は学説の理解を聞く問題なのに対し、小問2と3は、基本的な理論を事例に当てはめる問題と、大分趣が異なっている。これが、五月ちゃんの問題意識だろう。


「小問2は、民事訴訟法第224条第3項の適用を問うものであるところ、まずは、同項の背景から説明させて頂きたいと思います。民事訴訟では、弁論主義により、自己に有利な証拠は自分で収集するのが原則です。しかし、証拠の偏在、例えば会社を株主が訴える訴訟では、株主側に有利な証拠が会社側にばかり存在するといった事情が現実には存在します。そこで、当事者間の武器対等のためには、会社等相手方や第三者の持つ文書を証拠とする事が必要で、かつ、それが真実発見につながると考えられます*1。そこで、文書提出命令制度が設けられ、例外に該当しない限り、文書の提出を求めることができるようになりました*2。問題は、相手方が文書提出命令に応じない場合であり、この場合につき、民事訴訟法第224条第3項は『相手方が、当該文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる。』と定めています。小問2では、その意味を具体的な事案に即して明かにすることが求められています。」


志保ちゃんが問題の所在を明らかにする。


「民事粗相法224条3項の意味を明らかにするには、『比較』がいいわ。民事訴訟法224条1項は同じ文書不提出の場合について『当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。』としているから、224条の1項と3項を対比することで、3項の意味が明らかになりそうね。」



「どちらも、『真実と認めることができる』としているのだけれども、その内容は、1項は『当該文書の記載に関する相手方の主張』、3項は『文書により証明すべき事実』『に関する相手方の主張』ですよね。この2つがどう違うのかなぁ。」


沙奈ちゃんが頭を抱える。


「この場合、具体例で考えてみてはどうかしら。」


優しくアドバイスする五月ちゃん。


「はい、考えてみました! 1項ですけど、例えば、5000万円の貸金返還請求訴訟で、原告が、被告が借用書をもっているはずだとして、文書提出命令を申し立てたのであれば、5000万円の借用書が存在し、この作成者が被告*3であり、その文書には、原告を宛先としている、金額が5000万円である等原告が主張するとおりの記載があることを真実と認めることができるということです*4。これに対し、3項ですが、例えば、医療過誤訴訟において、被告医療機関が医療ミスと評価される治療行為をしたことが記載されているカルテを提出しないという場合、カルテの具体的内容について、上記の借用書のように原告側でこれを特定して主張するのが困難*5と言わざるを得ない場合があるでしょう。その場合には、ミスを犯したという要証事実そのものを真実と見なせるということです*6。」


律子ちゃんが、元気に発言する。


「律子さんの議論を前提に、224条3項を具体的に本件にあてはめてみましょうか。本件で、Kは「ア Aは,平成19年1月末ころ,この投資取引により,甲社に40億円程度の損失が発生している事実を知ったこと。」「
イ 被告Bも,Aを介するなどして,そのころその事実を知ったこと。」「ウ 被告Bには,法令又は定款に違反する重大な事実があったこと。」の3点を立証しようとしたと主張しているようです。しかし、このファックスの宛先はA宛てであると主張されており、要するに、Aに対して甲社に40億円程度の損失が発生している事実を伝達するファックスということですから、アをもってこのファックスの要証事実とみて、これについて真実と認める効果を肯定すべきでしょう。イやウは、Kの主観的な意図としては、これをこのファックスを通じて証明することを希望していますが、ファックスはB宛ではなく、『AとBが同じ取締役であることからAに伝わればBに伝わったはず』という別の推認過程を経るものであり、民事訴訟法224条3条に基づき直接真実と認めるべきではありません。むしろ、ファックスに関してはアだけを真実と認め、そこからイやウの事実までを認めるかは裁判官の自由心証(民事訴訟法247条)によるのが相当でしょう。」


さくっとまとめる志保ちゃん。


「それでは、次は、第3問です。これは、共同訴訟の類型の問題になります。」


「共同訴訟には、通常共同訴訟の他に、必要的共同訴訟があります。必要てき共同訴訟とは、共同訴訟人全部の請求について、判決内容の合一確定が要請される場合*7です。要するに、判決の結果が全員について同じでなければならないということですね。」


沙奈ちゃんも、民事訴訟法の勉強が進んでいる。


「通常共同訴訟では、共同訴訟人独立の原則があてはまるのに対し、必要的共同訴訟では、『その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生』じ(民事訴訟法40条1項)、『共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為は、全員に対してその効力を生ずる』(民事訴訟法40条2項)として、判決の結論が一緒になるようになっています。」


律子ちゃんも勉強の成果を披露する。


「甲社とBの間の訴訟は必要的共同訴訟(会社法854条1項柱書)だから、共同訴訟人一人である甲が、証拠を提出しない、つまり、民事訴訟法224条3項が適用されてしまうような不利益な行為をしているわね。共同訴訟の一人の行為は『全員の利益においてのみその効力を生ずる』から、この効果は働かないというのが1つの解釈だわ*8。しかし、そのような解釈をすると、224条3項の趣旨が没却されるということから、反対説も有力だわ*9。」


