アホヲタ元法学部生の日常

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スクールアイドル勧誘規制とストーカー規制法〜ラブライブ!サンシャイン!!の法的考察



注意:本エントリはラブライブ!サンシャイン!!第8話(公開日である8月27日基準で「先週」分)までのネタバレを含んでいます。お気をつけ下さい!



1.はじめにースクールアイドル勧誘規制の必要性



 世は「スクールアイドル」全盛期である。



 一説によると、スクールアイドルの数は7236*1を越えると言われる。



 日本中で数千、数万人がスクールアイドルに勧誘されていることは間違いない。



 このような状況は、スクールアイドル同士が切磋琢磨してレベル向上を目指している。昔は



「スクールアイドル全部が素人にしか見えない」



等とエリチに言われる*2ような状況だったが、今では、



「スクールアイドルとして十分練習を積み、見てくれる人を楽しませるに足りるだけのパフォーマンス」をしても、それだけではだめな位までのレベルの向上を生んだ*3



このようなレベルの向上自体は否定すべきものではないだろう。





しかし、スクールアイドルには勧誘過程において魔法少女契約に勝るとも劣らない「強制的、ストーカー的な勧誘行為」が行われていることを忘れてはならない。





 作詞も作曲もできないのにスクールアイドル結成を決定し、「お断りします!」という同級生と下級生に迫り、最終的にはスクールアイドルにしてしまった「あのグループ」*4とか、



 「ごめんなさい」と言われてもスクールアイドルに参加するように促し続け、あまりにも頻繁に参加を勧誘するものだから、しまいには、「んん…。ごめんなさい…。」と怪訝な表情で断るような状況に陥り、そのような状況を「あと一歩」とか「あと一押し」と考えて更なる勧誘を行う「このグループ」*5とか、



 スクールアイドルを勧誘し、”School Idol?”と怪訝そうにするところを「うんというまでハグする」と言って強制わいせつ行為*6を行う等した「あんなグループ」さえある*7



 スクールアイドルの勧誘過程で行われる、このようなストーカー被害から、法はうら若き高校生をどうやって救うのだろうか?







3.ストーカー規制法の概要

 ここで、日本には、ストーカー行為等の規制等に関する法律がある。長いのでストーカー規制法と呼ぼう。



 ストーカー規制法は、増加するつきまとい被害の中、それらが殺人事件等にまで発展し得るところ、刑法の規定ではこれらの行為に対して有効な対策を取れないことから平成12年に制定された(檜垣重臣ストーカー規制法解説』(改訂版)2〜6頁)。



 要するに、ストーカー行為というのは、その一部が住居侵入(刑法130条*8)、名誉毀損(刑法230条*9)等の刑法犯になり得るものの、単なる「つきまとい」等は刑法の規定する犯罪カタログには含まれていない。そこで、警察としても、なかなか動きにくかったという事情がある。しかし、その結果、桶川ストーカー殺人事件等の凄惨なストーカー殺人事件等の被害が起こってしまい、警察が動きやすくする立法をすることで、有効な対策を取れるようにすることが必要と理解された。そこでできたのがストーカー規制法だ。





 ストーカー規制法の法構造は複雑であるが、簡単に言うと、いわゆるストーキングに対し、その一部の行為については直接犯罪(法第13条、檜垣重臣ストーカー規制法解説』86頁以下)とし、一部の行為に対しては警察が警告や禁止命令等(法4条以下、檜垣重臣ストーカー規制法解説』28頁以下)を可能とした。概ねのイメージとしては、警察に注意してもらって、「これが違法なストーキングだ」と理解すれば止むような比較的軽微な事案に対しては、警察から正式にこれは違法なストーキングであってやってはいけないという旨の警告や禁止命令を出すことになるだろう。しかし、既にストーキング行為がエスカレートし、例えば、被害者が、犯人に対し「ごめんなさい」等と嫌がっている様を示しても、犯人にとって、そのような反応が「報酬」となり、更なるストーキング行為を生むといった状況もあり得る(長谷川京子・山脇絵里子『ストーカー』(日本加除出版)83〜84頁)。まさに、上記の嫌がる梨子に対して、「もうすぐ落とせる!」とワクワクしている千歌のような状況である。そのような状況まで至ってしまえば、もはや警告や禁止命令の効果はなく、そのような手続を踏むよりは直接刑事手続を行うことがよいだろう。



