アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

その「つぶやき」は犯罪です〜知らないとマズいネットの法律知識

その「つぶやき」は犯罪です: 知らないとマズいネットの法律知識 (新潮新書)

その「つぶやき」は犯罪です: 知らないとマズいネットの法律知識 (新潮新書)

1.被害者から加害者へ


消費者問題における古典的構造は、一部の「悪徳業者」が、一般の「消費者」を食い物にするというものである。そこで、弁護士らが、みなさん、「被害者」にならないようにしましょう、と訴えている。私も、QB被害者対策弁護団の一員として、被害防止と被害者救済のために微力を尽くしているところである。


ところが、最近は、この古典的構造が通用しなくなってきた。SNS等の急速な発達により、「友達にメールする感覚」で書いた内容が、ツイートやFacebookへの投稿等の形で全世界に公開され、これが著作権侵害名誉毀損、プライバシー侵害等になりかねない。その意味は、一般の人が今度は「加害者」になりかねないということである。


これは、まさに「地殻変動」と言っていい事柄であり、まさに、自分が魔法少女契約を結ばされた被害者だと思っていたらいつのまにか魔女化して街を壊していたという位の衝撃的な話である。


2.その「しんかん」は良書です
 この構造の変化に気づいた頃からずっと、このような時代の変化に対応した良書を探していた。


昔のものだと、

ソーシャルメディア炎上事件簿

ソーシャルメディア炎上事件簿

小林 直樹『ソーシャルメディア炎上事件簿』が比較的事例をうまくまとめており、事例集として参考になるが、法律的分析についてはこれだけで十分とは到底言えない。


そんな中で登場したのが、深澤諭史他著『その『つぶやき』は犯罪です』である。


 同書の基本的な構成は、知らないうちに「加害者」にならないための方策を説明する第1章と、もしも「被害者」になったらどうするかを説明する第2章に分かれる。このうち、タイトルにもなっている、自分が「加害者」になってしまわないようにするためにどうするかという第1章に重点が置かれており、約130頁と一番分厚くなっている。


 第1章は、まず、一般人にありがちな「勘違い」を紹介した上で、名誉毀損、個人情報漏えい、肖像権侵害、著作権侵害等の比較的SNS等でありがちな違法行為について、少し長め(新書で1頁〜2頁程度)の仮想事例を掲載した上で、わかりやすい筆致で法的にどう考えるべきかの説明を行っている。


 このようなわかりやすい説明により、一般の人でも、どういう行為が問題視されるのかについて具体的に理解することができ、ツイートする前に「あれ、大丈夫だっけ?」と考える機会が生まれるだろう。これにより、安易な違法行為や炎上を防ぐことができる。



 また、法律の素養がある人が深く調べることができるように、参考にした裁判例を引用してくれているので、一般人だけではなく、ネット名誉毀損やインターネットと著作権等に興味を持つ法学部生、ロースクール生にとっての「入門書」としての役割も果たしている。


3.疑問点
 このように、私は『その『つぶやき』は犯罪です』を高く評価しているが、高く評価しているからこそ、読んでいて感じた疑問点についてもご説明させていただきたい。


 まず、ほぼ同時期にほぼ同一の著者が「知らないではすまされない インターネット利用の心得 ケーススタディ」を刊行されている。



知らないではすまされない インターネット利用の心得 ケーススタディ

知らないではすまされない インターネット利用の心得 ケーススタディ


 この2冊はそれぞれどういうものだろうと楽しみにして2冊とも買ったが、私には、ほぼ同じ内容をほぼ同じ切り口で刊行したようにしか受け取れなかった。もちろん、違う事例が用いられているし、ケーススタディの方にはイラストが入っている。しかし、結局、それぞれの事例で著者が注意を喚起したいポイントという意味では共通していることが多い。そうであれば、この2冊を併せて1冊にした方が、より「濃厚」な一冊になったのではないかという疑問が残る。



 次に、(元記事の)コピペでも名誉毀損という議論(46頁)をする際に引用すべき裁判例は東京高判昭和31年6月20日ではなく、すでにネットに掲載されている記事を転載しても名誉毀損となるとした東京高判平成25年9月6日ではなかろうか。『その『つぶやき』は犯罪です』46頁では、「コピペであるか否かは名誉毀損の成立には関係がありません。それがオリジナルだろうと、コピペだろうと、社会的評価を下げることには変わりないからです。」として、特に判決を引用しないまま結論を出し、その上で、「うわさ」という形で他人の発言の引用でも名誉棄損罪が成立するといい、東京高判昭和31年6月20日を引用している。しかし、東京高判平成25年9月6日は、

本件情報8、9、18は、インターネット上のYahoo掲示板に掲載されていた記事を転載したものであるか、又は雑誌Gの12月号に掲載されていたものであることが認められる(甲2、乙1、弁論の全趣旨)。しかし、本件情報8、9、18をウェブサイト「2ちゃんねる」で見た者の多くがこれと前後してYahoo掲示板の転載元の記事や雑誌Gの12月号の記事を読んだとは考えられず、ウェブサイト「2ちゃんねる」に本件情報8、9、18を投稿した行為は、新たに、より広範に情報を社会に広め、控訴人の社会的評価をより低下させたものと認められる。

としており、コピペによる名誉毀損でもやはり違法であることを、特に「新たに、より広範に情報を社会に広め」「社会的評価をより低下させた」ところから説明しているものであり、事案の類似性という意味でも、東京高判平成25年9月6日の方がより適切な事例であるように思われる。