五月ちゃんが議論を整理する。


「他の共同訴訟人の利害を考えると、甲が不利な事をして、その結果がBにも及ぶのは許されないとして、224条3項は働かないという説に親和的な議論になります。これに対し、文書提出命令の実効性という点を考えれば、逆の議論になるでしょう。個人的には、この2つの間のバランスという考えから、224条3項の効果自体は働かないとした上で、不提出に対し過料の制裁が科せられる民事訴訟法225条の『第三者』とは、224条の制裁が使えない者を意味すると解釈して、甲社に過料の制裁を与えることがバランスが取れている*10と思うのですが、観客の皆様はどのようにお考えでしょうか?」


志保ちゃんが微笑むと、生徒から拍手がわき上がる。


「最後は、小問1ね。私から行きます。民事訴訟法224条3項の趣旨について、私は、軽減説、つまり、証明度が軽減されるという考え方を取るわ。224条3項の場合、文書の記載内容による心証も、他の証拠による心証も得られない以上、立証事項に関する申立人の主張を真実と認めることはできないというのが原則よね。でも、いわば、証明妨害の一種として、証明責任を軽減したのよ。これは、学説上有力*11であるばかりか、実務でも有力よ*12。」


五月ちゃんが最後の問題へと舵を切る。


「私は、真実と認めることができるというんですから、裁判所の心証によって真実と思えば真実と認める、真実と思わなければ真実と認めない、そういう自由心証を定めたものだと思います。だって、自分に有利な証拠なら、普通は自分から提出するじゃないですか。文書提出命令が出たのにそれを拒絶するっていうのは、不利な証拠、つまり、申立人が主張する事実が認定できてしまうような証拠だからということが強く推認されるのですから、裁判所はこの経験則に従い自由心証により認定すればいいのです。この考えは、証明妨害に関する従来の通説です*13。」


律子ちゃんが頑張って立論する。


「私は転換説です。ドイツの判例や学説における証明妨害の議論は、個別事件において、その事件限りの解釈として証明責任を転換するのと同様の効果を認めようとするものであり*14、224条もこのようなものとして考えるべきです。」


沙奈ちゃんは簡潔に述べる。



「私は擬制説、つまり、真実が擬制されるという見解をとります。224条3項のいう真実と『認める』というのは擬制の趣旨と解されます。」


志保ちゃんの立論は短い。


「じゃあ、反論も、私からいくわよ。まずは、沙奈ちゃんの転換説に対しては、立証責任は、既に法律要件により配分されているのであり、当事者の証明活動に関する事実から、証明責任転換の効果を導くのは困難という問題を指摘することができるわね*15。」


五月ちゃんが、まずは沙奈ちゃんを攻撃する。


「それはどうかなぁ。立証に必要な証拠が完全に破棄または隠匿された場合には、いくら証明度を軽減しても当事者は救済されないんじゃないかな*16。224条の役割をきちんと果たさせるべきだと思います。律子ちゃんの心証説に対しては、証明妨害が反対事実の存在を推認させることが前提となっているようだけど、常にそういう経験則があるとは限らないと批判できますよね*17。」



沙奈ちゃんも堂々たるもの。



「不提出が反対事実の存在を推認させないなら、224条によってそのような事実を認定する事の方が間違っているわよね。だから、心証説でいいんです。志保ちゃんの擬制説に対しては、文言が『できる』と言っているのと整合しないと批判できるわ。」


律子ちゃんも頑張る。



「私の擬制説は、通説*18ですが、224条3項の要件が満たされれば裁判官は必ず擬制『しなければならない』という趣旨ではありません。むしろ、不真実であるとの確証を裁判官が抱いた場合には真実擬制の効果を発生させないことが可能であり、それが『できる』の趣旨と解すべきでしょう*19擬制をこのような意味と解すれば、擬制説こそが、むしろ文言と一番整合する見解と言えるのではありませんか。」


「さあ、四人とも自分の見解を譲らない。後は、皆さんの投票で決めてもらいましょう!」



司会者が叫ぶ。


「「「「さあ、誰を選ぶの?」」」」


四人の声がエコーになって、真ん前の僕の席まで届く。手を伸ばせば、今すぐにでも4人に届きそうな距離感もあって、まるで僕に語りかけているような、錯覚に陥る。

*1:リーガルクエスト314頁参照

*2:民事訴訟法220条4号による文書提出義務の一般義務化

*3:双方という場合もあるが、例えば、某元都知事の件であれば被告だけであろう

*4:藤田272頁

*5:当該文書の記載に関して具体的な主張をすることが著しく困難

*6:重点講義下207〜208頁

*7:民事訴訟法40条1項、伊藤617頁

*8:重点広義下209頁

*9:民事訴訟マニュアル上271頁

*10:重点講義下209頁参照

*11:伊藤419頁、但し伊藤教授は弁論の全趣旨などによって立証事項を真実とみなすことが無理であると判断すれば、裁判所は、この規定を適用しなくてもよいとする。

*12:岡口基一民事訴訟マニュアル上」271頁

*13:河野正憲「民事訴訟法」(以下「河野」)481頁

*14:リーガルクエスト267頁

*15:伊藤359頁参照

*16:リーガルクエスト267頁

*17:リーガルクエスト269頁

*18:長谷部由起子『事例演習民事訴訟法』第2版145頁

*19:前同。なお、重点講義下208〜209頁は「裁量説」というが、あえて「擬制説」を選択肢から外しており、このような柔軟な擬制説と見解は近接するものと考えられる。