 ところが、この2つのいずれの対応を取るにせよ、その上で基本となる「つきまとい行為等」をストーカー規制法は、以下のように定義する。


ストーカー規制法第2条第1項 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

一  つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。

二  その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

三  面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。

四  著しく粗野又は乱暴な言動をすること。

五  電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。

六  汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。

七  その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

八  その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。

注:現在、このうちの第5号については、電子メールだけではなくSNSメッセージも含めようという法改正の動きがあると報道されているが、少なくとも平成28年8月段階の現行法はこうなっている。



ここで大事なのは、ストーカー規制法第2条第1項柱書が、「つきまとい等」が一定の目的、つまり「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で行われる必要があると規定していることである。



この点については、現在の行政解釈である「ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について (通達)*10」も、以下のように述べている。


「好意の感情」とは、好きな気持ち、親愛感のことをいう。「充足する目的」で行うものとしていることから、相手方にそれが受け入れられること、それにこたえ て何らかの行動を取ることを望むものであることが必要となる。恋愛感情のほか、 女優等に対するあこがれの感情等が含まれるものと解される。



(中略)



なお、これらの感情は男女間に限って抱かれるものではないが、不特定の者の中 の一人に対して向けられた感情ではなく、特定の者に向けられた特別な感情を抱いている必要がある。



ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について (通達)

要するに、女性が女性に対して行うものも含まれるものの、相手への恋愛感情や憧れの感情等の好意の感情が必要で、それが受け入れられ又は相手が何かの行動を取ることを望んで行う場合でなければいけないのである。





このような解釈となった理由については、実体として恋愛感情等に基づくストーキング被害がほとんであり、また、マスコミ活動、組合活動等を規制の対象から外すためと言われる(檜垣重臣ストーカー規制法解説』12〜13頁)。



ストーカー規制法2条1項各号が列挙する行為、例えば、「つきまとい」「面会要求」等は、商行為、マスコミ活動、組合活動等として行われることもあり得るだろう。熱心に商売をしようとしたり、取材をしようとするあまり、相手につきまとったり、熱心な組合活動のため、(団交として)面会を要求する行為が、ストーカー規制法の規制の範囲内に入ってしまうとすれば、国民の正当な行為が規制されてしまいかねない。



そこで、ストーカー規制法は、(1)行為要件として1号から8号のいずれかの行為をしなければならないこと、及び(2)目的要件として、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」を要求したのである。このような厳格な限定によって、ストーカー規制法は合憲とされる*11



逆に言うと、現行ストーカ―規制法が規制できない多くの領域がある、ということである。


マンションの住人間での生活音トラブルに起因して加害者が被害者宅に何度も押し掛け たり、職場の上司と部下の間での仕事上のトラブルに起因して加害者が被害者の使用する 携帯電話に無言電話を架け続けたりするなど、近隣トラブルや職場・商取引上のトラブル に起因したつきまとい行為が見られるところ、ストーカー規制法では、恋愛感情等充足目的で行う一定の行為を規制の対象としていることから、これらの行為はストーカー規制法 の対象外となっている。

ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会『ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書』*12



3.スクールアイドル勧誘を規制できるか?