 最後に、「レストランの評価は名誉毀損になるのか」(60頁)では、鶏肉料理を出す食堂で、から揚げ定食の材料が切れたところで、から揚げ定食を頼んだ客がいて、時間をかけてもいいからもってこいというので材料を買って出したら、「料理が出てくるまでに1時間かかるのは遅すぎる」「まずい」等との口コミが書き込まれた仮想事例を題材に、このような口コミが名誉毀損になるか否かを議論している。


 一般人向けだと、こういう事例をきちんと法的に分析するのは難しいことから、そもそもこういう事例が出てこない場合が多い。その中で、『その『つぶやき』は犯罪です』は、あえてこの事例を取り上げており、その点は評価できる。


ところで、同書65頁は、この事例を論じて以下のように言う。

「真実性」についてはどうでしょうか。(中略)料理が来るまでに1時間かかったのも事実ですから、これを満たしているようにも思われます。ただ、経営者Hさんは、から揚げ定食の材料がないことを説明して謝罪し、時間がかかることも説明しているので、この点に触れずに、単に、「料理が出てくるまでに1時間かかるのは遅すぎる」とする書き込みには問題があるとも考えられます。この点をどう考えるかによって違法性の判断が変わってくるでしょう。


そもそも、これはこの問題を真実性の枠組みで検討しているのか、違法性の枠組みで検討しているのかあいまいで分かりにくい上、結局違法なのかどうかの結論が示されていない。他の部分については、概ね明快な説明がされていたので、この部分が曖昧な結論に終わったのは残念であった。


思うに、この書き込みの問題の本質は、有価証券報告書の虚偽記載でいうところの「誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている」(金商法21条の2)点が問題だということであろう。



この場合、そもそも書き込みが社会的評価を低下させるかの段階で争いがあり得る。この点については、一般の読者の通常の注意と読み方を基準として、これによって一般読者が当該記事から受ける印象及び認識に従って判断し(最判昭和31年7月20日民集10巻8号1059頁*1)、その場合には、記事のうち特定の記述のみを独立して取り上げ、その部分のみを評価の対象とするのではなく、当該記事全体を読み、それから受ける印象及び認識に従って名誉毀損の成否を判断するのが相当とされている*2


例えば、見出しだけを読むと読者が誤解をしてしまうけれども、見出しは記事と一体になって読まれるのが通常なので、この2つを一緒に読めば(誤解を生じさせないために必要な情報が提供されており)社会的評価を低下させるものではないとした事案が参考になる*3


本事例でも、「一般の読者の通常の注意と読み方を基準」とすれば、本件の書き込みから、同食堂が「特段の事情もないのに客を1時間も待たせる食堂」との印象を受け、そう認識するということが言えるのではなかろうか。もしも、このように解釈することができるのであれば、真実性の証明の対象となる事実*4は、「料理が出てくるまでに1時間かかる」のか否かではなく、「特段の事情もないのに料理が出てくるまでに1時間かかる」のか否かということもできるのではなかろうか。もし、このように解釈できるのであれば、(単なる真実性でも、単なる違法性でもなく、)真実性の対象となる事実が何かの解釈という枠組みにおいて本事例について一応の結論を出すことができるだろう。



もちろん、私はネット名誉毀損について何ら専門知識を持ち合わせていないし、ここまで言い切った裁判例も発見できていない*5ところである。もっとも、せっかく、他の事例については、豊富な実務経験に基づく説得的な法的説明がされているのだから、この事例について「この点をどう考えるかによって違法性の判断が変わってくるでしょう」と正面からの回答を避けるのではなく、類似の裁判例を元に、「この点をどう考えるべきか」についての著者の私見を開陳頂ければと、少しだけ残念であった。(特に、帯にある「○△レストランってマズすぎ(#´Д`)」はこの事例のことのように思われ、その意味でも特に丁寧な説明が期待されたのではなかろうか。)

まとめ
「被害者から加害者へ」のパラダイムシフトに対応した、新時代のインターネットリテラシーの本であり、かつ、インターネットの法律問題への入門書という意義もある『その『つぶやき』は犯罪です』は、おすすめの良書である。
ただ、同時に刊行された書籍との関係、一部の参考裁判例の選択、そして、一部の事例の分析において、マイナーな疑問がない訳ではなく、改訂版等での対応が望まれるところである。

*1:電子掲示板についても昭和31年最判が適用されるとしたものとして大阪地判平成24年7月17日参照

*2:なお、この基準に基づき、雑誌記事は、原告指摘のように「無党派を名乗った原告Bが市民を騙して本件参院選に立候補した」とまでは事実を適示しておらず「原告Bについて原告Aから生活保証の提案がされたことを主な内容としている」にすぎないとした東京地判平成14年6月17日判タ1120号187頁参照

*3:東京地判平成20年12月25日判時2033号26頁、なお、別の部分についての判断は控訴審(東京高判平成21年7月15日判時2057号21頁)で変更されているが、この部分の判断は維持されている。

*4:なお、論評と思われる「遅すぎる」について真実性が問題となるのは、その基礎となる重要な事実ということだが、本事例においては、これが独立して問題となることはないと思われる。

*5:なお、大阪地判平成22年3月25日は、逆転無罪判決後に逮捕当時の記事とほぼ同じ内容をブログに書き込んだ事案であるが、(ブログ主が名誉毀損であるとの主張を回避しようとして)「わいせつ行為について逆転無罪となった旨の記載」をしていたが、それでもなお違法とされており、興味深い。