【免責事項】本エントリは、判例データベースサービスの選択の際の1つの参考情報を提示しているに過ぎず、本エントリのみに依拠して判例データベースサービスを契約・解約等されても、当方において一切責任を負うことはできません。
1 はじめに
私は単なる一介の法務パーソンであり、何ら特定の判例データベースないしはデータベース提供会社と利害関係はありません。しかし、判例データベースについては一家言あり、かつて、私はあの『大嘘判例八百選第4版』に「判例検索システムクロスレビュー」への参加という形で寄稿させていただいたこともあります。
さて、最近、どうも、判例データベースの収録裁判例数の比較をしよう、という議論があるようです。そこでは、1〜2年分のデータでの比較がなされているようです。しかし、私は、「最近1、2年の比較によって、収録裁判例数の多寡を云々するのは適切ではない」と思いますので、面倒ですが、20年分比較したいと思います。
2 手法
幸いなことに、当アカウント*1内でD1-Law、判例秘書、TKC(LEXDB)、Westlawの4判例データベースのアクセスが(適法に)できる環境にあるため、単純に、期間を1年毎に区切って各判例データベースに収録されているその時期の全裁判例を検索するという「地味で地道な作業」をしました*2。
3 集計結果
2019/5/12現在では、以下のとおりとなります。
その年の最高は赤字+太字、最低は青地+下線としてみました。
まず、2010年代から。
DB名 | D1 Law | Westlaw | TKC | 判例秘書 |
---|---|---|---|---|
2019 |
581
|
247
|
249
|
167
|
2018 |
6782
|
4166
|
4422
|
2539
|
2017 |
8810
|
7226
|
7350
|
4311
|
2016 |
9527
|
7864
|
9097
|
6591
|
2015 |
9098
|
7121
|
9488
|
4093
|
2014 |
9245
|
7159
|
9792
|
3382
|
2013 |
9913
|
6856
|
10000
|
3547
|
2012 |
3956
|
5848
|
12176
|
3500
|
2011 |
2959
|
5616
|
4141
|
3373
|
2010 |
3195
|
6007
|
3459
|
3503
|
2010年代計 |
64066
|
58110
|
70174
|
35006
|
TKCとD1のデッドヒートの末、辛うじてTKCがかわして2010年代の栄冠はTKCに輝いた感じですが、最近はD1が強いので、数年内にD1が追い抜く可能性があります。これに対し、2010年代だけを見る限り、判例秘書の収録裁判例数が圧倒的に少なく、最大のTKCの約半分と大きく差をつけられています。
次は、2000年代を見てみましょう。
DB名 | D1 Law | Westlaw | TKC | 判例秘書 |
---|---|---|---|---|
2009 |
3319
|
7163
|
3276
|
3661
|
2008 |
3298
|
5624
|
3089
|
4145
|
2007 |
3523
|
6864
|
3288
|
6456
|
2006 |
3566
|
3681
|
3405
|
7033
|
2005 |
3847
|
3682
|
3598
|
7358
|
2004 |
3998
|
3796
|
3747
|
7446
|
2003 |
4194
|
3918
|
4004
|
7707
|
2002 |
4363
|
4055
|
4099
|
4819
|
2001 |
3853
|
3593
|
3554
|
2889
|
2000 |
3443
|
3298
|
3091
|
2510
|
2000年代計 |
37404
|
45674
|
35151
|
54024
|
ところが、2000年代になると、2010年代の「優等生」のはずのD1とTKCは最下位レースを繰り広げることになります。逆に、判例秘書は5回も収録裁判例数ナンバー1の年があり、堂々の1位、次いでWestlawとなります。
4 まとめ
基本的には、
・判例秘書が2002年(平成14年)〜2006年(平成18年)まで強く
・Westlawが2007年(平成19年)から、2011年(平成23年)まで強く
・TKCが2012年(平成24年)から2015年(平成27年)まで強く
・D1-Lawが2016年(平成28年)以降は強い
という結果になりました*3。
私は、『大嘘判例八百選第4版』に寄稿した、「判例検索システムクロスレビュー」の中で「判例データベースは4社全てを状況に応じて適宜使い分けることが大事!」と書きましたが、この「感覚」が、今回「数字」で裏付けられたのは大変良かったです。
なお、例えば2019年の裁判例が少ないのは、現在収録準備(匿名化等)をしているからであって、しばらくすると3000ー1万件程度収録されるようになると思います。その意味で、ここで出てきた数字はあくまでも「参考」であり、しかも、収録された裁判例の数以外にUIとか文献データへのリンク等様々な評価軸が存在すると思われますので、判例DBをお選びになる際は、本エントリのみに依拠せずに、様々な情報を入手して慎重にお選び下さい!