 問題は、現行ストーカー規制法によってスクールアイドル勧誘を規制できるかである。



 そして、この点については、事実認定として、恋愛感情等の好意の感情充足目的で勧誘が行われているか、の立証の問題に尽きるだろう*13



 例えば、千歌による梨子の勧誘行為は、梨子に対する好意を元に行っているという解釈の余地もある(これを「千歌×梨子説」と呼ぼう)。このことが証拠によって立証できればよく、例えば、千歌が梨子のスカートをめくった行為等*14を元に、このような立証をする余地もあるだろう。



 しかし、基本的には、千歌にとっては、ダイヤ様から「作曲できる人を捕まえてこないとスクールアイドル部設立を認めない」と言い渡されたので、作曲ができる転校生として梨子を勧誘しているに過ぎず、仮に千歌×梨子が成立したとしても、これは第2話終了時の二人が窓を乗り越えて手を触れ合った段階、すなわちスクールアイドル勧誘が終わった段階に過ぎないという解釈もあり得る(これを「作曲家必要説」と呼ぼう)。



 当然のことながら、裁判所が「千歌×梨子説」を認めれば「つきまとい」や「面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求」等を、行動の自由が著しく害され、不安を覚えるような方法で反復して行った(ストーカー規制法2条2項、13条)として、千歌の行為はストーカー規制法で有罪にできる。



 これに対し、裁判所が「作曲家必要説」を取れば、いわゆる「校内トラブル」によるストーキング行為として、現行ストーカー規制法では対応不可能となるだろう。そして、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事手続の原則によれば「作曲家必要説」が取られる可能性もそう低くはない。





そうすると、スクールアイドルはストーキング的な不当な方法で勧誘し放題になってしまいかねない。



4.スクールアイドル規制法の立法を!


 ここで、今年盛んに行われているストーカー規制法改正の議論においても、なかなか好意等の感情充足目的を外すのは困難と思われる。これを外してしまうと、相当広い範囲の社会生活がストーカー規制法によって規制されてしまうからであり、違憲の可能性すらあるからである。



だからこそ、必要なのは、「スクールアイドル規制法」である。魔法少女勧誘を規制すべきなのと同様、このような特に問題の多い行為類型にターゲットを絞った法令を設ければ良い。



例えば、

この法律において「スクールアイドル勧誘等」とは、特定の者に対する学生アイドルグループ、学生歌手グループ、学生バンド、学生タレントグループ等に勧誘する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

一  つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。

二  その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

三  面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。

四  著しく粗野又は乱暴な言動をすること。

五  電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。

六  汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。

七  その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

八  その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。

といった形で、目的をスクールアイドル勧誘に限定することで、憲法上の問題も解消されるだろう。


まとめ

現行ストーカー規制法によって、問題の多いスクールアイドル勧誘行為を規制することは困難である。

必要なのはスクールアイドル勧誘を専門に規制する特別法である!

さあ、3年生勧誘まで、法改正が間に合うか、楽しみですね!

*1:これは、ヨハネのリトルデーモンの数ではなく昨年ラブライブにエントリーしたスクールアイドルの数。ラブライブ!サンシャイン!!第8話のダイヤ様談。

*2:ラブライブ!第1期第7話より

*3:ラブライブ!サンシャイン!!第8話のダイヤ様談

*4:ラブライブ!第1期2話以降参照

*5:ラブライブ!サンシャイン!!第2話参照

*6:最近裁判例でみられる非傾向犯説を採用した場合。傾向犯説を採用すれば強要罪

*7:ラブライブ!サンシャイン!!第8話

*8:なお、スクールアイドル勧誘の過程におけるものではないが、勝手に入って来ると住居権者である両親が「激おこぷんぷん丸」なのであれば、住居権者の意思に反した侵入として、第6話の果南は住居侵入罪だろう。

*9:なお、第7話全体は、沼津市内浦の住民約2000人を「田舎者」だとして名誉を毀損する内容であり、ほぼ同数の所沢市の農家について名誉毀損を肯定した最判平成15年10月16日によれば、名誉毀損になり得る!?

*10:平成25年10月2日警察庁丙生企発第115号

*11:最判平成15年12月11日刑集57巻11号1147頁。この調査官解説は、憲法上の恋愛の自由ないし権利を認めており、調査官がリア充であることを示唆するものである。

*12:https://www.npa.go.jp/syokai/soumu2/pdf/05-1.pdf

*13:ストーカー規制法研究会・園田寿『わかりやすいストーカー規制法』(有斐閣)16頁

*14:ラブライブ!サンシャイン!!第2話